軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

248.

「これは……見事な城郭都市だな。向こうに馬車乗り場があるようだから行くぞ」

まるでタクシー乗り場の行列のように幌馬車が並んでいる。

幌馬車というには少々隙間がありすぎる気もするが。

「中央へ行くのはこの馬車だよ~! あと四人! あと四人で出発するよ~!」

御者らしき男が客を呼び込んでいた。

どうやら満席になったら出発するスタイルらしい。

今いる場所から見える景色は、ほとんどが農業地帯で、奥には更なる市壁が見えるのだ。

恐らくあの市壁の内側が中央なのだろう。

「俺達も乗る。代金はいくらだ?」

御者に声をかけると、ジロジロと値踏みをするように俺達を見た。

「一人大銅貨一枚だよ」

「わかった。もう一人分払ったらすぐに出発してくれるか? 見ての通り俺達の体格だと満席になった時に窮屈になるからな」

「しょうがないなぁ、払ってくれるのなら構わないよ」

「ではすぐに出発してくれ」

近くに一人行動している者がいなかった事もあり、御者はしょうがないと言いつつ顔をほころばせている。

乗り込むと、座席がない。荷台に直接座るスタイルらしく、八人の乗客がいた。

四人分の料金を払って正解だと思える狭さだ。

俺達を見た途端、先客達は一人を除いて奥へと詰めたので、空いているところに腰を下ろす。

「お兄さん気前がいいねぇ。しかもあっさり騙されるなんてお人好し過ぎじゃない?」

動かなかった旅装束の青年が、ニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。

好奇心が強そうな顔をしていたが、どうやら俺達と話したかったらしい。

「さぁ! 出発するよ! 二時間くらいかかるから、ちゃんと座っててくれよ~! ハイッ」

青年の声が聞こえたのか、まるで誤魔化すかのように御者は声を張り上げて馬車を出発させる。

「ふふっ、俺達はみんな銅貨五枚だったんだよ?」

「そんな事だろうと思った。明らかに俺達の服装を見てから値段を決めていたからな」

「えっ、お兄さんわかってて払ったの!? バカなの!?」

青年の物言いに、シモンが息を飲む音が聞こえた。

シモンの視線の先にいる藍を見ると、明らかに青年を蔑む目をしている。

俺が話を続けているから黙っているが、主である俺にバカと言ったから怒っているのだろう。

美形が無表情で怒ると迫力あるな。

「俺の価値観からしたら、中央に向かうのに一人大銅貨一枚は破格なくらいだからな。黄鱗帝国に来たばかりで物価も知らないから、俺の価値観で判断したまでだ」

そう答えると、なぜか藍が満足そうに頷いている。

ただ騙されただけじゃないとわかって安心したのだろうか。

それにしても、震動が激しい。

騎馬での移動に慣れている俺でも、会話中に危うく舌を噛むところだった。

「なぁ、あんたは何しに中央へ行くんだ? 商人にも見えねぇし、かと言って旅をしているわけでもなさそうだし」

シモンが首を傾げながら聞いた。

確かに商人にしては緩い格好で、旅をしているにしては荷物が少ない。

この国で魔法鞄は成功どころか、大成功している証のようだから、一人旅の人間が持っていたら危険だろう。

「んっふっふ、聞いちゃう? 俺の職業。……遊び回る! それが俺の仕事さ!」

狭いからなのか、両手を上に挙げて告げる青年。

馬車内の全員が何言ってんだコイツ、という目を向けている。

「ああ、もしかして商家のために市場調査をしているのか? 情報収集係か」

「凄い! そんな事がすぐにわかるなんて、お兄さん只者じゃないね! さては商人……じゃない、よねぇ?」

門の列に並ぶ前に剣は魔法鞄に収納してあるとはいえ、騎士団の制服姿の俺とシモンは明らかに商人ではない。

「商人ではないな」

素性がわからない相手に、こちらの身元を話すつもりはない。

これで話を終わらせようとした時、青年が名乗る。

「俺はこの交易都市香蓮府の中央で一番の大商会、『竜門商旅団』の本部所属の 季風(リーフォン) 、 風(フォン) って呼んでくれ」

「旅団なのに本部がこの都市の中央にあるのか?」

「そうさ、大きい都市には必ずウチの店がある。その店から店へ旅団員が商品を運ぶのさ。ここはエルドラシア王国から輸入品も港町から入って来る上、都までそう遠くないし、都よりは税が少ないから最適なんだよ」

「なるほど」

乗客達の目が憧れの眼差しに変わったところを見ると、『竜門商旅団』とやらは本当に大きい商会なのだろう。

風(フォン) は何かを期待するように、ニコニコと笑ったまま俺をジッと見ている。

今度はこちらが名乗るのを待っているのはわかるが、さっき物価もわからないと言ってしまったし、明らかに外国人である俺達は 風(フォン) から見たらいいカモに見えているはずだ。

名乗ったらなし崩し的に食事処や宿まで紹介されてぼったくられてもおかしくない。

海外旅行でよくある話らしいから、警戒して損はないだろう。

風(フォン) の視線をあえて無視していたら、馬車の前の方から女性のうめき声が聞こえた。

「う……っ」

「どうした、大丈夫か!?」

見ると明らかな妊婦が腹をさすっている。

「痛くはないけど、お腹が張って……」

どうやら俺達を警戒して、こちらから見えにくい前方に乗っていたらしい。

まだ臨月ではなさそうなのに、お腹が張るというのは下手をすれば早産の危険があるんじゃないのか!?

せめて毛布を敷けば多少マシになるだろうか。

魔法鞄から寝袋と毛布を取り出す。

「妊婦をこんな激しく揺れる馬車に乗せるな! シモン、お前の毛布も出せ! おい、少し馬車を止めてくれ! 場所を詰めて妊婦をこの上に寝かせろ」

俺の怒鳴り声で御者は慌てて馬車を止めた。

妊婦は恐る恐るこちらへやって来る。

「早産になったら困るだろう。張りが治まってから出発した方がいい。横になるより座った方が楽か?」

「あ、は、はい、今はそんな気が……」

シモンの分の毛布を丸めて背もたれを作り、即席の座椅子にする。

「これで多少マシになるだろう。座るといい」

「ありがとうございます」

「さっすが団長! けど妙に手慣れてねぇ? どっかに隠し子でもいんの?」

六歳の頃から 母親(妊婦) の手助けをしていたから、などとは言えず、代わりにシモンの頭に拳を落としておいた。