軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

102話 臆病者の勇者

少し買い物してから帰宅。もうすっかりここが自宅って感じだな。シオリイの町の家も愛着があるけど、あっちは借家だし。

「マルティンはもうあれで大丈夫なのかな?」

居間に落ち着いてそうティリカに聞いてみる。約束させたし、ティリカが嘘をついてないと確認したとはいえ心配だ。あいつが一言漏らせばここまでなんとか情報を守ってきたのが全て終わるのだ。

「真偽官は誓ったことは絶対に破らない」

「誓わなかったら?」

「……なるべく破らない」

案外適当な部分があるんだな。

ティリカによると公式的な場所や立場では真偽官は絶対に嘘をついたりはしないことになっているし信用しても大丈夫だが、プライベートまでとなると完璧に守っているというわけでもないし、守れるものでもないそうだ。そこまで完璧さを求めることはほとんどの人間にとっては過大すぎる要求だ。

「土下座の一件が上にバレたらマルティンは破滅。言えるわけがない」

「嘘とか真偽院でバレるんじゃないの?」

「バレないと思う。もしどこかから情報が漏れても証言を断固拒否すればいい。プライベートな場だったし、当事者が認めない以上、あれは単に床に座っていただけ」

「なるほど。俺もそんな感じにすればよかったのか」

「そう」

黙っていてくれる保証があるなら、ある程度話しちゃっても大丈夫と思っていたが、いっそ全面拒否するのもアリなんだな。まあ真偽官以外じゃ、そもそもこんな心配いらないんだけど。

「それよりも! やっと勇者の自覚がでてきたのね。いいことだわ」

俺とティリカの話が終わったと見てエリーがまたぞろ勇者の話を持ち出してきた。どうしても勇者に未練があるようだ。

「勇者とかやらないし。だいたい魔王もいないのに勇者だけ居ても仕方ないだろう?」

「それはそうだけど。魔王が出たとか神託はないの?」

「ないね。少なくとも俺は聞いてないよ」

そのあたりのことは伊藤神の担当だろう。勇者が必要なら伊藤神が用意するなり、俺にそういうクエストでも発行すればいいのだ。受けるかどうかは別として。

それをしないってことは現状で十分だと伊藤神が判断しているのだろうと考えるしかない。

「私はマサルがまだ言ってないことがあるって話が気になるなー」

アンが遠慮がちに聞いてくる。無理矢理に聞こうってことでもない感じだが……マルティンめ、余計なことを!

「あー、うんそうだね。これはサティにしか言ってないんだけど、神様との契約で二〇年後に故郷に帰してくれる約束だったんだ」

こっちの話なら大丈夫だろう。これでごまかしておこう。

「マサルの故郷って日本って国だっけ? ちょっと遠いみたいだけど、それまでに転移を覚えればいいじゃない」

エリーがあっさりとした口調でそんなことを言う。いまだに異世界というのをちょっと遠い異国くらいに考えているようだ。

だが自力での帰還は今まで考えたことがなかったが……異世界と日本と、転移でいけるんだろうか。可能性はあるな。

まあもっとも転移の仕様じゃ一度戻って座標を取得しないといけないから無理だろうし、一時帰国ができればいいなとは確かに思うが、もはやどうしても帰りたいということもない。

それに気軽に往復されても神様も困るだろうな。文化や技術交流をしたければもっと大々的に召喚というか、俺みたいに雇って連れてくればいいんだし。

「結婚する前の話だよ。今はもう、みんなを置いて故郷に帰るなんてあり得ないし。な、サティ」

「はい、マサル様」

「当たり前よ。勝手に帰ったりしたら捕まえに行って絶対に連れ戻すわよ!」

エリーなら本当にやりそうだ。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

後日、マルティンが謝罪に来た。マルティンもあの状況ですぐに逃げちゃったので、後で色々と心配になっていたようだ。

先日の行き違いについて改めて謝罪があり、今後も良いお付き合いをと友好的に話し合う。向こうも無用なトラブルを抱えたくないのは一緒のようだ。

一通りの話が済んだ後、マルティンが勇者の話を持ち出してきた。ただし、昔の物語の勇者の話だ。

「その様子じゃティリカは知らなかったのか。物語にはない、本当の勇者の話」

「知らない」

「よくそれでマサルさんについて行こうって思ったね。まあいい。僕が知ってることを話そう」

勇者は剣の腕がよくて魔法も使え当代最強の強さを誇っていた。だがとんだ臆病者だったという。

命を惜しむ、戦いから逃げようとする。実際逃げ出したって逸話もある。神託で選ばれた勇者だったけど、決して自ら望んだものじゃなかったようだ。

お話ではもちろんそんなことは全く書いてない。イケメンで勇敢。命をかけて戦った。でも勇者を知ってる人が物語をみたらあまりの美化に笑っただろうね。

我らがご先祖様の真偽官、もちろん血なんか繋がってないけど――ご先祖様は魔法の腕もよくて、初期のパーティメンバーでしばらくは勇者と共に戦っていた。

ある時、魔王を倒しに魔境へ行くという話になった。

ご先祖様は残って戦うことを選んだ。魔物の攻勢で状況はよろしくなかったこともあるし、臆病者の勇者に愛想をつかしたというのもあるようだ。

勇者が魔境へと旅立つ。当時の最高の戦力が抜けて、悪かった戦況が更に悪化していく。残ったご先祖様の名誉のために言っておくと、ご先祖様はとても勇敢に戦ったそうだよ。

魔王軍は圧倒的だったそうだ。だからこそ乾坤一擲の策として直接魔王を倒しに行くことにしたんだろうね。

そしていよいよ魔物の軍勢が帝都ファリアスに迫ろうとした時、突如魔物の進軍が止まる。魔境へと引いていく魔物たち。

そこへひょっこりと勇者とその仲間たちが魔王討伐成功の報告とともに戻ってきた。沸き立つ人族連合軍。そのあたりからはお話と一緒だね。お姫様と結婚して領地をもらって平和な余生を過ごした。

勇者を信じきれなかったこと、魔王討伐に同行しなかったことを死ぬまで後悔していたご先祖様は、後進の真偽官たちに、新たなる勇者を見つけたら何があろうと支援するようにと伝えたんだよ。

「臆病者だったからこそ、魔境の奥深くへと分け入り、ついには魔王を倒した勇者が本当にすごいと思ったものさ。だからね、勇者たることを全く望んでいないマサルさんが、本当に勇者かもしれないと少し思ったんだ」

まだ言うか、こいつは。

「最後に一つだけ聞きたいんだけど、魔王は本当に生まれてないのか?」

「少なくとも俺は聞いてないよ」

「そうか……でも勇者じゃないとしても、最大限の協力は約束させて欲しい。僕はあまり戦いには向かないからそっち方面は勘弁だけどね」

勇者のことをもっと詳しく知りたければ師匠に聞くか、真偽院本部の資料を当たるといい。最後にそう言ってマルティンは去っていった。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

午後からは休んでもよかったんだが、ここのところの戦闘やら病気やらのせいで、家作りが全然進んでない。内装もまだ不完全だし、玄関すら設置してないし、なにより防御力が足りていない。

我が家は頑丈な石造りでそれなりの防御力はあるが、これだけで安心できるものでもない。強固な、強固な要塞が必要だ。

エルフの里が最終的に守り切れたのも、あの巨大な城壁があったればこそ。

家造りとあって一家総出での作業だ。だが家造りといっても農地作りとやることは同じく、まずは森を切り開かねばならない。

我が家の建っている、小高い丘の周囲の木をがしがし切り倒していく。丘を囲うように城壁を築く計画だ。

俺は普通に斧で切っていく。武器にもなるかなりゴツイ斧で、肉体強化と剣術レベル5の効果で一振りか二振りで木は倒れていく。

アンも肉体強化を取ったし、ここ数日やっている作業なので問題なくこなしていく。

ティリカはさすがに体力がなくてガテン系の作業は無理なのだが、たいがを出して、大木は無理だが一抱えくらいまでの木ならその前足でばきばきとへし折っていく。

まあこの辺りは村人もこないし、誰か来れば俺かサティが気がつくので召喚も大丈夫だろう。

エリーは伐採ついでに空間魔法の練習中だ。発動に少々時間はかかっているが、どんなにでかい木でも一撃で切断している。実戦で使えれば便利そうだが、射程と発動時間に問題があって、エアカッターのほうが射程も長いし詠唱も短いしで使い勝手が悪いらしい。

ただ発動しさえすれば恐らくはなんでも切断する強力な魔法ではある。

そしてサティだ。本気を出していいと言ったら、かなりな速度で森を走りながら、そのままスピードを落とさずにスパスパと手に持った剣で木を切り倒していく。サティの進路に沿って木がざざざざっと折り重なって倒れていき、もうもうと雪が舞い上がる。まるで巨大な何かが森の中を突進して木をなぎ倒しているかのような光景だ。

一人で俺たち四人以上の作業量を軽々こなしている。もうこれサティ一人でいいんじゃないかなあ。

って思ってたらサティが一周して戻ってきた。

サティが俺の前に到達したのに遅れて、木がドミノのようにバキバキとこちらまで倒れてくる、ちょっと不思議な感じのする光景を手を休めて眺める。

サティは汗をかき、かなり息を切らせていた。俺が本気でやれって言ったからかなり気合をいれてやっていたようだ。

「すごいぞ、サティ」

「おねーちゃんすごい」

「えへへへ」

普段は目立たないようにと、なるべく本気を出さないようにって注意しておいて本当によかったわ。

「まだ大丈夫か? ならもう一周だ!」

「はい、マサル様!」

サティの邪魔にならないように、俺たちは別の場所でやったほうがよさそうだ。

「みんなはこの辺りを広場にしてもらえるか? 俺は切った木を回収してくる」

回収は俺の役目だ。木は切ったそのままだと枝葉がついたままなので、俺のアイテムボックスの自動解体機能が活躍する。回収するだけで綺麗になった丸太が完成の手間いらずだ。

広場を土魔法で整地して、出来た丸太を積み上げていく。ここはあとで倉庫でも立てておけばいいだろう。

伐採はサティに任せておけばよさそうだから、次は本番の城壁作りである。

作るのは農地でやってダメ出しされた二〇メートルクラスの城壁。もっとでかいやつを作ってもよかったがまた文句が出そうだし、できれば今日中明日中には完成させたい。

一度作成したものなら再現は難しくない。

周辺に転がっている木を回収して、土魔法を発動させ城壁を作成する。高さ二〇メートル、幅は五メートルほど。上部はちゃんと通路になっていて、砦やエルフの里にあるのと同じような形状だ。

壁に土を持って行かれた分で幅一〇メートルほどの堀もできている。

「どう?」

「いいんじゃない?」

「そうね、ちょっと大きすぎる気もするけど……」

手を休めて見ていたアンとエリーに聞いてみるとそんな返事が返って来た。俺と同じく、二人共まだエルフの里の戦いの記憶が生々しいのだろう。アンはちょっと微妙な顔をしていたが特に反対もしなかった。

「じゃあこんな感じでやっていく」

二つ目も作成。継ぎ目、接合部分がかなり不自然に見える。防御力には問題がなさそうだが、あとで修正がいるだろう。続けて三つ目四つ目と順調に作り上げていく。

途中でアンに魔力の補充をしてもらい、その魔力も残り少なくなった夕刻頃には、丘を囲むように三分の二くらいの城壁が完成していた。

魔力を使い切ると後できついので残りは明日だ。朝から作業をするなら魔力を使い切るメリットはないし。

伐採のほうもサティががんばったおかげで、城壁の周辺はすっきりと見通しがよくなっている。

サティと城壁の上に乗って周辺を見渡す。他のメンバーは夕食の準備に先に戻ってもらった。

我が家のタワーは小高い丘の上だし、二〇メートルの城壁から見てもまだ高い位置に建っている。見晴らしも問題なさそうだ。

城壁には階段も必要だし、今は空いてるところから入り放題だがやっぱり入り口がない。家の玄関も早急に作らないとな……

だがまあ一日分の仕事としては十分すぎるだろう。

「今日はいっぱい働いたなー。サティは疲れてないか?」

ヒールをかけてやりながら聞く。ヒールで回復する体力は微量だが、かけておけば翌日に筋肉痛などが残らない。

「はい。全然平気です」

いくらなんでもあれだけ動いて全然ってこともないだろう。

「ほんとに?」

「……ちょっとだけ疲れました」

それでもちょっとか。まあでも、がんばったサティを労ってやるべきだよな。

「今日、エルフの作った石鹸っていうの買ってみたんだ。ふわふわに泡立つそうだよ」

値段が普通の石鹸の十倍くらいしたうえに、品薄で一個しか買えなかった逸品である。普通に売ってる石鹸でも汚れ落ちには不満はないが、いまひとつ泡立ちがよろしくない。

「ふわふわ……」

お風呂マスターのサティも興味津々のようだ。

「ご飯が終わったら一緒にお風呂に入ろうな」

エルフ製の石鹸はふわっふわの泡々でした。お風呂って楽しいな!