軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミーナ、ベルナデッタVS双剣使い

同じ頃、左側の戦場では、ミーナとベルナデッタが双剣使いに押されていた。

双剣使いの動きは速かった。目にも止まらぬスピードで空間を切り裂く。

ネネの動きとは根本的に違う。隠密性よりも力強さを押し出している。

幻惑や分身ではなく、純粋な足運びと連撃で相手を押し潰すタイプ。

木の根を蹴り、枝を使い、ベルナデッタの大剣の外側へ外側へと回り込みながら、ミーナへ刃を伸ばしてくる。

ミーナは火球で進路を塞ごうとするが、双剣使いはそれを読んでいた。

向かってくる火球を両の剣で斬り捨てる。圧倒的な反射神経だ。

軌道を読み切って紙一重で避ける。無駄な動きが一切ない。

火球と火球のわずかな隙間を縫って抜ける。恐ろしいまでの突破力だ。

ベルナデッタが大剣を振るえば、剣の内側へ潜り込み、ミーナが足元を焼けば、木の根を足場に跳ぶ。

とにかく速い。常人には目で追うことすら困難な速度だ。

圧倒的に手数が多い。次々と繰り出される刃が防壁を削っていく。

そして、攻撃のリズムが執拗でしつこい。少しの隙も許さない構えだ。

「ちっ、硬ぇな、その女騎士!」

双剣使いが叫んだ。

ベルナデッタの肩口へ斬撃が入る。

激しい火花が散り、強固な鎧に傷がつく。並の防具なら致命傷になりかねない。

しかし、ベルナデッタは一歩も退かない。岩のようにその場に踏みとどまっている。

リエラの眷属として呼ばれている彼女は、リエラのVITの一部を引き継いでいる。

つまり、見た目以上に異常なほど硬い。

防御力に全振りしているかのようだ。

とはいえ、歴戦のプレイヤーが相手ではいくら硬いとはいえ無傷とはいかない。

着実にダメージは蓄積している。

だが、並の前衛なら崩される連撃を受けても、彼女は大剣を構え直し、ミーナの前に立ち続けていた。

「ベルナデッタさん、右から来ます!」

「見えている!」

ベルナデッタが大剣を横に払う。

双剣使いはそれを低く避け、ミーナへ踏み込む。

ミーナが火球を撃つ。

双剣使いは片方の剣でそれを斬り払い、もう片方でミーナの杖を狙った。

ミーナは半歩下がるが、完全には逃げ切れない。刃の軌道が彼女を捉えていた。

杖に刃が当たり、硬い音が鳴る。

「魔法使いのくせに、近距離で粘るじゃねぇか」

「リエラ様の側近です、お飾りでは無いですよ!」

「はっ、じゃあ俺の相手は荷が勝つな!」

双剣使いは笑った。

その笑みには、己の強さに対する明確な自信があった。勝者の余裕すら感じさせる。

「俺はラオンさんの懐刀、しかもレベル110だぜぇ!」

確かな実力に裏打ちされた数字。その言葉に、ミーナの眉がほんの少し動いた。

ベルナデッタは微動だにしなかった。数字による威圧など彼女には通じない。

真紅の騎士は大剣を構えたまま、静かに双剣使いを見据える。

「それがどうした?」

低く、凛とした声だった。

双剣使いの笑みがわずかに固まる。

ベルナデッタは一歩前へ出た。

「リエラ様の戦場に立つなら、数値ではなく、結果で示せ」

「召喚の分際で!」

怒りに駆られた双剣使いが踏み込む。その殺気は本物だ。

左右から鋭い刃が走る。逃げ場を塞ぐ必殺の連撃だった。

ベルナデッタは一撃目を鎧で受け、二撃目を大剣の柄で逸らした。

もちろん傷はつく。ダメージが全くないわけではない。

HPも確実に削れている。限界は近いはずだ。

だが、決して崩れない。鉄壁の守りを維持している。

ミーナはその背後で、ゆっくり息を吐いた。

「ベルナデッタさん」

「何か」

「少し熱いです」

「問題ない、リエラ様のVITを一部賜っている。燃え尽きるほど柔ではない」

ミーナの目が獲物を狙うように鋭くなる。覚悟を決めた顔だった。

「では、行きます」

彼女が指を鳴らした。ぱちんと静かな森に乾いた音が響く。

「《フレアオーバーライド》」

炎の軍旗のようなエフェクトが背中を覆い、手の甲に魔法陣が現れる。

すぐさまミーナはの右手は左から右へ腕を動かす。

赤い刻印が空中に走ると、次々とファイアーボールが展開される。

無音詠唱、あらかじめ登録した動きに沿うことで詠唱の時間を極限まで短縮する詠唱短縮型魔法使いの業である。

双剣使いはそれを見て、すぐに横へ飛んだ。

さっきまでならその判断は正しい。回避行動としては最適解だ。

火球の包囲から逃げるために、横へ抜ける。

だが、今回は状況が違った。ミーナの狙いは彼自身ではなかったのだ。

ミーナは火球を双剣使いへ直接向けなかった。

味方であるはずのベルナデッタへ向けた。常識外れの行動だった。

「は?」

双剣使いの顔が歪む。

次の瞬間、潔いほどの数のファイアーボールが、ベルナデッタごと戦場を包み込んだ。

凄まじい勢いで炎が弾ける。周囲の空気が一気に焼き尽くされた。

赤い光が森の影を塗り潰し、熱風が落ち葉を舞い上げる。

双剣使いは、ベルナデッタの背後へ回り込もうとしていた。

つまり、ベルナデッタを盾にしてミーナの射線を切るつもりだった。

対人戦におけるその判断は正しい。セオリー通りの動きと言える。

普通なら、味方ごと焼くことはできない。

だが、ベルナデッタは普通ではなかった。

炎の中で、真紅の騎士は一歩も退かなかった。

鎧が赤く照らされ、炎が肩口を舐め、髪とマントが熱風に揺れる。

当然ながら無傷ではない。鎧のあちこちが高熱で焼け焦げている。

自身のHPも激しく削れている。尋常ではないダメージ量だ。

けれど、決して崩れない。その立ち姿は少しも揺るがなかった。

むしろ、炎を背負ったその姿は、騎士というより、戦場の災厄そのものに見えた。

「っ、味方ごと撃つのかよ!」

双剣使いが叫ぶ。

ベルナデッタが炎の中から答えた。

「私は、リエラ様の騎士だ」

大剣が振り上げられる。

「ミーナ殿の獄炎で、退く理由にはならない」

炎をまとった大剣が、横薙ぎに振るわれた。

双剣使いは咄嗟に刃で受けた。防御反応だけは一流だ。

だが、炎で視界を奪われ、足場を焼かれ、退路を火球に塞がれている。

ミーナはさらに無音詠唱を重ね、小さな火球を追加で二つ、彼の足元へ落とした。

逃げる場所を完全に潰す。

ベルナデッタが剛腕で押す。炎の勢いも相まって恐ろしいほどの圧力だ。

完璧な挟撃が完成していた。

しかも、ベルナデッタ自身が炎の中で前線を維持しているため、双剣使いはミーナへ届かない。

「ぐっ、う、おおおっ!」

双剣使いは最後まで粘った。

レベル110の自負に恥じない動きで、炎の隙間を探し、ベルナデッタの大剣をかわし、ミーナへ最後の踏み込みを見せた。

しかし、その最後の一歩は届かなかった。彼の執念もここまでだった。

ベルナデッタが炎を纏ったまま、肩で彼を押し戻す。

ミーナの火球が、その背中へ入る。

最後に、ベルナデッタの大剣の腹が、双剣使いを地面へ叩きつけた。

――ネイキッドラオン所属プレイヤー、一名戦闘不能。

双剣使いが光になって消える。

炎が収まり、森に再び湿った空気が戻ってくる。

ベルナデッタは片膝をついた。

鎧には焦げ跡が残り、HPも削れている。

だが、決して倒れてはいない。誇り高き騎士の意地を見せた。

ミーナがすぐに駆け寄る。

「ベルナデッタさん、ダメージは?」

「戦闘続行に支障なし」

「無茶をさせました」

「問題ない。今の一撃で、リエラ様の勝利に一歩近づいた」

ベルナデッタはゆっくり立ち上がる。

炎を受けてもなお立つ真紅の騎士。

その姿は、配信映像にもはっきり映っているだろう。

コメント欄が一気に跳ねた。

『ベルナデッタ様!?』『いや硬すぎる』

『ミーナちゃんえぐい』『ベルナデッタ株爆上がり』『真紅の騎士、炎属性になった』

ベルナデッタはただ、静かに大剣を構え直した。

その姿を横目に、ミーナは小さく息を吐く。

「炎の騎士、ですね」

「呼び名など不要」

ベルナデッタは淡々と言った。

「ただ、リエラ様の敵を屠るだけです」

その頃、正面では俺がラオンの斧を骨盾で逸らしながら、視界端に流れた戦闘不能ログを確認していた。

弓使い、罠師、そして双剣使い。厄介な三人が脱落した。

次々と落ちた。これで相手の戦力は半減したはずだ。

ネネとミーナが倒し切ってくれた。

これで、ネイキッドラオンの手数は大きく削れた。

「聞こえたかしら、裸の獅子」

俺はラオンを見上げ、笑った。

「あなたの牙、一本ずつ抜けていってるわよ」

ラオンの顔から、笑みが消えた。

そして、森の中の戦いは、次の段階へ進んでいく。