軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話  隠れ潜む銀

「どういうつもりなのかしら?」

双頭人形はやんちゃをした子供を窘めるような口調で、ホルガーに問い掛ける。

ホルガーは机に頬杖を突き、そっぽを向いていた。

頬は抑えた笑いの衝動で微かに動いている。

「何の事だか分からねぇな」

ホルガーは見下した目で双頭人形を一瞥した。

煌めく銀色の髪を小さく揺らす二人の娘は、普段通りの無機質な笑みでホルガーと視線を合わせた。

「ホルガー、あまり頭のよろしくないあなた方が勝手をしては、計画が失敗してしまうでしょう?」

「ホルガー、あまり物わかりの良くないあなた方が気ままに動いては、計画が破綻してしまうでしょう?」

双頭人形が馬鹿にすると、ホルガーはまなじりをつり上げ、椅子から腰を浮かす。

しかし、双頭人形の横にいたイレーネオが曲刀の柄に手をかけたのを見て、忌々しげに椅子に座り直した。

「同時に喋んな。気色悪い」

不機嫌な顔で睨むホルガーを眺めながら、双頭人形は口を開く。

「何故、銀をベルツェ侯爵領へ運び出したのかしら?」

チャフが失踪してから五ヶ月、銀もかなり備蓄された今日になって、双頭人形の元に情報が入った。

二頭同盟の備蓄していた銀が、当初の計画とは異なるルートで運び出された、と。

本来、港から海へ運び出される予定だった銀が、内陸のベルツェ侯爵領へと向かう事態。

双頭人形が事情を訊ねるのも当然だ。

「海へ通じる河川はソラ伯爵の大型船が塞いでんだろ」

ホルガーが投げやりに答えるが、双頭人形は納得しない。

「ソラ伯爵の所有する大型船はどれも旧式」

「対する二頭同盟の船は最新型」

「──だから、同時に喋んな! やかましいんだよッ!」

ホルガーが抗議するが、双頭人形は互いの肩を寄せ合ってクスクスと笑い声を零す。

そして、同時に口を開いた。

「事前に調査してルートを選べば、捕捉されたりしないわ」

もっともな意見だ。

ホルガーは言い返そうともせず、開き直った。

「だから何だ。お前らの計画通りにいかなくてお怒りか? この際だ。はっきり言ってやる」

先ほどまでの不機嫌さはどこへやら、ホルガーは愉悦に歪んだ唇で言葉を紡ぐ。

「──お前らは用済みだ」

「あら、そうなの」

双頭人形が思いの外簡単に納得した事に、ホルガーは眉を顰めた。

双頭人形の様子を見れば負け惜しみではないと分かり、ホルガーは訝しむ。

しかし、双頭人形は聞きたい事を聞き出し終えたのだろう、スカートの裾を翻して背を向けた。

用済みと言い放った手前、ホルガーは自尊心が邪魔をして引き留める事もできない。

双頭人形はイレーネオを連れて部屋を出る。

閉まる扉を振り返りもせず、欠伸を一つ零した。

「働き者なお馬鹿さんよね」

「頑張り屋さんな能無しよね」

双頭人形は、ホルガーが聞けば怒り狂うだろう評価を次々に連ねる。

後ろに控えていたイレーネオが問うような視線を向けている事に気付き、双頭人形は顔を見合わせる。

「駄目ね」

揃って同じ言葉を発する双頭人形に、イレーネオはため息を吐いた。

「駄目な私に説明してください」

「イレーネオは駄目だけど、面白いから合格よ」

「――説明をお願いします」

双頭人形の言葉には取り合わず、再度頼む。

感情のこもらない形だけの笑みを浮かべながら、双頭人形は廊下の先に目を向けた。

「銀の輸出を制限し、大型船を総動員して港を塞ぐ。これにどんな意図があると、イレーネオは考えているの?」

「領内に銀を封じ込め、使わせないようにするためだと思いますが」

ホルガー達も同じ事を考えているはずだ。

しかし、双頭人形は揃って首を振る。

「大型船で海へと続く河川を塞いでいる事をもっとよく考えるべきよ」

言われてみれば、とイレーネオは違和感に気付いた。

銀を外に出さないようにするならば、内陸へと続く河川も塞げるように大型船を割り振るはずなのだ。

「領内から、ではなく王国から出さないようにしているの。ソラ卿は最悪の可能性を重点的に潰したのよ」

「……外国の王と交渉できないようにした、と?」

イレーネオが確認すると、双頭人形は良くできました、と小さく拍手した。

二対の手が全く同じ間を挟んで打ち合わされる。

双頭人形の顔は相変わらず張り付けたような笑みだ。

まるで嬉しくない拍手を受けながら、イレーネオは目を細める。

「その読みが当たっていたら、双頭人形、あなた方の計画が見抜かれていた事になりますよ」

「いいのよ、そんな事。遊びだったもの。結果的には引き分けだから、また機会があったら遊びたいけれど」

「やめてください。遊びが終わったなら帰国するべきです」

イレーネオが窘めると、双頭人形は静かに笑う。

「結局、本来の目的だった殺しの魔法の手掛かりも見つからないのだし、帰ってしまいましょうか」

あっさりとイレーネオの意見に同調し、双頭人形は話を戻す。

「もう一つおかしな所があるの」

イレーネオは少し考えたが、すぐに降参した。

「何ですか?」

「銀の出所よ」

双頭人形は互いの手を繋ぎ、肩越しにイレーネオを振り返る。

「何故、仲の良いベルツェ侯爵から銀の融資を受けなかったのかしら?」

「何故、火事からの復興途中で資金不足のシドルバー伯爵が、今も値上がりを続ける銀を格安で売り払ったのかしら?」

違う質問で同じ答えの問題を、双頭人形は同時に発した。

そして、顔を見合わせると、互いの銀髪を片手で梳き、一房取ってイレーネオに見せびらかす。

「──ソラ卿が輸入したモノは、本当に銀なのかしら?」

「今となっては、どうでもいい事だけれど、ね」