軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

194.

エルネストの部屋の前に到着し、ノックをする。

「エルネスト様、ヴァンディエールです。少々お時間よろしいでしょうか」

『あっ…………入ってくれ』

何かぶつかるような音が聞こえたような……。

「失礼します」

ドアを開けると、中にはバスローブを着た濡髪のエルネストがいた。

もしかして風呂の途中だったのだろうか。

「この時間に珍しいな。何かあったのか?」

「何かあったと言うか……。情報を得たので共有と、その事をフェリクス王太子にもお伝えしたく、場を設けていただければと。ですが……、出直しましょうか?」

話している最中もエルネストの髪からポタポタと雫が落ちていて気になる。

「いや、こんな格好で悪いが、聞かせてくれ。お茶を準備させよう」

エルネストはそう言うと、部屋にふたつ置かれたベルの片方をチリンと鳴らした。

「隣室に侍従はいませんよね? 今ベルを鳴らしても聞こえないのでは?」

「これは魔導具だそうだ。ふたつあるのは今鳴らした方はお茶の準備、もうひとつは他の事で呼び出す時に使うらしい。しかも対になっている魔導具で、どの部屋で鳴ったかわかると言っていた。まだ輸出されていない魔導具だから、エルドラシア王国にしかないらしいが……今後は手に入るかもしれないな。そうなったら侍従達の仕事も楽になるだろう」

確かに、離れたところでベルが鳴ったのがわかるのなら、常に隣の部屋に侍従や侍女が侍る必要はなくなるからな。

しかも種類を分ける事によって、用件を聞きに来てからお茶の準備をしに行くというタイムロスもなくなるというものだ。

ぜひともこの魔導具はラフィオス王国に持ち込みたい。

だが、今はポタポタと落ち続ける雫が気になる。

エルネストが仕草でソファへと促してきたが、座らずエルネストの隣に立った。

「話をしながらでいいですから、タオルを貸してください。そのままでは風邪を引きます。私のせいでエルネスト様が風邪を引いたとなっては、クラリス王女に叱られるのは私ですからね」

俺がそう言うと、エルネストはキョトンとしてから目を瞬かせると、いきなり笑い出す。

「くっ、あはは! まさかジュスタン団長にそんな事を言われる日が来るとはな! タオルはそっちの浴室の中に積んであったぞ」

笑われながらも、俺は部屋の奥の浴室へとタオルを取りに向かった。

まぁ、以前の俺なら間違ってもこんな事は言わなかっただろうさ。

むしろ風邪を引くように仕向けていたはず。

だが、今は責任者であるエルネストが風邪を引いたら、その責任は第一の副団長ではなく、第三とはいえ団長の俺に回って来るだろうから絶対にそれは避けなければならない。

浴室にもあちこちに魔導具と思われるものが置かれている。

じっくり見たいところだが、今は諦めよう。

タオルを一枚手に取り、エルネストの所へ戻った。

「失礼します」

ソファに座っているエルネストの背後から頭にタオルを被せ、小さい弟達にしてやっていたように髪を拭く。

そういえば、ジェスは清浄魔法を使うし、こうして誰かの髪を拭くのは久しぶりだな。

エルネストの髪はまるで小さい子のように細い。

乱暴に拭いたら傷みそうで、気を付けながら拭く。

「なんだか手慣れているな……。新人の侍従なんかよりずっと上手いぞ」

エルネストは何気なく言ったつもりだろうが、ドキッとした。

「そ、そうでしょうか……」

「ああ。これまで夜を共にした女性にもしてきたのか? ジュスタン団長は女性経験豊富だと聞いた事があるしな」

「ッ!! 一体誰がそんな事を!?」

あいつらか!? だとしたら部屋に戻ったら後悔させてやらないとな。

「第一騎士団の中でも、ジュスタン団長と同年の者が結構詳しいみたいだな。すぐに複数の令嬢の名前があげられていたぞ。学院時代からそうだったとか。まさか今でも……なんて事ないだろう?」

「ありません。それに今は婚約もしてますからね」

「確かに……、タレーラン辺境伯領以降は全くそういう話を聞かなくなったな。本当に何があったん」

エルネストが話している途中でドアがノックされた。

『お茶をお持ちしました』

「入ってくれ」

「失礼いたしま……す」

一瞬メイドが俺達を見て固まった気がする。

「二人分淹れたら下がってくれ」

「はい、かしこまりました」

エルネストは気付いていないようで、指示を出して大人しく髪を拭かれている。

視線はこちらを向いていないが、視界に俺達を入れているのがわかった。

そうか、俺がエルネストの世話をしているから驚いたのか。

俺が伯爵で団長をしているのは情報共有されているはずだが、その俺が 従騎士(スクワイア) のように人の世話をしているんだからな。

タオルで拭きとれる水分はこれくらいで限界かな。髪をひと掬いして乾き具合を確かめた。

あとは髪が細いからすぐ乾くだろ。

指を広げてワサワサと髪をほぐすように水分を飛ばす。

「……何をやっているヴァンディエール」

「え? 髪を乾かそうと……あ」

いつも弟達はこうやってやると、ドライヤーを使わなくていいくらい乾いていた。

そして気付いた、エルネストの髪がぐしゃぐしゃになっていると。

お茶の準備が終わったメイドが、明らかに笑うのを我慢しながら部屋から出て行った。

エルネストもこんな扱いをされると思っていなかったのだろう、動揺しているのか呼び方が以前に戻っている。

「申し訳ありません。すぐに 梳(と) かします」

姿見の近くに置かれていたブラシを見つけて整えると、いつものエルネストに戻った。

こんな事をしにここへ来たんじゃない、報告すべき事をちゃんと伝えないと。

改めてエルネストの向かいに座り、報告すべき事を頭の中で整理した。