軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8.

「あっ、副団長! 早く料理持ってきて団長に味付けしてもらってくれよ! 驚くから!」

現れたのは、副団長のオレールだった。

どうやら外回りから戻ってきたところのようだ。

そんなオレールにカシアスは怒鳴られたのが無かった事のように話しかけた。

「団長に味付け……!?」

オレールは 怪訝(けげん) な顔で俺を見た。

俺が侯爵家の子息という立場上、本来騎士になるために通る下積み時代がほとんどない。

ゆえに調理などというものに縁がないのを知っているのだ。

無駄に大きいカシアスの声のせいで、自分の分の昼食を持ったオレールと共に、この食堂の料理長まで一緒に来た。

その表情は笑顔を保っているものの、プライドを傷つけられて 憤慨(ふんがい) しているとわかるオーラを放っている。

「ジュスタン団長、どういう事ですか?」

副団長のオレールは年齢が十六も上なのに、ラルミナ男爵家の子息なせいか、俺に対して部下の中で一番丁寧な対応をする。

「料理人の腕は悪くないが、調味料が高価なせいで控えめな味付けになっているだろう? それを我々が少しずつ金を出し合って買い足さないかという提案をしていたところだ。たとえばこんな風に……」

他の部下達にしてやったように、塩と胡椒を入れ、バジルも千切って入れてやった。

「さぁさぁ、はやくかき混ぜて食べてみてくれよ、副団長!」

「あ、ああ……」

カシアスに急かされ、オレールは戸惑いながらもスープをかき混ぜて口へと運んだ。

「……ッ!!」

何も言わなかったが、その表情が全てを物語っていた。

すでに味変したスープを飲んだ奴らは、ニヤニヤしながらオレールを見ている。

「あの、ラルミナ副団長私にもひと口飲ませていただけませんか」

おずおずとそう申し出たのは料理長。

普段なら絶対俺達に近付かない人物だが、よほど味が気になったのだろう。

「ああ、今後の料理のためにも味を知っておいた方がいいですよね。いつもとかなり違いますよ」

料理長は用意していたらしいスプーンでひと掬いして口に入れた瞬間、カッと目を見開いた。

「高級な胡椒を使い、味付けが濃い方が美味しいのはわかっていたが……、なんだこの独特の風味! この葉っぱは薬屋に置いてあるのを見た気がするが……」

ゴクリと飲み下すと、ブツブツ言いながら考え込む料理長。

「それは薬屋で売っているバジルだ。他にも薬屋で売っていて使える物をいくつか買ってきているぞ。見るか?」

「ぜひお願いします!!」

「あ、ああ……。では食事が済んだら厨房の方へ行こう」

「ありがとうございます! お待ちしてますね!!」

予想以上に圧が強い。

領主に雇われるくらいの料理人だからこそ、料理への情熱は人一倍なのかもしれない。

「わあぁ……、ジュスタン団長がねぇ……」

「本当だよな、昨日から別人と中身が入れ替わってるんじゃないかって疑っちまうぜ」

昨日俺が泣いたのを目撃したアルノーとシモンがヒソヒソと話している。

今日オレールの指揮下に入って領地の巡回をしていたから、一緒に食堂に来たらしい。

その後、他の奴らもちゃっかり味変をして食べ、調味料へお金を出す事に同意した。

うん、やはり美味しいは正義だな。

食事の後に厨房へ向かうと、緊張した面持ちの料理人達に出迎えられた。

王都全体を守る大所帯の第二騎士団と違って、第三騎士団は五十人程度とはいえ、宿舎には四人の料理人と一人の見習いがいる。

「そんなに緊張しないでくれ。俺もほんの一部を知っているだけで、そんなに詳しいわけじゃないんだ」

「ですが薬草を料理に使うという発想は素晴らしいです! さぁさぁ、こちらに来てご教授願います!」

確かこのハーブを使った調理法って、小説の後半に出てくる聖女が山奥の村で色々試していたのを広めるエピソードがあったはず……。

だけど聖女が登場するまで微妙な料理を食べ続けるのは厳しいもんなぁ、仕方ない、うん、仕方ない。

自分に言い訳しながら、 魔法鞄(マジックバッグ) から買った物を取り出して、調理台の上に並べる。

塩と黒胡椒を出した時点で、料理人達はゴクリと唾を飲み込んだ。

そりゃそうだろう、騎士団長の給金ひと月分の量だからな。

「これがタイム、主に魚料理に使われるが肉料理でも飾りや臭み消しとして使われている。こっちのローズマリーも飾りとしても使われるが、肉料理の下処理ですり込んだり、乾燥してない物を肉と蒸して香りを付けたりする。ローリエは煮込み料理で臭み消しと香り付けだな。バジルは風味付けで色んな料理に使えるぞ」

並べながら説明したら、料理長が一所懸命メモを取っている。

メモを取ってない料理人は、きっと文字が書けないのだろう。

説明を聞いた料理人達が、何か言いたげにソワソワしている中、見習いの少年が口を開いた。

「あのっ、ヴァンディエール騎士団長はどうしてこんな事を知っているんですか!?」

少年の質問に、周りの料理人がよく聞いたと言わんばかりの表情を浮かべた。

どうして知っているかと言われると、前世で家族全員で外食なんてしたらすごい金額になるため、いわゆるカフェご飯というやつを作って外食気分を味わわせていた。

特に母親がオシャレプレートを喜んでくれたから、母の日とか誕生日は必ずハーブを使った料理を作っていたせいだ。

まさか前世の話をするわけにもいかないし、何て言おう。

「教養として色々叩き込まれた中のひとつに、薬草学があったせいだな。毒に対抗するためにも知識は必要だったから、その事を思い出しただけだ」

「へぇぇ~、やっぱりお貴族様はすごいですねぇ」

ま、まぁ、これくらいなら完全に嘘でもないから大丈夫だろう。

身近にある薬草や毒草をひと通り習ったのは間違いないし。

そんな風に料理人達にレクチャーしていた頃、俺のいないところで訓練場での「おにいちゃん」発言を騎士団内に広められていたという事実を知るのは、数日後の事である。