軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

259.

「俺……私達は黄鱗帝国の事を何も知らないので色々教えていただきたいのですが、ご教示願えますか?」

「よいぞ。それに楽に話して構わぬ。 我(わたし) を助けた時はそのような話し方ではなかっただろう。恩人だから特別に許す」

そう言うと、口を開けて止まっているのでお菓子を口に入れる。

どうやら正解だったらしく、満足そうに咀嚼を始めた。

これは高貴な者にありがちな、対等に話せる相手がいないから、気楽に話してくれる相手を求めているというやつか。

「それじゃあ……東宮は次の皇帝のはずだが、兄弟の一番上なのか?」

「いいや、同母の姉上がいる……らしい。あと母親の違う姉上も二人。兄はおらぬが弟が二人」

シモンと違い、口の中のお菓子を飲み込んでから話す東宮。この辺は育ちの違いだな。

「ん? らしい、とは? 同母の姉とは会った事がないのか?」

「幼少の頃に会った気はするが、皇女の務めを果たしていて、十七歳で、目の下に黒子がある事以外何も知らぬのだ。もう顔も思い浮かべられぬ」

しょんぼりと肩を落とす東宮の後頭部をつい撫でる。

一瞬驚いたように身体をこわばらせたが、すぐに力が抜けたようだ。

「皇女の務めとは? 弟にも会えないほど忙しい公務があるという事か?」

「それすらもわからぬのだ。龍力を持っている皇帝の第一子がせねばならぬ事がある、というのは 少博(せんせい) に習ったのだが、その内容は少博も知らぬとか」

そう聞いた時に思い浮かんだのは、神託の夢の、黄龍の世話をしていた幼さの残る女性。

十七歳と言われれば納得する見た目だった。

烈陽(リエヤン) が黄龍の存在を知らなかったように、まだ真実を知るには幼いであろう東宮も黄龍の存在を知らされていないのかもしれない。

「そういえば、黄鱗帝国には黄龍伝説があるらしいな」

「帝国に来たばかりだというのに、よく知っておるな。 我(わたし) の名は 黄峻耀(ホアンジュンヤオ) というのだが、この 黄(ホアン) という家名は元々 朱(ヂュ) だったのだが、初代皇帝が黄龍と 友誼(ゆうぎ) を結んで国を興す時に変えたと習った」

勉強の成果を披露できて満足したのか、ドヤ顔で説明してお茶に口をつけた。

どうやら 雪瑤(シュエヤオ) が準備した物であれば毒見を必要としないらしい。

それだけ信用しているのだろう。

あ、もしかしてこれまで自分だけが甘やかしてきた東宮が、俺に懐いたからさっき怒っていたのか?

「東宮は黄龍が実在すると思うか?」

問いかけながら、口を開けていた東宮にお菓子をもうひとつ食べさせる。

「う~~~ん……」

咀嚼しながら目を瞑り、腕を組んだまま唸って考え込んだ。

一分ほど考えていただろうか、お菓子を飲み込むと、目と口を開く。

「黄龍かどうかはわからぬが、それに近いモノはいたと思っている。でなければ 我(わたし) のご先祖様が嘘つきになってしまうではないか」

「はは、確かに」

「ジュスタンよ」

東宮が真上を向いて、俺を見上げる。

ジェスと同じ動きで笑いそうになった。

「ん? もっとお菓子が食べたいのか?」

「ち、違う! そうではなくて……。先ほど 我(わたし) の名を教えたであろう」

「ああ、 黄峻耀(ホアンジュンヤオ) と。ちゃんと覚えたぞ」

「では名で呼ぶとよい。許す」

「ふんぐぅっ」

おかしな声は俺でも東宮でもなく、藍之介でもない。

シモンが笑いを堪え切れずに噴き出した音だ。

その途端に東宮がキッとシモンを睨む。

「 我(わたし) が許したのはジュスタンだけだからな! シモンは許さぬ! 藍之介は……許す」

「ありがとうございます」

拗ねたような東宮の態度に、藍之介の口元がほんのりと弧を描いた。

蓮達もそうだったが、エルフは子供を大切にするようだ。

「本当の家臣であれば、不敬となってしまうからな。しかし他国の貴族やエルフで、 我(わたし) の友人となれば問題ないはずだ。 我(わたし) が東宮になった七歳から、誰も 我(わたし) の名を呼ばぬ……」

そういえばラフィオス王国でも、エルドラシア王国でも名前を全く呼ばれないのは陛下くらいか。

エルネストやフェリクスは婚約者や両親から名前で呼ばれていたしな。

もしかしたら陛下でも、友人と個人的に会う時は名前で呼ばれているかもしれない。

まだ十歳なら寝る前に絵本を読んでもらっていてもおかしくない年齢だぞ。

実際末の双子に読み聞かせしている時に、大和と陽向が早々に歯磨きを済ませて布団に入っていたしな。

それなのに七歳から名前を呼んでくれる人がいないというのは、情操教育的にどうなんだ。

「わかった。それじゃあ公式の場以外では 峻耀(ジュンヤオ) と呼ばせてもらおう」

「うむ、それでよい。……ふぁ~……」

峻耀(ジュンヤオ) が小さくあくびをした。

覗き込むように確認すると、すでに目が半分しか開いていない。

瞬きが次第にゆっくりになり、目を閉じている秒数が増えていく。

「もう寝るか?」

「んむ……、まだ…………」

完全に目は閉じられ、呼吸音が寝息に変わった。

しまった。お菓子を食べたのに歯磨きせず眠らせてしまうとは。

そっと指先で 峻耀(ジュンヤオ) の口を開け、清浄魔法をかけた。

これでよし。

「寝室に寝かせてくる」

峻耀(ジュンヤオ) を抱き上げて立ち上がる。

戸の開け閉めも足を支えている方の手で可能だ。

峻耀(ジュンヤオ) の寝室に入ると、 雪瑤(シュエヤオ) が待ち構えていた。

「眠ってしまわれたのですね。では肌着以外を脱がして寝かせてください」

「わかった」

二度目ともなれば脱がし方もわかる。

靴も靴下も脱がし、ベッドに寝かせた。

話し方は皇族らしいものだが、寝顔はただの子供のそれだ。

その間に 雪瑤(シュエヤオ) は脱がせた服を片付けている。

「歯磨きができなかったから、清浄魔法をかけてある。 雪瑤(シュエヤオ) も移動で疲れているだろう? 早く寝るといい」

「お気遣い感謝します。あとはお任せください。おやすみなさいませ」

相変わらず俺には塩対応だ。

これで 峻耀(ジュンヤオ) を呼び捨てにしている事を知ったら、更にキツい対応をされるかもしれないな。

バレていない間は黙っておこう。

「ああ、おやすみ」

さて、部屋に戻ったら今度こそ情報のすり合わせだな。