軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93.

工房にはジェスの散歩がてら徒歩で向かった。

訓練の見学や部屋で待っているのはやはり退屈だったのか、とても嬉しそうだ。

「ボクの鱗、カッコイイ剣になってるかなぁ。魔力の親和性はバッチリだから、これまで以上に魔力を込めても大丈夫だからね!」

「親和性とか……ジェスは難しい言葉もよく知っているんだな。オレールやアルノーはともかく、ほとんどの部下達の口からは出てこない言葉だと思うぞ」

「えっとねー、お母さんが言ってた!」

そういえばドワーフの里にジャンヌは自分の鱗を提供していたもんな、そういう話をしていてもおかしくないか。

それにしても、鱗が手に入らなくなるからと王都に来るなんて、職人からしたらドラゴンの鱗はそんなに魅力的な素材なんだな。

「そうか、人化の魔法も教えてくれたし、ジェスのお母さんは物知りだな」

「うん! だけどね、お父さんの事は教えてくれないんだ~」

「え?」

「あっ、ジュスタン! 工房の前で誰かが待ってるよ! あの人がボスコ? 早く行こう!!」

今もの凄く引っかかる事を聞いた気がするんだが。

しかし当の本人はボスコを見つけて小走りに先に行ってしまった。

そういえばドラゴンが妊娠して卵を産むまでどのくらいの期間必要だとか、卵が孵化するまでの期間も知らない事に気づいた。

案外数年……もしかしたら数十年かかって生まれるかもしれない。

ジャンヌ達はもう王都に向かって出発しているみたいだし、到着したら聞いてみていいだろうか。

小説の中にもジェスの父親の話はなかった気がするが、もう死んでいるとかじゃないよな?

早くに父親を亡くした弟達の事もあり、モヤモヤしたものを感じながらジェスを追いかけた。

「ヴァンディエール騎士団長! お待ちしてやしたぜ! ワシの……ワシの最高傑作が出来たんでさぁ! ささ、中へどうぞ!!」

ボスコはジェスが目に入っていないかのように、俺を工房内へと案内した。

どれだけ見せるのを楽しみにしていたんだ。

「あっ、コレだね! ボクの鱗使った剣! あ、こっちの 短剣(ダガー) もだ」

斜めになっている浅い木箱のような台に並んでいた剣の中で、ひときわ美しい光沢の剣の前にジェスが駆け寄った。

「コラ、坊主。剣は重いから一人で近付い………… ボクの(・・・) 鱗……?」

ジェスの肩を掴んで止めようとしたボスコだったが、その手がジェスに届く前に動きが止まった。

「ああ、その子が鱗の提供者のジェスだ。今は人化しているが、ちゃんとドラゴンだぞ。そうそう、ジェスの母親とボスコが修行していたドワーフの集落からドワーフ達が何人か一緒に来るから仲良くやってくれよ」

「え、あの、ドワーフ……? しかもその子の母親というのはドワーフの中でも腕のある者しか使う事の許されなかった鱗の……、二百年以上生きたドラゴンだったりするんじゃあ……」

ボスコはブツブツ言い出したかと思うと、今度はガタガタと震え出した。

そんなボスコは置いておいて、ジェスの眺めている剣を手に取って軽く振ってみる。

「見た目より軽いな、中庭で試し切りさせてもらうぞ。ジェス、こっちだ」

「はぁい」

しばらくボスコは復活しそうにないので、ジェスと武器を試すための的が置いてある中庭へと移動した。

工房ごとにある中庭は、開発中の武器や防具もあるため、外から見られる心配がないのが嬉しい。

試しに魔力を通してみると、まるで自分の腕の延長かと思うくらいに軽く自由に動かせる。

これまで使ってきたどの剣よりも俺の手に、魔力に馴染んでいるのがわかった。

失敗作の鎧を着せてある木製の 案山子(かかし) を袈裟懸けに斬ると、まるでケーキでも切ったかのように軽く斬れた。

次の瞬間には、案山子の上半分と鎧が落ちる大きな音が中庭に響く。

魔力を纏わせると切れ味が上がるのは当然だが、これはレベルが違う。

今度は案山子を袈裟懸けではなく 薙(な) いでみた。

鎧はともかく、木は繊維の関係で真横に綺麗に斬るのは難しいはずなのだが、再び中庭には大きな音が響いている。

「これが……魔力の親和性というものか……。ここまで違うものなんだな」

「だってボクの鱗だもん!」

少し離れて見ていたジェスが胸を張って言った。

素材もそうだが、ボスコの腕がいいというのも大きいとはわかっている。

だが誇らしげにしているジェスの顔を見てしまっては、素直に賞賛するしかない。

「そうだな、さすがジェスの鱗を使っているだけある。これは最高の剣だな」

「えへへ。それじゃあこっちも試してみて、コレもボクの鱗を使ってるから」

そう言ってジェスが差し出したのは、剣と並べて置いてあった短剣だった。

やはりこちらも見た目より軽く感じる。

今度は弓用の的に向かって投げてみた、もちろん魔力を纏わせて。

トスッと軽い音を立て、投げた短剣は的の中心に刺さった。

これは俺のコントロールがいいわけではない、魔力で操作できたのだ。

何度か投げて確認したが、急な角度でなければ……それこそ緩やかなカーブを描くならば、後ろに投げても正面の的に当てる事ができた。

これは短剣だから攻撃力としては高くはないが、戦闘中に使えるとなればかなり大きい。

「ハハッ、こんな感覚は初めてだ。ジェスは最高だな!」

嬉しくなってジェスを高い高いするみたいに抱き上げた。

「ふふっ、そうでしょ? だけどね、エレノアの前で言ったら拗ねちゃうかもしれないから、内緒ね?」

「わかった、俺がジェスをこんなに凄くて優しいって思ってる事はエレノアには秘密にしておこう」

顔を見合わせてひとしきり笑った俺達は、正気に戻ったボスコにお礼を言って、手を繋いで宿舎に戻った。