軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222.

「ボクの事わからないの……?」

困った顔で見上げるジェスに、ジュスタンが一瞬たじろいだ。

「おいシモン! この子供は誰だ!」

「あ、ジェスの事覚えてないのに、身体が覚えてんのかな? 前の団長なら『お前のようなガキは知らん!』とか言って突っぱねてたはずだぜ。ジェスは団長と従魔契約してるドラゴンだよ。ジャンヌもだけど」

「は……? 従魔契約? ドラゴンだと!?」

今度はジュスタンが呆然としている。

伝説の存在と従魔契約しているわけだからな、しかも親子と。

「とりあえず状況を整理するために客間に戻りましょう。蘭、見聞きした事を詳しく教えてくれるな?」

「うん……、わかった」

しょんぼりとしながら頷く蘭。

知らなければ騙されそうなしおらしい態度だ。

全員がさっきいた客間へと移動する。

ジュスタンもシモンが状況を把握していると思っているからか、大人しくついて行った。

『どうせまた嘘を並べるだけのくせに! ジャンヌ、俺のこの状態を説明するかはともかく、蘭の嘘を暴いてくれないか?』

『あいわかった。元々あの者は実力を隠しているようであったから何かあるとは思っていたが、やってくれるわ』

『あのねぇ、ジュスタンの身体の方はボクを覚えてないし、念話が届かないみたいだよ。なんでだろ?』

『たぶん……従魔契約した時の記憶がないから、そのせいで繋がりが薄れたと感じてるんじゃないかな。けど、その代わり俺がこうやって二人と会話できるのは嬉しいな』

移動中にそんなやりとりをしていたら、ジェスがクスクスと笑い始めた。

『どうした、ジェス?』

『ううん、ジュスタンの話し方がいつもと違うから面白いだけ』

そういえばそうかも?

口調とか前世の状態に戻っている気がする。

ジュスタンの身体の時は普通に偉そうに話していたのに、今の俺が偉そうに話すのは何か変な感じだ。

客間に戻ると、ジュスタンは床の間や畳などの内装を珍しそうに見回し、不機嫌さを隠そうともせず、腕を組んだまま口を開く。

「椅子はどこだ。まさか床に座れと?」

「どうしました? 先ほどまで普通に座っていたではありませんか。とりあえずお座りください」

状況を知らない藍は、いきなり態度が変わったジュスタンに、戸惑いながらも席を勧めた。

シモン達が先ほどと同じ座布団に座っているから、当然空いているのは藍の前。

ジュスタンはムッツリと不機嫌そうにしながらも座った。

「さぁ蘭、何があったか説明してもらおう」

ジロリと藍に睨まれ、蘭は目に涙をためた。

「部屋に来たと思ったら突然様子がおかしくなったの……。本当に私は何もしてないよ!」

「それにしては設置された魔法陣が発動した痕跡があったのはどういう事であろうの? あきらかにそなたの魔力であったが、それも説明してもらおう」

ジャンヌがそう言った瞬間、蘭の表情が一変し、部屋を飛び出して行った。

『逃げられるぞ!』

『主殿、とりあえず山から出さねばどうとでもできるゆえ、慌てるでない』

そう言ってジャンヌは軽く手を動かし、余裕の表情を崩さない。

ジャンヌ以外の者は、突然の出来事に呆気に取られている。

「いったい……何が……」

蘭が出て行った廊下の方を見たまま、藍がそう漏らした。

「妾も何が起こったのか正確に把握しておらぬが、主殿に蘭が何かをしたというのは間違いなかろう。長であれば何かわかるかもしれぬ」

「あの女を捕まえた方が早くねぇ!? このままじゃ逃げられちまうぜ」

シモンが今にも飛び出そうとしていたが、ジャンヌがニヤリと笑った。

「シモンよ、エルフの里に来て最初に妾が何をしたか覚えておるか?」

「え……っと、古い結界を壊して里に入った……?」

「うむ、その後妾が結界を張り直したであろう?」

「そういえば……」

「つまりは出入りの制限は妾が決められるという事だ」

ジャンヌの言葉に藍が瞠目した。

「結界を壊したとはどういう事ですか!? 結界は長が張っていたはず!」

「古い結界ゆえ妾が通る時に壊してしまってのぅ、代わりに張っておいたのだ。萌に比べれば妾なんぞ小娘に見えるかもしれぬが、ドラゴンとしての能力は備わっておる」

いや、見た目的には圧倒的にジャンヌの方が大人だぞ。

それともエルフやドラゴンでは人族の外見年齢とは別の見方をしているのだろうか。

そういえば、今の俺の状態なら飛んで蘭を探しにいけるんじゃないか?

試しに壁をすり抜けて外に出てみた。

へぇ、やっぱりすり抜けられるんだ。

上空からなら見つけられるかもしれない、空を飛ぶ感覚は何とも言えず楽しい。

けど、数メートルの位置で上昇が止まった。

もしかして本体から離れられる距離が決まっているのか?

検証の為に地上に近付いてから家から離れてみる。

やはりジュスタンの身体を中心に十メートル程度しか離れられないようだ。

仕方なく客間に戻ると、長を呼んで発動した魔法陣の跡を見てもらう事になっていて、菊が呼びに行った。

長が来るまでの間、シモンがジュスタンにタレーラン辺境伯領からの出来事の説明を始めている。

「んで、その子供達のためにハチミツの入ったパンケーキを作ってさ」

「パンケーキだと!? そんな物、俺が作るわけないだろう!」

「でもさ、パンケーキはないかもしれねぇけど、今もその魔法鞄に入ってるはずだぜ。ジェスのおやつ」

そう言われたジュスタンは、魔法鞄に手を入れて中の物を確認し始めた。

「そんなバカな事が…………」

「な?」

ドヤ顔のシモンの目の前で包みの端がスルリと滑り落ちる。

魔法鞄から出されたジュスタンの手にあったのは、ラフィオス王国を出る前に小分けにして入れた、小さいふわふわパンの包みだった。