軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0層 誕生!ドミナスブラック!

今日こそはと、俺は学校へやってきた。

一度サボるとズルズルと言い訳を考えてはダンジョンへ行こうとしていた自分が怖い。

例えば、「あっ、猫ちゃんだ。ダンジョンで猫育成してみたい」なんて思考や、「通学路で全員をサイドステップで通せんぼしてみたくなってきた」とか。

そんな煩悩? を乗り越えて学校に到着、机の中の溜まっていたプリントを宿題とそれ以外を分けてファイルへ。チラチラとクラスメイトからの視線を感じながら攻略サイトの原案を練っていると、元気な声が俺の鼓膜を暴力的に揺さぶった。

「おっはよー!! み、みみみ、南っち!」

「あー……おはよう、 蛇字丸(じゃじまる) さんズ」

やばい名前忘れた。元気ポニテという雑なあだ名は覚えてるけどなんだっただろうか。

「もう! そんな、へへ……照れ隠しかなー」

なんだコイツ。とそんな視線を後ろの二人に向けるも、お前のせいだろと言わんばかりに何故か見つめ返された。

何かしたっけ?

………………あ、キュアポーションあげたからか。それで頭がイカれたと。うん、点と点が反対方向に伸びて線として交わらないな!

急募、因果関係。

「ふふっ朝から楽しそうですね♪」

「はあ、眠いし寝てるから」

「へ、へへ……そんなもう、へへへ……」

トリップしてるポニテは無視して、作業を進めながらセツナァ! に話題を振る。

「そういやセツナァの姉を名乗るストーカーに会ったんだけど、本当にお姉さんいる?」

「…………姉はいますが、ストーカー??」

「うん、なんか【千里眼】とかいうスキルで俺をずっと見てたっつって握手求められた。パッと見クール系の、身長はこんくらい」

「推しがどうのってそういう…………」

心当たりはあるらしい。

よかった、クラスメイトの自称姉のヤンデレストーカーとか怖すぎるところだったから、自称姉じゃなくて良かった。

……大して恐怖度に差はない気もするが、うん。良かった良かった。珍しく固まった笑顔で困惑しているセツナァ! と未だ意識が異世界へイッてるポニテを放置して、作業を進めた。

「…………」

「もう、 兎渡香(ととか) って呼んでって! えへへ……」

あ、そういえばそんな名前だったな。

普通の学校生活を送り、放課後になった。

休み時間にちょいちょいポニテっ子こと兎渡香さん(苗字は忘れた)が声をかけてくる以外は普通だった。

「南っちー! そそ、その、よかったらなんだけど! 一緒に帰りませんか!!」

「え、ヤダ」

「即断!?」

おっと、オブラートで包むのを忘れていた。

「えー、大変恐縮ではありますが、この度はご縁がなかったということで、今後の益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます」

「祈られた!? ば、馬鹿な……脈アリアリのはずでは……?」

今日の トットット(兎渡香) さんはいつにも増しておかしな人だ。

「フフフッ、微笑ましいですね♪」

「そう? 馬鹿なやり取りにしか見えないんだけど」

友達の謎の暴走を放置して遠巻きに眺める二人。是非とも引き取って欲しいものである。俺はさっさと荷物をまとめて席を立った。

テキトーに挨拶して、下駄箱で靴に履き替えていると、ドタバタと蛇字丸さんが走って、上履きのまま走り去って行った。

通り過ぎる際に見た横顔は、普段の気怠げな面持ちとはかけ離れた、深刻そうな、歯を食いしばった鬼気迫るものであった。

ただならぬ事情を察知し、俺はノータイムで蛇字丸さんの下駄箱から靴を持って彼女を追いかけることにした。

俺は肉親と猫とかっこいい名前の人にだけ優しいでおなじみの 八百枝(やおえだ) 南(みなみ) 。特に蛇字丸さんは語感が謎に好きなのでできることなら力になりたい。これがセツナァ! やトットットさんなら無視して帰っていたが、蛇字丸さんは特別だ。

「蛇字丸さーん!! くつー!」

「八百枝!? 今はそれどころじゃないからどっか行け!」

「だが断る!」

「なんなんだお前は!」

おや、これはチャンスでは?

「――なんだかんだと言われたら! 答えてあげるが世の情け! 世界の平和を……あ、ガン無視……」

まさか名乗りを完全スルーされるとは。

本当にマズイ何かが起きているらしい。

彼女のスピードに合わせて走ること数分、ボロボロの一軒家の前で特急・蛇字丸号はその足を止めた。

そのまま蛇字丸と刻まれた表札のある家に入る。俺も続いて入り、彼女の靴を丁寧に玄関に並べてから家に上がった。

「誰かの家に来るなんて、小学校の時に引っ越してったお隣の田中太郎君ち以来かもなー」

和風建築な立派な家だ。軋む床をはじめに、手入れが行き届いていないことを除けばだが。

家自体は買ったが、その後生活が苦しくなったとかだろうか。

ひとまず声のする方へ向かう。

サザ〇さんの家のような居間に、ちびっ子二人を抱きしめている蛇字丸さんが。

テーブルの上には数枚の書類があった。取り込み中な様だったのでチラッと覗いてみると、どうやら借金返済の催促をしているようなものだった。

金額は、いちじゅうひゃく……五億。

ほへー、全然ピンと来ない金額だ。

五億も借金して何に使ったというのか――

「あ、これ暴利ってやつか!」

元は少ないが、利率で法外の返済をふっかけるやり方があると聞いたことがある。

「……そうだ、うちの両親は借金とこの家を残して蒸発して――ガキしか居ないのをいいことに、こっちは認めてないってのにその金額にふっかけてきたんだよ」

蛇字丸さんがゆらりと立ち上がった。

「……ねぇね、このお兄さんは?」

「こわいひとー?」

不安げにこちらを窺う蛇字丸弟アンド妹。年齢は小学校低学年くらいだろうか。

「こいつは……友達、みたいたモンだよ。大丈夫」

「!! どうも、親友の八百枝南です! みなみお兄ちゃんって呼んでね!」

「おいこら」

「ミナミ兄ちゃん! ぼくゆうと!」

「ミナミにぃに! わたしえり!」

なるほど、かわいい。

純粋な子で心が洗われる。

「……八百枝、ちょっと二人と遊んでてくれるか?」

「お、いいけど喧嘩でもしに行くの?」

俺が二人を腕の力だけで持ち上げて戯れ始めつつ、明らか喧嘩腰の蛇字丸(姉)を諌めると、二人も心配そうに姉を見つめる。

「最近嫌がらせがエスカレートしてきてるんだ。ここで何とかしないと――」

「喧嘩とかしたことある? 俺が行くけど」

「なっ、無いけど、お前は無関係だし――」

「友達っていたのはそっちでしょ。ここは俺に任せておけ。こう見えてこの世のあらゆる悪を成敗するのが趣味なんだよ」

ゲームの中とかね。ちなみに喧嘩の経験は俺も無い。まあモンスターよりは危なくないだろ。

ふふんと子供二人を持ち上げ、両肩に乗せて腕だけで支える。

「ミナミ兄ちゃんドミナスブラックなの!?」

ゆうとくんが目を輝かせている。名前からして最近の戦隊モノのキャラクターだろうか。

「ドミナスブラックって?」

「えーとね! 最初は悪者で出てくるんだけど、ほんとは悪い人を倒すヒーローなんだけどね、やり方がきょくたん? で、最近仲間になったんだ!」

なるほど。最初は謎の敵ヒーローとして登場していたが、回を重ねる事に実は良い奴でやり過ぎなだけの真面目野郎と分かり、レッドとかと殴り合って仲間になるタイプのやつか。最近の子供向けは結構複雑なんだな。

謎の感心をしていると、ゆうとくんは自分の部屋からそのお面を持ってきて見せてくれた。

「これ!」

「ふっふっふっ……少し借りるよ。とう!」

お面を装着して適当にポーズを決めた。

それから数分、演技指導を受けた俺は、完璧なドミナスブラックとして完成した。

「何を見せられたんだ……?」

「だんしってバカねー」

「頑張れー! ドミナスブラック!!」

「ふっ、任せておけ、ゆうとくん。君たちを怖がらせるヤツらはこのドミナスブラックが成敗してみせよう」

「八百枝、本当にそれでやるつもりか?」

「その書類だけ借りる。ドミナスブラックは改心したからな、論理的に戦って平和的に解決してみせよう」

「……」

ふざけているとでも思われているのか、胡乱な目で見てくる。だが今の俺には関係ない。ドミナスブラックは周囲の目を気にせず、自身の思うがまま行動するのだ!

…………あれ、それいつもの俺じゃね?