軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

193.

「団長、市街地で耳にした情報なんですが、今報告していいですか?」

夕食が済んで俺達が使っている部屋でくつろいでいたら、マリウスが真剣な顔で報告に来た。

さっきまで一緒に食事をしていたのだから、普通の会話ならその時に話せたはず。

つまりは周りに聞かれては困るような内容という事だ。

「ああ、聞こう」

ソファに座って読んでいた本を閉じ、テーブルの上に置いた。

市街地の散策中に書店を見つけ、この国の歴史が書かれた本を買ったのだ。

興味深い事が結構書かれていたから夢中になっていたが、今は報告の方を優先すべきだろう。

マリウスは向かいのソファに座ると話し始めた。

「午後からシモンと情報収集に行ったんですけど」

「シモンと? 珍しい組み合わせだな」

シモンの暴走を止めるのは、大抵アルノーの役目というイメージだ。

よく二人でつるんでいるしな。

「何も考えて……裏表のないシモンがいると、結構油断して色々話してくれるんですよ」

確かにシモンみたいな奴に何か聞かれても、ただ気になったから聞いただけで、すぐに忘れると思われるか。

マリウスが会話を誘導して、シモンが発言すれば警戒はされないだろう。

「やっぱオレの人のよさっていうか、そういうのが伝わっちゃうんだろうなぁ~」

ジェスと遊びながら俺達の会話を聞いていたのか、能天気なシモンの合いの手が入った。

「あーはい、そうですね。そのおかげでカフェでコーヒー豆の仕入れ先の話を聞けましたから」

全然心がこもっていない返事をし、話を続けるマリウス。

「コーヒー豆の仕入れ先?」

「はい。山の高地に住んでいる人達が数年前にコーヒー豆を最初に持ち込んで、定期的に売りに来ているとか。それで……、見た目を誰もハッキリ覚えていないそうです。何度も来ていると言っていたのに……」

「容姿の認識阻害魔導具でも使っているのかもしれないな。アリアの事に関わっているかどうかはわからないが、やましい事がなければ普通に取り引きに来ているはずだ」

「そんな魔導具あるの!? すごく便利じゃない!?」

怪しい業者ではなく、魔導具に興味を持ったのはアルノー。

どうせろくでもない事に使うつもりなのだろう。

「アルノー、今は魔導具よりもコーヒーの生産者の事でしょう?」

こちらに向かって歩いて来るアルノーに、ジトリとした目を向けるマリウス。

しかし、アルノーは笑顔ではマリウスの背後から両肩をガシッと掴んだ。

「だってさぁ、認識阻害ができる魔導具があれば、王都の花街で他の娼館に行っただの、誰に声をかけてたのを見ただの言われる心配がないって事だよ!? 僕みたいに人気があるとさぁ、 娼(おんな) 達がヤキモチ焼いちゃうから大変なんだよねぇ」

「…………アルノー、ジェスの前でそういう話をするんじゃない」

ジロリと睨むと、一瞬アルノーが怯んだ。

だが、すぐに肩を竦める。

「団長ってジェスに過保護だよねぇ。僕が十歳の時なんて、普通に色々知ってたよ?」

そりゃあ娼館生まれの娼館育ちだったらそうなるだろう。

十歳ならそろそろ性教育的な知識も必要になってくるかもしれないが、ジェスの精神年齢は実年齢より幼く感じている。

だからジェスにはまだ早い!

「遊びのためにいくら使うつもりだ? もしも認識阻害の魔導具があったとしても、そんな珍しい魔導具、アルノーの全財産でも買えるか怪しいんじゃないのか?」

「確かに、認識阻害の魔法を使える人の話は聞いても、魔導具では聞いた事ありませんから、存在するとしたら平民には手が出ない金額でしょうねぇ。オークションに出したら白金貨が数枚は飛ぶんじゃないですか?」

「白金貨……」

マリウスの至極真っ当な意見を聞いて、アルノーは膝から崩れ落ちた。

まぁ、実際あるとしたらそれくらいはするだろうな。

効果が云々というより、希少性の問題だから。

それに犯罪に使われるのを防止するために、買えたとしても許可制や登録制になるだろう。

「それにしても、よくわからない相手と取り引きしようと思えるものか? 買い取っている奴らも、自分達が相手の顔をちゃんと覚えていない事が変だと思うはずだろう?」

「それがですね、その話題の時だけおかしかったんです。取り引き相手やコーヒーの出所になると、まるで深く考えていないというか、大丈夫と思い込んでいるような……。正直ちょっと話していて気持ち悪かったです」

「確かに! あいつら今まで大丈夫だったから心配ないとか、顔を覚えてねぇ事も来たらわかるとか、な~んか……ほら、あれ、前にオレが蛇の女にやられた……」

「魅了か?」

恐らくシモンが言いたいのは、邪神の手下だったラミアーの事だろう。

「そうそう! 魅了魔法みたいなので操られたんじゃねぇかって思うよな」

「あの時のシモン、うお~って叫んでジュスタンに襲い掛かったもんね」

「「「えぇっ!?」」」

ジェスの発言に、アルノー達が驚きの声を上げた。

そういえば三人はあの場にいなかったから、ラミアー戦の事は知らないのか。

その後の邪神との戦いが激しかったせいで、前哨戦みたいな扱いになってしまったから、話す事自体忘れていたっけ。

「魅了魔法か洗脳魔法か……。どちらにしても、コーヒーの生産者が怪しいのは事実だ。もしも魔塔主と繋がっていたら面倒だからな、フェリクス王太子に会って話す必要がありそうだ。マリウス、シモン、よくやった。この情報はかなり価値があると見ていいぞ」

俺は立ち上がると調子に乗ってご褒美を要求するシモンを無視し、フェリクスに会う算段をつけるべく、エルネストの部屋へと向かった。