軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95.

翌日の昼、早めに全員が食堂に集まっていた。

もちろん理由は昨日の時点で知らせておいたケーキが届くからと、食事を早めにして欲しいと要望があったのだ。

「こんにちはー! ケーキのお届けに参りました~!」

玄関の方から聞こえた声に食堂内が騒つく。

「食べ終わった者、誰でもいいから七人ついて来い」

そう言うと威勢のいい返事と共に十数人立ち上がったが、出口に近い者が素早く動いた。

お前ら自慢の身体能力をこんな事で使うんじゃない。

「ご苦労、こいつらにホールケーキを渡してやってくれ。カットされた物は俺が受け取ろう」

「はい、ではこちらになります」

玄関にいたパティスリーのスタッフ達に労いの言葉をかけ、部下達にケーキを受け取らせる。

三つ入りの小さな箱は部下達に対抗できない文官達の分だ。

「お前達、切り分けたいという奴にこれを八等分に切らせろ。当然切り分けた者が最後のひとつを食べるようにな」

ニヤリと笑って俺は執務室へと向かった。

文官達は部下達が昨日からケーキケーキと騒いでいるのは知っているかもしれないが、自分達の分もあるとは思ってないだろう。

執務室に入ると、ちょうど三人共食事を終えたところのようだった。

専用カートに食事のトレイを載せている最中で、タイミングとしてはちょうどいい。

「ここしばらく忙しかっただろう、労いとして俺からデザートの差し入れだ。疲れた時には甘い物が欲しくなるからな」

「おお、それはありがたい! ずっと計算ばかりしていたせいか、妙にお腹が空くのが早くて……」

最年長のオーバンがイソイソと受け取りにきた。

表情を見る限り、どうやら三人共甘い物はイケる口らしい。

ケーキを置いて食堂へ戻ると、そこには異様な空気が流れていた。

料理人達もカウンターの向こうから固唾を飲んで様子を窺っている。

「おい、どうした? まだ切り分けてないのか?」

「あのねぇ、カシアス達が切ろうとした時に、切った人が最後に残った分を食べるって聞いたら動かなくなっちゃったの」

ケーキが届くからと食堂へ一緒に来ていたジェスが説明してくれた。

どうやら張り切って切ろうとしたが、最後に残った分と聞いて真剣になっているのだろう。

「どうしたカシアス、ケーキを切る時の手応えを知りたかったんじゃないのか? 早く切るといい」

「く……っ、真ん中……ここか? いや、もう少し右か?」

パン用のナイフをホールケーキの中央でフラフラさせながら、真剣な眼差しで中心を探しているらしい。

「おいおい、早く切ってくれよ~。早く食いたいんだからさぁ」

「うるさい! じゃあお前が切れよ!」

「お前が切るって手を挙げたんじゃないか、一度口に出した言葉には責任持てよ」

「クソッ、ちょっと待ってろ!」

エリオット隊のアメデオとカシアスがくだらない言い争いをしている。

ちなみに俺は八人兄弟だったからこそ、目測で八等分に切るのは朝飯前だ。

母さんは自分の分だけ洋酒を使った大人用ケーキを買っていたから、切るのは当然のように俺の仕事だったしな。

ケーキの種類は苺と生クリームや、ガトーショコラ、モンブランなど数種類ある。

そして切った者が最後のひとつを食べると聞いた途端に、誰が切るか牽制しあっているグループもある。

ガトーショコラの好きなオレールはサッサと切り分け、もうすでに食べ終わっていた。

オレールは普段から食べ慣れているしな、多少自分の分が小さくなっても気にしないのだろう。

「おい、いつまでもケーキと睨み合っていても仕方ないだろう。貸せ、切ってやるから」

誰も切ろうとしていなかったグループのケーキを切り分けてやると、小さな歓声が起こった。

「すごい、全部同じ大きさだ……」

「この正確さがあの剣筋の秘訣なのかもしれない」

「あっ、団長! こっちも頼む!」

俺が切り分けたのを見たシモンがサッと自分達がキープしていたケーキを差し出してきた。

「どうした、自分で切ればいいじゃないか。それともジェス、切ってみるか?」

「うん!」

「え゛」

ジェスの元気な返事にシモンが変な声を出した。

まさかジェスに切らせるとおもってなかったのだろう、ちなみにジェスもケーキは食べるが俺が作った物ではないせいか、あまりケーキに執着はないようだ。

「ボクもジュスタンみたいに切るね! 四回切ればいいんだよね?」

「そうだな、先に縦と横に切ってから、切れた線と線の真ん中を切るといい」

「えっ、あの、団長……?」

「こうだね! えいっ、えいっ、あと一回!」

シモンがモゴモゴ言っている間にジェスがズバァとケーキを切った。

ま、まぁ……初めて切ったにしては上手なんじゃないか?

「おかしいなぁ、ジュスタンみたいに綺麗じゃない……。ナイフにもクリームがいっぱい付いちゃった」

「あ……ぁ……」

「そんな事ないぞ? ジェスは初めてだったから、俺と同じよう切るにはちょっと難しかっただけだ。次はもっと上手に切れるさ」

「うん!」

シモンの声をかき消すようにジェスに声をかけて頭を撫でると、嬉しそうにしていたからヨシとしよう。

結局カシアス達は料理人に切り分けを頼んでいたが、俺とジェスは残った一回り小さめのケーキを一緒に食べた。