軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

91.

夕食時、一人で食堂へ行くとアルノーとガスパールが恨みがましい目で俺を見てきた。

「なんだ? 何か言いたい事でもあるのか?」

理由はわかっているが、あえて知らないフリをして声をかける。

「酷いぜ団長! 結局俺達の分は他の奴らに半分以上取られちまったんだぜ!?」

「そうだよ、僕達はちゃんと材料費を出し合ったのに、何もせずに僕達の分を取るなんて許せない……っ! 団長があんな事言うから!!」

「…………お前達、食後に俺の部屋に来い」

「「えっ!?」」

わざと低い声で言うと、二人が固まったので放置して自分の夕食を取りにカウンターへと向かった。

部屋に呼び出した理由は、冷凍庫に入れてあるアイスが出来上る頃だからなのだが、二人はアイスを仕込んである事を知らないからさぞかし不安だろう。

「ヴァンディエール騎士団長お疲れ様です! 今日は随分いい匂いをさせていましたね~、さっきのお話しが聞こえてきたんですが、よければ我々がメニューのひとつとしてデザートを作りましょうか?」

料理を選んでいると、料理長が声をかけてきた。

確かに果物だけじゃなく、ゼリーとか口当たりのいい物をデザートに出してもらうのもいいかもしれない。

さすがにデコレーションするような菓子は手間がかかり過ぎて無理だろうが。

「あ……っ、そ、そうですよね。お菓子のレシピは簡単に教えてもらえるような物じゃありませんよね。ただでさえこれまでになかった味付け方法まで教えていただいているのに、これ以上望むのは贅沢というものです……」

どうやら考えている間に料理長が勘違いをしてしまったようだ。

「ああ、違うぞ。調理の合間に作れて、食後に食べやすい物は何かと考えていただけだ。大抵砂糖やバターを大量に使うだろうから頻繁に作ってもらうわけにはいかないが、合同訓練や遠征から戻ってきた時なんかにねぎらいとして出すなら問題ないだろう」

そう答えると、料理長の顔がパァッと明るくなった。

「で、では私どもにお菓子のレシピを教えていただけるのですか!?」

「それで商売をするなら商業ギルドに登録が必要だが、この食堂で作る分には問題ないだろう。俺が持っている本を貸すから読んでみるといい」

「お菓子のレシピ本ですかっ!? そんな高級な物をお借りするなんて……!」

俺が持っているレシピ本は書店で買った物だが、確かに主婦ならレシピを知っている家庭料理の本と値段の桁が違った。

「部下達が喜ぶから使ってくれ。まぁ……金貨を出すくらいには高い物だから扱いには気を付けてもらわないといけないがな」

金貨、と言うと料理長の喉がヒュッと鳴った。

本自体がまだまだ高級品で、平民街に書店はないと言えばわかるだろうか。

その中でも技術に関する本は、試し読み部分以外は買うまで保護魔法で読めなくされているのが一般的だ。

「本は夜か明日にでも持ってくる」

「ありがとうございます!」

食事を済ませて部屋にいると、俺が部屋に入ったのを見計らったかのようにシモンとマリウスが訪ねてきた。

「団長! 出来たか!?」

「楽しみで待ち切れませんでしたよ」

「ああ、もう出来上がってはいるが、アルノーとガスパールが来るまで待ってやれ。先に盛り付けだけしておくか」

「あっ、自分手伝いますっ!」

すぐに名乗りを上げるマリウス、恐らく目的は盛り付け終わったスプーンだろう。

盛り付けに使ったスプーンはキンキンに冷えて、それで味見するのはまた格別だからな。

ちょうどアイスを盛り付け終わった頃に、部屋のドアがノックされた。

「シモン、恐らくアルノーとガスパールだろう、部屋に入れてやってくれ」

「へーい」

楽しそうにジェスと遊んでいたシモンに対応を頼んで、俺とマリウスはアイスを私室のテーブルに並べていく。

「あれ? どうしてシモンまでいるの? まさか何かやらかしたの? ……って、あれは!?」

聞こえてきたのはアルノーの 訝(いぶか) し気な声。

だがすぐにアイスに気付いたのか、驚きの声を上げて部屋に入って来た。

「もうひとつ菓子を作っていたんだよ、ミルクアイスだ。食後のデザートにちょうどいいだろう?」

ニヤリと笑うと、アルノーはキラキラした目で俺を見た。

「団長~! 僕、団長の事信じてました!」

「さっきまで実は邪神じゃないかって言ってたのにな、はははっ」

ほぉ、そうかそうか、お前達そんな事を言っていたのか。

「わぁ~い! これがアイス? なんか溶けてきたよ!? 早く食べないと! ……んんっ、冷たくて、甘くて、美味しい~!」

……今は嬉しそうなジェスに免じて聞き流しておいてやろう。

全員がアイスを味わっている間に、俺は酒棚に手を伸ばした。

「お前達……、それにコレを垂らすと格別だぞ」

「団長……天才……!?」

「そんな事許されるのか……!?」

反応したのは俺の隊でも酒好きの部類に入るアルノーとシモン、そして俺の手にあるのはブランデーの瓶だ。

本当はコーヒーやチョコレートのリキュールがあればいいが、ウイスキーやブランデーでも美味い事を知っている。

二人はサッと俺の前に器を差し出したが、あとの三人はそのままの方がいいらしく食べ続けている。

お願いされてもジェスにはさすがにかけてやれないけどな。

自分の分も含めてアイスの上にブランデーを垂らし、スプーンで掬ったアイスを口の中に滑り込ませた。

アイスの甘さとブランデーのビリビリとした刺激が舌の上に共存し、飲み込むと食道と胃に冷たさと熱さを同時に感じる。

これこれ、やっぱり美味いな。

「うっわ、何コレ、最高過ぎる……!」

「酒って甘い物にも合うんだな! 知らなかったぜ!」

その後、アルノーとシモンはまたアイスを作る約束をするまで、俺の足にしがみついたまま離れなかった。