軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話  一風変わった玩具。

流石は貴族御用達の料亭といったところか、豚領主の無茶な要求も手慣れた様子で受け流し、まともな料理を出してくれた。

だが、豚領主夫妻は終始不機嫌だった。

話を聞く限り、どうやら教主に会うどころか門前払いに近い扱いを受けたらしい。

よほど邪魔だと思われているのだろう。

豚領主と賄賂をやり取りしていた司教などは一斉に手のひらを返したと言うから、教会から見捨てられたのは確実である。

ソラが思うに、この状況は恋人からのメールの返信を少し遅らせて焦らすとか、そういう類の駆け引きである。そして、豚領主はまんまと引っかかっている。

この様子だと、ソラが我が道を行かなければ、クラインセルト領は植民地への一本道をひた走るだろう。

料理を味わい尽くして料亭を出る。

未だに不機嫌な豚領主夫妻とは違う馬車にソラは乗り込んだ。豚領主が横に大きすぎて夫妻しか乗れなかったのだ。

前を行く豚領主を追って夜の街を進んでいたが、唐突に馬車が止められる。

「どうした?」

ソラが御者に声を掛けた。

御者も困惑顔で道の先の豚領主が乗る馬車を指差した。

「王都警備隊に止められたようです」

暗い夜道の先に目を凝らすと確かに警備隊士らしき者が五名、豚領主と口論しているようだ。

王太子の誕生日祝賀会に合わせて街の中もお祭り騒ぎになるため警戒を強めているとのことで、馬車は全て止めて内部を検分する通達が出ていると言う。

苛立っている豚領主は面倒だから見逃せとか伯爵家を相手に無礼だとか喚いているが、警備隊士も一歩も引かない。

「騒動を起こすのは勘弁してくれ……。」

王都警備隊は王国近衛隊に連なる組織、書類上は国軍である。王太子の誕生日祝賀会の前日に王家の軍に喧嘩を売るなど正気とは思えない。

ソラは馬車から降りて警備隊士の間をすり抜け、豚領主の近くに立つ。

「お父様、やましい所はないのですから中を見せて早く家に帰りましょう。それに俺は明日に備えて早く眠りたいです」

ソラの言葉に明日のパーティーの主賓を思いだしたらしい。

豚領主は不愉快そうな顔を隠しもせずに渋々警備隊の検分を受け入れた。

ソラは警備隊士を二人、自分の馬車へ案内する。

「お父様が済まない事をした。今日は気が立っているみたいなんだ」

「……そうですか」

ぶっきらぼうな返答にソラは苦笑した。

警備隊士は二人とも体のあちこちに酷い火傷の後がある。昼間に街を散策している時に見た警備隊士と同様に装備も火に潜ったような有り様だった。

御者が警備隊士の顔を見て小さな悲鳴を漏らす。

「なにか?」

「い、いえ……。」

警備隊士に苛立った声で問われて御者は怯えながら視線を逸らした。

警備隊士は思い出したようにソラを見る。

聞こうか聞くまいか逡巡している様子の警備隊士にソラは首を傾げて口を開く。

「なんだ?」

「……いや、御子息は我々のこの顔を見ても怯えないのだな、と思いまして」

言いながら、ケロイドになった顎から右肩を撫でる。

ソラは一層不思議そうに首を傾げ、限界がきたのか逆方向にもう一度首を傾けた後、真顔で問いかける。

「何に怯える必要があるんだ?」

間の抜けた返答に警備隊士は顔を見合わせ、突然、愉快そうに揃って吹き出した。

「なんだ、いきなり。俺が笑われるような事したか?」

「いや、肝が据わっていると思いましてね」

横目で睨むソラに微笑して警備隊士達は馬車の中を検める。

中にいたラゼットは半分に開いた眼で警備隊士を確認すると特にリアクションも見せずに寝入った。

「主従揃って、度胸のある事で」

含み笑いしながら職務を果たした警備隊士達は「ご協力に感謝します」と声を合わせた。

ソラが小さく手を振ると会話をした隊士二人が苦笑しつつも振り返す。周りの隊士が怪訝な顔で見比べていた。

邸宅に帰り着き、今日のソラの行動を豚領主に報告する執事を後目に自室へと引き上げる。

「今後も監視がつくと面倒だよな」

眠気を欠伸と共にかみ殺し、ソラは愚痴る。

「確かに、お昼寝する隙もなかなかありません」

「……唯一の利点だな」

呆れをため息にして吐き出したソラは魔法書を机に載せた。

「今はまだ大丈夫だが、監視から仲間がバレる可能性もある。サニアやリュリュを守る男手が欲しいな。ゼズだけでは心許ない」

「さり気なくコルが除外されてますね」

「察しろ」

魔法書をペラペラとめくりながら護衛用のホムンクルスでも造ろうかと考える。いくらソラでもそんなに都合の良いモノは魔法を使っても造れない。

「ベルツェ侯爵から借りればいいと思いますけど」

「監視どころの騒ぎではなくなるな」

ラゼットの意見を実行した際の騒動を予想して、ソラは眉を寄せた。

「それなら、クラインセルト領主軍から引き抜き──裏切られるのがオチですね」

半ばまで口にした意見を自ら却下したラゼットはソラが魔法書とにらめっこを始める寸前にそれを没収した。

「俺の玩具がっ!?」

ラゼットの手により遠ざかる魔法書へ必死に手を伸ばす。昨日、誕生日を迎えた七歳の体でもラゼットから取り返すことは叶わなかった。

「明日に備えて寝てください」

玩具呼ばわりされた魔法書を若干気の毒に思いつつ、ラゼットは素早く秘密箱に仕舞い、ソラの手が届かないクローゼットの上に置く。

「やだ! 俺の玩具だぞッ? 返せよッ!? 本気で怒るぞ、コラッ!!」

「サニアとの雪合戦といい、相変わらず妙な所で沸点低いですね」

半泣きで駄々をこね始めるソラを無視してラゼットは淡々と窓を閉め、カーテンを閉じ、ソラを寝間着に着替えさせる。

「もういいッ。不貞寝してやるッ! あぁあ、きっと夢に見るんだろうな。ラゼットに何もかも取り上げられる悪夢を見てうなされて、明日のパーティーで眠く──」

「お休みなさい」