軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

177話 剣聖

みんなのところに戻る前に、リュックスに聞いておきたいことがあった。

「最後の一撃、手加減したな?」

「有望そうな新弟子だ。いきなりぶっ壊すわけにもいくまい?」

治療を受けながらリュックスがそう答える。不動や雷光を使いこなすこいつの一撃をまともにくらい、立っていられたほうがおかしかったのだ。

「それで勝って不満か?」

「いや、確認しておきたかっただけだ」

やはり剣のみだと実力差がかなりある。その上戦ってみた感じ、軍曹殿はこいつよりもう一段階強い。軍曹殿を超えるには最低でもこいつを剣のみで倒せないとダメだ。

剣術では劣り、不動や雷光といった技で加護でのパワーアップはほぼ相殺されている。ここから先、更に強くなるには純粋な努力が必要だろう。期間もそれほどない。かなり厳しいな。

んー、まあ修行してダメならダメで仕方がないか。

「勝たせてもらったのはありがたい」

ちょうどお金がなかったしな。あやうくリリアの実家に戻って、博打ですったからお金くださいとかやるところだった。お金は出してくれるだろうが、娘は旅先で一体何をしてるんだと王様たちは思うことだろう。

商業ギルドに預けたお金を一時的に使ってもいいが、そうなるとアンに伝わる。それも避けたい。

やっぱお金は多少は取っておくべきだな。落ち着いたら早めに稼ぎに出よう。

「別に勝たせてやったわけじゃないんだがな……」

別に手抜きをしたわけじゃないだろうが、最初からガチでやれば俺の勝ち目はほぼなかったはずだ。

まあ腕を見たいとか、客へ見せるためとかそう出来ない理由もわかるが。

「まあいい。賭けのお金を持ってくるから少し待ってろ」

治療を終わったリュックスが、そう言って立ち上がった。

「いくらくらいになる?」

「ざっと二〇倍ってところだ」

「おお、すげえ」

だがこいつの強さを思えば負けることが考えられなかったのもわかる。

「リリアはいくら賭けてたんだっけ?」

リリア以外はだいたい金貨一枚ずつだった。

「あのエルフの嬢ちゃんは金貨百枚だな」

一千万円ってえらく大きく賭けたな。それが二十倍で……二億円!?

「お前の取り分は賭けとは別で金貨六十枚ほどだ」

六〇〇万と賭けの儲けが二〇〇万で八〇〇万円か。いい儲けになったなー。ほんと勝ってよかった。

「しかし結構な額が動くんだな」

「このあたりで一番の娯楽だ。遠方からも見に来る」

なるほど。レベル高いものな。他ではまずは見れないだろう。観客席には付き人や護衛を引き連れた身なりのいいのがいるのも見える。

「それでだな。お前らしばらくここで世話になるんだろう? 生活費やらなんやらに少し寄付してくれ」

むう。儲けた金は俺のお小遣いと獣人へのお土産に使いたいんだが……

「じゃあ俺の取り分の金貨八〇枚ほどはやる」

世話になるのだ。仕方あるまい。

「もう一声。世界最高の指導を受けるんだぞ?」

「あとのお金は俺のじゃないからなー」

「ケチケチするなよ。貯金もたんまりあるだろう?」

「あー、あれな……」

「ん? まさか実は金がないってんじゃないだろうな?」

「引き出せなくはないんだが、見せた金は全部使いみちが決まってるんだ」

「おい」

「細かいことは気にするな。あの金のほとんどはリリアの実家から貰った分だし、言えば追加はすぐ貰えた」

「ふうむ。じゃああれだけのお金、何に使うんだ?」

「大したことじゃないよ」

「教えろよ。もし負けたら俺への貸しになってたところなんだぞ?」

数億円のお金の使いみちだ。気になるのだろう。

別に極秘ってほど極秘じゃないし、まあいいか。

「誰にも言うなよ?」

「ああ」

興味深そうに聞き耳を立てていた治癒術師をリュックスが追い払った。

「あの金は全部寄付した」

「あれを全部か!? どこにだ!?」

「ブルムダールの砦の神殿」

「ブルムダール……ヒラギスか」

「そういうこと」

「戦後、ヒラギスで領地か爵位でもってところか? ヒラギスを取り戻せるなら悪くない金の使いみちだ」

納得したようにリュックが言う。普通に考えればそういうことなのか。俺には加護持ちを増やすというもっと大事な目的はあるのだが、こいつには説明できない。

「違う。領地も爵位もいらないし、ヒラギスの上層部に伝手はない。寄付は飢えた避難民を見かねた、ただの寄付だ」

「ほんとかよ……いや、お前もそういうアレなのかもな……」

「それで今回の儲けで飢えたヒラギス民に何か買っていってやろうと思ってたんだがな?」

「……わかった。寄付はお前の取り分だけでいい」

そこは全額戻すんじゃないのかよ。

「まあ自分たちの食費くらいは魔物を狩って稼いで来てやるよ。ここは魔境に近いから足を伸ばせば魔物はいくらでもいるだろ?」

「いるにはいるが、お前、修行の合間にそんな余裕があるとでも?」

ないのか? ないのか……どうしよう。修行の間まったく稼ぎがないのも困る。

いや、リリアの儲けの二億円があったな。あれで当分はどうにでもなるだろう。

いや、ほんと勝ってよかったな!!

みんなのところに戻ると大喜びで出迎えてくれ、リリアなど人目もはばからず抱きついてきた。今日はもうずいぶんと働いたし、もう帰ってお休みしたいなー。

「ほんとにリュックス様に勝っちゃうなんて……」

ここまでちゃっかり付いて来たタチアナが言い、その後ろにくっついたカチューシャも目をまん丸にしている。

「言ったじゃろう。マサルは負けんと」

「かなり際どい勝ち方だったけどな」

「でもほんとよくやったわ! これでマサルが剣聖の後継者ね!」

「あの、そういうのはやめようぜ、エリー」

「私が言ってるんじゃないわよ。周りがね、サティ」

「はい」

いまだざわついている観客の声を拾ってみると、確かにそんなことを言っている。剣聖が後継者を探しているのはここでは周知のことだったが、馬鹿強いリュックスのお陰で後継者どころか剣聖の前にたどり着くことすら至難の有様。

しかし無敗を誇ったリュックス・ヘイダがついに破れ、剣聖の後継者足る者が現れた。

「そういうのは剣士同士でやってくれよ……」

剣はサティに任そうと思ってたのに、どうしてこうなった。いや、勝っちゃったから悪いんだけど、負けたら負けたでお金がなあ。

「すごく名誉なことだぞ、主殿」

俺はもう剣はこれ以上強くなるのは無理だと思うんだがな。

「サティはどうだ?」

「わたしも強くなれればいいので別に」

まあサティも剣聖って感じじゃないよな。

「じゃあウィルは?」

「兄貴、面倒な事はとりあえず俺に押し付けようとしてないっすか?」

さすがに何度もやれば学習するのか。くそう。こいつは身分を隠している帝国の王子様なんてやってるのに、全然目立たないな。なんで平凡な平民の俺がこんなに活躍してるんだ? おかしくないか!?

「剣聖の後継者ならリュックスがやればいいじゃん」

強さも血統も折り紙付きだ。誰も文句は言わないだろう。ちょうど賭け金を持ってきたリュックスに言う。

「俺は途中で諦めた口だ。それに俺より強いのはいるしな」

「じゃあそいつらの誰かにすればいいのに」

「だがそれでも足りん。このままでは剣聖の位は誰にも受け継がれず終わってしまう」

だったらそれはそれでしょうがないと思うんだが。勇者だって一代限り。剣聖だって、代わりのいない例外的な剣士だったのだろう。

「だからお前たちには期待してるんだ。お前は話が通じるしな!」

上にいる連中は話が通じないのか……

「それに後継者を決めるのは俺でもお前でもない。周りが認めれば否応もあるまい」

俺に選択肢はなさそうだ。ここに来てしまったのが運の尽きか。

いつまでも話していても仕方がないので、賭け金を受け取る。

「さてと。あの門の先に剣聖バルナバーシュ・ヘイダが待っている。試練を打ち負かせし者よ。心して門をくぐるがいい」

リュックスがまた芝居がかった大声で言うと、手下の手で門が重々しく開かれた。これもショーの一環か。続けて言う。

「剣を極めんとするなら、ここからが本当の試練だ。上の連中は血の気が多い。気を付けろよ」

やだなあ。だが行かないと話が進まないと、しぶしぶ門に向かった。

「ああ、そうそう。門の向こうはもう魔境だからな。ちょくちょく魔物が来るから用心はしておけよ?」

手にあるのは模擬剣だが……まあいいか。ここで実戦装備を用意するのも臆病な感じだ。

だが進もうとしてリュックスに呼び止められた。

「待て待て。ここから進めるのは試練を抜けた者だけだ」

「なんじゃと!?」

リリアが不満の声をもらしたが、まあ当然だろう。しかしウィルとシラーちゃんもダメか。こいつらも剣聖の修行を受けさせたいんだがな。

「ウィルとシラーは連れて行く。こいつらには素質がある」

手っ取り早く強化しておきたい。だがリュックスは渋い表情だ。

「どれだけ多くの者がこの門を目指し、死力を尽くしてなお、ここを通れないと思っている?」

最強の剣士へと至る、唯一の道。

「強ければ誰も文句は言わないんだろう? お前が言ったことだぞ」

リュックスに勝った俺がここでは一番強い。フランチェスカなんかは推薦で通ったんだ。俺の推薦があるなら良かろう。

「ふむ。少々物足りんが、その二人はまあいいだろう」

あとの面子はぶっちゃけ興味本位だ。剣聖と面会したければ後日だな。

「ならば我らも試練を受ければ良いのではないか?」

だが諦めきれないのかリリアがとんでもないことを言い出した。

「あらいい考えね。面倒だから貴方を倒せばそれでいいわよね?」

リュックスの顔が引きつった。

「エリーはさすがにきついんじゃないか?」

リリアなら勝てる可能性は高いが、俺の魔法が通用しなかったのだ。エリーでは勝ち目は薄いかもしれない。

「確実に勝つ手くらい考えてあるわよ」

何をするつもりかと戦慄したが、戦法は単純だ。巨大な盾を用意して詠唱時間を稼ぐ、ただそれだけである。俺と同等の詠唱速度を持つエリーの魔法は誰にも止められまい。似たようなことは俺も考えたが、エリーのアイデアのほうが簡単でいい。それにそれ以外の奥の手もあるようだ。

良かった。何でもありで魔法をぶっ放すつもりはなさそうだ。そんなことをしたら絶対に死人が……

「勝つためなら私はマサルみたいな手加減はしないわよ!」

ってダメじゃん!

「止めとけリュックス。加減なしのエリーの魔法を食らったら死ぬぞ!?」

「ああわかったわかった。もう勝手にしろ」

リュックスが面倒くさそうに手をひらひらさせて言った。うむ、それが無難だな。

「あらそう? 私もマサルみたいに派手なのをやってみたかったのに」

「そうじゃな。まあ妾はいずれ剣でここを通ってみせようぞ」

リリアはまだ諦めてないのか。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

門を抜けると山道だ。剣聖のいるところまで少し歩くらしい。

「ティリカは試練はやる気はなかったんだ?」

ティリカはリリアたちのやり取りを静かに見ていただけだ。

「わたしは真偽官だから」

「だから?」

「真偽官の前に閉ざされる門は存在しないのよ、マサル」

エリーがそう補足してくれた。真偽官が言えばどんな扉だろうが金庫だろうが開かねばならないし、見せろと言われれば見せねばならない。そうエリーが説明してくれた。

私的に濫用するのはもちろんアウトなのだが、そこは俺関連の話だし、私的か公的か、微妙なラインではある。

「そりゃあ公的な話よね」

「真偽官としてすべてを見届ける必要がある」

そういうものなのだろうか。

話しながら歩いていると探知に反応があった。途中に一人と更に上に八人。一人のほうはお出迎えだろうか。

「マサル顔色が悪い?」

「あらほんとね。大丈夫なの?」

「結構きつい。ていうか君たち俺の戦い見てたよね?」

正直気分がよろしくない。すぐにでも休憩したいところだ。

「でもほら。倒れもしなかったし、すぐに構え直して詠唱してたじゃない。それほどのダメージじゃなかったのかと……」

「めっちゃ我慢してたよ!」

「まあまあ。今日はなるべく早く戻って休みましょうね」

「そうだな。今日は働きすぎた」

できれば二、三日休養がほしい。どうせこの体調じゃ修行どころじゃないだろうし。

「別に無理して勝つ必要もなかったのじゃぞ?」

別に無理をしたくてやったわけじゃないんだが、その場のノリでそうなってしまったんだな。ちょっと熱くなりすぎた。

「ああいう格上で初見の相手とやるのはいい修練になるんだよ。俺が本気を出せる相手って滅多にいないからな。魔物は毎回違う相手なんだし、仮想オークキングと見てだな――」

ぺらぺらと話してるうちにふと違和感を感じた。この辺りはまっすぐの一本道。一人の方の反応は動いてないから、地中に埋まってるのでもなければ、すぐ近くに居てもうすでに見えているはずなんだが……

「どうしたの? やっぱり具合が悪い?」

そうティリカが聞いてきた。

「みんなストップ」

俺の言葉でみんなも立ち止まった。探知の反応は森ではなく道の上だ。それもほんの数メートル先。まさか地面の下に隠れてる?

いや……何か……何かがいる。

そいつは今まで見えなかったのが不思議なくらい堂々と道の端に佇んでいた。黒衣のローブに奇妙な仮面。そして手には剥き身の黒剣。

ここまで異様な風体の相手、なんでここまで接近して気が付かなかった!? 隠密スキル? それとも何かの魔法か?

ゆらりとそいつが動いた。まずい。俺以外誰もこいつのことを気が付いてない!?

「て、」

「て?」

俺の言葉に隣のエリーが首をかしげる。

「敵襲だ!」

格好からして暗殺者だ。剣聖の弟子の誰かの可能性はあるが、真剣を持って向かってくるのだ。これは敵だ。

「え? どこ!?」

みんなきょとんとしている。接近してきてるのに、やっぱり見えてない。

だがさすがに俺の斜め前にいたサティが気が付いて動き――きゃと鳴いて一撃で吹き飛ばされ、続けざまサティの隣にいたシラーちゃんも当身を食らい、ぐっと呻いて崩れ落ちた。

「なにこいつ!?」

俺に向き直った暗殺者に刃引きの剣を打ち込むが、受け止められた。くそっ。こんなことなら実戦装備に変えておくべきだった。

ようやくエリーたちも暗殺者を認識したようだが、誰何したり説明している余裕はない。前衛二人が一瞬でやられた。

道はあまり広くなく、俺の両隣はティリカとエリー。後ろにリリアで殿がウィル。前にはシラーちゃんが倒れている。

「ウィル、サティを!」

エリーの指示が飛んだ。サティは剣で受けていた。無事なはずだ。

しかし――組んだ剣がギリギリと押し戻される。

なんだ、この力!? 力負けなんか一度もしたことがない俺が押されている。

だが不意に力が緩んだ。

「いけっ!」

ティリカがたいがを呼び出して、飛びかからせた。そいつは突然現れた獣を避けきれず、なぎ倒された。ナイスだ、ティリカ!

「マサルも下がって!」

エリーが魔法の詠唱を始めていた。ティリカが倒れたシラーちゃんを引きずって後退している。

「あの世で後悔しなさい、この痴れ者!!」

一度発動したサンダーは避けようがない。そう思っていたが、防御法は単純だった。そいつは砂を握って放り上げたのだ。

エリーの放ったサンダーは、砂とぶつかり、その場で激しく放電した。たいがの姿はもう見えない。一瞬でやられたか。

しかし続けてリリアが詠唱を終えていた。

「吹き飛ぶがよい!」

リリアの放つウィンドストームは、まともに食らえばオークをミンチにしてしまう威力がある。

剣の一閃。それだけでそいつはまるでダメージを受けた様子もなく、周囲の森をずたずたに引き裂いたのみ。

だが俺も【火矢】の詠唱を終えている。

「ファイヤーアロー」

ただし十二連だ。面で広く展開された多数の火矢は防御も回避も不可能。一発でもオークが死ぬ威力がある。

当たった。そう思った瞬間、そいつは十二の火矢を掻い潜った。

必要な分だけ切り払い、あとはギリギリのところですり抜けたようだ。そのまま俺のほうへと向かってくる。

まだだ。十分引きつけて――大岩投下。

やつの真上に突如として出現した四個の大岩は今度こそ回避不能のはずだった。だが――

ボンッ。爆発するような音がして、大岩が一つ弾け、砕けた岩が俺にも降り注いできた。落下した残りの大岩の下に奴はおらず、奴は――後ろだ。大岩を避けて回り込まれた。

詠唱をしていたエリーが当身を食らい、声もなく崩れ落ちた。そしてリリアの精霊も一瞬で防御を破られリリアも倒れ、立ち向かおうとしたウィルもついでにやられた。

サティは立ち上がっていたがまだふらふらしていて、ティリカはその側。

「こっちだ!」

サティが剣を構えて叫び、奴がそちらへと視線をやった。俺からは距離がある。注意も逸れた。

切り札――【転移剣】――短距離転移で奴の真後ろに出現。剣を――後ろから首筋を狙った俺の剣は見もせずに受けられ、そこにタイミング良くサティが斬り込んできた。

サティの剣も避けられ、二人がかりで攻撃するが、受けられ、回避される。鋭い反撃にやられないようにするだけでも精一杯。パワーもスピードもこれまで戦った誰よりも人間離れしている。二人でも勝てない。

だがわずかな時間でも十分な時間稼ぎにはなった。ティリカが召喚魔法を詠唱していた。仕方あるまい。出し惜しみはなしだ。

木々をなぎ倒しての突然のドラゴンの出現に、さすがの暗殺者も動きを止めてそちらを見上げた。

「いけっ!」

気が逸れた隙に俺とサティが後退し、どらごが突っ込んだ。

どうする? リリアかエリーが無事なら逃げる選択肢もあったが、残っているのは俺とサティにティリカのみ。俺とサティですら、あいつを長く押さえ込むことはできない。今はどらごに気を取られているとはいえ、散らばって倒れているみんなを回収してゲートの詠唱をするのをあいつは黙って見ているか? 危険だ。

ここは一気に畳み掛ける。

詠唱――

どらごの相手をしていた暗殺者がふいに掻き消えた。だが俺の気配察知は確実にやつを捉えている。

「右だ!」

どらごのふるった尻尾に奴の姿が現れた。捉えたぞ! 済まないがどらごごと――

「待て待て待て待て! 双方戦いをやめろ!!」

山道の下から駆けてくるリュックスの声に、暗殺者がどらごの攻撃を避けながらも剣を下げた。

「なんだこのドラゴンは!?」

新たな闖入者にティリカもどらごを止め、暗殺者も距離を置いて止まった。

やっぱり剣聖の関係者か。これだけの戦いで誰一人殺されていない。みんな当身で倒されていた。

「ちっ、いいところだったのによ」

そいつが俺の作る巨大な火球を見て言った。そうだな。あとほんの一秒、リュックスが遅ければ吹き飛ばしてやったのに。

例えこいつが俺たちを殺さないように戦っていたとしても、手加減の出来る相手では到底なかったし、もしかすると俺の命だけが狙いの可能性もあった。それに全滅したあと、俺たちが生かされたままでいるとの希望的観測も持てなかった。

「師匠、悪戯が過ぎます!」

リュックスが師匠と呼ぶのは――

「剣聖、バルナバーシュ・ヘイダ」

ティリカが呟いた。

「くっくっく、さすがはヴォークトだ。ずいぶんと生きのいいのを寄越してくれたものだ」

剣聖は仮面を取るとそう言って楽しげに笑い、リュックスはどらごが掻き消え、破壊の限りを尽くされた周辺を呆然とした様子で見ていた。