軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

158話 リベンジ

フランチェスカ・ストリンガー。現国王の姪で公爵家令嬢。十六歳にして部隊の指揮も任されており、人望もある。美貌もある。

お風呂あがりに薄着でくつろがれると、十分満たされている俺でもムラっと来る。多感なお年頃のウィルはどうやって処理してるんだろうな?

幼少の頃より剣の修行に明け暮れていたというが、魔法もきっちり習得している。

昨年大会を制した時はまだ一五歳。中学生くらいだな。体格は標準的で、冒険者に混じるとむしろ小さいほど。それでいて怪我人どころか時折死人が出るというガチンコ剣闘士大会で大人に混じっての優勝。まさしく本物の天才だ。

才能もあって努力もかかさない。富も権力も名声も力も美貌も、人の羨むありとあらゆるものを持ち、加護で強化したサティでようやく互角。次代の剣聖にとの呼び声も高い。

フランチェスカは俺たちの成長が異常だと言うが、俺に言わせればフランチェスカのほうが異常だ。

試合用に武舞台を川原に作った。

また足をすべらせて決着なんてことになっては面白くないし、獣人たちの今後の練習場にもなるだろう。

フランチェスカにとって道中散々やられたことへのリベンジであるが、俺にとっても大会のリベンジとなる戦いだ。体調不良で足を滑らせたところをぼこぼこにされて、仇はサティに取ってもらったものの、後悔が残る戦いだった。

サティは本気を出せば勝てると言っているし、勝ち筋もある。

俺にあってフランチェスカにないもの。それはパワーだ。力で押し切る。そう考えて戦いに臨んだのだが――

「ま、待った」

剣を交えて数合、フランチェスカの一撃を食らって片膝をついた。この痛みだと骨にヒビはいってるな。右肩だから回復しないと剣も振れない。

クソ痛え……これだからガチの試合は嫌だったんだ。やっぱりやるんじゃなかった。

詰め掛けていた見物の獣人たちもしんと静まり返った。まさかこんなにあっさり負けると思わなかったのだろう。

パワーで押し切ろうと、出せもしない本気を出そうとして力み過ぎ、簡単に隙を突かれた。

「まさか終わりじゃないだろう?」

ヒールをかけて痛みが引いたのでゆっくりと立ち上がる。

「もちろんだ」

「貸し一つだぞ」

二つあった貸しが減るくらいどうでもいい。こんな無様な負け方ではサティにがっかりされてしまう。

すでに負けた気もするが、これはちょっとしたお茶目。ノーカウントということにしておこう。ガチとはいえ、本番の試合じゃなくて練習だ。時にはこんなこともあるし、やり直しもきく。

剣を軽く振って肩の確認をする。問題はない。痛みで気力はごっそりと削られたが戦いに支障が出るほどじゃない。

痛い目に遭いたくなくて、一気に片を付けようと思ったのは甘すぎた。

普通にやってどうにかするしかない。むろん勝ち筋はまだ用意してある。新たに開発した 極小(ミニマム) ヒールである。

詠唱の短い小ヒールですら妨害されてそうそう使わせてはくれないのだが、それならば更に詠唱を短縮すればいい。サティ相手には試したが、この試合では実際にダメージを受けた状態での実戦テストも兼ねる。ある程度痛い目を見るのも仕方ない。

「よし、準備いいぞ。本番と行こうか」

覚悟は出来た。

二戦目はゆっくりとした立ち上がりだった。フランチェスカも俺の覚悟が伝わったのか、警戒してるようでさほど踏み込んでこない。慎重に、探るように剣を打ち合わせていく。

落ち着いて対応できればフランチェスカの実力はサティと同等くらい。勝てない相手ではないし、むしろサティより剣速は一段落ちてパワーもない。それでも強いのは、技と経験で俺たちを上回っているからだ。さっきも俺が大振りしたと見るや、即座に致命傷となる一打を叩き込んできた。

しかしこれでは詰めかけた観客も退屈だろう。長期戦になればスタミナ的には俺に有利なはずだが、ここは攻める。

これは試合じゃないから勝ち負けは重要じゃない。剣の腕を考えれば俺が負ける確率のほうが高いのだ。大事なのはいかに戦うか。敢闘するか。無様な負け方だけはもう許されない。

だがフランチェスカは想定したよりも手強かった。受けに回られるとこちらの攻撃が通じない。通じる気がしない。その上少しでも隙があると、反撃を食らう。

俺も強くなっているはずだが、この一週間フランチェスカも俺以上に練習してたのだ。

だがそれよりもまずいのはどうやら俺の動きや癖が読まれている。どうもこの一週間、俺の動きはじっくりと観察されていたようだ。

今のところかすった程度だが、まるで大会でのサティとの決勝みたいだ。手を打たなければじりじりと削られて終わりそうだ。

普通にやってどうにかできないかと思ったがやはり無理か……

この間合いはフランチェスカに有利だ。だから一歩踏み込んだ。踏み込んでわざと隙を見せた。できればやりたくなかったが、肉を切らせて骨を断つ。相打ちのカウンターを狙う。

フランチェスカは見え見えの罠にはかからないが、それならそれでこちらは攻勢を強めればいい。

多少は攻撃を食らうが少々のダメージなら気にしない。こちらの相打ち狙いがわかっていて、フランチェスカも強く打ち込めていない。

だが少々カウンター狙いが露骨すぎたか。こちらの攻撃が当たらないまま、かなり痛いのをもらった。ちょっとやばい。フランチェスカもダメージを与えたと見て、さらに圧力を強めてきた。

【ヒール(小)】詠唱――は妨害された。だがこれも罠だ。ダメージを回復できないとなると、俺に勝ち目はなくなる。それで攻勢を強めてくれれば……あ、やべ。もう一発いいのを食らった。さすがにもう回復しないとまずい。

新型ヒールを使うのにも、確実に成功させるためにはある程度の間合いは必要だ。なんとか距離を取ろうとするが、フランチェスカはそれを許さない。一気に仕留めに来たようだ。

だがそれはすなわち俺の望むところでもある。無理をすれば体はまだ十分に動く。回復は後回しでいい。

フランチェスカがフェイントを仕掛けてきた。だがカウンター狙いの俺にさほど意味はないし、無防備な頭を狙った攻撃はフェイントの分ワンテンポ遅い。

頭部への攻撃は避けずそのまま前に出て、全力でカウンターを打ち込む。頭は鉄製の兜だし打点をずらせば威力は軽減できる。

咄嗟に出たのは軍曹殿の技――何度も何度も練習して動作は体で覚えている。

フランチェスカの攻撃で意識が保てるか、俺の攻撃でフランチェスカを倒しきれるかの賭けだ。

頭に衝撃が走り、俺のカウンターは――ダメだ。手応えはあったが盾の上からだ。

フランチェスカもこの技を練習しているところは見ているし、不完全な技で仕留めるのは無理があったか。

だが意識はなんとか保てているし、フランチェスカはよろめいている。

その間に回復。いや、追撃に備えて体勢を……

しかしフランチェスカは追撃をせず、一歩下がって剣を降ろしていた。バックラーを付けた左腕もだらりと下げている。

盾の上からでも効いていた?

「もう終わりか?」

戦意はもうないようだがダウンはしてないし、構えを解かないままで一応確認はしておく。

フランチェスカは俺の頑丈さを過大評価しすぎだな。俺のほうがはるかに満身創痍だし頭への攻撃も結構効いたから、追撃されるとまだ危ない。

「貴様じゃあるまいし、左腕がこれでは無理だ」

フランチェスカは苦痛に顔をしかめて言った。盾を持つ左とはいえ、片腕を完全に殺されては勝ち目はないと判断したのだろう。根性なしとは言うまい。たかが練習試合で俺みたいに無茶するほうがたぶんおかしいのだ。

自分の傷を治し、続けてフランチェスカの治療もしてやる。

なんとか勝ちを拾えたな。泥臭く薄氷を踏むような戦いだったが、勝ちは勝ちだ。だが格上と戦うと結局こんな風になってしまうのは、ほんとどうにかしないとな……

「これで一勝一敗だ。もう一戦やるか?」

フランチェスカが望むならもう一戦やっても構わない。

せっかく対フランチェスカ用に考えた 極小(ミニマム) ヒールは使ってないし、上手く使えば連勝もあるはずだ。

「……今日のところは止めておこう」

かなり重たい一戦だったし、連戦はきついか。

「次は、負けない」

当然ながらフランチェスカは勝ち逃げを許す気はないようだ。次にやるとしたら剣の里でとなるだろうか。

でもやっぱりこいつとはあんまりやりたくないな。あの顔は最初のダウンの時に殺しておくべきだった。次は容赦しないとか絶対考えてる。

「マサル様!」

試合が終わったのを聞いて、サティが真っ先にやってきた。

サティはひどく嬉しそうで、興奮している様子だ。ピンチからの逆転劇はさぞ見応えがあっただろう。

結局サティの言うとおり勝てたし、これが本気ってことなのか? 秘められた潜在能力とかじゃなくて、頑丈さと回復魔法を利用した相打ち戦法が?

「やっぱりマサル様は強いです!」

「そうかそうか。今のって本気出てた?」

「はい。とてもいい感じでしたよ!」

「大会の時と遜色ない動きだった、主殿」

そっか。これが俺の本気なのか……

いや別にダメージを受ける必要はないんだよな。要はダメージを覚悟をして一歩踏み込む感覚。その状態でもきっちり防御ができるように修練すればいいんだ。

防御を鎧に頼るのは俺の悪い癖だと、以前軍曹殿が言っていた。いつの間にか頑丈さと回復魔法に頼ってしまっていたのだろう。防御や回避能力を上げるには地道な修練くらいしかないな。

見ればフランチェスカがさっそくウィルを連れて練習をするようだ。

「ウィル、新しい鎧出しとくか?」

「いやいい。その鎧と最後のお別れをさせてやろう。たっぷりとな」

フランチェスカに勝手に決められて何やら恐ろしいことを言われているが、ウィルは唯々諾々と従っている。ウィルはすっかり飼いならされてるな。まあ忠誠は落ちるどころか、また上がってるようだし平気だろうけど。

俺が砦に行っている間、ウィルとフランチェスカ、そしてリリアが獣人のところに残ることになった。リリアはエルフのことについて獣人に聞きこみをするという。冒険者ギルドへの報告に関してはすっかり終わっていて、あとは俺とサティ、シラーちゃんだけだ。

紆余曲折。ようやく砦に到着である。本来なら物資をギルドに届けて終わりのはずが、なかなか手間取った。

まずはエリーの作ってくれた保管庫に輸送してきた物資を放出した。それを目録と照合していく作業はエリーに任せて、道中の狩りの報告をする。

俺はまったく狩ってないしサティも少な目だったが、シラーちゃんの戦果の確認に少し時間がかかった。シラーちゃんのランクは最低のFで昇格が必要だったこともある。

順当にいけばEだが、Eランクにしては戦果が多いし、ならばDに昇格だという話になったのだが、ウィルは今回EからCランクに上がった。シラーちゃんとしては差はつけられたくないのだろう。実力では勝っているし、道中の戦果もウィルより上だと、Cランクへの昇格を希望した。

ギルドとしても有能な冒険者を常に必要としているし、実力相応のランクを与えて仕事をさせるほうが有益だ。

だが何しろ冒険者ギルドに登録してまだ一週間。活動実績が足りなすぎると、実力を見るための審査を訓練場ですることになった。

「神官さん! 昨日の別嬪さんとボロい鎧のやつは?」

訓練場に行くと、アンがたむろしていた冒険者の一人に声を掛けられた。

「あー、二人は居留地のほうよ」

「今日は来ないんですかね? 相手をしてもらいたかったんですが」

どうやらこいつらは昨日、ウィルたちにボコられた集団のようだ。

「ならばパーティメンバーの私が代わりに相手になろう。私はボロい鎧なんかよりも強いぞ?」

いい鎧のシラーちゃんが言う。強いってもほんのちょっとだけだけどな。

でもシラーちゃんもウィルが無双したのを聞いてやってみたかったのか。まあ審査は腕が見れれば相手は誰でもいいようだし、あっちから希望するなら望むところなんだけど。

「あのボロ鎧より強いってマジかよ……」

「見ろよ、あの鎧。とても強そうだ!」

「団長、団長! よろしくお願いします!」

どうやら助っ人を呼んでいたようだ。団長と呼ばれた男はガタイのいい人間の戦士で装備も上質だ。

「俺はBランクのエゴール・バーニン。昨日はうちの若い衆が世話になったようだな」

俺たちの前に出て、そう名乗りをあげた。Bは大型種の討伐実績も必要なランクだし、かなり強いはず。

世話をしたのはウィルとフランチェスカであるが、パーティメンバーなら多少の責任はあるのだろうか?

「Fランク。シラーだ」

シラーちゃんも名乗りを上げた。シラーちゃんもいい加減俺の苗字を名乗ればいいのにな。

「Fだと?」

「登録したての方で、実力を見るための審査をしに来たんですよ。実力者のエゴールさんなら相手に不足はありません。お願いできますか?」

そうギルド職員がエゴール団長に説明をした。

「なるほど。いいだろう」

「こいつに勝てばCランクにしてもらえるのか?」

「そりゃ勝てれば確実ですが……」

シラーちゃんの問いにギルド職員の人がそう答えた。仲間とはいえ俺たちAランクの保証もある。戦果も短期間ながら十分だ。それでBランクの戦士に勝てればCランクへの昇格は問題ない。

「ランク審査の相手が俺になるとは運が悪かったな。今回は大人しくCランクは諦めるがいい」

審査だと言うのにエゴール団長はやる気満々だ。

ウィルが昨日は何やらかしたのかと思ったら、こいつに勝てば私が相手をしてやろうとか、フランチェスカが思わせぶりなことを言って、ことごとくウィルに倒されたらしい。

まあ普通に考えて剣での相手だろうが、ちょっとは期待しちゃったんだろうな。

「エゴール団長はこの砦の冒険者で一番の実力者だ。勝てる者などそうそう居やしないぜ!」

そうだそうだと声が上がった。

「そうそう居ないって、たまにはいるんだ?」

そう隣のギルド職員の人に聞いてみる。

「この砦では一番強いですよ。でもここは田舎ですからねえ」

いまでこそ人が溢れて活況を呈しているが、ヒラギスが健在だったころは魔境にも接していないただの辺境の国境の砦で、ヒラギスとは友好関係にあったから単なる旅の中継点でしかなく、飛び抜けた実力者がいるような環境ではなかったのだ。

準備が出来て模擬戦が始まった。

エゴール団長はBランクだけあってそこそこ強かった。ベテランになるとやはりガードが硬く、なかなかしぶとくシラーちゃんの攻撃を凌いでいたものの、防戦一方。息切れしたところに一撃を食らって沈んでしまった。

やはり強いといっても一般人ではこの程度。加護もなしで俺を殺しかねないフランチェスカがおかしいんだな。

「だ、団長が負けちまった!?」

「くっ、まさかここまで強いとは……仕方あるまい。この砦ナンバーワンの座はお前の物だ」

「団長!?」

「いいんだ、お前ら。世代交代の時が来た。そういうことなんだろう」

「団長ぉ……」

何やらそういう戦いだったらしい。

「いちば……」

言いかけたサティの口を、今回は無事ふさぐことに成功した。

今日は疲れてるからそういうのはもういいんだよ。このあとも用事がまだまだあるんだ。シラーちゃんのランクアップをしてもらって、商業ギルドに神殿。終わったら獣人の子供たちのことがある。日の高いうちは休む暇もなさそうだ。

「行くぞ、シラー」

「おい、待て! 逃げるのか!?」

「我々は明日ここを発つ。お前らと遊んでいる暇はない」

地元冒険者の言葉にシラーちゃんが立ち止まって答えた。

「ヒラギスに行くんじゃないのか?」

この時期こんなところに来るのはヒラギスに用がある者に限られるのだろう。

「まだ時間があるだろう? 修行をして、もっと強くなってまたここに戻ってくる」

「修行……そうか。もしや剣聖のところへ……?」

「それが叶えばな」

俺とサティ、フランチェスカは予約済みだが、シラーちゃんは未定だ。

「あんたの実力ならきっと剣聖に会えるさ。修行、がんばれよ!」

シラーちゃんは冒険者に手を振ると、先を歩く俺たちに小走りで追いついてきた。

「主殿、今のはその……」

その場のノリで俺たちを差し置いて、主役っぽい思わせぶりな言動をして少々気まずいようだ。剣聖のところへ修行に行くのは俺たちで、シラーちゃんはおまけ。そう自分でも思ったのだろう。

だがシラーちゃんもどこに行っても主役を張れるだけの力はあるし、剣聖の修行を受ける資格も十分にある。

「楽しかった?」

「とても」

そう言ってシラーちゃんは頷いた。なるほどシラーちゃんはこういうのが好きなのか。

「ならそれでいい。シラーもそれだけの強さを身につけたんだ。俺たちに遠慮なんかしないで、もっとやりたいようにやってもいいんだ」

「うん……ありがとう、主殿」

「別に礼を言われるようなことじゃないよ」

だけど、と俺だけに聞こえるような小さな声でシラーちゃんが続けた。

「奴隷に落とされた身の私が砦で一番だと言われ、剣聖のところへ行くと言っても笑われない。すべて主殿のお陰だ」

だがそれこそ礼を言われることではないと俺は思うんだ。