軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

227.

「お食事の準備ができましたので、食堂の方へいらしてください」

「わかった」

茅が呼びに来た事により、シモンとジュスタンの手合わせが終わった。

結局身体強化を使わずしてジュスタンの圧勝という結果だ。

「くっそぉ! 団長が覚えてる頃のオレより強くなってるから、一本くらい取れると思ったのによ!」

「確かにタレーラン辺境伯領にいる時に成長していた奴は多かったな。シモンもその内の一人だったのは覚えている。実際、あの頃より腕は上がっていた」

「だろ!? スタンピードやら邪神討伐やら、いつもよりギリギリの命のやり取りが多かったからな!」

ドヤ顔で胸を張るシモン。

そんなシモンにジトリとした目を向けるジュスタン。

「おい、それは俺も参加していたのだろう? だったら俺も同じだけ強くなっているとは考えないのか。訓練を怠っていなければ、記憶がなくとも身体が動くはずだからな」

「……あっ」

この時の俺とジュスタンは同じ表情だったと思う。

「まぁいい。シモン、食堂に案内しろ。説明して行かなかったという事は、お前が知っているんだろう?」

茅との短いやり取りでそれだけの事を把握したのか。

わかっていたけど、やっぱり洞察力とか、結構いいスペック持ってるよな。

俺も元々頭は悪くない方だと思うけど、ジュスタンになった時は思考がクリアというか、思考速度が上がっていた気がする。

「屋敷の入口はこっちだぜ。ジェス達はどうするんだ? 一緒に行くか?」

シモンに聞かれて、ジェスが一度俺とジャンヌに視線を向けた。

念話を使わなくても、何が言いたいのかわかる。

「ううん、ボクとお母さんはどうせ食べないからこの辺りにいるよ」

「そっか、わかった。じゃあ団長、行こうぜ」

「ああ。食事の間にさっき途中だったこれまでの話を聞かせてもらおうか」

「了解~」

シモンとジュスタンが屋内に入って行くと、ジェスとジャンヌの視線が俺に向いた。

さっきまではあえて気付かれないように、視線を向けないようにしていたからな。

食堂の位置的に、屋敷の周辺であれば引っ張られたりはしないだろう。

『ジャンヌは蘭がどの辺りにいるか把握してる?』

「うむ。先ほど蘭が外に出ようと結界に触れたからの。やはり計画が失敗したゆえ里から逃げようとしておったようだのぅ」

『問題は蘭がこの後どう出るかだな』

「ふぅむ……。ああいう者が次の手を考えるとしたら、誰かを人質にして結界を解除させるか、もう一度魔法陣を発動させて誰かの身体を乗っ取る……と言ったところか」

ジャンヌが顎に手を当てて考え込んでいる。

恐らく脳内で蘭の行動をシミュレーションしているのだろう。

腕を組み、少し考えてからジェスが口を開いた。

「お腹空いたら出て来ないかなぁ」

『ははっ、そうだな。突然飛び出す事になったから、食料なんて持ち出せなかっただろうし、もしかしたら勝手知ったる黒狼の集落に戻って……って、そうだよ! 黒狼の集落全体にこの事って知らせてないよな!? 藍と菊もこっちに来ているわけだし! こうしている間にも、蘭が黒狼の誰かの身体を乗っ取っていたりは……』

「主殿、落ち着くがよい。蘭は身体を乗っ取る相手を厳選しておったように見える。恐らく主殿がいなければ、今頃藍の身体に乗り移って……ほれ、フレデリクとかいう王族が謀反で国王となった国を好きにする気であったろうよ。主殿の身体を狙ったのも、妾達が従魔であるからこそゆえ……愚かな事にな」

そう言ってジャンヌは冷笑を浮かべた。

『けどさ、もしかしたら黒狼の誰かを人質にしていたりしないかな? 心配だから藍達が黒狼の集落に戻る時に同行したいところだけど、ジュスタンが行くと言うか……』

「あははっ、ジュスタンがジュスタンって言ってる」

ジェスが笑いのツボに入ったのか、笑い出した。

確かに、今の俺はジュスタンの姿なわけで、自分の身体の事を名前で呼んでいるのは変だろう。

けど、現状ではそれこそ小説に出て来たキャラクターって感覚なんだよなぁ。

この透けた自分の身体が銀髪なのも変な感じがして仕方ない。

むしろ身体から飛び出た時より、違和感が大きくなった気すらする。

……ひとつ、嫌な予感が脳裏を過ぎった。気のせいだと思いたいが。

身体から出ている時間が長くなれば長くなるほどジュスタンとしての自覚が薄くなるという事は、身体に戻れなくなる可能性が高くなる……なんて事ないよな!?

鼓動を感じないはずの魂状態だが、心臓が早鐘を打っている気がする。

『なぁジャンヌ、どうにかしてジュスタンを黒狼の集落へ誘導できないかな』

「できるかできないかで答えるならば、できる。蘭が黒狼に現れると予想していると言えば、向かうのではないか? 無くした記憶を取り戻すためにも、蘭を捕まえて聞いた方が早いと言えばな」

『確かにジュスタンの性格ならそう言いそうだな。記憶を取り戻したくないと思うような余計な事をシモンが吹き込んでいないといいんだけど』

急に不安になってきたな。

こっちの作戦会議も必要だったが、シモンがどんな説明をしているのか確認しておくべきだったかも。

とにかく萌が早く戻って来てくれるのを願うしかないか。

そんな俺の願いもむなしく、萌が世界樹から戻って来たのは三日後の事だった。