軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

162.

邪神討伐から怒涛の三か月が過ぎた。

正式にエルネストが王太子を辞して、同腹の第二王子ランスロットの立太式をして正式に王太子となった事が国民にも公表されたのだ。

立太式には友好国の代表なども参列し、その時にこれまたエルネストと同腹の第三王女、クラリスの輿入れの話がまとまったらしい。

輿入れ先は魔法が盛んで、こちらより暑い国のため香辛料の輸入先でもあるエルドラシア王国だとか。

結婚前に入国し、あちらの文化や作法を学ぶための準備が着々と進められている。

その準備の中のひとつとして、俺は王都に屋敷を持つことになった。

「ジュスタ~ン! アナベラが来たよ~!」

「すぐに行く。ありがとうジェス」

「うん! ボク、アナベラにすぐにジュスタンが来るって伝えてくるね!」

屋敷を陛下から賜ったものの、神託で俺の行き先が決まっていなかったのをいい事に、第三王女の輿入れの護衛として指名されてしまったせいでアナベラが結婚前から女主人として今日からこの屋敷に住む事になっている。

明日には輿入れのための一行が出発してしまうため、ほぼ俺と入れ替わりになってしまう。

とりあえず王家が手配してくれた使用人達がいるから、そちらで引き継ぎもできるはず。

約二か月半前に俺が宿舎から移り住んだ時、同時にジェスとジャンヌも転移で合流した。

ドラゴンの住む屋敷で働くという事に動じないデキる人材達だから安心だ。

自室から玄関に向かうと、すでにジェスとジャンヌ、家令とメイド長がアナベラを出迎えていた。

「まさか侍女長がここにいるとは思いませんでした! ですがとても心強いです」

「ふふふ、いけませんよアナベラ様。これからあなたは女主人となるのですから、わたくしの事はメイド長、もしくはマヌエラと呼んでいただかないと」

「う……、そうですね……じゃない、そうね。あっ、ジュスタン様!」

アナベラは俺に気付くと、嬉しそうな笑顔を見せた。

「ようこそアナベラ。これからよろしく頼む。……ところでメイド長とは知り合いか?」

「はい! 私が侍女見習いだった時の侍女長なんです。一人前になったと同時に引退されてしまったのですが、とてもお世話になった方なんですよ」

「そうか。いきなり屋敷の管理を任せてしまって申し訳ないが、知っている顔があるならやりやすいだろう。両陛下の事だから、わかっていて人選をしたのかもしれないな」

チラリと家令とメイド長を見ると、ニコニコと笑っているから俺の予想は当たりなのかもしれない。

この二人は夫婦らしいし、一緒に過ごせるようにも配慮されているのだろう。

二人共五十代後半だと聞いているから、王城のように大変な場所じゃなければまだまだ現役でいられるというものだ。

「一応屋敷の管理については決めておいたが、必要なら好きなように変えてもらっていいからな。まずはアナベラの部屋に案内しよう」

「ボクも行く~」

「妾はそろそろ黒のところへ戻るとしよう。何かあれば念話で呼び出してくれればよい」

「わかった」

この二か月半でジャンヌとジェスはドワーフの集落近くの巣に何度か帰っている。

なぜなら古竜である黒が居ついて、たまには戻って来いと言っているらしい。

ずっと気まぐれで自由に過ごしていたのに、邪神の養分にされていた間にジャンヌ達の大切さに気付いたんだとか。

おかげで俺に対しては感謝はしているものの、二人が黒から離れる原因として敵視されている。

だが、こうして時々ジャンヌ達が戻る事で機嫌をよくしているらしいからよしとしよう。

ジャンヌが去ると、ジェスと二人でアナベラが使う部屋へと案内した。

「わぁ、素敵です……!」

「気に入ってもらえたようでよかった。そちらの家具一式はエルネスト様とディアーヌ様からの贈り物だ。こほん、主寝室も準備されているが、一応……まだ婚約という事で同じ寝室は使わないように……するので……」

「えっ!? あっ、は、はい、そうですね……」

そう返事しながらも、アナベラはこちらを向かずに俯いている。

き、気まずい……!

だが、もしもこのまま結婚となったら当然なんやかんやで……。

「ジュスタン、どうしたの? 顔が赤いよ?」

ジェスが俺の顔を覗き込んで首を傾げた。

「なんでもない、気にするな」

ジッと見つめてくるジェスの目を片手で覆って顔を上げると、俺と同じく顔を赤くしたアナベラと目が合った。

これは偽装婚約、これは偽装婚約……。己に言い聞かせながら動揺した心を落ち着かせる。

「何と言うか……、周りが騒ぐと気恥ずかしいものだな……。アナベラも友人達から色々言われたりしているのだろう?」

「そ、そうですねっ! 昨日も仲のいい侍女仲間が夜着を……ハッ、いえ、なんでもないです」

「「…………」」

気まずさが最高潮に達した時、ノックの音が部屋に響いた。

『失礼いたします。お荷物を運び入れてよろしいでしょうか』

「ど、どうぞ!」

動揺しているのだろう、ドア越しにかけられた家令の言葉に少し上ずった声でアナベラが返事をした。

さきほどよりはマシだが、まだ赤みの残る俺とアナベラの顔を見た家令のタデウスは、微笑ましいものを見る笑みを浮かべて頷いた。

なんだその頷きは!

「では運び込んで下さい。ジェス様、申し訳ありませんが少々重い物がございまして、お手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか」

「うん! わかった!」

タデウスは荷物を持った使用人達に命じた後、ドラゴンで力が強いとわかっているジェスを連れ出した。

部屋を出る時にウインクされたが、別にそんな気を利かせなくてもいいからな!?