軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 試作品と焼き魚

指を火傷した者が二人出たが作業は滞りなく進んだ。

もうすぐ昼飯時となった頃、オガライトの試作品が完成した。

ドーナツを半分に割ったような断面の半円柱形。暗褐色のそれはソラが前世で見たオガライトとは趣を異にしている。

「ソラ様、お魚を持ってきました」

「そんなこと頼んでないぞ?」

十数匹の魚を持って来たラゼットにソラは苦笑いする。

食うや食わずの生活をする子供達に気を使ったのだろう。しかも、生魚である点を考えるとオガライトで焼き魚を作るつもりらしい。

子供達はラゼットが持って来た魚を物欲しそうに見ている。

「みんな、魚を焼くぞ。女の子と年少組はラゼットの手伝い、男の子は火の準備だ」

まさか、食べさせてもらえると思っていなかった子供達はソラの言葉に一瞬遅れて歓声を上げる。

「喜ぶのはまだ早い。オガライトに火がつかなかったら、おあずけだしな」

「ソラ様の意地悪」

近くにいた男の子が笑いながら言う。冗談だと分かっているのだろう。

その場にいる全員が固唾を飲んで見守る中、最年長の青年が火をつける。

僅かばかりの静寂の後、はぜる音と共にオガライトが燃え始めた。

子供達が手を取り合って喜ぶのを横目にソラは燃えるオガライトを検分する。

通常の薪に比べて煙は少ない。火はつきやすいがその分あまり長くは持たないようだ。火がついている部分が崩れやすくなっているのも問題点として挙げられる。

──だが、十分に薪の代用に使える完成度だ。

「ソラ様、火の側は危ないから離れようね」

年少組の女の子、シャリナがソラの手を引き、火から遠ざけようとする。オガライトを作っている間もそうだったが、どうもお姉さん風を吹かせたいらしい。

弟代わりができて上機嫌に見える少女に手を引かれ、オガライトの焚き火をソラは遠巻きに眺めた。

塩を振った魚に串が通され、焚き火の近くに並べられる光景は前世で大学生の頃に友人と行ったキャンプを思い出させた。

「……魚が釣れずに二キロ先のスーパーに買いに行ったっけ」

ジャンケンに負けたソラが罰ゲームとして徒歩で買いに行ったのを思い出す。

「魚釣り下手なの?」

呟きが中途半端に聞こえたらしく、シャリナが背の低いソラの前で中腰になって顔をのぞき込んだ。

曖昧な笑顔で誤魔化そうとしてみたが、お節介なシャリナには通用しない。

「下手なの?」

「上手くはないかな」

「なら、今度教えてあげるね。サニアに教えようとしたけど、あの子、手で穫っちゃうんだもん」

サニアとは獣人の子である。最年少ながら、獣人特有の聴覚や嗅覚の良さで危険を察知したり、軽い身のこなしで魚や鳥を捕ってしまう。仲間たちも一目置いているらしい。

実力主義の浮浪児たちには年齢など些末なことなのだ。

もっとも、気が弱いためまとめ役にはなれない。年少組をまとめているのはお姉ちゃん気質のシャリナである。

「そういえば、サニアは何処にいった?」

「ソラ様が触りたがるから隠れたんだよ」

周囲を見回してみると布を被った子供達の中で一人顔を伏せている子がいる。おそらくサニアだろうと当たりを付けたソラはこっそりと忍び寄った。

ゆっくりと両手を伸ばしたソラはまたしてもラゼットに首根っこを掴まれ目的を果たせなかった。

「ソラ様、サニアの耳を触るのはこの件が片づいてからと約束しましたよね?」

「獣耳がッ! そこにあるのに、ケモノミミがッ!!」

背後から聞こえてきた欲望全開の声にサニアは慌てて振り返り、ソラの姿をその瞳に映すや否や跳び退る。そして、身を翻して年長者たちの中に逃げ込んでしまった。

「振られましたね」

「大丈夫、俺はしつこい上に諦めが悪いから」

「それは女性にとって最悪の組み合わせですよ」

取り留めもない話をしていると、魚が焼けたと青年が呼びかける。

駆け足で集まる子供たちに魚が配られ、昼食が始まった。

その頃、食堂では何時までも姿を現さない主人にコックが右往左往していたのだが、そんな事とは露知らず、ピクニック気分を満喫するソラだった。

昼食を終え、オガライトの量産を開始する。

見つからないように注意しながら様子を確認しに来た使用人たちは獣人のサニアにことごとく発見され、ソラによって追い返される。

夜、完成したオガライトは街の外にある猟師小屋へ運び込ませた。

流石は浮浪児というべきか、街の裏道には詳しく外までの間に人とすれ違う事すらなかったとラゼットから聞かされた。

「お前よくそんな奴らを連れて来られたな……。」

まず出会うことすら困難であろう浮浪児たちを発見したばかりか交渉して悪評名高いクラインセルト家の館に連れて来る。しかも一日そこらで、だ。

「襲撃を受けて薪を無くした浮浪児たちが防寒具を手に入れるために行動を始めたんですよ」

その多くは盗みや追い剥ぎといった暴力的な手段だった。

緊急時にこそ、人間の本質が浮き彫りになる。

犯罪に手をそめ始めたグループ内で温和な者は爪弾きにされ、グループを抜けていく。

そういった者が集まるのは教会の裏だ。何故ならば裏道で唯一の安全地帯であり、商会の裏などとは違って邪険にされにくい。

ラゼットは観察の結果、目を付けたグループに教会の信徒の振りをして近づき、交渉にこぎ着けたのだ。

「交渉自体も難航しましたけどね。領主様が王都に出払っていたのが決め手でした」

「それじゃあ、あのグループは寄せ集めなのか?」

その割にはずいぶんと仲が良さそうに見えたので、ソラは疑問をぶつけた。

「そうですよ。足手まといになりがちな小さな子が混ざっているのもそれが理由です。ソラ様がご執心のサニアやお世話になっているシャリナは元が同じグループだったみたいですね」

「ご執心って、なんか変態的だな。まぁ分かった」

仲が良さそうに見えたのはあのグループからも追い出されたら行き場がないからだろう。皆が周りに合わせていたのだ。

温和な性格の持ち主が集まっている事もあって仲間を守るような行動も目立った。

──演技しているだけの者が混ざっているかもしれないが……。

自分の人間不信にソラは苦笑した。