軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

170.

「だーかーらー、あたしが食べてたら宣伝になるでしょ! 食べてあげるからよこしなさいよ!」

「いくら魔塔の所属だからって……、食べたいなら買ってくれないと!」

どうやら肉串の屋台で無銭飲食をしようとしているようだ。

「アリア! 何をやっているんだ!」

「あっ、カール。言ってやってよ、この人あたしが食べてあげるっていうのにくれないの!」

屋台の店主はカールの登場でホッとしていたが、まだ諦めていないアリアにうんざりという表情をしている。

そりゃそうだろう。

「お金なら持っているんだろう? お使いの最中じゃないのか?」

「そうよ! お金は……頼まれた物を受け取った時に全部使ったから持ってないの。だけど このあたし(・・・・・) が食べてあげるって言ってるのに! ほらっ、早く!」

「アリア、やめるんだ。だから買い食いするなら自分の財布を持ち歩けと言っているのに」

手を出して店主に再び要求した。

カールが止めようとしているが、聞く耳を持たないようだ。

しかも今回が初めてじゃない口ぶりだし、魔塔の同僚達は苦労しているんじゃないだろうか。

先代が魔導具や魔法の事以外教えてこなかったせいだろう。

「アリアと言ったか。君がその肉串を食べて何人が買いに来ると思う? もしも君に肉串を渡したとして、その損失のために何本売らないといけないと思う? 君が食べて損失以上の利益になるくらい君は人気者なのか?」

アリアの背後に立ってそう言うと、アリアは驚いたように振り向いた。

「違う……けど……」

「だったら店主が損をするだろう? それでは商売にならないのはわかるな?」

少々説教くさくなってしまったが、どうしてダメなのかわかってない気がするから仕方ない。

「あっ、あんた誰よっ! 関係ないでしょ!」

「アリアっ! この方はラフィオス王国から来た騎士団長だぞっ!」

「そんな人とカールがなんで一緒にいるわけ!?」

「魔塔主がカールに案内を頼んでくれたんだ。俺と同行しているカールが同僚のせいで困っているのなら、全くの無関係ではないだろう?」

ニヤリと笑ってやると、アリアは悔しそうにギリギリと歯噛みしている。

「店主、一本もらおうか」

「ありがとうございます! 銅貨三枚です!」

安堵の笑みを浮かべて肉串を差し出す店主。

国が違って硬貨のデザインは違うが、素材と重さが統一されているから国外の通貨も使えるのはありがたい。

「ほら、食べたかったんだろう?」

目の前に肉串を差し出すと、アリアは目をまたたかせた。

警戒しながらもそっと串を掴む。

しかし俺が手を離さないせいで、グイグイと手から引き抜こうとしている。

「ちょっと! くれるんじゃないの!?」

「何かをもらったりしてもらった時は何と言うんだ?」

笑顔で答えてやると、一瞬眉間にシワを寄せてから小さな声が返ってきた。

「ぁりがとぅ……」

「どういたしまして」

串から手を離してやると、アリアはふくれっ面でかじりついたが、すぐに満面の笑みになった。

どうやらここの肉串は美味しいらしい。後で部下達と来てもいいな。

「カール、このまま魔塔に戻るなら、アリアも馬車に乗せていけばいいんじゃないか?」

「そうですね、ヴァンディエール様がよければ……アリアも馬車に乗って行くか?」

肉を頬張っているせいで話せないアリアはコクコクと頷いた。

見た目も相まってどうもクラリスと同い年には見えない。

今みたいに言動が幼い事もその一因だろう。

俺達三人は馬車に乗り、魔塔と迎賓館がある王城の敷地へと向かう事にした。

馬車に乗って初めて気付いたが、アリアのローブの中の服装は上はブレザー、下はミニスカートにニーハイという学園物ゲームの制服のような恰好だ。

もしかしてこの国は小説ではなくゲームの世界とか言うんじゃないだろうな。

環境のせいで闇落ちしそうな悪役を助けるのが俺の役目みたいだが、その人物をどうやって探そう。

「ヴァンディエール様、どうかなさいましたか?」

気付けばカールが心配そうに様子を窺っていた。

いつの間にか考え込んでしまったいたようだ。

「ああ、すまない。少々考え事をしてた。こちらに伝わっているかわからないが、神託で誰かを助けなければならないらしいのだが……、それがどこの誰かわからなくてな」

「それは……、助けたくても助けられませんねぇ。神託はあいまいだと聞きますが、せめて何か手がかりがないと……」

「本当に。場所と名前をハッキリ教えてくれるのなら苦労はないのだが」

肩を竦めると、カールは苦笑いをした。

カールの横でアリアが肉のなくなった串を咥えたまま、ジッと俺を見ている事に気付づく。

「どうした? 馬車の中で串を咥えたままだと危ないぞ」

串を取り上げ、 魔法鞄(マジックバッグ) に放り込んだ。

数秒何かを考える素振りをし、アリアが口を開く。

「ねぇ……、もし私が困っていたら助けてくれる?」

「何を言っているんだアリア! ヴァンディエール様に迷惑をかけないように!」

慌ててカールが 窘(たしな) めたが、アリアはジッと俺を見つめたままだ。

「そうだな、目の前で困っていたら助けなくはないぞ? 困っているんじゃなくて、ただのわがままを言っているだけなら放置するけどな」

「ふふっ、わかった。その時はよろしくね」

軽口のような物言いをしている割に、どこか俺の返答に安堵したように見えたのは気のせいだろうか。