軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5.

「あなた……! ヴァンディエール騎士団長は薬をくださったのよ!」

「なんだと~!? あのクソ騎士団長がそんな……って、ヴァンディエール騎士団長!?」

かなり飲んでいるのか、入って来たかと思うとヨタヨタとバランスを崩しながら歩き、妻の声に反論しながら男はこちらを見て驚きの声を上げた。

「病床の妻と幼子を放置して酒を飲むとはいいご身分だな。お前が酒を飲む金はあっても、妻の薬代はないというのはおかしな話だと思わないか?」

「いやぁ、これはウチの問題ですから、ヴァンディエール騎士団長のような方が気にする事じゃありませんよ~。ウチの事はお気になさらず、お帰りください」

侮蔑の目を向けたが、男はヘラヘラと笑って俺を帰そうとしている。

だが、今ここで帰ったら子供達や母親が酷い目にあう予感しかしない。

「ああ、わかった。その前に少し話をしようじゃないか」

二コリと微笑んだつもりだったが、どうやら悪役補正で恐ろしい笑みになっていたらしく、男の顔が引き攣った。

おかしいな。この顔って悪役だけど、かなり美形なはずなのに。

「おにいちゃん……、おとうさんをつれていくの?」

「ちょっとお話ししてくるだけだ。そうだな……、おとうさんの中にいる悪い虫を追い出すために少し叩くかもしれないが、大きな怪我はしないから安心するといい」

「うん、わかった!」

頭を撫でてやると、クロエは安心したように頷いた。

そのまま大股で父親に近付き、二の腕を掴んで外へと連れ出す。

「お前はどういうつもりなんだ? 家族が大切じゃないのか?」

「へっ、どうせ俺みたいな厄介者は家にいない方がいいってもんだ!」

「厄介者?」

「そうさ、前は職人だったが兵役で魔物討伐に駆り出された時に負った怪我が原因でまともに働けねぇ。アイツが働き過ぎで病気になった姿を見たら、余計に情けなくて酒でも飲まねぇとやってられなかったんだよ!」

どうやらやさぐれているだけで、そんなに悪い人間でもないらしい。

問題は兵役で負った怪我に対する補償も何もない事だな。

「ふむ……、すぐにとは言えないが、領主に兵役での後遺症が残る怪我に対する救済措置を進言しておこう。手が使えなくても足は使えるだろう? 怪我があってもできる仕事を 斡旋(あっせん) する場があるといいな。……とりあえず薬代は子供達に免じて返さなくていい、だが奥方と子供達を大切にしないのであれば後悔する事になるぞ。いつか様子を見に来るからな」

「は、はいっ」

救済措置の話をしたら、男の目に希望の光が灯ったのが見えた。

やっぱり生きていく上でやりがいって必要だよな、戻ったら領主に面会申請でもしておくか。

腕を掴んだまま睨みつけたせいか、男の酔いはすっかり醒めたようだ。

手を離すとへたり込んだ男を放置し、宿舎へと戻った。

騎士団の執務室へ向かい、事務官に声をかけるとわかりやすく飛び上がった。

前はこの必要以上に怯える態度が気に入らなくて、余計にきつく当たってたからだろう。

「辺境伯に面会したいと伝えてくれ。街に行った時に問題を見つけたとな」

「は、はいっ」

事務官は返事をすると、慌てて申請書を書き始めた。

以前は用事があればいきなり辺境伯の執務室に押しかけていたからな、こうして面会申請書を出したら驚かれるかもしれない。

…………俺って相当嫌われてるよなぁ。

嫌がる娘に言い寄る害虫くらいに思われていても不思議じゃない、しかも領地の守りを盾に圧力かけてたし。

気を取り直して部下達の訓練でも見に行くか。

まだ剣を振る事はしなくても、指導くらいはできるしな。

確か今日は 従騎士(スクワイア) から騎士になったばかりのカシアスがいるはずだ。

カシアスはすぐ下の弟に性格が似てるんだよな、そういや年齢も十八歳で同じか。

大きい弟達にはひと通り家事は仕込んであるけど、俺が急にいなくなってちゃんとできてるか心配だ。

訓練場に着くと、騎士達の刃を潰した剣の金属音と、 従騎士(スクワイア) 以下が使う木剣の衝突音が聞こえてきた。

相変わらず第三騎士団にはやさぐれた雰囲気が漂っている。

第一や第二騎士団の連中からは、寄せ集めだの品がないだの捨て駒だの色々言われてるせいだろう。

実力だけで言えばぶっちぎりで勝っているんだから、劣等感を抱く必要なんてないと思うんだが。

これは俺が貴族だからそう思うだけで、ほとんどが平民出身だからこそなのかもしれない。

この辺境伯領に来てからというもの、連日魔物討伐をしているせいか、全体的に腕が上がってきた気がする。

上達する時によくある、次の段階へ進んだというラインを超えた者が増えた。

こういう時は身体の使い方が変わったりするから怪我をしやすい。

「うわぁっ」

「大丈夫か!?」

そんな言葉が聞こえた方を見ると、カシアスが腕から血を流していた。

どうやら刃を潰してあっても斬れてしまったようだ、二の腕から肘をまたいでザックリと切れている。

ダラリと力の入らないであろう下がった腕の傷を押さえているが、ポタポタと血が流れ続けていた。

周りは動きを止めて見ているだけで、俺は思わず駆け寄る。

「おい! すぐに治癒師を呼べ! カシアス、腕を上げていろ!」

「いててっ、こんな傷大したことないから大丈夫」

とりあえず患部を心臓より上に上げて、ハンカチで止血のために二の腕を縛ろうとしたら、カシアスが抵抗しようとした。

「いいからお兄ちゃんの言う事を聞け!」

弟とイメージを被らせたせいで失言したと気付いたのは、凍り付いたように訓練場が静まり返った時だった。