軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

270.

「ちなみに儂の護衛としての仕事は明日からになる。つまりは今は休みというわけだ」

俺の視線の意図がわかったのか、将軍は俺を見てニヤリと笑った。

烈陽(リエヤン) からも聞いていなかったし、元々将軍の迎えは予定外の事だろう。

「将軍に紹介しておこう。都まで護衛として同行するジュスタンとシモンだ。あとここにはいないが、エルフの藍之介という者もいる。そして……ジェスだ」

ジェスの事を何と紹介すればいいか迷ったのか、一瞬間を置いて名前だけ紹介する。

「ほぅ、若様はよき友を見つけられたようですな」

繋がれた二人の手を見て、将軍はニカッと歯を見せて笑った。

よき友と言われて、 峻耀(ジュンヤオ) はいきなり挙動不審になる。

東宮という立場上、気軽に友達を作れなかっただろうから、友達の定義もわかっていないかもしれない。

「友か……、その、ジェスは 我(わたし) の友と言ってよいのだろうか」

普段の少し偉そうな態度と違い、チラチラとジェスの様子を窺いながら独り言のようにボソボソと呟いている。

「一緒に飯食って、一緒に遊んでんだから友達だろ? ジェスは一緒にいて楽しいだろ?」

「うん! 峻耀(ジュンヤオ) と一緒にいるの楽しいよ! あとでこの木彫りで一緒に遊ぶんだ! ね~!」

シモンの問いかけに、ジェスは懐に仕舞った木彫りを押さえて即答した。

そんなジェスの言葉に、 峻耀(ジュンヤオ) は嬉しそうな顔を隠しきれていない。

素直に喜べばいいものの、感情を表に出すなと教育されているのだろうか。

全く隠せてはいないが。

「うむ、屋敷に戻ったら遊ぼう。 我(わたし) の部屋に来るとよい」

二人のやり取りを見て、将軍は好々爺の笑みを浮かべている。

きっと 峻耀(ジュンヤオ) が赤ん坊の頃から見ているせいだろう。

「よかったら若様達もこちらで食べますかな。よいだろう?」

さっきまで絡んでいた潜入している護衛に圧をかけているが、護衛からしたら皇族と一緒に食事するなんて恐れ多いだろう。

将軍はわかってやっているのか?

「ほれ、この 胡餅(こべい) に好きなものを挟んで食べるといい」

そう言って差し出されたのは、俺達も黄鱗帝国に来てからよく食べている、小麦粉を練って焼いた薄い無発酵パンみたいなものだ。

半分に切ってあって、中の空洞に好きな具を入れて食べるのが主流で食べやすい。

実際将軍達の前にある料理は、みんなで食べても食べ切れるか不安になる量が並んでいる。

「後で他にも店で買い食いしたいのなら、食べ過ぎないように気を付けるんだぞ」

「「は~い!」」

「わかった」

ジェスとシモンが元気よく返事をし、 峻耀(ジュンヤオ) は静かに頷いて返事した。

確かにシモンは毒見係として食べるだろうから、二人が他の店で食べたいと言った時のためにお腹を空けておく必要はあるが、明らかに二人と同じ立ち位置で返事したよな。

烈陽(リエヤン) 達も周りにいるし、余程の事がない限り問題はないはず。

「儂のおすすめはこの茄子の肉味噌炒めだ。この町では珍しく庶民の店でも 黒猪(ブラックボア) の肉を使っておる」

「ちょっと離れた山に行けば、黒猪がいるからねぇ。山にはどんぐりやキノコが豊富で、だからこの辺の黒猪は肉が美味くて有名なのさ」

調理が一段落したのか、追加の料理を運んで来た店主が会話に加わった。

運ばれて来たのは、シンプルな肉野菜炒めだ。

確かにここに来てから 猪(ボア) 肉料理が多いと思っていたが、名物だったのか。

さっきから将軍が食べているからと、毒見はせずに食べるようだが、先にシモンがかぶりついた。

「う……っ!?」

ひと口分飲み込んだかと思ったら、シモンがうめき声と共に固まった。

まさか……!

「 美味(うめ) ぇ~!! なんだコレ!? 屋敷でもよく似たやつ食ったけどよ、何か違う!」

「紛らわしい!!」

「 痛(いて) ぇ!!」

俺は即座にシモンの頭に拳を落とした。

こんな時にお約束をするな!

「あははは! ウチのは血抜きの仕方からこだわっているからねぇ。昼は空いてるけど、朝と夜はいつも満席さ!」

店主は誇らしげに胸を張った。

これまで黄鱗帝国を見てきてわかった事のひとつに、庶民は昼食を食べないという事がある。

朝と夜にしっかり食べるが、エルフの側室が来るまでは数日食べられない事も珍しくなかったと 峻耀(ジュンヤオ) が教えてくれた。

道中で藍之介があまりにもありがたがられていたから聞いたのだ。

だからこそ、俺達が城まで護衛を続けたら、皇帝と顔を合わせる事になるだろうと言われた。

皇帝に会うのはまぁいい。

元々滞在許可を取らなければならなかったし、蘭を探すのに手を貸してもらえればなおよし、だ。

ただ、ジェスとシモンはできるなら合わせずに済ませたいところだが。

しかし、城の地下に封印されていると思われる黄龍を助けるためには、城の奥へと入らなければ無理だろう。

峻耀(ジュンヤオ) という伝手はあるものの、現時点で 峻耀(ジュンヤオ) も知らない皇族の秘密に触れれば、こちらの命も危ないのでは。

恐らく将軍は皇帝の命令は絶対、というタイプだろう。

戦っても勝てるかどうか怪しいのに、一戦交えるような事は避けたい。

敵じゃない事をわかってもらうためにも、都までの道中で仲良くなっておくべきだろう。

まずは今夜の夕食で腕を振るうか。