軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

174話 魔法剣士

「ここに久方ぶりに剣聖の試練への挑戦者が現れた! 知っての通り、すでに一人は一〇〇人抜きを達成し、剣聖へのお目通りを認められた!」

またリュックスが大声で観客に向けて口上を述べ始めた。いつの間に認められたんだ、ってリュックスが決めたのか。

「残り三人の挑戦者もとびっきりの本物だ! それもそのはず、この者たちは あの(・・) 絶剣ヴォークトの弟子だった! この名を知らぬ者もいるだろうが、かのエルド・サバティーニ将軍に唯一勝ち越した剣士といえば、その強さはわかってもらえると思う!」

おおー、と観客からため息にも似た歓声が漏れた。

「誰?」

今度は俺がわからん。

「帝国の将軍っすよ。一兵卒から剣の腕で将軍になった立志伝中の人っす」

以前聞いた、軍曹殿とトップを争っていたって剣士か。

「我々は戻ってきたビエルスの系譜を継ぐ者に敬意を表し、一〇〇人の最高の剣士を用意した! むろん俺も全力でお相手をする!」

結局一〇〇人やるのかよ。まあ三人でやるから分散して楽なんだろうけど、居並ぶ面子には三位のサンザや一〇位のセルガル。それに一〇〇人抜きでも見た上位の連中に、一位のリュックスもだ。

もしかしてこっちが三人でも、サティの一〇〇人抜きよりきつくないか?

「ルールは簡単だ。一度でも負ければ退場。全員倒せば、あのゲートを抜けて剣聖に会える」

口上を終えたリュックスが説明してくれた。賭けのほうは、俺たち三人で合計何人倒せるかという単純なものだった。一〇人刻みで一〇〇人全員まで。

「妾は全勝に賭けるぞ!」

リリアがそう言い放った。

「承った。他はどうするね?」

「全勝に金貨一枚」

「それだけか? もっと自信があるものと思ったが」

「博打なんてお小遣いの範囲で無理なくやるもんなんだよ」

リリアみたいに通帳を担保にしてまでやるもんじゃない。

「違いない」

みんなもリュックスに賭けの申込みをやりだした。リリアは結構な金額をかけていたが、他は俺と同程度、エリーですらお小遣いの範囲内だ。

だがリリア以外の分でも合わせるとちょっとした出費だな。これは負けられん。

「よし、受け付けた。じゃあせいぜいがんばって試練を盛り上げてくれ」

「盛り上げるのはいいが、これだけ人を集めて、あっさり終わっちゃったらどうするんだ?」

ふと気になって聞いてみた。挑戦者がオーガ下位の腕なら一人目で負けるなんてこともあり得るだろう。金を取ってそんなことになったら暴動が起きるぞ。

「試練が終わったらついでにオーガの順位入れ替え戦をやる予定だ」

なるほど無駄がない。基本的には試練は調子こいたよそ者を倒して溜飲を下げるイベントらしいし、よそ者でオーガの上位まで行くようなやつは滅多にいないのだという。

「ここで通用するようなやつは、大抵お前みたいにビエルス出身の剣士の弟子だしな」

そしてビエルスの事情を知っている者なら普通は道場経由で、試練なんて無茶はしない。

それでなくともこの街の人はみんな止めたし、普通はやらない。俺もやりたくなかった。

「今日は俺まで回りそうだ。戦えるのを楽しみにしているぞ」

そう言ってリュックスも準備をするのだろう。剣士たちのほうへと向かっていった。

「マサルは病み上がりであまり無理はさせられないわ。二人で出来る限り倒すのよ」

エリーの言葉にウィルとシラーちゃんが頷いた。本来ならサティもいて俺の出番なんかなかったはずなのだが、エアリアル流め。本当に余計なことをしてくれた。

「体調は悪くないし、攻撃魔法も使える。ほどほどでいいぞ」

サティやフランチェスカですら魔法有りの俺には勝てないのだ。あの二人レベルの剣士なら、オーガなどで足踏みしてないだろう。つまりこのクラスで俺に勝てるような剣士はいない、はず。

話してるうちに試練の相手が一人、前に進み出た。そろそろ始めるらしい。

「いけるところまでいってもいいか?」

ウィルは喜んで譲るようだ。

「じゃあ一撃食らったら交代にするか」

かすった程度なら続行。ダメージのある一撃をもらえば、勝っても負けても交代。戻って一旦治療だ。

「了解した、主殿」

最初はオーガクラス下位だ。三〇人くらいはいけるだろうか? それで二人で六〇人か。残り四〇人もやるのは辛いな。出来れば四〇人ずつくらいは倒してほしい。

「八〇人だ。シラーと二人で倒せ」

「そんなにいけるっすかね?」

ウィルは不安そうだ。こいつに加護が付いたのはごく最近。実戦経験は少なく、修羅場をくぐったこともない。周りには自分より強いものだらけ。自信を持つまでには至らないのだろう。

「不安か? さっきはリュックスにお前らのことをオーガクラス上位と言ったが、俺のみたところ、一〇位のセルガルや三位のサンザでも十分勝てる相手だと思っている」

半分本当、半分は期待といったところだ。

話してるうちにもシラーちゃんは軽快に対戦相手を倒していっている。ウィルと違ってシラーちゃんは楽しそうだ。

パワータイプな分、俺やサティより強そうに見えるな。それに戦い好きで堂々と戦ってるからか、強者の風格すらある。

「負けたところで所詮は試合だ。命までは取られないし、手に負えない相手ならさっさと負けて戻ってくればいい。あとは俺が倒してやる」

「……いえ。兄貴の手はなるべく煩わせないっすよ」

俺の説得よりもシラーちゃんの活躍が何よりの実力の証明となったのだろう。負け越しているとはいえ、剣の腕は同等といっていい。

「結構結構。それでこそ我がパーティの一員じゃ!」

さて、シラーちゃんであるが、快進撃が止まる様子がない。戻ってきたと思ったら、水をもらってすぐにまた戦いに行った。

「いま何人目だ?」

「今倒したので二〇人です」

俺が思ってたよりシラーちゃんが強いのか、それとも雑魚キラーなのだろうか。サティがあれほど手間取ったのだ。オーガクラスの剣士が弱いということはあるまい。

「あの盾がやっかいなんすよね」

シラーちゃんの半身を覆う大きなカイトシールドでの防御は、俺やサティで連日鍛え上げたものだ。生半可では突破できまい。

それに戦いと戦いの間に多少の休憩がもらえているのも大きい。これは剣聖に会うにふさわしい腕があるかどうか試す場なのであって、休憩なしの一〇〇人抜きがおかしかったのだ。

そろそろ疲れが見え始め、さすがに一気は無理そうだが、これなら八〇人のノルマは達成できそうだ。

「シラー、交代するっすよ」

何度目かの水分補給に戻ったシラーちゃんに、ウィルが言った。

「いまで三〇人っす」

「……仕方あるまい」

切りがいいのもあったが、休憩が頻繁に、そして長くなってきている。

「ウィル、少し加減してやれ。主殿やサティ姉様とやる感じで全力を出すと拍子抜けするぞ」

シラーちゃんのアドバイスにウィルが頷いた。

「稽古を付けてやるくらいのつもりでいい。それほど私たちは強くなっているんだ」

マジかよ。それほどか?

しかし戦いどころか運動すら苦手だった俺や、目が不自由で普通に歩くだけで転んでいたサティに比べて、こいつらは加護が付く前から戦闘する術を学んでいたし、体格的にも剣術に向いている。スキルは肉体強化と剣術レベル5程度でレベル上げも不十分なのに、すでにこの強さ。

本当に俺やサティを超えるかもしれない。

「なかなかの戦い振りでしたよ、シラーちゃん」

座り込んだシラーちゃんに、サティが声をかけた。

「はい。自分でも驚きました」

俺もちょっと驚いた。

戦い始めたウィルも最初は少しぎこちなかったものの、すぐに相手をばたばたと倒し始めた。三〇人を過ぎて相手はオーガクラスの中位程度のはずだが、まるで相手になってない。剣術レベル5とはこれほどの強力なのか……

「兄貴とシラーの言うとおりだったっす!」

何人か倒して戻ってきたウィルが、嬉しそうにそう報告してきた。

「だがここから相手も強くなるはずだ。油断するなよ」

「ええ、兄貴。疲れたら適当に交代していくっすよ、シラー」

「いつでもいいぞ」

これは楽が出来そうだ。そう思ったのだが、リュックスがやってきて横槍を入れられた。

「おい、お前も少しは戦ってくれ」

どうも客が俺も見たいと要望を出しているらしい。太客か?

「見世物にするために戦ってるわけじゃないぞ?」

ただでさえ本来なら俺は試練なしでも剣聖に会えるはずなのを、わざわざ付き合ってやっているのだ。二人で全部倒せるならそれに越したことはない。

こう焦るということは、こいつも二人が最後まで行きそうだと思ったのだろうか。一位のこいつも案外強くないのかもしれない。

「それはそうなんだが……よし、わかった。報酬を出そう。これくらいでどうだ?」

見せられた額は……少ないな。

「この賭けの上がりの五割だ」

「そりゃあ暴利ってもんだぜ!」

「さっきもサティのお陰で儲けたんだろう? 俺たちがいなければどっちもなかったはずの利益だよな? あまり儲けすぎると反感を買うんじゃないのか?」

どうせ避けられない戦いだ。普段なら金は戦う理由にはならないが、最近多大な出費もあったし、稼げるところで稼いでおきたい。

「……三割だ」

絞り出すような声でリュックスが言った。よっぽどお金が惜しいようだ。

「いいだろう。ウィル、交代だ!」

ちょうど一戦終わったところのウィルを呼び戻した。

「ここからは三人で交代でいくぞ」

ウィルは一五人倒して、残りは五五人か。

俺の最初の相手はオーガクラス中位からということになったのだが、ゴブリンクラス同様、面白いようにエアハンマーを食らって吹き飛んでいく。このクラスだと発動を止められるほどの速さも、俺の防御を抜くほどの腕も、エアハンマーを回避できる技量もない。

サティですら回避が難しいのだ。それ以下の実力ではどうしようもない。

俺が五人倒し、シラーちゃんが五人。ウィルも五人。順当に倒していく。残り四〇人。

またすぐに俺の番。今度も体力を温存すべくエアハンマー主体だ。

五人、まったく相手にもならずに仲良く吹っ飛んでいった。たぶん魔法感知もない剣士もいたと思うが、あっても結果は一緒だ。

「発動が早い癖にとんでもない威力だな」

「しかし誰一人として躱せないのはどういうことだ?」

「回避できないタイミングで撃たれているんだ。剣の腕も相当なものだぞ」

「一〇〇人抜き以上の強さというのも本当らしい」

「魔法剣士というのは極めればあれほどやっかいなのか」

待機組が話しあっているが、オーガの上位でも具体的な対処案がないようだ。

俺が五人目を倒して引っ込むのを見て、次の奴がほっとした表情を浮かべていた。残り三五人。

二人はそろそろきついかと思ったが、まだ問題ないようだ。五人ずつ倒し、残り二五人。

次の五人も俺の相手にならない。

ウィルやシラーちゃんと戦っている様子を見ると、そこそこの腕はあるはずなのだが……

次に出たシラーちゃんが三人目、勝つには勝ったが、一撃をもらいダメージを受けて戻ってきた。

交代したウィルは二人目で長期戦となった。ウィルが押しているがなかなか追い込みきれず、倒した時は疲労で交代となった。

残り一五人。まだ負けはしないが、さすがに厳しくなってきたようだ。

だが相も変わらず、俺のエアハンマーには倒されていく。

何せ盾を構えたところに受けても、ふっ飛ばされ意識が飛びそうなる威力だ。俺もエリーにやられたからよくわかる。

完全に躱すか、発動前に止めるしかないのだが、悲しいかな剣の腕も俺には敵わない。

五人減らし、残り一〇人。

シラーちゃんが勝った。ウィルも勝った。体力を消耗する相手で一人ずつの交代となった。残り八人。

「雑魚に勝ったからっていい気になるなよ? ここからの上位ランカーの強さは別次元だ!」

こういうノリのやつ多いなあ。次に出てきたこいつは十一位らしい。

だが思えば三位も一〇位もサティに瞬殺されて実力のほどは不明。実はかなりの実力者だったってこともありえるのだ。いかにも敗北フラグなセリフを言うからって油断はできんな。

「警告ありがとう。じゃあそろそろ俺も本気を出そう」

残り人数も少ないし、体力もここまで温存できた。まだウィルとシラーちゃんも残っている。

十一位は始まると、いきなり斬り込んできた。まあそれしかあるまい。受け、躱すが、連撃が続く。攻撃の手が止まらず、詠唱の隙がない。そのまま剣技で圧倒する気なのだろう。

だが魔法を封じただけで勝てるほど、俺は甘くない。

さらに攻め立てようとした相手の剣を撃ち落とす。早いし上手いが、パワーがない。

もう一撃。盾で受け止められたが、パワーを乗せた攻撃に連撃が止まった。魔力を集中するには十分な隙だ。

「エアハンマー!」

十一位は吹き飛んだが、いつもより飛距離が短いし、即座に立ち上がろうとした。かろうじて受け流したか。

まあそこに二発目のエアハンマーを撃ち込んだわけなんだけど。

倒すのに二発使わされたのは今日初めてだ。上位ランカーは別次元というのは本当らしい。

次はシラーちゃんで、相手は一〇位のセルガルか。

セルガルがあっさり倒された。このあたりでシラーちゃんも限界かと思ってたんだが、まだいけるようだ。

ウィルも苦戦しつつも勝利を収めた。

残り五人。

「貴様も剣士だろう。剣士なら剣士らしく、堂々と剣だけで立ち会え!」

次の相手がそんなことを言ってきた。珍しい女剣士だ。だが何を勝手なことをと思うが、俺ばっかり煽られるのは、魔法を使うのが気にくわないのかね? ちょっとばかり魔法で倒しすぎたか?

「そんなこと言っても俺の本職は魔法使いなんだが」

「剣の修行に来たんじゃないのか!?」

いやまあ、その通りなんだけど。

「実力はそれなりにあるのにあいつも運がない」

「だから普段から魔力を見る修行をしろって……」

ああ、魔法感知がないのか。出待ちの剣士の声が聞こえたのか、女剣士も顔を真っ赤にしている。

付き合ってやる義理はないが、まあ良かろう。報酬も貰うのだ。少しくらいは盛り上げてやってもいいだろう。

「わかったわかった。剣で相手をしてやろう」

「ほんとか!」

「ところでお前さんは何位だ?」

「七位ブリジット・ミュールベリ、貴様を倒す名だ。覚えておけ! そして魔法を使わないと決めたことを後悔するがいい!」

いやいや、それはお前が言い出したんだろう。

「エアハンマー」

ぼそっと言ったら、びくっとしてさっと盾を構えた。本当に魔力がまったく感知できないんだな。

「冗談だ。さて、やろうか」

「貴様っ……」

顔を真っ赤にしてぷるぷるとしている。面白いな、こいつ。だがこれで負ければ俺こそ笑いものだ。真面目にいこう。

剣を構える。間合いはまだ遠い。ブリジットは中段で、大きめな盾のサイズと構えからすると騎士剣術だろうか。名字持ちだし盾もいいものだから貴族かね。どんな手を使うか不安ではあるが、むしろ敵の手がわかっている戦いのほうが珍しい。臨機応変はいつものことだ。

剣を引いて腰を落とした。一気に間合いを詰める。真正面に掲げられた盾に、構わず剣を叩きつける。カウンターの剣が来るが、剣の軌跡は予想を超えるものではなく、盾に打ち込んだ剣を返し跳ね上げた。

続けざまに一撃二撃と剣を叩き込むが、盾にしっかり阻まれる。堅いな。

だが盾の対処も幾通りも心得ている。軽く揺さぶってやれば、ガードに気を取られた相手は盾で自らの視界を塞ぎ、ほんの一瞬、俺を見失う。

死角からの剣は確実に胴を捉えたが、ブリジットが踏み込んできたことで、当たりが浅い。しかもカウンターが飛んできた。

それをすんでのところで避ける。

危な。肉を切らせて骨を断つつもりだったか。大口を叩くだけのことはある。

「け、剣も強いじゃないか」

さすがにダメージなしとはいかなかったようだ。離れて息を整えているので、待ってやる。

「そりゃどうも」

「だが、勝つのは私だ!」

呼吸を落ち着けたブリジットが言った。雰囲気が変わった。何かやってきそうだ。

はっ、という気合とともに剣を振るうのを普通に躱す。気のせいか?

だが続く二撃目で、ブリジットの剣に合わせた俺の剣が、あっけなく弾かれた。

打ち負けた!? 追撃の三撃目を盾で受け……盾ごと体を浮かされ、体勢を崩された。

だが幸いなことに追撃がこない。ブリジットも距離を置いた。

これが奥の手か。俺が止めきれないとは相当な威力だ。あのまま追撃が来たら危なかったかもしれない。盾で受けた腕が痺れている。

欠点は一撃一撃にかなり体力を消耗するようで、連打があまりできない点と、使ったあとは休憩が必要なようだ。肩で息をしている。

「秘技、不動剣・岩砕き」

ブリジットが言った。こいつの体格は並だ。俺よりは大柄ではあるが、筋肉の付き方もそこまでパワーがあるようには見えない。それが下手したらラザードさんかそれ以上の重さの打撃。剣は弾かれ、盾で受ければ体ごともっていかれる。秘技、そう名付けるだけのことはある。

剣の腕もかなりなものだし、ウィルやシラーちゃんなら勝てなかったかもしれないな。だが――休憩を終えたブリジットが再び動いた。振るわれたブリジットの剣をしっかりと受け止める。

完全に剣を止められたブリジットが驚愕の表情を浮かべた。来るのがわかっていれば、パワーも十分にある俺にとってはただの重い剣だ。

ブリジットの剣戟を受け止め、躱し――息を切らせたところを追撃し、今度こそ一撃を叩き込んで、ブリジットを下した。

残りは四人。