軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

206.

「ふん、 妾(わらわ) に矢など……」

これまでと同じく羽虫を払うようにジャンヌが手を動かすと、今回は暴風と表現するのが相応しい風が吹き荒れた。

こちらに向かって飛んで来ていた矢も吹き飛ばされ、木を蹴って落ちる虫のように人も三人落ちて来た。

「「「うわあぁぁぁっ」」」

「うるさい奴らよ」

呆れたように呟くジャンヌが再び手を振ると、上昇気流のような風が吹いて三人の落下速度がゆるやかになり、落ちた。

勢いが殺されたとはいえ、五メートル以上の高さから落ちたせいで呻きながら必死に立ち上がろうとしている。

「うおぉぉぉ! 団長! あの耳、エルフだぜ! エルフ!! うっひょー! 初めて見た!!」

「見ればわかる。うるさいから口を閉じろ」

緊張感の欠片もなく騒ぐシモン。

俺も内心同じように騒ぎたいくらい興奮しているが、シモン達がいるからそんな姿は見せられない。

しかもエルフの恰好が、明らかに和風なのだ。時代劇で見た侍の旅装束が確かこんな格好だったような気がする。

もしかしてエルフが日本文化みたいな生活をしてるとか……。つい期待してしまう。

「ぐ……っ、人族め! どうやってここに来たんだ! さっさとここから立ち去れ!」

三人の内のリーダーらしきエルフの男がプルプルしながらも立ち上がり、吠えた。

それにしても、三人共金髪緑眼な上、整った顔をしているせいで服装と髪型でしか見分けがつかないくらい似ている。

「ここへは普通に山を登って来たんだが、麓のエルドラシア王国の王族を殺したと思われる奴を探しに来たんだ」

「二重に認識阻害の結界が張ってあったんだ! 本来なら人族ごときがここまで来れるはずがない! いったい何をした!」

本当の事を言っているのに、エルフは興奮したまま怒鳴り続けた。

それにしても、途中で結界なんてあったか?

認識阻害という事は、無意識にエルフに近付かないようにしていたのだろう。

「ジャンヌ、俺は結界の存在に気付かなかったのだが、そんな物あったか?」

「なんだと!? そんなはずは……」

「今にも崩壊しそうな脆弱な結界はあったが……、まさかそれの事かの?」

「人族ごときが我らエルフ族を愚弄するか!」

何というか、人族を下に見ている高慢なエルフの見本みたいな奴だ。

ジャンヌとジェスの事もすっかり人族だと思い込んでいるようだが、エルフでも見分けがつかないのか?

ジャンヌの機嫌が急降下しているから、そろそろ黙ってほしい。

「先ほどから人族ごとき人族ごときと……、 主殿(あるじどの) を愚弄する事は妾が許さぬ! 人族と人化したドラゴンの違いにも気付けぬ 小童(こわっぱ) が!!」

ジャンヌがそう叫んだかと思うと、聞き覚えのある鳴き声のような竜化の呪文が辺りに響き渡った。

咄嗟にジェスを抱き上げ、シモンの首根っこを掴んでその場を離れる。

「「うわぁっ」」

「ヒイッ」

「ドラゴンだと!?」

ジャンヌが急に竜化したせいで、エルフだけでなくシモンも驚きの声を上げた。

これ、俺が急いで離れてなければ潰されてなかったか!?

十メートル四方の木々も薙ぎ倒されてしまっている。

「ジャンヌ、落ち着け! これ以上森林破壊をするんじゃない! しかも結界を壊したのなら、麓からもここが見えているんじゃないのか!? 騒ぎになるぞ!」

俺の言葉にジャンヌだけでなく、エルフ達もハッとしたようだった。

実際は多少木が倒壊したところで、一日以上かかるこの場所まで様子を見に来るようなもの好きはいないだろう。

「 荘(そう) 、 長(おさ) に報告するんだ!」

『ひと暴れしてやろうと思うたのに……、主殿が止めるのなら仕方ない』

一人のエルフがこの場から離脱するのと同時に、ジャンヌが人化の呪文を唱えた。

再び人族の姿になったジャンヌを、残ったエルフの二人が呆然と見ていた。

そしてふと気になった事を聞いてみる。

「なぁジャンヌ、もしかして……、途中でこういう仕草をしていたのは羽虫か何かがいたわけではなくて、結界を壊していたのか?」

「あれがあると主殿達が歩きにくいゆえ、壊した。古すぎて放っておいてもあと数年で効果がなくなる程度の物なれば大して問題なかろう」

「そんなわけあるか! あの結界は長が千年以上前に張った物だぞ! ずっと我らの里を守って来たんだからな!」

勢いよく吠えてはいるが、明らかに最初より大人しい。

犬に例えるなら、尻尾を腹側に丸めて吠えている状態といったところか。

「千年前か、なればあれほど簡単に壊せたのも納得よのぅ。魔力は多そうだが、中身はジェスより幼いのではないか?」

「ジェス?」

「ほれ、ここにおる我が子よ」

「ボクがジェスだよ!」

俺の陰に隠れていたジェスがひょっこりと顔を出すと、エルフの二人は驚いたように目を見開いた。

「ジェスは……何歳だ?」

「ボクはねぇ、十歳だよ」

「十歳……、私はそんな幼子に矢を射かけていたのか……」

リーダーらしき男は震える手で口元を覆うと、一歩、二歩と後ずさる。

「いや、それでも木々の損傷と死体の処理が面倒だからと、追い払う事にしてよかった。もしもそのまま魔法で消し去っていれば後悔どころじゃなかったからな」

もしかして、よくあるエルフの設定通りに、子供が珍しいのだろうか。

「ふん、そなた程度の魔力であれば、妾がどうにでもしておったわ」

バチバチと火花か見えそうなくらい睨み合うジャンヌとリーダーらしき男。

とりあえずこいつらの態度からして、フレデリクにとどめを刺さした奴とは別人だと思う。

色々聞きたい事があるが、この状態で話しが聞き出せるのだろうか。