軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話 火炎隊

子爵の位を受けるソラの叙爵式には沢山の貴族とその子弟が列席した。

しかし、その中に親であるクラインセルト伯爵の姿はない。

恐らくはソラの目論見を有能な家臣に教えられたのだろう。敵対関係となった相手の晴れ舞台に顔を出さないのは当然だ。

暗殺を警戒したソラは決闘日以降、クラインセルト邸には一切立ち寄らずに王都の宿やベルツェ侯爵邸に泊まっていたため、クラインセルト伯爵とは顔を合わせていない。

決闘から今日までソラはラゼットとコルやゼズ達と行動を共にしていたが、一度も襲われなかった。

短絡的な豚領主ならばすぐに刺客を放つと思っていただけに拍子抜けしたが、教主自らがクラインセルト伯爵と会談したとの情報を受けてからは警戒を強めた。

時期を計っているのか、それとも策を練っているのか、いずれにしても教主が動いた以上教会は敵に回った事になる。

ソラには魔法使い派からの接触が幾度もあったが現状では彼らが様子見の態勢を崩す気がないらしいと分かったので当てには出来ない。

子爵の位を恭しく受けて王宮を後にする。

「晴れて領主になりましたね」

ソラの斜め後ろを歩くラゼットが声をかける。

「あぁ。でも終わりじゃない。ようやく始まったんだ」

王宮の敷地を出たところにはゼズとサニア、リュリュ、コルの四人がいた。

「出迎えか、なんか照れるな」

ソラが言うとその場の全員が吹き出した。

拍手と共に祝いの言葉を投げられてソラは心から嬉しそうに笑う。

「子爵になった祝いにサニアの耳が触りたいな」

「ようやく始まったんでしょ? ならまだお預けだよ」

自慢の鋭い聴覚で聞き取ったらしいソラの言葉を利用して反論し、サニアは耳を両手で押さえて半歩後退る。

「伯爵になったら好きにしていいって事か」

ソラは手を閉じたり開いたりしながら誤解を招く発言をした。

そこに丁度良くチャフ・トライネンと護衛が到着し、眉を顰める。

「クラインセルト子爵! 爵位を賜ったからと言って少女を弄んで良いわけでは──」

「分かった、分かった。盛大にエロい勘違いをしている事も含めて分かったから説教を始めるな」

「エロ……ッ! な、何を貴様!?」

赤い顔で食ってかかるチャフを宥めるソラにラゼット達は苦笑する。

随分と口うるさい人質もあったものだ。だが、名目上は相談役なのだからこの振る舞いも案外正解なのかも知れない。

「メンバーも揃ったし、いざ、我が領地へ」

ソラ達は馬車に乗り、チャフとゼズは馬に乗る。

トライネン伯爵がねじ込んできたチャフの護衛も馬に跨ったのを確認して、出発する。

王都の石畳を馬車の車輪が踏みしめる。

ソラを見送る人も多い。

「……脂豚のクラインセルト家だぞ。しかも叙爵したばかりの子爵だぞ? 何でこんなに人気がある!?」

「チャフ、うるさいぞ」

「オレは納得がいかない!」

騒ぐチャフをソラがあしらう。

それを人々が笑いながら手を振って見送った。

チャフの相手をラゼットに押し付けてソラは手を振り返した。

その間にラゼットがソラの涙ぐましい宣伝活動についてチャフに語って聞かせる。

王都の端まで来ると近衛隊副長を筆頭としたチャフの決闘時の仲間が出迎えた。

「今日、出発と聞き我ら一同見送りに参りました」

副長が一歩進み出る。チャフは馬から下りて感謝を述べた。

「ありがとう。君たちのおかげで戦うことが出来た。これから先、戦場を共にすることもあるだろう。互いに王国の力となるべく己を鍛えよう」

「こちらこそ、チャフ殿の指揮下で戦う経験が出来たのは誇らしい。道中、お気を付けて。ソラ・クラインセルト子爵にも挨拶をさせて欲しい。顔を見せては頂けないか?」

チャフに挨拶を済ませた副長が馬車の中のソラを呼ぶ。

ひょっこりと顔を出した彼に一礼して副長は口を開く。

「正直に言えば、あの決闘で我々が負けるとは到底思えなかった」

本当に正直だとソラは苦笑した。

子爵となった彼に対して礼を失した副長の言葉に、生真面目なチャフが慌てるのを宥めて、ソラは先を促す。

「実際に負けてみれば、納得せざるを得なかった。我々は体力や技術では勝っていたが、精神では遙かに負けていた。ソラ・クラインセルト子爵は警備隊士にとっての見事な大将だった。あなた達と戦えた事を誇りに思う」

ありがとうと副長達が一斉に頭を下げた。こんな時でもタイミングが完璧に合うのはやはり近衛隊の練度があってこそなのだろうか。

「受け売りだが“心技体”と言うらしいぞ。三つ揃えてようやく一人前だとさ。だから、俺には偉そうなことは言えない。これからも頑張ろう、言えるとしたらこれだけだ」

じゃあな、とあっさりと別れを告げてソラは馬車に戻った。

敬礼して見送る副長達と別れて王都を出る。

王都の外壁を潜るとそこには旅装束の化け物集団がいた。

面識のなかったチャフの護衛が驚いて武器を構え、戦闘体勢を取った。

チャフが即座に警戒を解くように命じる。

「クラインセルト子爵、出迎えだ」

チャフに呼ばれて御者台からソラが姿を見せる。

「ソラ殿、声くらいかけて下さいな」

「ゴージュさん、様を付けないと不味いっす。子爵様ですよ、一応」

「ソラ殿様!」

「いや、それは違うっす」

化け物集団がくだらない漫才を繰り広げているのをソラは苦笑して見守った。

「ゴージュ、警備隊の仕事はどうした?」

長々と続く漫才にチャフが苛立ちを募らせているのを見て取って、ソラが話を進める。

すると、ゴージュ達は顔を見合わせた。

「……それが、解雇されちまいましてな」

「はぁ? あれほどの実力を見せて何で解雇されるんだ。昇進する所だろ、そこは」

ソラが首を傾げるとゴージュは決まりが悪そうに首の裏を掻いた。

「命を懸けるくらいソラ殿を誇りにする奴は国王陛下を守ることが至上命題の近衛隊の下部組織に置けない、だそうで」

ソラは目を白黒させたが、理解すると同時に頬を引きつらせた。

「すまん。それは予想外だった」

国王は固有の戦力を持たないソラにゴージュ達を与える事で恩に着せるつもりだ。

それを理解したソラは国王からの予想外の叙爵祝いにゴージュ達と共に困ったような顔で笑う。

最初に口を開いたのはゴージュだった。

「そんなわけで、儂らを使ってはくれんかな、と」

「宜しく頼むよ」

ソラが華奢な手を差し出す。

ゴージュ達は笑顔でその手を握り返した。

それからというもの、王都の劇場ではとある演目が大いに流行った。

それは決闘を申し込まれた伯爵家の少年が苦労して化け物を仲間にし、決闘に勝利する御話。

火炎隊と呼ばれるその化け物達は若くして少年が死した後もその亡き意志を支えるべく傷だらけの木剣を振るったと語られている。