軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

126.

「いつの間に……」

宿屋への移動中に、オレール隊のマルセルが呆然とつぶやいていた。

どうやらマルセルも初耳だったようだ、もしかしてマルセルが出発してから恋人になったとか?

以前から知り合いだったのに、この数日で一体何があったのやら。

「ここが俺達が滞在している宿屋だ。商隊を相手にしているから大きな厩舎も裏にあるし、馬車も置けるようになっている。ただ聖騎士も泊まるには大部屋になってしまうが、それは大丈夫か? 気に入らないならそいつらだけ神殿に滞在すればいいだけの話だが」

アクセルに聞くと、アクセルは振り返って馬の手綱を引いてついて来ている聖騎士達を見た。

数人大部屋という言葉に引っ掛かったのか、迷っている者もいたようだったがほとんどは迷いない目で頷いている。

「我々は聖女様を護衛するために来ているのだから、聖女様と共にいるべきです。野営に比べたら宿に泊まれるだけ幸せというものですよ」

「ふっ、それは正しい選択だな、今日の夕食はウチの部下達も大好きな肉料理だから期待していいぞ」

「団長! まさか……」

俺とアクセルの話が聞こえていたのか、オレールが振り返った。

「ああ、予想通りだと思うぞ。討伐作戦でかなりの数の 角兎(ホーンラビット) が卸されているから、角兎の唐揚げになるはずだ」

鶏を養殖している村も一応あるが、同じくらい一般的に食べられているのが角兎だったりする。

嬉しそうなオレールを見て、聖女も期待を膨らませているようだ。

そんなほのぼのとした空気の中、緊迫した顔で路地を抜けてこちらに走って来る人影がひとつ。

「はぁはぁ、アラン! ローリーの容態が……っ」

怪我人に付き添っていた冒険者が息をきらせながら俺達の周りを見ると、ひと目で聖女とわかるエレノアを見た瞬間 跪(ひざまず) いた。

それと同時に聖騎士達が聖女を取り囲んで警戒する。

「聖女様!! 頼む! 討伐で重傷を負った冒険者を助けてやってくれ!! ちゃんと浄財は冒険者ギルドから出してもらえるんだ!」

「なにを……!」

いきなりの要求に、アクセルが眉を吊り上げて何かを言おうとしたが、手を挙げてそれを制す。

「すまないアクセル団長、さっき話していた怪我人と同じ冒険者パーティの男だ。どうやら猶予がないらしいから、すぐに向かってくれるか? エレノア」

我ながら少々卑怯とは思うが、あえて名前で呼んで頼む。

エレノアならこんな言われ方したら、どれだけ疲れていても断らないだろう。

「わかりました! すぐに行きましょう、案内してください!」

「ありがてぇ!!」

皆で馬車に乗り込み、涙目の男が御者の隣に座って道案内をする。

同行しているのは聖騎士は騎馬でアクセルの他にも四人、あとは聖女と共に馬車に同乗しているアランと俺とオレールだ。

残りは先に宿屋へ行って宿泊手続きやら休憩をしてもらう事にした。

案内されたのは重傷者がいる治療院、到着と同時に聖女は真っ先に馬車を飛び降りて怪我人のところへ向かった。

やめろオレール、こんな時まで愛おしそうな目で聖女を見ているんじゃない。

一所懸命な姿が可愛いと顔に書いてあるぞ。本当に何があったんだ。

すぐに俺達も追いかけると、必死な声が聞こえてきた。

「がんばれ! 今聖女様を呼びに行ってくれてるんだから! 死ぬな!!」

恐らく出血がひどかった奴だろう、フラレスからの移動中も何度か危ない状態になっていた。

声のする部屋に飛び込んだ聖女が叫ぶ。

「どいてくださいっ! 『 完全治癒(パーフェクトヒール) 』!!」

眩しくも優しい光が部屋の中を満たした。

「呼吸が……怪我が……治ってる……、助かった……?」

ローリーに付き添っていた仲間が、スヤスヤと穏やかな呼吸になっているのを確認してへたり込んだ。

案内するために走ってきた男も安堵の涙を流している。

「よかった、間に合って……。他にも重傷者がいるんでしたよね?」

聖女が呆然としているアランに振り返って聞くと、我に返って頷いた。

「あ、ああ。こっちの部屋に……」

「あああああああの、せ、聖女様ですかっ!? わ、私はフラレスの」

「ごめんなさい、先に重傷者に治癒魔法をかけたいので後でお願いします」

突然の聖女の登場に、舞い上がったフラレスの治癒院長が自己紹介をしようとして失敗した。

あーぁ、わざわざ部下の役目を奪い取ってサラモナに来たのにな。

しかもアクセルが睨んでいたから、後で挨拶させてもらえない可能性が高い。

「うおぉぉぉ! 本当に腕が元通りに!! スゲェ! ありがとう聖女様!!」

「俺の足も! あんた聖女様どころか女神様だぜ!!」

「うふふ、治ってよかったですね」

ドアが開けられたままの別室から、冒険者達と聖女の声が聞こえてきた。

「ありがとう聖女様、あんたのおかげでこいつらは冒険者を続けられる。ところで浄財なんだが神殿に届けるべきか? それとも聖女様に渡した方がいいのか?」

「そんな……浄財なんて……」

「いけません」

浄財の事を問うアランに、断ろうとした聖女を止めたのはオレールだった。

まさかオレールがそんな事を言うとは思っていなかったのか、聖女は目を瞬かせている。

「エレノアが無償で治癒してしまうと、今以上に色んなところから人が集まってきてしまいます。それらを全て治すのはエレノアにとって負担が大きすぎますし、今後邪神討伐という使命もあるでしょう。それまでに無理をしてしまっては本末転倒、治癒する相手を 篩(ふるい) にかけるという意味でも浄財を受け取るのは必要です。今回は神官長も滞在している事ですし、神殿に届けてもらえばよいかと」

オレールはアクセルに確認するように視線を向けると、アクセルも頷いた。

聖女は自分の事を考えて苦言を呈したオレールに惚れ直したと言わんばかりの熱視線を送っている。

道中何度もこういう空気になっていたんだろうと思うと、一番近くで護衛をしていたアクセルに同情しつつ、先に外の馬車へと向かった。