軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

155話 死するエルフと名声と

「それで加護はどうなの? 増えそうなの?」

そうエリーが聞いてきた。

ここは長の小屋の隣に俺が建てた冷凍倉庫の二階。会議をするのにいい場所がなかったので、一階から壁を伸ばす感じで、手早く二階部分を増築した。倉庫はそこそこ床面積が広いから、このままここでの生活拠点にしても良さそうだ。屋根はつけなきゃいけないけど。

ウィルとフランは留守番で、冒険者ギルドの訓練場らしい。ウィルは今日も訓練か。可哀想に。

下では宴会が続いている。子供を除けばほとんど女性ばかりのネコミミたちにちやほやされ、お礼を言われるのはそれなりに楽しかったのだが、やはり知らない人ばかりというのは疲れるし、みんなが到着したところで即座に抜けだした。

「飯を食わせたくらいじゃ無理だろう」

人生を賭けてもいいってくらいじゃないと加護は付かない。現にウィルも命を助けて飯も食わせてお金や家の世話までしてやっても、加護は最近まで付かなかった。

「いけそうなのが居たら遠慮はいらないわよ。がんがん引っ張り込みなさい。せっかくマサルがやる気を出してるんだし、協力は惜しまないわよ」

やる気かあ。すでに面倒くさくなってきているのは言わないほうがいいだろうか。色々経験も積んで耐性がついた気はするが、大勢の相手が苦手なのはそう簡単に治るものでもない。かなり消耗するし、こうやってみんなと一緒にいるとほっとする。

「えらく積極的だな?」

これまで容認はしてもらっていたが、増やせと勧めてくるとは何かあったのか?

「ちょっと状況を甘く見てたかもしれないって話し合ってたのよ」と、アン。

アンが話してくれたところによると、ここはいくつかあるヒラギス民居留地の一つで、その中でももっとも状況が厳しい場所なのだそうだ。

ヒラギス壊滅の初期に魔物の襲撃を受け、着の身着のまま逃げてきた人たち。またはもともと何も持たなかった貧しい人々。そういった人たちがここにまとめて集められた。

資産を持って脱出する余裕があったり、手に職があったり。それか保護者、つまり領主がしっかり民の面倒見れるような人々はどこか他で、もう少しマシな生活を送っているということだ。

すでに戦える者は根こそぎ兵士として連れて行かれ、残ったのは後ろ盾も何もない、何の役にも立たない、いなくなっても替えがきく人々の集まり。最悪切り捨てられるかもしれない。

むろん上層部とてこれだけの人々を切り捨てたいわけじゃないが、先ほど長が話してくれたとおり、食料輸送の遅れと、ヒラギス領からの調達の失敗による状況の悪化に有効な手立てがなく、難民キャンプは他にもあって、ここだけ手厚く保護するわけにもいかないし、することもできない。

「ヒラギスの状況とかもティリカが聞き込んで来たんだけどね」

「これは真偽院からの極秘情報。ここだけの話に」

そうティリカが切り出した。

偵察は半数が消息不明。派遣軍も魔物にやられて撤退。ヒラギス奪還は厳しいかもしれないと、帝国上層部はヒラギスの放棄も視野に入れているという。

「帝国はヒラギス奪還のため、各地から当初の予定以上の軍を集めている。食糧不足はそのせいでもある。だがそれだけの戦力を投入してなお奪還が厳しいなら、国境は封鎖されヒラギスは容赦なく切り捨てられる」

むろん帝国としてもヒラギスは取り戻したいから最善は尽くす。だが全力ではない。他国を助けるのに全軍を動かすにはリスクが高すぎるし、投入する戦力が壊滅する危険も冒せない。

ヒラギス国境を封鎖しておけば、一応は帝国の安泰は確保できる。問題はないと。

「ふうむ。まあ俺たちはやれることをやるしかないな」

クエストには作戦に最後まで参加せよとだけ書いてあって、奪還作戦の成功は条件ではなかった。

俺たちがいくら頑張ったところで、帝国軍が撤退を、作戦の中止を決めればどうしようもない。

「 我ら(エルフ) が全面的に協力する。なんとしてもヒラギスは奪還するぞ」

ここまで静かにしていたリリアが静かにそう言い切った。ひどく真剣な顔つきで、目には涙をためている。なんだ?

「ギルドでヒラギスから逃げてきたって冒険者がリリアに声をかけてきたの」と、アン。

「ヒラギスのエルフは、誰一人としてここにたどり着かなかった。全滅じゃ」

その冒険者はエルフに生き残りが居たのかと思って声をかけてきたのだという。もしくは生き残りを知っているかと。

「彼らは脱出行の途中で峠の砦に立て篭もり、ヒラギスの民が逃げる貴重な時間を稼いだという話じゃ」

得られた情報はエルフの集団が三十三人居たということだけ。その冒険者は逃げる途中でたまたまその話をヒラギス軍の兵士から聞いたにすぎなく、その話をしてくれた兵士も逃げる途中で魔物と戦って亡くなっていた。

「他の居留地に誰か生き残りがいるやもしれぬが……」

ヒラギスを挟んだ向こう側にも難民キャンプはあるらしい。だが話に聞いた脱出ルートからするとそれも望み薄だ。こっちに来てないのなら希望はほとんどない。エルフの集団ともなると目立つから、生き延びていれば誰かが知らないはずがない。

しかし全滅か。全員魔法使いで人間より魔力が豊富といっても、普通の魔法使いの魔力などたかが知れている。そのエルフたちはたまたまヒラギスに住んでいた普通のエルフなのだろう。

魔力がなくなってしまえばエルフは脆いし、敵に飛ぶ魔物がいれば空からの脱出すら容易ではない。リリアのような風の精霊持ちでもなければ全員を運ぶこともできない。

逃げることができなかったのか? あるいはエルフの里での戦いを思い返せば、最後まで踏みとどまって戦うことを選択したというのもあり得る話だ。

「ちょっと足を伸ばして調べに行くか?」

他の居留地がどこにあるかは知らないが、俺たちの移動速度ならすぐだろう。

「それには時間がかかるじゃろうし、本国から人を呼んで調べてもらおうと思っておる。我らの為すべきことは他にある」

エルフ本国は何か把握していて調査の必要も全然ないかもしれないが、そもそもエルフ王も全エルフの支配者というわけでもなくて、国外のエルフに関しては管轄外だ。

同族的連帯や血縁関係などは当然あるだろうし、何かあれば助け合ったりもするが、連絡を取り合っているわけでもないから、何一つ情報が入ってない可能性のほうが高そうだ。

とりあえずはリリアをすぐにエルフの里に送っていくことにした。エリーに任せてもよかったが、ついでにウィルの装備も取って来る必要もあって、久しぶりに俺が行くことにした。

「 半刻(一時間) くらいかな。まあゆっくりしててよ」

村の我が家には転移でいつ戻ってくるかわからないから、転移用の部屋には鐘が置いてあり、からんからんと鳴らすとメイドさんが来るシステムである。

今回は男嫌いのメイド、ルフトナちゃんがひょこっと顔をだした。そして俺を見て、すーっとフェードアウトした。

一応俺が購入した俺の奴隷ってことになってるんだが、いまだにこんな扱いだ。まあ男嫌いと知って選んで買ったんだ。仕方ない。

入れ替わりにリリアお付きの騎士エルフ姉妹の姉、ティトスがやってきた。

「姫様、マサル様。お帰りなさいませ」

「すぐに里に行く。一緒に来い」

「はい、姫様。パトスはどうしますか?」

「移動しながら話す。必要ならあとでティトスから話してやれ。マサル、頼む」

すぐにゲートを発動させてエルフの里へと飛んだ。

「ヒラギスに住むエルフに関して何か聞いておらんか? 妾たちは今日予定通りブルムダール砦に――」

リリアを送り出して、鍛冶屋に向かおうとして、獣人に調達を頼まれた武器のことを思い出した。買い出しには時間もかかるだろうし、先に王都に行くか。

転移ポイントに詰めていたエルフに、リリアが早めに戻った時のために伝言を頼んでから王都へと転移。ここでも俺たち専用に割り当てられた部屋には鐘が設置してあり、エルフがすぐにやってきた。

「ああ、頼みがあるんだけど。剣と槍を買ってきてほしい。安いので数がほしいんだ」

やってきたエルフに詳しい説明と、使える予算を教えておく。お金の手持ちはもうそんなにないから、すまないが立て替えだ。

これで武器は大丈夫。エルフの里に……いやその前に食料も買っていくか? すぐに食べられる食料と、保存できる食料もあったほうがいいな。

「これ、お土産のお酒。みんなで飲んでね」

そういって樽を一つ渡しておく。

「それともう一つ頼みがあるんだけど、小麦とかの保存の利く食料を大量にほしいんだよ」

難民キャンプの惨状を少し説明して支援するつもりだと言う。

他の買い物はどうするか。自分で行きたいが知り合いがいるとヤバい。剣闘士大会に出て結構顔も売れてるし……

すぐに食べられる食料は自分たちで作って保存しておけばいいか。でも果物は頼んでおこう。砦より安いし、種類も豊富だ。

あとは石鹸だな。こっちはエルフの里か。ああ、村にももう一度戻るか。そろそろ最初の作物の収穫が始まってるから、余ってるのを貰うなり買うなりしよう。

一通りお願いして、村に戻ると、ちょうどパトスが転移部屋にいた。

「マサル様! 姫様戻ってきてたんですか!?」

「うん、説明するよ。パトスに頼みもあるし」

詳しい説明をしてパトスに村での食料の調達を頼んでおく。

うちの地下倉庫にも獲物が凍らせてあるし、ドラゴンの残りもある。獲物は必要に応じて持ち出すとして、ドラゴンは売っぱらってお金にしたほうがいいな。あとでみんなと相談しよう。

村の経営は大幅な黒字で順調だし、パーティ用の資金も別に取ってあるから、個人的な貯蓄とか、これまで貯めてきたものは全部使いきってしまっても問題ない。必要ならまた稼げばいいし、エルフという後ろ盾もいる。

いつか領地のお隣の伯爵が言っていたが、いざって時の後ろ盾があるとないとじゃ安心感が大違いだな。

その伯爵にも貸しがあった。それも食料支援で返してもらおうか。

続いてエルフの里に戻って鍛冶屋へと 飛んだ(フライ) 。

「親方いるー?」

勝手知ったる鍛冶工房だ。

「マサル様。注文の品、出来てますよ」

ウィルとシラーちゃんのフルプレートと、それに合わせた盾。

それとサティ用の重量級の大剣も完成していた。

「おお、でかいな」

エルフが二人がかりで運んできたのを受け取る。長さは二メートルくらい。形状は両刃の普通の剣とほぼ同じだが幅と厚みは三倍以上ある。重量で叩き潰すから刃はなく、頑丈さを優先してある。

「注文通り、岩に振り下ろしても負けない強度にしてあります」

重いが両手なら問題なく振れるな。上手くしないと体がかなり振り回されるが、サティなら問題なかろう。

「いつもありがとう。それでもうひとつお願いがあるんだけど」

王都で武器調達は頼んだが、他で武器を任せてこっちに話を通しておかないと、あとで知れたらへそを曲げられるかもしれない。

「初心者用の剣と槍ですか」

「そうなるとエルフ製だと高級すぎるし、数がほしくて」

「そうですな……見習いの作った習作ならどうです?」

親方が倉庫に行って剣と槍を持ってくる。

「売り物になるか微妙なところなんですが、鋳潰すには少々もったいない出来で」

もったいない出来というだけあって、初心者用というにはしっかりとした出来で、中堅どころでも十分実用に使用できそうだが、エルフの販売基準には達してないのだろう。

ちょっと求める物より物が良すぎるが、余ってるというのなら貰っておこう。難民キャンプの獣人にも、この武器にふさわしい腕のいいのが少しは残っているだろう。

「初心者にはもったいないけど、有望そうなのに使わせてみます」

剣と槍の習作品と、刃こぼれやサビで倉庫に転がしてあった武器を箱に詰めてもらい、城に戻る。

それから石鹸だな。消耗品はお城の俺たち専用の宝物庫に補充しておいてくれてるはずだが……あるある。

「なんか品物が増えてないですか?」

そう倉庫の管理をしてくれているらしいエルフに聞いた。屋敷に置くのにほとんど持ち去ったはずだ。

「時々献上品として新しいのが持ち込まれてますので」

特に出来が良い物を持ってきてくれるという。

売ればかなりのお金になるとの考えがよぎったが、さすがにそれは失礼だろう。

だが万一手持ちのお金じゃ足りなくなった時のために、一応持ち帰っておいてリリアに相談しよう。

「どれもこれもいい品ばかりでもったいないです。持ってきてくれた人たちにありがとうと、お伝え下さい」

後ほどリリアに確認したところ、「これらの品々は命を贖った対価じゃろう。別の命を救うために使われるなら文句を言うエルフはおるまいよ」とのことだった。よし、お金が足りなくなったら売ろう。それで贈り主の気分が害されたら俺が頭を下げればいい。

石鹸や工芸品の数々をアイテムボックスに収納して戻ると、ちょうどリリアも用を済ませたところで合流できた。

エルフ王との話の結果、件のエルフのことは里では知られておらず、六人のエルフが調査官として派遣されることとなった。二人ずつの三組で手分けして調査をし、エルフ王の代理人として、王の書状も用意される。

「父上と話しあったのじゃが、エルフはヒラギスには積極的には介入せんことになった」

リリアは戦って死んだエルフを弔うべくヒラギスに乗り込むべしと考えているようだが、王様の立場では、心情はリリアと同じだとしてもそう簡単には決断はできない。いつでもどこでも人はたくさん死んできたし、ヒラギスでのエルフの死も、自国民を犠牲にしてまでヒラギスを救う理由にはならないし、公式な要請もない。

「父上はそう言うが、マサルが要請すれば別じゃ。資金も兵も必要なだけ出すと」

志願を募れば相当数が参戦を希望するだろうし、俺たちと共にいれば安全性が格段に違う。危険ならゲートでの撤退もすぐにできる。神託という大義名分もある。

すべては俺の胸先三寸。ここは慎重に考えないと。

「とりあえず用事も全部済んだし戻ろうか」

俺とリリアだけで決めていい話でもない。

六人の調査官は出立の準備中で後ほどエリーに迎えに来てもらうことにした。待って連れ帰ったとしても、獣人の居留地のど真ん中から、いるはずのなかったエルフが出てくるのはちょっと怪しいだろうし。

砦に転移後、エルフからの援助と、俺のしてきた手配のことをみんなに話した。

「当然ながらエルフは表には出ぬ。支援はすべてマサルからということで良い。実際マサルがおらねば支援の話は持ち上がらんかったじゃろう。むろん我らだけで支援なしでやるという選択肢もある」

「エルフからの支援はおいおい考えるとして、俺からってのはもういいよ。加護の話だけど、対象を獣人に集中したほうがいいと思うんだ。居留地全体に広げるとかえってダメな気がする」

決して面倒だからというわけではない。獣人の相手をするだけで一杯一杯で、これ以上は手には余る。

「それもそうね。どの道付いたとして数人が限界だろうし」と、エリーも同意した。

「とりあえずはエルフは抜きで俺たちでできる支援をやろう。まったくゼロからじゃないし、帝国も神殿も支援は継続してるんだろう? 足りない分くらいなら俺たちだけでもなんとかなる」

エルフに頼るにしてもそれはやれることをやった後だ。それにはみんなも同意して、獣人以外の支援はアンを通して神殿からやってもらうことにした。

「俺の手持ちのお金は全額だすよ。パーティ用の資金だけ残っていれば問題ないし」

「私も残ってる分は全部出すね」と、アン。

アンは稼いだお金の半分は即神殿に上納しているし、孤児院にもお金を出しているが、それ以外はほとんど使ってないのでそこそこ残っている。

エリーはあいも変わらず実家に全額送金だ。

もちろんティリカとサティも全部提供してくれた。サティが絵本や趣味の裁縫に少し使ってるくらいで、ティリカもたまの買い食いくらいでほとんど手付かずで残っている。

「じゃあサティの分を獣人用にして、残りは居留地全体への支援にしようか。獲物は半々のままでいいな」

「マサルが出した分も合わせると、ざっと五五〇万ゴルドくらいになるかしらね?」

二〇〇万が獣人で、三五〇万が残りの居留地か。人数に対して獣人への配分がかなり高いが、加護の分、獣人が手厚くなるのは仕方がない。

「これで稼いだお金はなくなっちゃうけど私たちは体が資本だし、お金なんかなくてもなんとかなるわ」

五五〇万という具体的な数字を聞いて動揺した何人かに向かって、エリーがそう言った。

さすが年中素寒貧なエリーが言うと説得力があるな。

「重要なことはそれで得られる名声よ。今回の件を最後までやり通せば、Sランクへの昇格もあるだろうし、私たちの名声は不朽のものになるでしょう。これにはお金に代えられない価値があるわ!」

これだけの大規模な支援だ。隠し通すことはできないだろうし、ヒラギスでの戦いはきっと派手なことになる。

「ほどほどに頼むよ……」

「もちろん。私は目立つようなことは何もしないわよ?」

してるのは俺だなあ。加護持ちを増やすとか言い出さなきゃよかったかもしれないが、飢えている獣人を見過ごすことはできなかったし、戦力の拡充はいつだって必要だ。ヒラギスの戦いも避けられない。

今まで比較的無名でやってこれたが、これはいつかは通らなきゃならない道なのだろう。

ウィルは今どうしてるかな? 新しい鎧はなかなか格好良かったし、やはりいざという時にはあいつに勇者として立ってもらって……