軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

151話 帝国辺境での戦い その3

「おお、大歓迎じゃの」

フランチェスカとのガチバトルを終え、村に戻ってきた。事態が完全に収拾したと見て、村の外の被害や増強した壁を見にたくさんの村人が出てきているようだ。

村の正門近くに降り立った俺たちに一瞬驚いたようだが、すぐに周りに集まってきて、口々に礼を言い始めた。

なかでも一番人気はフランチェスカである。派手で高価そうな鎧で一番目立つし、間違いなくパーティの指揮官だと思われたのだろうが、まさか今日やったことが、俺に喧嘩を売ったことだけだとは誰も思うまい。

本人も一応いちいち否定はしていたものの、おおむね謙遜だと受け取られたようだ。まあ指揮官なら働いてなくてもおかしくない。

だが喜んでいる村人に水を差すこともないし、大勢の前でこいつは村を救うのに一ミリも貢献してないとフランチェスカに恥をかかせることもない。

「その、すまない……」

村の中に入り、村人たちの輪を抜けたあたりでフランチェスカが謝ってきた。村人の半分くらいはフランチェスカのとこに行ってたものなー。

「別に称賛がほしくて戦ってるわけじゃないし、気にするな」

「でも今日の一番の殊勲はサティね。よくやったわ」と、アン。

「おお、そうだな。サティが鐘の音に気が付かなければスルーしてたもんな。偉いぞ」

サティは俺の側にいて、俺の側には暗黒鎧のシラーちゃんもいるので、あまり声をかけてくるのがいなかった。夜ほど恐ろしげではないが、昼間明るい中で見ても何人か殺していそうな風情があり、なかなか近寄りがたいようだ。

俺は村人の相手をしなくてよくて楽だったのだが、サティはしっかりと評価してやるべきだろう。

「少しでも役に立ててよかったです」

「オークキングも倒したし、大活躍だったじゃないか」

フランチェスカもフォローに回った。

「今日はみなさんが本気をだせなかっただけなので、わたしの働きなんてぜんぜん大したことないです」

見ろ。これが本物の謙遜だ。まあちょっと謙遜が過ぎるが、サティは俺よりも自分の力は加護のお陰って気持ちが強いからな。

「本気って本当にそんなにすごいのか?」

「サティは大したもんだし、いつでもすごく役に立ってるよ。でも本気をだしたらみんなサティと遜色ないくらいの戦闘力はあるな」

「そんなことないです! わたしなんてこのパーティじゃ弱いほうです」

サティに誰が勝てるんだろうかという気はするが、火力で比較するなら確かにサティはかなり劣っているほうだ。

「待て待て。サティで弱いなら私は……?」

「剣士と魔法使いで優劣をつけるのは難しいが、魔物相手ということならウィルとシラーの次だろうな。うちのパーティで下から三番目だ」

それすら好意的に考えてという話になる。何回か戦って戦果を比べれば、フランチェスカが最下位になるんじゃないだろうか。うちみたいな遠距離攻撃主体のパーティと相性が悪いのもあるが、魔物に切り込んでいいってことにしても、順位は下から三番目で精一杯だな。

「冗談だろう」

こいつは魔法使いを舐めすぎじゃないか? 大規模破壊魔法を見たことがないんだろうか?

それともうちの魔法使いが常識外れに強すぎるのか? これが一番ありそうだ。加護を得る前のエリーくらいの実力のメイジなら、簡単に制圧する自信はあるのだろう。俺だって魔法なしでもそれくらいはできる。高速詠唱がないメイジの詠唱はものすごく遅い。

「一対一で戦えばフランはそりゃ強いよ。サティもだ。だけど魔物相手だと、いかに効率よく倒すかって話になるしな」

小集団ならともかく今日くらいの規模だと、仮にそれぞれが一人で戦ったとして、俺たちなら殲滅できる。ウィルとシラーちゃんは怪しいな。フランチェスカも恐らく大丈夫だろうが時間はかかるだろうし、200体も倒して剣が耐えられないかもしれない。

「一対一でも妾は負けんぞ」

「そうだな。リリアなら勝てるだろうな」

精霊の防御と攻撃魔法のコンボは凶悪だ。レベルを上げる前でもサティの攻撃を止めたくらいで、今はもちろん更に強力になっている。

「私だと五分五分くらいかしらね」

エリーだとどっちが先手を取れるかの戦いになるかね。でも転移もあるから距離があればフランチェスカに勝ち目はないな。

「勝てる」

ティリカは召喚を使えれば勝率は高いだろうし、断言するからには何か勝つ手立てでもあるんだろう。

「私はちょっと自信ないな」

アンは近接スキルもあるし、防御力もあるからそこそこ勝てそうな気がする。

「やったらきっと全敗しますよ」

信じられないという表情をしているフランチェスカに対して、最後にサティがそう言った。サティが言うと説得力があるな。

みんなは散々フランチェスカの戦いぶりを見てきた。もし本当にやるとしたら、初見で戦うフランチェスカにとって極めて不利な戦いになるだろう。

「やるなよ? お前らは対人戦は慣れてないから加減がわからないだろ?」

今日はフランチェスカを怪我させないか、かなりヒヤヒヤした。もろにダメージがあったのはエアハンマーくらいで済んだが、何度もやってればそのうち大怪我しそうだ。

「そうじゃな。それに味方同士で勝った負けたと言ってみても意味はないしの」

「そうそう。大事なのはこうやって無辜の民を救うことだよ。今日はみんな実にいい仕事をしたな」

話しながらも時々村人たちが声をかけてきたり、家の中から子供が手を振ってきたりしている。

「ほら、今日の泊まりはあそこ。この村に一軒だけある宿屋を貸し切りにしてくれたから、思う存分ゆっくりできるわよ」

話しながら歩いてるうちに今日の宿が見えてきたようだ。先頭を歩いていたアンがそう教えてくれた。

「ほほう。貸し切りとは素敵だな」

「あと歓迎の宴会を……」

「そっちはいらない」

「そう? じゃあ断っとくね」

「別にみんなで行ってきてもいいんだぞ」

俺は誰か一人付きあわせて部屋で弁当でもいいな。

「マサルのほうがいつ終わるかわからなかったから、宿の手配だけしてあったのよ」

「ふむ。なら食事は俺らだけでゆっくり取ろう」

今日は本当に疲れた。朝の村の建設作業に道中の警戒。この村での壁の強化に、極めつけはフランチェスカとのガチ連戦。おまけにエリーにエアハンマーも食らった。そろそろ限界だ。

「食事の準備を頼んでくるから先にお風呂に入ってきたら?」

お風呂か。お風呂はいいな。

「じゃあゆっくり使わせてもらおうかな。サティ」

「はい、マサル様」

お風呂はすべてを癒やしてくれる、この世の天国だと思う。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

「マサル、この村はお酒が特産品なんですって!」

ゆっくりとお風呂を堪能してるうちに、みんなは宿の食堂ですでに食べ始めていた。

エリーに渡された陶器の杯に満たされたお酒は、こちらの世界でよく見るウィスキーかその亜種だろうか?

「なかなか美味いな」

少々アルコール度数がきついが、まろやかで飲みやすい。疲れた体に染み渡る。

「でしょう。持っていけるだけ持って行ってもいいって言われたし、根こそぎもらっていきましょうよ!」

「全部持って行っちゃ可哀想だろう……」

「えー? それだけの仕事をしたんだし、貰えるものは貰っておきましょうよー」

「はっはっは。気に入りましたか? この村には昔から良い湧き水がありましてね。酒造りが盛んなんですよ」

給仕をしてくれている村の人は冗談だと思ってるようだが、止めないとほんとうに根こそぎ持っていかれるぞ?

しかし水か。うちにも精霊が出す綺麗な水がある。お酒くらい作れるんじゃないだろうか?

「リリア、エルフはお酒は作ってないのか?」

「森で取れる果物からリキュールを作るくらいじゃの。あまり量が取れんから、お酒は主に輸入じゃな。そもそも余剰の作物がない」

エルフは農地も壁の中に作っていてあまり広くなく、普通に食べるだけでカツカツなのに、お酒にまで回せない。

「じゃあうちでお酒作れないかな?」

入植希望者は増えているし、農地はまだいくらでも広げる余裕がある。

「あらいいわね。オーランド! ちょっとこっちに」

エリーがさっきから給仕をしてくれている男性を呼びつけた。よく見れば俺が外で壁を作るのに相談した時もいた人だな。

「オーランドはこの村の領主の息子なのよ」

そうエリーが教えてくれた。周りの村人に指示とかしてたから自警団の隊長か何かだと思ってた。

「領主ってことは貴族じゃないのか? そんなに気軽に呼びつけていいのか?」

「小さな村の領主なんて、そこらの村の村長と変わらないわよ」

そういうものなのか。この世界の身分制度はいまいち把握しきれないな。

ちなみに領主へのご挨拶という面倒なイベントは、俺がお風呂で遊んでいる間に終わらせてくれたようだ。

「なんでしょう、エリザベスさん」

「うちの村にこのお酒を作れる人間を指導に寄越しなさいな」

「それくらいはやらせてもらいますが、あなた方の村というのは……」

「王国のエルフの里のあるあたりよ」

「ええっ? そりゃ遠すぎじゃないですか」

「ちゃんとお給料は払うわよ。これくらいでどうかしら?」

「こんなに!?」

「その代わり腕の良いのを寄越しなさいよ?」

「ええ、希望者を募りましょう。あとは設備が必要ですね。運べればいいのですが、かなりの大きさがあるし、作れる鍛冶職人もとなると……」

「古いのか余ってるのがあるなら言い値で買い取るわ。輸送はこちらでするわよ」

「それなら手配しましょう」

瞬く間に話がまとまった。

「うちの村にもいい特産品ができるわね」

エリーは自分で飲む分を確保したいだけだろう。

「そうじゃな。うちの者にも学ばせよう。エルフが精霊の水から作る酒じゃ。きっと評判になるぞ」

エルフブランドってだけで売れそうだ。

「タダ働きかと思ったら、案外いい買い物になったわね」

「人助けは無駄にならないな」

「ええ。このお酒、三〇年モノですって。うちでもこんなのが作れるといいわね」

三〇年か。それって俺がどうにかしなきゃなんないのかな?

もし俺がどうにかできなかったら、今日助けたこの村も、冬の間がんばって作った俺の領地も、すべてが泡と消えるのか?

この村を救ったことで何か変化があるのだろうか? それともヒラギス一国を救えば?

しかしまだこちらに来て一年目の出来事だ。先は長い。

とりあえず今は神託に従って行動するしかない。あまり思いつめると酒がまずくなるし、胃も痛くなる。

「そうだな。いつでもこんなお酒が飲めるようになればいいな」

できれば二〇年後も三〇年後も。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

旅の間、もっと魔物狩りに注力すべきじゃないかとも考えたが、帝国はとても広い。俺たちが頑張れば魔物は確実に減らせるだろうが、半日移動して魔物との遭遇がたった一回。

俺の村の周辺だけですら魔物を駆逐するのに冬の間かけ、それでも排除しきれなかったし、どこからか侵入してくるのは防げなかった。帝国辺境の魔物を俺たちだけでどうにかしようとするのは現実的ではないだろう。

結局これまで通り出会ったら倒すだけにして、砦へとまっすぐに向かった。

道中、森で出会った冒険者に詳しい話を聞けた。

やはりギルドは対策として多くの冒険者をこの地方に派遣しており、なかなかの戦果をあげているという。

なにせ一国が滅んだ余波が、たった二つの村が魔物に滅ぼされただけで済んだのだ。被害は軽微と言えるだろう。

フランチェスカにはちょくちょく練習に付き合わされたが、真剣勝負じゃなければさほど嫌がる理由もない。

ウィルとシラーちゃんの修行も順調に進み、魔物も何度か狩れて経験値もそこそこ手に入った。

フランチェスカは約束通りウィルの修行をみっちりしてくれたのだが、ウィルとシラーちゃんの連日の勝負は、徐々にシラーちゃんに軍配が上がるようになってきた。

そのせいでフランチェスカはウィルの修行に入れ込んでいる。出発当初はウィルのほうが優勢だったのに、サティが修行を見ているシラーちゃんに負けるようになって気に入らないのだ。

まるで私の指導が悪いみたいじゃないか! ととてもご立腹である。

シラーちゃんに盾を構えてどっしりと戦うスタイルが合っていたようだが、それ以上に道中稼いだ経験値でのスキル取得で、ウィルが取った魔法スキルの分、前衛スキルに差がついたのが主な理由だろう。

だがそんなことはフランチェスカに知る由もない。

「……修行をもっと増やすか」

「ええっ!?」

「良かったな、ウィル。ああ、俺のほうの修行もあるからほどほどにな」

毎日の移動はだいたい午前中で終わるから、修行の時間はたっぷりある。

そして王国を出発して一週間目。俺たちは最初の目的地であるブルムダール砦に到着した。