軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

195話 オークキングの襲撃

飛び立った俺たちは一旦帝国方面へ行くと見せかけて、ぐるっと大回りしてその後ヒラギス本土へと向かうこととなった。

「それでどこに向かえば良いのじゃ?」

リリアの疑問ももっともである。行き当たりばったりはいつものことだが、今回は輪をかけてひどい。いきなり飛び出てきてしまったので行先すら不明だ。

「作戦会議が必要だな。とりあえずそのまま飛んでてくれ」

探知で軍の動きを捉えられるギリギリの位置を飛べるようリリアに指示を出す。それで低空を飛べば地上から見られる心配はまずないはずだ。軍の偵察が森の上に出れば簡単に見つかってしまうだろうが、探知外に出るリスクに比べれば許容範囲内と考えるしかない。

木々の多い山あり谷ありの複雑な地形で、街道なんて空からでもろくに目視出来ないし、適当に飛んでいたらすぐに迷子になってしまいそうだ。

「なるべくこっそりといきたいけど、優先は魔物の殲滅としよう」

オークキングを見つけて倒す。ついでに雑魚も殲滅する。

「まずは軍の先遣隊を見つけないとね」と、エリー。

「そうだな。見つけたら俺かティリカの召喚獣を監視に出せばいいか?」

俺のフクロウかティリカのタカならそう目立たないだろうし、最悪俺たちがオークキングを見逃して先遣隊がぶつかっても、全滅する前に介入できるだろう。

先遣隊が出てまだ一時間ちょっとくらいだろうか。まだそう進んではいないはず。

砦を出てすぐの辺りはまだ魔物はいないようだ。アンやティリカが拾ってきた情報によると、街道を五、六時間ほど進んだ先に小さな砦があり、そこが激戦区となっていたという。

フライなら三〇分も飛べば到着するだろうか。

情報を聞きながら俺の探知で探っているとすぐに軍の先頭だろう部隊が見つかった。ろくに相談する時間もない。

「たぶんあそこが先頭だ。ティリカ頼む」

ティリカが 召喚獣(タカ) を空に放ち、さらに先へと進むことにした。ヒラギス本土は魔境並に危険という話だったが、いまのところ魔物の姿は皆無などころか、普通はどこにでもいる動物の気配すらない。

「それで魔物がいたらいつもみたいに?」

エリーが聞いてくる。

「そうだな……」

いつもの狩りなら見敵必殺、見つけ次第に先制攻撃をする。相手は軍が壊滅するほどの規模だが、無茶と考える理由もないし、無理そうならさっさと逃げてしまえばいい。

「うん、いつも通りで行こう」

いつも通りなら陣形も連携も改めて相談する必要もない。

部隊を追い越したので飛行ルートを街道近くに変更した。見られる危険は増えたが、そもそも誰も道を知らないのが問題だ。

「マサル様、ハーピーです。数は……八です」

探知に何もかからず、迷子の心配が出てきたところでサティの報告が来た。鷹の目で確認するとかなり遠方に豆粒のような何かが見える。じっと見ても豆粒にしか見えないが、サティがハーピーというなら間違いはないだろう。

「一旦降りてくれ。弓の準備をしよう」

森の中に降りてアイテムボックスから前衛組の弓セットを出す。アンとティリカを含めて全員実戦用装備だったが、もともと今日は狩りの予定じゃなかったし、持ち歩くのが面倒な弓はさすがに持っていなかった。ついでに各人の装備も再チェックしておく。

「近づくまで街道沿いに地上を飛んでくれ。奇襲をかけよう」

「ええ。逃げられたり仲間を呼ばれてはやっかいだものね」

再びフライで飛行。街道を地面すれすれに辿り、ハーピーを探知範囲に収める。

「弓の準備。リリア、合図で上に出てくれ」

目標のハーピーに続いて、魔物の反応が多数現れだした。かなり……いやめっちゃ多いな。攻撃を中止するか? だがここで躊躇して見つかったりしてしまうのは最悪だし、見敵必殺の方針をここで変える理由もない。どう動くにせよ、ハーピーに飛び回られてはとても邪魔になる。

「今だ!」

たかが八匹程度。こちらの射手は五人。ハーピーが気がついた時には五匹落ちていき、残りの三匹もあっという間に片付いた。

落下したハーピーを追って、再び森の中に入り止めと回収をする。さてここからだ。

「諸君、良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」

ハーピーをアイテムボックスに入れながら気楽な調子で言う。

「じゃあ良い知らせから聞こうかしら」と、エリー。

「魔物の本隊が近い。それもかなりの数だ。経験値が稼ぎ放題だぞ」

「それで悪い方は?」と、アン。

「最後に倒したハーピーの叫びで、俺たちの存在がたぶんバレた。魔物が動き出してる」

魔物は街道沿いに満遍なく布陣しているようだ。それが一斉に動き出した気配。

「ああ、大丈夫だ。まだ距離はあるしこっちの位置もわかってないと思う」

少しひるんだ様子のアンを安心させるように言う。

「だから最初の一撃でなるべく相手を減らそう」

「じゃあマサルがやるの?」

「俺は最近レベルが上がったし後回しでいい。最初はアンとティリカとルチアーナにやってもらおう」

この三人はともに水魔法の使い手だ。その最大呪文を三方向に放って貰い、広域の殲滅をする。

「よし、じゃあ行くぞ」

フライでゆっくりと森の上へと上がってもらう。

「タイミングはそれほど合わせなくてもいいから、全力でぶっ放せ。狙う位置はそれぞれ――」

俺の指示でまずルチアーナが詠唱を開始した。新入りだけあって取り急ぎ水魔法をレベル5にしてもらったものの、高速詠唱は後回しになっている。

続けてティリカ、アンも詠唱に入った。

「気付かれた」

強力な魔法の詠唱だ。魔力感知持ちならすぐに位置を特定出来る。周囲の森から魔物の雄叫びがいくつも上がっている。

「大丈夫。そのまま詠唱を続けろ。前衛、近寄ってきたやつは弓で倒せ」

次々に飛び立ったハーピーの群れが雲霞の如くこちらへと押し寄せようとしている。だがまだ距離が遠い。運良く、いや運悪くだろうか。近場にいたハーピーはサティたちの矢で次々と射抜かれて落ちていっている。地上の魔物も向かってきている様子だがむろん間に合わない。

間もなく詠唱が終わる――

【 永久凍土(エターナルブリザード) 】

【 永久凍土(エターナルブリザード) 】

【 永久凍土(エターナルブリザード) 】

その刹那、視界が白く染まりあらゆる物が凍結した。空を埋め尽くすかに見えたハーピーたちが次々と落下し、パキパキと凍った木々にぶつかり粉々になっていく。

少し遅れて冷気が押し寄せてきた。

「よくやった。近場の敵は全滅してる」

気配察知は魔物を普通に倒すと徐々に反応が弱くなるんだが、永久凍土だと即座に反応が消え失せる。即死である。

「魔物が混乱しているうちに次をやるぞ」

冷気に覆われた森を進み、リリアとエリーの風魔法で残りの魔物を吹き飛ばした。それで付近にいた魔物はほぼ全滅したようだ。

だが先の方に小さな砦が見えた。そこにもぎっしり魔物が布陣している。街道を進む軍を、砦と両側三方向から挟撃するつもりだったのだろうか。

「あそこは俺がやろう。街道に降りてくれ」

砦は拠点にしたい。そうなると永久凍土は凍らせて粉々になった死体が転がることになるし、凍結が解けるまでしばらく入れない。風系も事後の掃除が面倒そうだ。

雷系でやって素材の回収をしてもいいが、今のままでは砦がちょっと小さい。メテオで周囲の森もろとも吹き飛ばせば整地も出来て一挙両得じゃないだろうか。

砦の魔物もようやく事態を把握しつつあるのか動き始めている。ゆっくりしている時間はない。

地上に降りるとすぐに【メテオ】詠唱開始――範囲を広めにして威力はそのままで――発動した。

無数の火球が空に生まれ地上に降り注ぎ、大爆発が起きる。爆風が来るがエアシールドでガードされる。もうもうと煙が立ち上り、辺りに焦げた匂いが充満する。ハーピーもかなり巻き込んだようだが、運のいいのは生き延びたようだ。まだ探知にそこそこな数が残っている。

「煙が晴れたら消火して、ここに新しい拠点を作る。前衛、生き残ったハーピーを警戒、排除してくれ」

近くの敵はあらかたメテオで殲滅したが、遠方にはまだまだ結構な数の魔物の反応がある。待ってる時間がもったいないか? もう水をぶっかけてしまおうか。

「あまり先に進んで距離を開けたくないから、軍が到着するまで俺たちでここを守っておこうと思うんだが、どう思う?」

拠点防衛なら前衛の弓が生きる。寄ってくる魔物で経験値稼ぎだ。

「それでいいんじゃないかしら?」と、エリーも同意してくれる。

「ならばオレンジ魔導隊も呼ぶかの?」

「そうだな……」

拠点防衛なら人数が居たほうがいい。壁があるから危なくなったら撤退も難しくないだろうし、エルフに拠点防衛を任せて俺たちは出撃して魔物を殲滅していってもいい。

「頼む、エリー。まずはゲート一回分で連れてこれるだけ連れてきてくれ」

エリーは頷くとすぐに転移で移動した。レベル4のゲート魔法だと移動できる人員は一〇人が限度だ。輸送力を増やしたければ空間魔法を応用する必要がある。例えば俺が火や土のことを理解して色々なオリジナルっぽい魔法を使っているように、空間魔法を応用するにはそもそも空間とは何なのかを理解する必要がある。

エリーはどうやら空間を理解しつつあるらしい。ゲートの輸送力が倍以上になったと先日報告してくれた。遠からず俺の使っている転移に負担のかからないアイテムボックスも出来るかもと言っていた。

さて、待ってる間に砦の消火をしておくかね。生き残ったハーピーも、かなりの数が撃ち落とされるか逃げるかしているようだし。

「マサル様、砦にまだ何かいます」

俺の返事を待たずにサティが弓を放った。煙で見えないが命中したのだろう。ぐおおおおおという苦痛とも怒りとも知れない叫びが響く。

まさか地上に生き残り? 俺のメテオに耐えてか?

「来ます!」

サティが矢を放ちながら叫ぶ。気配察知の反応は上空のハーピーとばかり思って油断した。恐らくオークキングだ。奴らならメテオでも直撃を食らわなければ、きっと耐える。

「詠唱! 狙いはつけなくていい。適当に撃て! 前衛は抜刀! この場を死守するぞ!」

最悪だ。エリーがいつゲートで戻ってくるかわからないから空に退避は出来ない。ここで迎え撃つしかない。

ウィルとシラーちゃん、ミリアムが弓を捨てて剣と盾を構えた。サティはそのまま矢を放ち続けている。

詠唱を終えた魔法が煙の中に飛び込んでいき、いくつかは命中した気配がした。俺も――

「吹き飛べ! 【 火嵐(ファイアーストーム) 】!」

巨大な炎の嵐が舐めるように前方で荒れ狂う。

「後衛は空に退避して援護しろ!」

十数体のオークキングが煙の中から、俺の放った火嵐も抜け眼前に現れた。空にはまだハーピーの生き残りがいるが、オークキングよりマシだろう。

魔法……いやここは剣だ。魔法だと確実に仕留めきれない。それに乱戦だと誤射も怖い。

俺が剣を抜くとほぼ同時に、最前衛のシラーちゃんがオークキングとまともに激突した。金属同士が激突するグシャリという嫌な音。だがグラリとよろめいたのはオークキングのほうだった。オークキングの腹をシラーちゃんの剣が貫いている。

「油断するな! まだ死んでないぞ!」

だが心配するまでもなく、すでにウィルがフォローに入っていて瀕死のオークキングに止めを差した。

サティは……集団の只中に飛び込んでオークキングを翻弄している。囲まれないよう動き回りながら、一匹また一匹と、倒せないまでも深手を負わせていっている。あれは助けに行くと却って邪魔になりそうだ。

「ミリアムは俺から離れるな」

「はい、マサル様」

ミリアムは剣術レベル5にして剣聖の教えを受けたとはいえ、レベルも低いし経験も浅い。今の所平気そうな顔をしているが、実戦でどれくらい動けるかわからない。

シラーちゃんのほうにまた数匹向かってきた。ウィルも一匹を相手にしていて余裕がない。シラーちゃんのサイドを守るように位置取り、正面の敵はシラーちゃんに任せ、向かってきたオークキングの一匹にエアハンマーで足止め。もう一匹の攻撃を躱し、カウンターで袈裟懸けに深く切り込んだ。

エアハンマーを食らったほうのオークキングは、いつの間にか移動していたミリアムに首を落とされている。

絶命したオークキングから剣を引っこ抜いて周りを見回すとオークキングはすでに半数以上倒れていた。

サティのほうはあと三匹。こっちも残り三匹。

向かってくるオークキングの攻撃をかいくぐり、胴を真一文字に斬り裂き、再び周囲を確認すると、戦いは終わっていた。

ふーっと息を吐く。思ったよりあっさり勝てた。もう居ないだろうな? 探知にはもう反応はないし、サティたちが引き続き周囲を警戒している。

魔力反応。エリーがゲートでエルフたちを連れて戻ってきたようだ。避難していたリリアたちも降りてきた。

「さすがに一〇〇人まとめてとなると時間が掛かったわね……ってオーク? 戦闘があったの!?」

エルフの群れをかき分けて出てきたエリーが周囲を見て驚いた顔をする。

「たぶん例のオークキングだ」

「急に襲いかかられたのじゃが、特に危なげもなかったのう」

「そうだな。剣聖とかドラゴンクラスのあいつらとやるよりよっぽど楽だった」

修行のお陰かずいぶんと余裕をもって戦えたし、俺がこの前戦ったオークキングよりずいぶんと弱く感じた。

「恐らくこいつらは成り立てなんだ」

「成り立てですか?」と、サティが首をかしげる。

「そう。俺たちが経験値を稼いで成長するように、オークも経験値を稼いでキングにランクアップするんじゃないかと思う」

先のヒラギスが壊滅した戦いではさぞかし大量の経験値が稼げたはずだ。だからこれだけの数のオークキングが揃っていたのだが、それではオークキングとしては新米、ひよっこだ。メテオに耐えるタフネスはあっても、剣聖の修行を経た俺たちに対抗できるほどの戦闘経験がまだない。

それにメテオに火嵐と食らってかなりダメージもあったのかもしれない。出てきた数からすると半分くらいはメテオで倒せてたみたいだし。

「まあいいわ。作業を急ぎましょう」

「よし。じゃあまずは手分けして水をかけて消火をしてくれ」

ヒラギス方面からは新たな魔物が迫ってきている。せっかく更地にしたんだ。強力な砦を築いて迎え撃つ。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

「そこ、何を立ち止まっているか!」

行軍の最中、道を外れ立ち止まった新兵をベテランらしき兵が怒鳴りつけた。

「すいません。さっきからずっと同じタカがいるのが気になって……」

ベテラン兵が見上げると、一羽のタカが部隊を視界に収めるようにずっとその進路を維持していた。

「あれは俺たちが死ぬのを待ってるんですかね?」

新兵が泣きそうな声で言う。

「あの種類のタカは屍肉は狙わん。むしろあれは吉兆、幸運の印だな。タカは目がいいし空の魔物を嫌う。あれがいるうちは空からは襲われん」

少なくとも空からは。だがその程度では何の気休めにもならない、そうベテラン兵は思ったがあえて口に出すことはない。

それよりも無駄口を叩いてないで所属部隊と合流させようとまた怒鳴りつけかけ、ベテラン兵は新兵の身なりに気がついた。あまりにも若いし装備がちぐはぐだ。恐らく急遽集められた志願兵の一人。自分の部隊がどこかどころか、所属部隊が存在すらしてない可能性もある。そうでなければこんなところで一人隊列を外れて歩いてない。

「幸運……俺たち生き残れますかね?」

「さあな。貴様、しばらくあのタカを見張っておけ」

「はい」

することがあれば多少の気休めにはなるだろう。

「先に進むぞ。お前、名前は?」

最初は何かの気まぐれだろうとベテラン兵は思ったが、そのタカは一時間、二時間と過ぎても部隊について来る。新兵はタカを見失っては不安を口にし、また確認しては安堵の表情を浮かべるのだが、ベテラン兵の内心はそれを相手にするどころではなかった。一度は逃れたはずの死地に、一歩一歩確実に近づているのだ。周囲に魔物の気配がないか、ずいぶんと神経を尖らせていた。

だがほどなく昨日まではなかった不自然な破壊の跡に、存在するはずのない城壁をベテラン兵は目にする。

「あれはエルフだ! 味方だぞ!」

部隊の先頭のほうからそう声が上がった。

「無事砦に着きましたよ、センパイ! やっぱりあのタカが幸運を運んで来てくれたんだ!」

タカはそれに答えるかのようにぴぃと一鳴きすると、砦の上空を旋回しだした。

奇妙な動きのタカにいるはずのないエルフ……本当にあのタカが幸運をもたらしてくれた? そんな訳あるかとベテラン兵は思いつつも無邪気に喜んでいる新兵に答えた。

「そうかもしれないな」

タカはともかくとして、魔法に長けたエルフの部隊の助力があれば、俺もこいつももしかすると生き残れるかもしれない、そんなわずかな希望を胸に抱いて。