軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

129話 剣闘士大会予選二日目、謁見

「昨夜、サティが回復魔法を習得いたしました」

朝食の席でみんなに報告をする。自宅食堂で、今いるのは家族だけである。

「おねーちゃんすごい」

「でもまだ小ヒールだけですし」

「それでも前衛が治癒魔法を使えるっていうのはとても大きいアドバンテージよ。最低限のヒールでも折れた骨を繋いだり、出血を止めたりくらいはできるしね」

「練習始めてまだ四日目だよね。マサルと一緒なら習得加速の加護でも付くのかな?」

「加護は知らんけど、俺の手をナイフでこう」

「「「ああ」」」

説明しようとして、手をナイフで切る仕草をした時点でハモられた。

それはともかく今は目の前の剣闘士大会である。

予選二日目は八人でのミニトーナメントで、三戦勝ち抜いて本戦出場となる。

サティなら大丈夫だとは思うが、相手は予選を通過した猛者ぞろい。そして昨日と違い、ここからは一度の負けも許されない。

今日もサティと共に組み合わせを見に闘技場外の掲示板を見に来た。

サティは第三組。人数調整のため、七人の組もあるようだが、サティの組はフルの八人。

オッズは8倍。一敗したのが響いたのと、1.5倍のやつがいた。こいつが予選通過確実だと見られてるようだ。他の選手も軒並みオッズが大きい。

776番も探してみた。同会場の通過者は別々に振り分けられるので同じ組になることはなく、第一組にいた。名前はアーマンド。オッズは4.2倍。三勝で抜けた割りにはパッとしない。理由はすぐにわかった。同じ組に1.1倍がいる。名前はフランチェスカ・ストリンガー。フルネームを名乗ってるってことは貴族だろうか。

「フランチェスカ様ですか? 昨年の優勝者ですよ」

エルフの隊長さんが詳しかった。毎年予選からチェックしているそうである。

フランチェスカ・ストリンガー。近衛騎士団所属。公爵令嬢。王位継承権こそないが現国王の姪に当たる。昨年、弱冠十五歳で大会優勝。幼い頃から剣の才を示し、天禀、剣聖を継ぐ者などの二つ名を持つ。

「今年も優勝候補でしょうね。サティ様の最大の障害になると思います。予選なら1.1倍でも手堅い賭けですがそれじゃ面白くないですし、私は買いませんけど」

「そういう人って予選免除じゃなかったの?」

Aランクだったり、実績があったりすると予選は免除で本戦からになるはずだ。

「それもそうですね?」

サティの受付のついでに聞いてみてすぐに判明した。ギリギリになって申し込んだので、初日はさすがに免除されたが今日の予選からの参加になってしまったようだ。同じ組になったやつは不運なことだ。

「まあまずは予選だ」

「そうですね。サティ様が8倍とは美味しすぎますよ!」

隊長さん、今年はサティに全張りするそうだ。俺もそうしよう。

サティを送り出してエルフさんに案内されたのは最前列のえらく良さ気な席だった。ゆったりしたボックススペースに上等な椅子や机も備えつけてある。

「我らは大会に協力しておりますので、良い席が貰えるのです」

雨が降れば水精霊で雨雲をどかす。たまに出場する弓使いの時は風精霊で会場を囲んで矢を通さない。普通のメイジには真似の出来ない芸当だ。

この席の真上には貴賓席もあり、何かあれば護衛に早変わりもする。エルフさんは王国政府にずいぶんと信頼されているようだ。

「私は先々代の王の頃より、この王都で勤めてまして、現王陛下にも幼い頃よりずいぶんと可愛がってもらってるんですよ」

先々代って……毎度のことながら、エルフの年齢が読めない。でも若そうに見えても隊長格なら一〇〇歳以下ってことはないんだろうな。

「アルブレヒト王なら妾も知っておる。里に来たのは二〇年くらい前じゃったか?」

「はい、リリア様。そのくらいになりますね」

ティトスが答える。

王子時代に物見遊山の旅がてら、エルフの里にも一ヶ月ほど滞在したらしい。このエルフの隊長さんはその時も護衛として付き従って、王様とはずいぶんと親交が深いようだ。

「あらいいじゃない。王都にいる間にご挨拶しましょうよ」

エリーがとんでもないことを言い出した。

「やめとこうぜ……」

挨拶したところで何かメリットがあるわけでもなく、面倒なだけだろう。

「ふむ。マサルがそう言うなら。もともと妾としても会うつもりはなかったしの」

「貴族位を貰うなら、どうせそのうち会わなきゃならないわよ?」

「それが今である必要は断じてないな」

貴族になるのも確定事項でもないし。

「しかしマサル様。フランチェスカ様が出られるなら、王も観戦にお見えになると思いますよ?」

隊長さんがそう言う。その場合の席はここの真上である。

王様は末の妹とその娘で姪のフランチェスカ様を大層可愛がっていて、試合は必ず見に来るという話だ。

「それならばさすがに挨拶せぬわけにもいかんじゃろうな」

王宮を訪ねるとかならともかく、この距離で挨拶もしないとなると、かなり失礼だろうな……

あー、なんかお腹が痛くなってきた。

「ああ、王がお見えのようです。今日はずいぶんと早いですね」

上のほうががやがやしてると思ったら、王様御一行が到着したようだ。貴賓席からひょいっと騎士らしき人がこちらへと顔を覗かせ、手を振る。隊長さんが手を振り返す。顔見知りか。

早い理由はすぐに判明した。件のフランチェスカ様。第一組の初戦、一番最初の試合らしい。

「お腹が痛い。トイレに……」

「逃さないわよ」

エリーに捕まった。

「【ヒール】。これでしばらく大丈夫でしょ」

アンの魔法で胃の痛みがすーっと消える。

「パウラ、先触れを」

「はい、リリア様」

隊長(パウラ) さんの指示で、エルフの一人が王のいる貴賓席へと知らせに向かう。

「では参ろうかの。なに、軽く挨拶をするだけじゃ」

「王は温厚な方です。心配するようなことはありませんよ」

「いつもどおり、マサルは頷くくらいでいいから。あと頭はちゃんと下げるのよ?」

「どうしても嫌じゃと言うなら待っておっても構わんが」

どうしても……どうしてもというほどでは確かにない。挨拶だけというなら何が何でも嫌だと言うのも我が儘すぎる。

覚悟を決めよう。

「わかった」

たぶんすぐに済むだろう。

ふと暢気にこちらを見てるウィルが目に入った。

「ウィル、お前も来るか? 一緒に紹介してやろう」

「俺は平凡な冒険者で王様にお目通りをする理由もないっすから、兄貴たちだけでどうぞ」

ちょっと考えたが王子なのをバラしでもしない限り、こいつを連れて行く理由は思い浮かばない。道連れというわけにもいかないようだ。

階段をほんの少し登るともうそこは王の御座所である。絶対王政の最高権力者。気に入らぬ。こやつの首を刎ねろと命令すれば、たぶん通ってしまう地位の持ち主。

実際のところはそんな無法はそうそうないようだし、温厚な人物ということだからさほど心配もないようだが、怒らせないようにしたほうがいいのは確実だ。

さすがに王専用の貴賓席。エルフに用意されたボックスの五倍ほどのスペースがあり、結構な数の人が集っている。

「おお、パウラ! ここ数日は姿を見せなんだな?」

「はい。里より客人が来ておりまして。ご紹介致します」

まずは旧知の仲のリリアーネ様からご挨拶である。

「これは……リリアーネ王女か?」

「久しいの、アルブレヒト王子」

「その呼び名懐かしい。そう、二〇年ぶりか? リリアーネ殿は変わらぬな」

二〇年前ならリリアは一〇歳くらいだろうか。その頃からあんまり成長してないのか。

「そなたは老けたのう」

リリアの失礼な言葉に笑った王は40くらいだろうか。見た目は普通の中年のおじさんである。服装も品は良いが特にきらびやかということもなく、そこらで歩いてても見分けがつかないくらいだ。

「これでも人間としては歳相応だぞ。それで後ろの方々はどなたかな?」

「我が夫と家族じゃ」

つつかれたので仕方なく前に出て跪き、頭を下げる。みんなも俺に続いて跪いた。リリアは立ったままである。

「マサル・ヤマノス。冒険者をしております」

エルフに関しては臣下ではないので頭を下げるのは当然として、膝までつくかは場合によりけりなようだが、俺たちはこの国で暮らしている臣民である。礼はきちんとしないとまずい。

「人間、それも冒険者とな。ヤマノス……聞かぬ家名だ」

「恐れながら私はただの平民です、王よ」

「平民の冒険者でありながら、エルフの姫を娶るか。これはロマンスの香りがするな」

「うむ。妾が乞うて嫁にしてもらったのじゃ」

「それは是非とも詳しく聞かせてもらわねばな!」

下に戻ることも許されず、王の隣に席が用意されて座らされた。俺とリリア以外は別テーブルである。

軽く挨拶するだけって言ったじゃないですか!

頷いてればいいって言ったじゃないですか!

だが心の中で文句を言ってもどうしようもない。試合が始まるまで、話す時間はたっぷりあるようだ。

というか、今日一日ここにいろってことなんですかね……?

王の周辺の偉いさん方と、俺の家族が紹介しあう。

王の側は、王の末の王子様に、例のフランチェスカ様の両親の公爵夫妻にお子様方。あとは大臣のような偉い人が何人か。周囲には護衛の騎士がたくさん配備もされている。

次にリリアの近況報告。王はエルフの里の戦いの被害はかなり正確に把握しているようだったが、実際のところどれほど際どい戦いだったかを知って驚いていた。

そしてリリアが俺との馴れ初めを話そうとしたところで、闘技場で歓声が上がった。どうやら試合が始まるみたいだ。

「予選第一組、第一試合!」

試合会場は貴賓席の真ん前。本日は四つの試合会場が闘技場にきちんと作られている。土のグラウンドに新たに作られた高さ20センチほどの石舞台。広さは昨日のリングの一〇倍以上はあるだろうか。無拍子打ちを避けるには十分な広さだ。

また歓声があがる。二人の剣士が試合場へと上がった。

小さい少女がフランチェスカ様だろう。もう一人はごつい野郎だ。

標準サイズのソードとバックラーを持ち、革鎧もごく普通のもので、兜は脇に持っている。細い手足。身長もサティより少し高いくらいで普通の女の子並。艶やかな長い黒髪。意志の強そうな緑の瞳の美少女。

雰囲気はある。しかしさほど強そうにも見えない。ゴリラのような体躯でかなり大きめの両手剣を持つ、対戦相手のほうが強そうだ。あんなので殴られたら刃引きとか関係ないな。一発で骨がばっきばきになって死にそうだ。

フランチェスカが兜を身につける。兜の装着具合を確認し、剣を軽く一振り二振りして審判に頷くと、始め!と開始の合図がかかった。

会場が静まり返る。一歩、二歩。フランチェスカが間を詰めた。対戦相手が一歩下がる。

なんだ、気圧されてるのか? こんな半分の体重もないような少女相手に。

不意にフランチェスカが腰を落とし、相手に向かって飛んだ。早い。

だが距離は十分にある。対戦相手は余裕を持ってその大剣を振り回し、フランチェスカの軌跡に合わせ剣を繰り出した。

当たる。そう思った瞬間、ふわりと大剣を避け、舞うような動きで相手の懐に飛び込む。

二人が交錯し――フランチェスカがくるりと半回転すると、対戦相手は膝を折り地面に倒れこんだ。

勝負は一瞬だったが、でかいほうもそう弱くはなかったな。大剣の剣速もなかなかのものだったし、飛び込まれて剣が間に合わないと判断して、至近距離から鋭いローキックを出していた。しかしそれも躱されて、首筋に一撃食らって終わり。

ローキックの回避と致命傷となる剣戟を一連の、優雅にさえ感じる動きでやってみせた。確かに弱冠16歳でこれほどとは天賦の才能を感じさせる、天禀と呼ぶに相応しい剣士だ。

果たしてサティとどっちが強いだろうか。

早さが互角でも、パワーとスタミナはサティだろう。あの体格ではさほど力はあるまい。サティも小柄だがステータスとスキルブーストで半端ない力を持っている。

「サティとどちらが強いじゃろうな」

「やってみないとわからんな」

「それほど強いのかね?」

やべ。王様いるの忘れてナチュラルにリリアに返事してたわ。

「ええ。サティはそりゃあもう強いですよ」

「ほう。出番はいつだ?」

「三組の第二試合です。間もなく始まると思います」

王様が後ろに控えている従者の人に聞くと、即座に返事が帰ってきた。フランチェスカ様の試合が終わった後は、他の会場でも試合が始まっている。サティがいるのは第三試合会場のはず。ここからだとちょうど闘技場の反対側だ。少し遠くて見づらいな。俺は鷹の目があるから関係ないけど。

サティは……いた。

「あそこの小さい、ええそうです。あの獣人です」

王様にも指を差して教える。

「本当に小さいな」

それで強いのかと言いたげだ。まあサティの強さは見ないとわからんだろう。ほぼ100%、侮られる。

前の試合はすぐに終わり、サティの順番が回ってきた。相手は槍使い。

そういえば槍相手の練習なんてやってたっけ? ちょっとまずくないか……?

サティが石舞台に上る前にこちらを見た。目があったのでなんとなく頷いてやる。サティは前を向き、試合場に上がった。

開始の合図。槍持ちは威嚇するように槍を正面に長く突き出して小刻みに動かしている。槍は長さは3mほどだろうか。木の柄に鉄の穂先が付いている。丸めてあるようだがまともに突かれれば腹に穴くらいは空けられそうだ。ぶっちゃけ剣にしろ槍にしろ、刃がないというだけで危険度が全然減ってない気がする。昨日も重傷者かなり出てたし。

サティが動いた。スッと槍の間合いに入り、動きに反応した槍使いの突きを軽く払ってすぐに下がる。しかしそれを追って槍使いが前に出た。連続で突きを放つ。サティは後退しつつうまく躱しさばいているが、槍の間合いと小刻みな突きで防戦一方になっている。

でもまだ本気の動きじゃないな。相手に合わせているような……

サティが動いた。突きを躱し一気に前に踏み出す。槍使いは槍を横薙ぎに払うが、間合いを詰めたサティの盾に止められ――槍使いは動きを止めると膝をついた。肩を抑えている。

「何がどうなった?」

「最後、肩に一撃入ってますね」

王には見えなかったようだ。俺は鷹の目で詳細も見えるけど、ここからだとちょっと遠いしな。

革防具の上からだが、あのスピードで食らえば完全に骨は砕けて戦闘はもう無理そうだ。

すぐに勝者が告げられ、神官の治療が行われた。

「なかなかに強いな。これで賭け率8倍か」

あ。賭けるの忘れてた……