作品タイトル不明
262.
「何も……っ!?」
ジェスに驚いた 峻耀(ジュンヤオ) の口を咄嗟に手で塞ぐ。
「シー……、静かに。問題ない、あれは俺の……従魔だ。今は人化している。手を離すけど、騒がないでくれよ?」
コクリと頷いたのを確認して、そっと手を離す。
『ジェス、この国ではドラゴンだとバレないように気をつけてくれ。神様扱いされて俺と引き離されるかもしれない』
『わかった。ねぇ、その子誰?』
そういえばジェスの前で他の子供を抱き上げた事はなかったな。
ヤキモチを焼いているのかもしれない。
「ジェス、この子はこの国の東宮で、未来の皇帝……ちょっと前のエルネストと同じ立場だな。今はなりゆきで護衛をしているところだ」
「ふぅん。ボクねぇ、お父さんからジュスタンに伝えるようにって頼まれたから来たんだ」
「そうか、えらいぞ。後でシモン達のところに戻ってから聞かせてくれるか?」
「うん! えへへ」
話を聞くため、 峻耀(ジュンヤオ) を膝から降ろして移動しようとしたが、腕を掴まれた。
「もう少し……このままがいい」
「えっと……。あと少しだけだぞ。 雪瑤(シュエヤオ) も心配しているだろうから。ジェス、すまないが、少しだけ待っていてくれ」
「え……っ、うん……わかった」
しょんぼりとしながら返事をするジェスの姿に胸が痛む。
チラリとこちらを見たジェスが、いきなりムッと不快そうな表情を浮かべた。
なんだ?
あ、俺にしがみついている 峻耀(ジュンヤオ) が、俺に見えないと思ってジェスに向かってドヤ顔をしている。
上からだが、見えなくはないんだぞ。
「ジェスも久しぶりだからな。こっちにおいで」
「うん!」
声をかけると、わかりやすく表情が明るくなった。
峻耀(ジュンヤオ) を片方の膝に座らせ、小走りでこちらに来たジェスを片手で抱き上げ、もう一方の膝に座らせた。
いつかの甥姪と同じ状態だ。
アレクセイとアンジェルは元気にしているだろうか。
膝の上に乗ってニコニコと機嫌がよさそうに笑っているジェスとは対照的に、至近距離から睨み付けている 峻耀(ジュンヤオ) 。
「従魔と言ったが、どう見ても人族の子供ではないか。本当に従魔なのか?」
「そうだよ。お母さんもジュスタンの従魔なんだ」
「なんと⁉ ジュスタンよ、そなたは魔物使いだったのか? いったい何の魔物なのだ!」
興奮気味に俺とジェスを交互に見る 峻耀(ジュンヤオ) に、ジェスはドヤ顔で胸を張った。
この様子だと、 烈陽(リエヤン) の事はすっかり頭から抜けているな。
「俺は魔物使いではなく、ラフィオス王国という国の王立第三騎士団の団長だぞ。ジェス達を従魔にしたのはなりゆきとしか言えんな。何の魔物かは……秘密だ」
「なぜだ! 我(わたし) にも言えないのか!」
「ジェスの正体は我が国の極秘事項だと言っておこう。 峻耀(ジュンヤオ) も皇族しか知らない秘密を教えてほしいと言われたら困るだろう?」
「う、う~ん……まぁ……」
峻耀(ジュンヤオ) 自身、皇族の秘密をまだ教えてもらっていないせいなのか、今ひとつピンときていないようだ。
「それと同じだと思ってくれ」
「それならば仕方あるまい。これ以上詮索はせぬ」
「 峻耀(ジュンヤオ) は何歳? ボクはねぇ、十一歳!」
いきなり名前を呼ばれたせいか、 峻耀(ジュンヤオ) は固まってしまった。
それより、今聞き捨てならない事を言ったぞ!
「ジェス、お前……いつの間に十一歳になったんだ⁉」
「えっとねぇ、五日前かなぁ。お母さんがそういえばもう十歳じゃないって」
何て事だ! せっかくのジェスの誕生日を祝えなかったなんて!
しかもジェスは俺が祝えなかった事がどうでもいいような態度だ。
あ、もしかして長寿だから毎年祝わず、十年とか百年単位で祝うとか?
その辺りは部屋に戻ってから詳しく聞こう。
ヘタに 峻耀(ジュンヤオ) の前で聞いて、ドラゴンだと気付かれては困る。
「わ、 我(わたし) も今は十歳だが、あとふた月もすれば十一歳だ!」
我に返った 峻耀(ジュンヤオ) が、ジェスに対抗するように言った。
「そっかぁ、それじゃあボクの方が少しだけお兄さんなんだね」
悪気なくジェスが放った言葉は、 峻耀(ジュンヤオ) にクリーンヒットしたようだ。
みるみる真っ赤に染まる 峻耀(ジュンヤオ) の顔がそれを物語っていた。
周りが年上ばかりだから、色々と思う所があったのだろう。
「ふた月程度で年上ぶるでない!」
「何事ですか⁉」
峻耀(ジュンヤオ) が叫んだせいで、 雪瑤(シュエヤオ) が飛び込んで来た。
そして当然俺の膝に座っているジェスを目撃されてしまった。
「く」
「く?」
峻耀(ジュンヤオ) がオウム返しに言って首を傾げる。
「 曲者(くせもの) ぉ~!!」
「待て 雪瑤(シュエヤオ) ! 曲者じゃない! 俺の関係者だ!」
「わた、私がずっと部屋の前にいたのに、どこから入ったというのですか!? これのどこが曲者でないと!?」
確かにそうだが! かと言って転移魔法の事を言ってしまうのはどうかと思う。
何かいい誤魔化し方はないか!?
動揺しつつも、頭をフル回転させていると、ドタバタと足音が複数聞こえてきた。
「曲者はどこだっ」
声の主は 烈陽(リエヤン) 、そして一緒にいたせいか、シモンと藍之介も来た。
まずは全員を落ち着かせよう。
思わず遠い目をしながら、すべき事を頭の中で計画した。