軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

190.

「その……、森で実験するにはあなた達に同行をお願いするために、魔塔主を間に挟まなきゃいけないでしょ? できるだけ顔を合わせたくなくて、今回の実験は地下の実験動物を使ったのよ」

気まずそうにしながらも、アリアは説明を始めた。

「地下の実験動物って……、魔物じゃねぇの?」

シモンが首を傾げる。

うん、俺もそこが引っかかった。

「そうよ。魔素を与えて魔物化したばかりの個体の方が誘導しやすいって前に言ったでしょ? だから普通の兎に魔素を注入してたんだけど、ちょっと油断して角兎に変化した個体に攻撃されちゃったのよ。それで足を抉られちゃって……」

アリアはシーツの上からそっと傷のあるであろう足を撫でた。

「傷は塞がっているのか? クラリス王女がお見舞いに来たがっていたが、結婚式が控えているせいで自由に外出できないそうだ」

「クラリス様が……。ここは一応王宮の敷地内でしょ? 専属治癒師はどうしてもお貴族様優先になるから、あたしなんかは後回しにされちゃうわけよ。だから手持ちのポーション使ったけど、しばらくは歩くのがつらいから休むしかなくて」

「けどよ、そのまま角兎にやられなくてよかったんじゃねぇ? アリアみたいなヤツだと、殺されてもおかしくなかっただろ」

しんみりとしていたアリアに、思い切りデリカシーのない事を言い放つシモン。

「何言ってんのよ! これでも魔塔に所属してるのよ!? 攻撃魔法のひとつやふたつ、使えるんだから!」

そう言ったアリアは、恐らく身体強化で枕をシモンに投げつけた。

枕は見事にシモンの顔面に当たり、羽毛が数本飛び出して舞う。

「火魔法を使われなくてよかったな、シモン。アリアの優しさだぞ」

「そうよ! 感謝しなさい!」

「へいへい。ありがとーございますぅ」

投げやりに答えながら、シモンは枕を持ってベッドへと近付く。

「な、なによ……」

近付くシモンに怯えの色を見せるアリア。

ベッドの上から見上げたら、結構大きく見えるだろうからな。

「おい、シ」

「ん」

一応余計な事をしないように止めるつもりで声をかけようとしたが、その前にシモンは枕をアリアの背中の支えになる位置に押し込んだ。

何と言えばいいのかわからないのだろう、アリアはもの凄く挙動不審になっている。

その隙をついて(?)シモンはアリアの足を覆っていたシーツを剥いだ。

「何すんのよ!」

俺にも傷が見えてしまった。

傷口自体は一応塞がっているように見えたが、明らかに抉れている状態のままだ。

きっと一番安いポーションを使ったのだろう。

俺が治癒魔法をかけた程度の効果しかなかったんじゃないだろうか。

シモンが剥いだシーツをひったくるように奪い返し、涙目で傷を隠すアリア。

アリアの方を向いているせいで顔は見えないが、シモンは片手で顔を覆って俯いた。

「……団長」

「何だ、シモン」

「オレさぁ、怪我した。あ~、痛い痛い。だからさ、支給されたポーション使ってもいいよな?」

シモンが言いたい事がわかり、思わず苦笑いを浮かべる。

「怪我をしたんなら仕方ない。許可する」

「さっすが団長!」

森に行くわけじゃないのに、支給された 魔法鞄(マジックバッグ) を携帯していたのはこのためだったのか。

どうせシモンの持っている魔法鞄は時間遅延はないからな。

中に入っているポーション類は、帰国する頃には期限切れで劣化し始めるから、廃棄されるより優秀な魔導師を助けるために使った方が有益というものだ。

決して最新の魔導具を手に入れるのに恩を売ろうとか思ってはいない。

あくまで部下の心意気に応えただけだ。

優先的に売ってくれるというのなら断わらないけどな。

俺達のやり取りを戸惑いながら聞いていたアリアは、話が理解できなかったかのように口を開けて呆然としている。

シモンはポーションの蓋を咥えて開けると、空いた手でためらいなくアリアの足を掴んでポーションをかけた。

「きゃっ! え? え? えぇぇっ!?」

シュワシュワと音を立てる小さな泡に覆われた傷口は、泡が消える頃には少しの傷跡を残して綺麗になっていた。

高品質といえど、一度塞がった傷を治したせいか、傷跡までは消えなかったようだ。

「やれやれ、シモンも団長も甘いですね。自分は何も見てませんよ」

「それでいい」

俺達が甘いと肩を竦めるマリウスも、その口元は笑っている。

大銀貨が飛ぶポーションを私的に使ったとバレれば懲罰モノだからな。

このエルドラシア王国にいる間はずっと任務中という事になるから、怪我をした場合は使っても問題ない。

見ていないと言う事は、マリウスも黙認するという事だ。

一時的とはいえ、シモンは孤児院にいた事もあるから、満足に治療を受けられなかった事もあるのだろう。

だからこそアリアを放っておけなかったに違いない。

「よし。これなら明日から学院に通えるだろ」

「あ……、え……。あ、ありがとう……」

「へへっ、どういたしまして!」

今度はきちんとお礼を言ったアリアに、シモンは満足そうな笑みを浮かべた。

ベタベタになったシーツの後始末は、アリアが清浄魔法で片付けていたけどな。