軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

サンシャイン☆ブリーフィング~半裸vs水着~

水着グラビア撮影というものは、外から見ると華やかで、きらきらしていて、南国っぽい照明と白いセットに囲まれた夢の仕事に見えるのだが、実際にそのど真ん中へ立たされてみると、夢というより、筋肉痛とプロの技が混ざりあった、非常に地味、かつ高度な修行だった。

白い砂を敷いたスタジオの床には、人工の波打ち際みたいな青い布が敷かれ、背景には夏空を模した巨大なパネルが立てられている。

照明は容赦なく熱く、肌に当たるたびにじわりと汗が浮き、メイクさんがそのたびに駆け寄ってきて、俺の頬や鎖骨まわりを軽く押さえていく。

現実でもリエラとして活動することには、だいぶ慣れてきた。

慣れてきた、はずだった。少なくとも自分ではそう思い込んでいたのだ。

しかし、シスター衣装やコスプレ番組ならともかく、水着グラビアとなると話は別である。

時折、元男性であるという部分が羞恥として出てくる反面、カメラの前で「少し肩を引いてください」「視線こっちです」「はい、笑って」と言われると、身体はそれなりに動くし、配信者としての顔も作れる。男ってこういう感じ好きだったよな、と的確に射貫く才能もあり、めきめきとグラビア方面の仕事も開拓していった。

すべてはリエラちゃんねるの格上げのためだし、せっかくミーナが持ってきている話だ、彼女のためにも一肌脱ごう。使えるものは使う、と言うと大分俺も彼女に毒されている気がする。思えばミーナはミルキーとのコラボを成立させるために、すごく頑張っていた。

ミルキーがコラボしたい、はい、コラボです、とは行かない。

本人がオッケーしてるならいいじゃんなんていうのは大人の世界では通じないのだ。

一応業界の仕組み的なものに触れておこう、まずミルキーはオッケーを出したし、面白そうという発言があった、それは社交辞令かもしれないし本心かもしれない。

それにより事務所側が相手を篩にかける。

ミルキーのブランドイメージに合うような”美味しい相手”ならOK、いまいちどこの馬の骨かわからないような、いちシスター系魔王個人配信者だと「いつかやろうね~うふふ」で止まってしまう。

夢や希望を抱えたまま、幾日もすごすことになるのだ。

さて、話がそれた、なので、今である。

コラボ確定は、ミーナが現実側の露出を増やした結果であり、これは事務所《TALE-TELLER》としての戦略であり、リエラちゃんねるの成長導線であり、つまり必要な仕事なのだ。

でないとグラビアはさすがに恥ずかしすぎるよね、という話である。

うん、我ながら、随分と言い訳がましい事を長々と思案してしまった。

ーーぶっちゃけ、水着撮影、結構楽しんでいる。

俺は撮影用の水着の上に薄いパーカーを羽織り、休憩スペースの椅子に座って、スタッフさんから渡されたストロー付きのドリンクをちびちび吸っていた。

冷たい甘さが舌に触れ、喉を滑り落ちていく。

照明の熱でぼんやりしていた頭が少しだけ戻ってきたところで、俺はふと、奥の控えスペースから聞こえてきた、情けない声に耳を引っ張られた。

「ネネさぁん! 勝手に喧嘩買っちゃいましたぁ」

その声の主はミーナだった。相変わらずの調子である。

しかも、あからさまな嘘泣きだ。涙など微塵も流していない。

いや、嘘泣きというより、もはや熟練の嘘泣き芸と言っていい。見ていて清々しいほどだ。

声はわざとらしく震え、語尾は甘えるみたいに伸びているのに、表情だけはたぶん一ミリも泣いていない。俺は衝立の隙間からそっと覗き込み、その瞬間、予想通りの光景を見てしまった。

ミーナはスーツ姿で、両手で顔を覆っている。

だが、指の隙間から見える目は完全に乾いていた。

その向かいにいるネネは、足を組んで椅子に座り、バスローブを着て、水着、撮影用の派手なサンダルをぷらぷら揺らしながら、紙コップのアイスコーヒーを片手に大笑いしている。

「あはははは、いいよいいよぉ〜。あたしもあいつらキライだったし。負けたら負けたで、装備のロストくらいっしょ」

その反応はあまりにも軽い。冗談抜きで羽毛のようだ。

あまりにも軽すぎて、こちらが深刻に悩んでいたのが馬鹿らしくなってくる。

俺たちが受けた条件は、デスペナMAX、クラン金庫解放、クラン装備解放、敗北時クラン解散という、どう考えてもまともな精神で提示するものではない狂った賭けだったはずなのに、ネネの口から出ると「コンビニで新作スイーツ外したらまぁ残念だよね」くらいの温度になるから怖い。

ミーナは顔を覆ったまま、わざと鼻をすすった。

「こちらとしては新生リエラ魔王軍の初陣なんですぅ。負けたら看板が傷つくじゃないですかぁ」

「でもさぁ、少し考え方を変えてみてよ」

ネネは笑いながら、コーヒーの氷をからん、と鳴らした。

「外から見たら、弱いものイジメにも見えるんだよねぇ。できたばっかのクランに、対人ガチ勢がその条件ぶつけてくるわけじゃん? 世論はだいぶこっちに寄ると思うよぉ」

その言葉に、ミーナは顔から手を離した。

やはり彼女は泣いていなかった。その表情に悲壮感は欠片もない。

目元には涙の一滴すら浮かんでいない。完全に計算ずくの演技だったのだ。

それどころか、目の奥で仕事用の光がぎらりと反射した。

「ですよね。ラオンさん本人は、周囲の雑魚に何を言われても構わない、強ければ、勝てばいい、というロールプレイを楽しんでいる節があります」

「ラオンねぇ……あの半裸は、ほんとバカよねぇ。どういうつもりなんだか」

ネネが、まるで珍獣の名前を呼ぶみたいに繰り返した。

「クランメンバー全員が同じメンタルかって言うと、そこは怪しいんだよねぇ。ラオンは炎上しても『燃えてる俺カッケェ』で済むタイプだけど、他の子たちはどうかなぁ」

ネネの声が、少しだけ低くなった。

いつもの明るいギャルの声ではあるのだが、その底に、数字と空気と人間関係を読み切るインフルエンサーの冷たさが混ざる。

俺は衝立の陰で、ストローをくわえたまま固まった。

こういうモードに入った時のネネは怖い。普段のノリとのギャップがすさまじいのだ。

いつも明るいから、つい油断してしまう。こちらの警戒心が自然と解かれてしまうのだ。

距離感が近いから、裏表のない親しみやすい人物だと勘違いしてしまう。それこそが彼女の強みでもあるのだが。

こう見えて、彼女は個人でミリオンインフルエンサーになった人で、個人勢としての泥臭さも、大手に近い案件の空気も、炎上の火種も、世論の傾きも、全部見てきた女なのだ。

ネネは紙コップを置き、唇の端を吊り上げた。

「所属クランが燃えたら……ねぇ? 普通のメンタルなら耐えられないでしょ」

その時のネネは、満面の笑顔だった。一切の曇りもない表情だ。

アイドルらしく、ものすごく可愛い笑顔だった。誰が見ても魅了されるだろう。

そして同時に、背筋が凍るほど凶悪な笑顔だった。絶対に敵に回してはいけない顔である。

ミーナはぱちん、と指を鳴らした。

「ええ、徹底的に燃やしましょう。跡形もなく」

その時のミーナは完全に真顔だった。表情筋がピクリとも動いていない。

声に冗談の温度は一切含まれていなかった。本気と書いてマジと読むやつだ。

「怖い怖い、やらないでいいわよそんなこと!」

俺は思わず衝立の陰から飛び出した。

ネネとミーナが同時にこちらを見る。

ネネは「あ、聞いてた?」とでも言いたげに手を振り、ミーナは一瞬だけ目を丸くしたあと、何事もなかったように微笑んだ。

「リエラさん、休憩中ですか?」

「休憩中ですか、じゃないわよ。いま完全に燃やしましょうって言ったわよね」

「ええ、確かに言いましたね。隠すつもりもありません」

「認めるのが早すぎるわよ! もう少し悪びれなさい!」

ミーナはバスタオルの端を整えながら、涼しい顔でそれを俺に渡してきた。

「実際に燃やすという意味ではありません。情報戦として、相手の条件がいかに過剰で、いかに初心者や新興クランに対して不利に見えるかを、適切に伝えるという意味です」

「言い方が完全に放火犯のそれなのよ。もう少しマイルドな表現にしなさい」

「炎属性なので、燃やすことには抵抗がありません。適材適所というやつです」

「属性だからって許される範囲を完全に超えているわ。倫理観をどこに置いてきたのよ」

俺がげんなりしながら椅子に腰を下ろすと、ネネが楽しそうに笑った。

「あはは、リエラちゃんって、ほんと止め役もできるようになったよねぇ。最初の頃なら、喰えるなら喰うか、くらいで突っ込んでたんじゃない?」

「失礼ね。今でも心のどこかでちょっと思っているわよ。機会があればの話だけど」

「あはは、やっぱり思ってるんだ。リエラちゃんらしいねぇ」

「思ってるけど、ちゃんと自重して止まれるようになったのよ。これは大きな成長と言っていいわ」

俺は胸を張った。

水着グラビアの控えスペースで胸を張ると、いろいろ視線の行き場が集約されるのか、ミーナもネネも俺の胸元を凝視した。

やめてほしい。そんな目で見られるとまだ恥ずかしいから。

ネネはにやにやしながら、視線を外すと、スマホを指先でくるくる回した。

「で、実際どんな作戦でいくのー?」

その一言で、控えスペースの空気が切り替わった。

さっきまでの嘘泣きと冗談と危険発言が、すっと薄まり、代わりに、撮影現場の裏に置かれた小さな丸テーブルが、即席の作戦会議室みたいな雰囲気を帯びる。

ミーナはテーブルに置いていたタブレットを起動し、画面にいくつかのメモを表示した。

そこには、対人クラン《ネイキッドラオン》の情報、過去の戦争記録、ラオン本人の動画切り抜き、メンバーらしきプレイヤー名のリスト、そして、こちらの戦力候補が並んでいる。

俺は画面を覗き込み、思わず唸った。

「正直、何人出て来るの?」

俺が呟くと、ミーナは頷いた。

「クラン戦争のルール設定次第では、参加人数に幅が出ます。相手が最大人数で押してくる可能性もありますし、逆にラオンさん中心の少数精鋭で来る可能性もあります」

「あそこは出せる人員は出すんだよねぇ、基本ラオンが突っ込むからあんま被害者でないし。前線をラオンが維持して、空いている低レベルのメンツでコアを狙うが常套手段だったはず」

スマホをスライドさせて一拍。

「う~ん、CvC用に臣民オーディションでもする? 数の暴力には数で対抗よ」

ネネが軽い調子で言った。

冗談めかしてはいるが、その案自体は案外悪くない。選択肢の一つとしては十分にあり得る。

リエラちゃんねるの臣民たちから、有志を募って新生リエラ魔王軍に一時加入させ、数で対抗する。

確実にお祭り騒ぎになり、配信映えはするだろう。見せ方としては悪くない。

それに、臣民参加型のイベントとしても大いに盛り上がるはずだ。視聴者との一体感も生まれる。

問題は、盛り上がりすぎて収拾がつかなくなることだ。

ミーナも同じ結論に至っていたらしく、すぐに首を横へ振った。

「それも考えましたが、時間が足りないですね。入ってもらって、役割を決めて、連携の練度を上げて、裏切りや情報漏洩のリスクも管理する必要があります。5日では準備が厳しいです」

「だよねぇ。臣民って熱量はすごいけど、統率できるかっていうと別の話だし」

ネネがけらけら笑った。笑いながらも目線はスマホから外していない。

彼女は指で画面を滑らせ、ラオンの過去動画をいくつか確認する。

そこには、クラン戦争で相手を挑発しながら突っ込み、盾役を吹き飛ばし、後衛を崩し、最後にクラン拠点らしき場所を占拠して叫ぶラオンの姿が映っていた。

なぜか彼は常に半裸で突っ込んでいる。服を着るという概念がないらしい。

驚くべきことに、毎回律儀に半裸なのだ。ある意味でブレていないと言える。

いったいどういうこだわりなのだ。防具としての性能を完全に捨てているじゃないか。

「あ、半裸が気になる? これスキルっぽいんだよね」

「え、スキルで装備なくなるの?」

「近接系スキルで、肉体を晒すと攻撃力が上がるスキルがあるんだって」

「変態スキルじゃん……」

と言いかけて、俺もたいがい変なスキルだったなと、それ以上話題に出すことはしなかった、つまりラオンは半裸が正装というだけの話だ。

「ネームドの攻略とかできればいいんですけど」

ミーナが顎に指を当てる。

「召喚眷属の強化、あるいは新規眷属の獲得ができれば、人数差への対抗手段になります。実際、クソゴブリン、エルーサさん、ベルナデッタさんの3体は強力ですし……」

「あー……そうほいほい出ないもんね……」

ネネが椅子の背もたれに寄りかかり、天井を仰いだ。

照明の反射が彼女の髪にきらきら乗り、彼女もモデルをやったらいいのにとつい思えてしまうくらい整った容姿をしている。

しかし口から出ている内容は、対人クランをどう燃やしてどう潰すかである。

見た目と発言のギャップがひどすぎる。聞いているこちらが混乱してくるほどだ。

「でも、今いる眷属だけでも使い方次第じゃない?」

ネネは指を三本立てた。

「トビートミーは嫌がらせと視界妨害。エルーサちゃんは回復と防御寄り。ベルナデッタちゃんは前衛の圧。これだけでも、相手からしたら相当ウザいと思うよぉ」

「問題は、召喚の持続とリエラさん本体の位置ですね」

ミーナが画面に簡単な配置図を描く。

タブレット上に表示されたのは円形のフィールドだ。そこに参加者のアイコンが配置されていく。

中央に陣取るのはリエラのアイコン。すべての攻撃の的になる位置だ。

その周囲を囲むように眷属のアイコンが並ぶ。これで防衛陣形を構築するわけだ。

ミーナ自身は少し離れた後衛に配置される。安全な場所から火力を叩き込む構えだ。

そしてネネは外周を自由に動き回り、撹乱と情報操作を担う。それぞれの役割分担は明確だった。

「相手はたぶん、リエラさんを最優先で狙います。捕食、召喚、状態異常、ヘイト固定。全部が厄介なので、本体を落とせば崩れると考えるはずです」

「まあ、そりゃそうよね。私が逆の立場でも絶対にそうするわ」

ラオンは自信ありげに笑った。

なら、やってやろうじゃないか。そんな反骨心がふつふつと湧き上がってくるのも事実だ。

あるのだが、対人クランの全員がラオンみたいなバカ正直な突撃をしてくるとは限らない。後衛狙いや状態異常対策、召喚潰しに分断や罠など、手札はいくらでもある。対人戦のセオリーは決して甘くない。

相手が積み上げてきた勝ち筋は、きっと山ほどある。

「それで、こっちの具体的な勝ち筋はどうなってるの?」

俺が尋ねると、ミーナは少しだけ目を細めた。

「一つ目は、リエラさんの耐久と回復を活かして、相手の主力を削り切る正面突破」

「完全に脳筋の考え方ね。もう少し知的な作戦はないの?」

「二つ目は、トビートミーによる撹乱とネネさんの機動力で、後衛や指揮役を崩す分断戦」

「それはなんだか楽しそうね。相手が右往左往する姿が目に浮かぶわ」

ネネがにやりと笑う。

「三つ目は、配信と世論を使った心理戦です」

ミーナの声が、少しだけ冷たくなった。

「相手は、強さで黙らせることに慣れています。でも、今回はこちらがイベント化します。条件の重さ、相手の過去、こちらが新興クランであること、リエラさんの知名度、ネネさんの拡散力。戦う前から、相手メンバーに『負けたら終わる』『勝っても炎上するかもしれない』という圧をかけられます」

「怖い怖い。あなたたちの考えていることは本当に恐ろしいわね」

俺は思わず両腕をさすった。

さっきまで照明で暑かったはずなのに、背中のあたりだけ妙に涼しくなった。

ネネは楽しそうに頷く。

「これまでは相手のクランに発信力が少なかったから済んでるけど今回は、弱い者いじめになってしまって、しかも配信で全部見られるわけでしょ?」

「その状態で普段通り動けるなら、本物です」

ミーナが淡々と言った。

「動けないなら、そこが崩しどころですね」

ふふふ、と二人が同時に笑った。

ネネは明るく無邪気に、そしてミーナは静かに冷ややかに。対照的な笑い声が重なる。

笑い方こそまるで違うのに、向いている方向性は完全に同じだった。息が合いすぎている。

俺はその瞬間、心の底から思った。

この二人を敵に回すのだけは、本当にやめておこう。社会的に抹殺されかねない。

ラオンは俺を危険な捕食者だと思っているかもしれない。

臣民たちは俺を魔王様だと思っているかもしれない。

だが、本当に恐ろしいのは、俺の魔王軍を管理しているミーナと、笑顔で世論の首筋を撫でているネネではないだろうか。

「でも、念のために言っておくけど、やりすぎは絶対になしよ」

俺は二人を見回しながら言った。

「勝つために準備はする。でも、相手を現実で潰すとか、関係ない人まで燃やすとか、そういうのはなし。これはエタファン内のクラン戦争で、私たちは配信者なの。そこは間違えたくないわ」

言ってから、自分でも少し驚いた。

俺ってば、ちゃんとまともなリーダーらしいことを言っている。自分でも感心するレベルだ。

自分で言うのもなんだが、すごいと思う。あの頃から確実な進歩を遂げている。

俺もまともな配信者として、着実に成長しているのだ。立派なものだ。

たぶんそうだと思う。……いや、そう思いたいだけかもしれないが。

ミーナは一瞬だけ目を丸くしたあと、ふっと柔らかく笑った。

「もちろんです。リエラさんがそう言うなら、ラインは守ります」

「ミーナ、あなた今、ちょっとだけ本当に燃やす気だったでしょ。顔に出てたわよ」

「燃焼範囲を適切に調整するつもりだっただけです。ご安心ください」

「言い方ってもんがあるでしょ! 全然安心できないわ!」

ネネも肩を揺らして笑う。

「大丈夫大丈夫。あたしも、炎上は火力調整が命って知ってるからさぁ」

「その言い方も十分に怖いのよ。経験者の重みを感じるわ」

俺が頭を抱えると、ちょうどその時、スタッフさんが控えスペースへ顔を出した。

「リエラさん、次のカットお願いします!」

「は、はい! 今すぐ行きます!」

俺は慌てて立ち上がり、羽織っていたパーカーをミーナに渡すと控室を出る。

さっきまでクラン戦争の話をしていたのに、次の瞬間には水着グラビアの撮影に戻らなければならない。

この激しすぎる落差はいったい何なのだ。頭の切り替えが追いつかない。

魔王軍の作戦会議と、夏っぽい笑顔の撮影が同じ日に同じ場所で行われているの、冷静に考えるとだいぶおかしい。

だが、ネネは手を振りながら笑った。

「リエラちゃん、いい顔してきなー。5日後には戦争なんだから、その前に可愛いの撮っとこ」

「だから言い方が物騒なのよ!」

俺は振り返ってそう叫びながら、撮影セットへ戻った。

白い砂の上に足を乗せると、さらりとした感触が足裏をくすぐり、照明の熱がまた肌を包む。

カメラマンがレンズを構え、スタッフが反射板を動かし、人工の夏空が俺の背後で鮮やかに広がっていた。

俺は深呼吸をひとつして、リエラとしての笑顔を作る。

五日後には、対人クラン《ネイキッドラオン》との全面戦争。

その前には、配信告知、作戦準備、レベリング、眷属の確認、世論の火力調整、そしてたぶん、ミーナとネネの悪い顔をもう何度か見ることになる。

抱え込んだ情報は相変わらず散らかっている。整理するだけでも一苦労だ。

だが、その散らかった情報の全部が、なぜか一本の道になりつつあった。

立ちはだかる塔クエストへ行くために。なんとしてもレベルの壁を越えなければ。

羽衛ミルキーとの石碑コラボへ繋げるために。絶対にこの機会を逃すわけにはいかない。

そして、新生リエラ魔王軍が、ただの配信映えクランではないと世界へ見せつけるために。

「はい、リエラさん、視線こっち! 少し強めの表情で!」

カメラマンの声に合わせ、俺は顎を上げる。

口元に笑みを浮かべ、瞳に少しだけ挑発を乗せる。

スタジオの熱、砂の感触、ライトの眩しさ、遠くで笑うネネの声、キーボードを叩くミーナの指音。

全部が混ざって、胸の奥が妙に熱くなった。

決戦の時は5日後だ。それまでにやれることはすべてやり尽くす。

あの裸ライオンのクランを、丸ごと喰えるかどうか。俺たちの真価が問われる一戦になる。

俺はレンズの向こうを見据えながら、心の中でそっと笑った。

いいわ、受けて立とう。こちらにも魔王としての意地というものがある。

--カシャカシャ!

「いいですね、リエラさんその表情、最高ですよ~!」

「そ、そう?」

せっかくなら、最高のイベントにしてやる。