軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10層・裏 マーキュリースライム

様子見でメタルスライムに向かって走った。

そして可愛らしいプルプルボディから、恐ろしい銀色の槍が飛来する。速度はさっき見ていたので悠々と回避。スライムの周りに【 楔指定(アンカーポイント) 】を刺してどこにでも動けるようにしておく。

「いただきます!」

スライムの目の前に転移して軽くもぎ、手のひらサイズのを口に入れた。

「はむ? むむむ……?」

何だこの味。最初は血みたいな鉄っぽい味がしたと思ったら、続いてメロンシャーベットの味がした。メロンではなく、メロンシャーベット。今あるかは分からないが、昔あったメロンの容器に入ったあれみたいな味だ。

「メロンシャーベット味のスライムか。抹茶もそうだし、ダンジョンって日本リスペクト説?」

いや、日本以外にもどっかにあるらしいし、場所によって味が違うのだろうか。

ともあれ、味が良いから普通に倒せるな。でもレアなボスっぽいし、攻略サイトのためにも、メロンシャーベットが苦手な人のために別の倒し方も試してみよう。ブレザーを脱いで横からぶつける。そのまま押し込んでみる。

「おっも!?」

ボタンは溶けているが、布自体はそのままだ。金属を溶かす他のスライムと同じ性質なのは間違いない。しかし、金属でできているからか引っ張って核を取り出す方法は難しいだろう。

他のスライムとの違いはその材質があまりにも金属なことと、少しずつ蒸発というか気化してるっぽい点だ。

「液体の金属が気体になるのって危ないのでは? おっと」

あまりその辺の知識が無いので分からないが、毒性の何かになりそうな感じはする。休まず飛んでくる金属のスライム槍を回避して、討伐にかかることにした。

「飲めない人はスキルとかで倒した方がよさげかなー。【罠作成】……あっ、武器持ってきてないや」

学校帰りなので罠に愛用しているゴブリンの弓がないのを失念していた。仕方ないのでスライムのすぐ下に何の仕掛けもない落とし穴を設置。使用するアイテムをその辺の石ころにすれば原始的な罠も作れるのである。

重いのもあってかズドンと落とし穴に勢いよく落下したスライム。あれで死にはしないだろうが、身動きが取れないのではと思い覗き込みにいく――のはやめた。

練り飴のようにその身体を伸ばし、スライムは歪な巨人のような形を取り始めた。直後、不定形なのもあってどこからでも出せる槍のような触手が俺目掛けて絶え間なく襲ってきた。

それを転移なしで普通に避ける。あの異様なジェネラルほどの速さはないので慣れれば普通に対応できる。

チラッと攻撃の威力を床の壊れ具合で確認してみると、ちゃんとボスらしい破壊具合でクレーターだらけになっている。

通常のボススライムくんも見習ってほしいものである。

「えー、うん。もういいや。飲もっと」

攻略サイトのこともあったから色々考えながら戦っていたが、飲めばいいのにわざわざそんなことする必要は無いんだ。みんなも飲めばいいんだ。

飲めない人は知らん。 美味(うま) いから飲め、のスタンスでいこう。

そうして俺は攻撃を回避しながら触手から順にメロンシャーベット味のゼリーを堪能したのだった。

「じー」

「あの? 鑑定の方をお願いしたいんすけど」

「じー」

「ははは、そんなに見つめられても男子高校生の照れ顔しか出せませんよ?」

「それはいりません」

「ぴえん」

通常のボススライムから運良く出まくったポーションを鑑定に出そうと窓口にいるのだが、何故か睨まれていた。おかしいな。ちゃんとスキルで回復してから戻ったんだけど。

「服、ボロボロです。まさかゴブリンとかと戦ったんじゃないでしょうね?」

「あっ」

そういえばブレザーがダメになって白シャツも破けたりしていたんだった。

「スライムとしか戦ってないですって。ちょっとドジっただけなので」

「……えぇ?」

傍から聞いたらテキトーな言い訳なのだが、実際そうなのだ。油断と検証さえなければ恐らく無傷で 飲めた(倒せた) 。

なぜか困惑している様子の 司條(ロリきょぬー) さんにポーションを一つだけ押し付ける。

残念ながらあのメロンシャーベットからは何も落ちなかったし、経験値大量で新スキルゲットとかもなかったので戦利品は新しいポーションだけだ。

「キュアポーション? 病気や内部的な症状を治す――これ、1層のスライムから出たんです?」

「へぇ、だから怪我は治ら……ああ、えーと……そんな感じっすねー」

というかこの人鑑定系のスキル持ちだったのか。今朝渡した時は別の人だったから、この人が出勤してから査定とかが済んだという流れなのだろう。

「怪我? …………いえ、まぁそれはいいです。それで、どこのスライムなんですか?」

「んー、まあその辺はおいおいこっちで公開するんで気にしないでください。てか鑑定のスキル持ってたんですね?」

「あー、はい。潜れる人は新しいスキル手に入れるために職員もたまに潜りますから」

「ってことは二つ目のスキルが鑑定ですか。一つ目はやっぱり職員向きのスキルとかなんですか?」

「その辺は守秘義務です」

「自分のスキルなのに?」

「正確には、私側から出した守秘義務で、聞いたら引き返せませんけどそれでも――」

「じゃっ、正式なやつがでたらまたメールで! おつです!」

なんだか恐ろしい闇が垣間見えた気もするが、無事説教から逃れたのでよしとしよう。心配してくれてるのか面倒見が良すぎるのもどうかと思う今日この頃。

「しかし病気かー」

俺、たぶんだけど【平常運転】があるうちはその辺大丈夫そうなんだよな。一応数本手元に置いておいて残りは売却する感じにしようかな。

「待てよ?」

帰り道、ふと嫌な予感がした。

こんな短時間でドロップ品がザクザクとれたという幸運、これが今までの【平常運転】とかいう厄ネタの見返りならいい。

だが、俺は【平常運転】の全貌が掴めていない。

運に対する作用があるとしたら。

俺は特段幸運でも不運でもない。つまり今日みたいな幸運があった後は、【平常運転】によって不運が起こるのではないだろうか。

そんな思考が頭を支配してしまう。

「ぜ、善行でチャラにしてもらえんかな……?」

気休めでも、この幸運の塊を売ったり持っていたら明日にでもトラックにでも轢かれて異世界転生ものになりそうだ。それはそれで面白そうだけど、童貞のまま死ぬのは嫌じゃ!

病院にでも寄付しに行こうかな。でも一般人が持ってきた黄緑色の怪しい薬とか絶対危ないアウトだよなぁ。

効果の程までは不明だが、ご臨終寸前の人がいたらものは試しってことにできないかとりあえず近場の病院に向かうことにした。

このまま歩いて駅まで行ってとなると補導されかねない時間帯になるので、少し急ごうかな。

転移の寿命消費が体感的に直線距離の徒歩計算なのもあって、長距離できないのが悔やまれる。

俺はスマホの地図アプリを開き、 全(・) 力(・) で走る。

明日にしようかとも思ったが、明日不幸が降る可能性だってあるので今行く。

「はっや……」

ダンジョンの成果というのはちゃんとあるようで、車と同じかそれ以上の速度で走れている。このままだと歩道では迷惑になるので、大通りは一応車道の端を走る。信号待ちは危ないのでちゃんと歩道で歩く。これを繰り返し、事故ることなく隣の駅の近くにある病院に到着した。

内部的な回復っぽいから近場の内科のある病院を選んだのだが、この辺ではそこそこ大きな病院なので20時にも関わらずそれなりに行き交う人が多い。救急外来とかもやってるっぽいし、藁にもすがりたい人だっているだろう。

「平日の協会本部より賑やかだな……」

ダンジョン、もっと流行れ。

最初は儲け的にキツイけど意外と楽しいぞ。

それはともかく、正面から入ってみたはいいものの、どこに危ない状態の患者がいるかも分からないし、そもそもそんな人がいるかも分からない。

キョロキョロと人を探してる風を装い、大焦りしている通行人を探していると、見知った顔があった。

向こうもこちらに気づいたのか、驚いた様子で他 二(・) 人(・) にこちらの存在を指しながら話していた。

いつもの三人組である。俺は宿題に追われていた(一人とそれを手伝っていた)はずのメンツに声をかけた。

「よ。 蛇字丸(じゃじまる) さん達、この辺で今にもマズイ状況の患者とか知らない? ワンチャンにかけてみたいと思ってそうな関係者でもいいけど」

ダメ元で尋ねてみると、ポニテワンコこと 藤根(ふじね) 兎渡香(ととか) が俯いていた顔をこちらに向けた。その目尻には涙があり、長時間泣いていたのか腫れていた。

唇も乾いていて水分をとっていないのも見て取れた。

「な、んで……」

まともな声を久しぶりに出したように掠れた声で、いつもの元気さの欠けらも無い疑問を投げかけてきた。そんなに宿題の状況はマズイのかと思ったが、ここが病院であったのを思い出した。

「えっと……ダンジョンでさっきキュアポーションっていう病気とかを治せるっぽいもの手に入れて。余ってるから来たんだけど……いる?」

「……!」

さらに驚いた様子でこちらの身体を見回した。そういえば病院に来る時にボロボロの制服ってどうなんだろう。事故にあって自分で病院に来た人みたいに見えていないだろうか。

「あり、がどう!」

「お、おう。気にしないでなー」

俺からキュアポーションを受け取ると、こちらに抱きついてから走って行った。看護師さんに走らないように注意されているが、気にせず走っている。

「お前、素直じゃないよな。余ってるからってさ。そんな格好になってまで取ってきたくせに」

「そうですね。教室でこちらの会話が聞こえてわざわざダンジョンに行くなんて」

「あー、へへへ……」

なんかすっごい勘違いされてる気がするけど、たまたまですなんて言える空気でもないので愛想笑いを披露した。

そんな俺の脳内は、ポニテワンコの抱擁によって刻まれたふわっとした感触に支配されていた。

――おっぱ……うん、興奮落ち着いちゃったよ。クソが。【平常運転】さえなければ、俺はこの後あの感触を反芻しながら、なんてこともできたのに!

やはり許すまじ【平常運転】!

俺は怒りと興奮と気まずさの全てを抱えたまま、二人が目を離した隙に家に逃げたのだった。