軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

212.

転移魔法陣で里の中階層に戻り、急ぎ足で萌の家に戻る。

早くしないと動いていたら、蒸らしている間の水滴が炊き立てご飯に落ちてしまうからな。

到着してすぐに清浄魔法をかけて清潔にしたら、お皿と塩を準備してもらった。

そして炊き上がりから十分が過ぎて蓋を開ける。

「うん! いい感じだ」

しゃもじがなかったので、木べらを代用してほぐし、数粒口に放り込む。

噛めば噛むほど甘味を感じる、普段食べていたジャポニカ米と大差はない。

どうしよう、泣きそうだ。だが、ここで泣いたら確実に色んな意味で心配されてしまうだろう。

落ち着くために大きな深呼吸をひとつ。

「すぅ……ふぅ~~~……。成功だ。食べやすくおにぎりにするから待ってくれ」

「おにぎりとは何じゃ?」

「手に塩を付けて握るんだよ。塩が米の甘味を引き立ててくれるから美味いぞ。手掴みで食べられるから、農作業の合間にも食べやすいんだ」

「ほぉ、それはよい事を聞いた」

そうか、萌達はあのお粥みたいな食べ方しかしていないから、おにぎりという物が存在しないのか。

それにしても、味噌や醤油はあるのにご飯の炊き方を知らないなんて、妙にちぐはぐな感じがする。

もしかして、ここもラフィオス王国みたいに小説の世界と関係していたり……いや、まさかな。

ちょっとだけ、聖女がハーブを使って飯テロ無双する状況と似ていると思っただけだ。

エルドラシア王国の魔物襲撃が俺達がいなければもっと大規模になって、それを鎮圧するために国外から応援が来て、その中に炊飯の知識があって教える主人公ポジションがいたなんて事あったりして。

ははっ、そんなわけないか、ないない! こんな妄想するなんて、本の読み過ぎだな。

濡らした手に塩を付けて延ばし、おにぎりを握っていく。

「あちちっ」

炊き立てだから剣ダコがない部分がすぐに赤くなる。

「ふむ、自力ではまだ引き出せておらぬようだのぅ」

ジャンヌが軽く手を動かした次の瞬間には、全く熱さを感じなかった。

「どういう事だ?」

「妾達の熱耐性を共有したまでよ。邪神討伐の時も魔力を共有した事があったであろう。それと同じようなものと思えばよい」

「邪神じゃとっ!?」

なるほど、と返事をしようとしたら、萌の大声に遮られた。

邪神に関してはシモンでもジャンヌでも答えられるだろう。というわけで、俺はおにぎりを握る事を優先する。

「邪神はもうオレ達が討伐したから心配ないぜ?」

「ほぅ、シモンも参戦したのか。伝承で存在は知っておったが、よくぞ討伐できたものじゃ。見事である!」

「ジャンヌとジェスが協力してくれなかったら、聖女がいても勝てたかどうか怪しいくらいギリギリだったけどな!」

シモン達が話している間に、熱耐性のおかげで手際よく全てのご飯をおにぎりに変えた俺は、底に残ったおこげをバリバリと食べた。

「んん、美味い。やっぱり焼きおにぎりも作りたいな……。けどまたあの作業を今からは無理だ」

「ジュスタン、何食べてるの? それもお米?」

ジェスが俺の服の裾をクイクイと引っ張って見上げてきた。

「ああ。これはおこげと言って、お米が少しだけ焦げてパリパリになった部分だ。美味しいぞ、ほら」

おこげの欠片をジェスの口に入れると、目を瞑ってバリバリといい音をさせながら咀嚼する。

音が聞こえなくなったかと思うと、ジェスがカッと目を開いた。

「美味しい! 何コレ!? 香ばしくて、歯応えもあって、ジュスタンの魔力がパンよりギュッっと入ってて……! でもおにぎり? こっちもつやつやしてて美味しそう!」

「おお! できたのじゃな! では食堂へ行って食そうではないか! 早(はよ) ぅ!」

萌がイソイソと先陣を切って、昼食の時に使った食堂へと向かう。

早く食べたいシモンとジェスも続き、俺もおにぎりの載った大皿を手に後をついて行く。

ジャンヌも何気におにぎりに視線が釘付けだ。おにぎりに入っているという俺の魔力が見えているせいかもしれない。

食堂に到着すると、昼と同じ席に座り、各自が手に清浄魔法をかけた。シモンはジェスに頼んでいたが。

「ではいただくとしようかの」

「「「「いただきます」」」」

今世初めてのおにぎりに噛り付き、文字通り噛み締める。

う、美味い……! 絶対買い取らせてもらわないと! 交渉のカードは米の炊き方も犯人がこの里にいる可能性を……って、そうだよ、フレデリクを殺した奴を探すのが目的だった!

つい目の前の米に心を奪われてしまった。

幸い、シモン達も珍しい物が多くて一緒になって忘れているから何も言われていないが、本来の団長としての行動であれば職務放棄も同然だ。

「うん、美味い! けど、団長があれだけ夢中になるほど美味いとは思わねぇな」

「ボクはとっても美味しいと思う! もうひとつ食べよっと」

「うむ、うむ、これは唐揚げと並ぶ美味さ……、いや、それ以上かもしれぬな。やはり主殿が手をかけた分美味しくなるというもの」

シモンは期待値より下だったようだが、それでも三人共満足そうに食べている。

萌はさっきから黙っているが、どうしたのだろうか。

そう思って視線を向けると、ひと口分だけ手に持ったまま俯いてプルプルしていた。

いきなり顔を上げたかと思うと、そのひと口分のおにぎりを掲げる。

「な、な、な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!!」

「どうしましたか、長っ!」

萌のいきなりの叫び声に、廊下に控えていたであろう蓮達と茅が食堂に飛び込んで来た。