軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

209.

円柱形の壁に沿って周りが堀になっていて、数ヶ所に小さな橋と階段があって上の階層に上がれるようになっていた。

ひとつの段の高さは二階建ての家くらいだろうか。上の階層に住んでいたら、足腰が強くなりそうだ。

標高二千メートル以上ありそうだが、涼しい風が吹いて気持ちがいい。

「団長! 飛んでる! エルフが飛んでるぜ!」

シモンがいきなり大きな声を出して空を指差した。

見上げると、身ひとつで空を飛ぶエルフの姿。

「ああ、エルフは風魔法が得意な奴らが多いからのぅ。魔力量の多い者はああやって風魔法で飛んで移動するのじゃ。この集落では能力が高かったり、魔力量が多い者ほど上の階層に住んでおるのは、飛んで移動できるからというのもある」

「へぇ~、すごいんだな」

「ボクも飛べるもん!」

シモンが感心したように漏らすと、ジェスが対抗するように言った。

「ははっ、わかってるって、ジェスはオレを乗せて飛ぶこともできるもんな! そっちのがスゲェよ!」

「えへへ」

褒められて誇らしげに笑うジェスにほっこりする。

「下の階層には畑がほとんどだったが、上の階層の住人は普段何をしているんだ? この階層は……店が多そうだが」

一番下の三段目には、ほとんど畑や田んぼで、その隙間に数軒ずつ家が建っている状態だった。

二段目に上がると、市場か商店街のような雰囲気だ。

遠くから見たら三段ウエディングケーキの上に世界樹が生えているような見た目なんだろうな。

ただ、遠くから見ようとすると認識阻害の結界で見えなくなるというのが残念だ。

「そうじゃのぅ、確かに中層は商人のような役割をする者が多いと言えよう。または技術者的な者かの。上層は住んでいる者が少のぅてな、基本的に里を管理する立場の者とその家族……と言ったところじゃな」

確かに上まで行くのにそれなりに時間がかかるから、風魔法で飛べないと毎日出かけるなら大変かもしれない。

明らかに余所者で、しかも人族を連れているせいか、遠巻きに観察されている視線が絡みつくように感じる。

恐らく先頭を歩くのが長の萌でなければ、大変な事になっていただろう。

ちなみに時間差で転移して来た蓮達も監視していると主張するような視線だ。

「萌は長なんだから、当然世界樹の近くに住んでいるんだろう?」

「お前! 長を呼び捨てにするとは何事だ!」

萌の返事より早く、蓮が怒鳴った。

「よいよい、仮にもドラゴンの親子と従魔契約するような男じゃぞ。蓮の方が敬意を払わねばなるまい。それに……、人から名を呼ばれるのはいつぶりじゃろうな。もう誰もわらわの名を呼んでくれんからのぅ」

「く……っ、わかりました」

寂しそうな萌の言葉に、蓮は悔しそうにしながらも承諾した。

いつから長になったのか知らないが、エルフの年齢を考えると十年や二十年どころじゃないだろう。

「気軽に話せる相手はいるのか……?」

口に出すつもりがなかった言葉が、うっかり漏れた。

「ふふ、心配してくれておるのか? ジュスタンは優しいのぅ」

「団長が優しい……!? ムグ」

振り返ると、目が合った瞬間シモンは慌てて自分の口を手で塞いでいる。

これまで散々優しくしてやって……は、いないか。シモンには。

世界樹の周りに清水が湧き出る泉の周りに平屋の家が十数軒建っているが、数軒ボロボロになっているのを見ると空き家のようだ。

「はぁはぁ、何か……、息切れするのが 早(はえ) ぇ気がする」

階段を上り切ったところでシモンの息が乱れていた。

「ジャンヌを探しに行った時も多少空気が薄かっただろう。エルドラシア王国に来た時は暑さでバテやすかったが、ここの場合は高所で物理的に空気が薄いからな」

「慣れぬ者では辛かろう。ほれ、ここがわらわの家じゃ。ゆっくり休憩するがよい」

世界樹に一番近い家がそうらしい。

完全に造りが田舎のおばあちゃんの家、といった風情だ。

入ると土間になっており、通路の奥にかまどらしき物が見えるから台所なのだろう。

案内されたのは琉球畳の客間に見える。

萌の世話係という女性が出してくれたのはコーヒーで、俺以外は砂糖とミルクを要求した。

コーヒーが出た事により、話は自然とエルドラシア王国の王都に現れたコーヒー豆の卸し業者へと。

芋づる式に王都での先代魔塔主や死んだフレデリクの話も話すと、萌は難しい顔をしたまま人差し指でこめかみをグリグリと解した。

「ううむ……、それは恐らく 黒狼(こくろう) の連中じゃろうて」

「黒狼? そういえばさっきも誰かが言っていたような……」

「黒狼というのは、この里を飛び出した者達の派閥じゃ。エルフのための国を興すために、人族の王国を乗っ取るべきなどと世迷言をぬかしておったわ。ちなみに隣の部屋におる蓮は 白狼(はくろう) という派閥の 頭(かしら) で、発展のためにある程度は外界と交易すべきと言っておる。どちらも五百歳に満たぬ若者ばかりじゃな」

「五百歳以下で若者……」

でも確かにここに来るまでに見た目が老人というエルフはほとんど見なかった。

見た目年齢なら間違いなく若者だろう。

「十数年前に飛び出して行きおってな、この山のどこかで暮らしておるのはわかっておるんじゃが……。長老派閥は何せこの里の結界から外に出たがらぬ者達ばかりでのぅ、探しに行こうとせんのじゃ。白狼の連中は元から連れ戻す気もない上、わらわが行こうとすると反対するのじゃ」

そこから萌の愚痴が垂れ流されたが、この里唯一のハイエルフの萌は、半分神様扱いされて気軽に結界から出られない事がわかった。

いつまでその愚痴が続くのかとうんざりし始めた頃、昼食の準備ができたと世話係が呼びに来た。

約束通り米が食べられる事に、俺の胸は期待に膨らんだ。

ちなみに見かけたエルフの女性は全員、イメージ通り萌に負けず劣らずのスレンダーボディだと思ったのは、間違っても口に出してはならない。