軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゴブリンVSオーク

ゴブリンたちは、吹き飛ばされながらそれでも群がって戦っていた。

必ず誰かが纏わりつくように、無秩序に群がるだけではない。

本能のレベルで、戦い方を“知っている”みたいに。

どうすれば嫌なのか、どうすれば鬱陶しいのか、どうすれば相手の動きを確実に止められるのか。

それを、冷徹なまでに理解している動きだった。

耳を刺すような不快な鳴き声――「ギィッ!!」と、一体のゴブリンが短い断末魔のような声を上げた。

丸太のような剛腕から繰り出された一体が、盾オークの無慈悲な蹴りで派手に吹き飛ぶ。

小さな身体が石畳を転がり、鈍い衝撃音と共に、骨の折れるような嫌な音が一瞬だけ洞窟内に響く。

だが、その絶望的なまでの体格差は、彼らの戦意を削ぐ理由にはなり得なかった。

転がった勢いのまま、今度はオークの太い脚へ粘り強くしがみつき、ボロボロの棍棒を振り回して急所である膝裏を執拗に叩き始めた。

別の一体は、槍オークの腕へ飛びつき、ぐい、と肘関節へ身体ごと全体重をかけてぶら下がる。棍棒を落としたゴブリンは、もはや武器など不要とばかりに、そのまま獣のような拳で殴り、蹴り、さらには剥き出しの牙で噛みつく。

さらに、攻撃の手は末端の急所へと伸びていく。

狙いは、獲物の指へ。

オークの太い指へ、まるで蜘蛛みたいに禍々しく絡みついた一体が――。

乾いた、それでいて生々しい「ゴギッ」という破砕音が鳴り響く。

「ブゴォォォッッ!?!?」

聞いただけで背筋が凍るような、嫌な音がした。

弁解の余地もないほどに、完全に。

骨と関節が、本来あり得ない逆方向へ無慈悲に曲がった音だ。

『痛い痛い痛い!?!?』『うわああああ』『見てて痛い』『ゴブリン怖い!!』『待ってこれ』『あっ』

コメント欄が、画面越しの凄惨な光景に徐々に“気づき始める”。

それは俺も同じだった……戦いながら確信していた。

このゴブリンたち、ただ命令に従うだけの無機質な召喚獣じゃない。

動きというか戦術の癖が。

どこかで見覚えがあるどころか、嫌というほど身体に染み付いている。

しがみつく。関節を狙う。身体ごと絡む。

そして、何より――、

常識を逸脱した、無茶な耐久力。

……これ、うん、リエラの動きがベースになってるよね。

一体一体が妙に硬いし、ゴブリンなら即死級のオークの攻撃を受けても即死しない。

吹き飛ばされる。転がる。なのに、何事もなかったかのようにまた起き上がる。

その異様な耐久感へ、俺は自然と笑みを深めていた。

リエラのパラメーター……そして、これまで培ってきたえげつない戦闘スタイル。

確実に、その一部を引き継いでいる。

「……はは、最高じゃない」

思わず自分でも少し引くような乾いた笑いが漏れる。

これは悪質、敵からすれば、めちゃくちゃ悪質で悪辣。

オークたちの動きが、どんどん鈍る。

足へ。腕へ。首へ。

小さなゴブリンたちがアリのようにまとわりつき、関節を極め、視界を塞ぎ、物理的に動きを止める。

ヘイトはほとんどこちらへ来ない。

いや、正確には狙うべき対象へ、来たくても来れないのだ。

オークたちは今、緑の小鬼が蠢く“小さい地獄”に包まれていた。

なら、盤面は整った。もう、やることは一つだ。

「ミーナ、出番よ」

「はい!」

返事が速い。

その瞬間、後方で爆ぜるような鮮烈な炎が灯った。

ボッ、ボッ、と高効率の魔力が点火する音。

空中へ、殺意を孕んだ炎の球体が二つ浮かぶ。

さらに、空気を焦がす細長い炎の矢が三本。

ミーナは詠唱姿勢すらほとんど取っていなかった。

というより、すでに詠唱を完了していたというべきか《マナ停滞》ヒーラー需要はあれども、攻撃型の魔導士にはあまり使い道がないとされる詠唱待機のスキル。

まじめなミーナはそのスキルの効果をちゃんと説明を読んだうえでこのパーティなら「おしゃべりの前に詠唱を終わらせていればいいのでは?」と仮説を立て、しっかりと活用できると思い、スキルを伸ばしていた。

詠唱をすでに完了していた炎の塊たちはただ、あとはミーナの号令を待つだけだ。

ミーナは指先を軽く動かしながら。

息をするみたいに、ごく当たり前の動作として。

「ファイアー……」

詠唱は、ほぼ途中からだった。

「アロー」

その瞬間。

ファイアーアローだけじゃない。

背後に控えていたファイアーボールも、意思を同じくして同時に飛ぶ。

『!?!?』『えっ』『同時発動!?』『ほう、マナ停滞ですか』『スキル構成マニアックすぎるww』

紅蓮の尾を引いて炎が走る。

大気を焼き、空気を裂く鋭い音。

そして――

凄まじい衝撃と共に「ゴウッッ!!」と爆炎が吹き荒れた。

熱風。肉の焼ける匂い。オークたちの絶叫。

火だるまになった槍オークが、ゴブリンを振り払おうとして暴れる。

ただ、確実にその抵抗が弱くなっていることが見て取れる、その隙を逃すリエラのゴブリンではない。その脚へ、身体へまだ二体、三体としがみついている。

たとえ身が焼かれようとも、決して逃がさない。

焼かれながらでも。殴られながらでも。

ゴブリンたちは、死が訪れるその瞬間まで離れない。

「……ふふ、いい絵面ね」

俺は、その地獄絵図を眺めながら棘メイスを肩へ担いだ。

どうだ、まだ一度も使っていない。完全にただの雰囲気武器になっている。でもこれが最高なんだ。

俺はゆっくり歩き出す。

ゴブリンたちが作った血と炎の道。

オークたちが苦悶しながら暴れる戦場の中央を、まるで散歩でもするみたいに、悠然と通り抜けていく。

シスター服の裾が揺れる。ツインテールが跳ねる。棘メイスが肩で重く鳴る。

コメント欄が、どんどん加速していた。

『完全に魔王軍』『リエラ様、敵側です』『オークかわいそう』『ついにメイスを振り下ろす!?』『捕食待機』

その視線の先には一際巨大な、盾持ちのオークがいた。

巨体。分厚い盾。

本来なら前衛としてパーティを守るはずだった、鉄壁を誇る存在。

でもそんな盾持ちは今、地に伏していた、四肢へ、首へ、腰へ十数体のゴブリンが群がり、完全に拘束している。

指を折り、脚を捻り。盾を握るアイデンティティさえ奪う。

盾オークは必死に暴れる。

だが、ミリ単位の身動きすら叶わない。

その無様な姿を見下ろしながら。

俺は、慈悲など欠片もない完璧な笑顔で、にっこり笑った。

「いただきま〜す❤︎」

『うわ出た』『終わった』『オーク、逃げろ』『最高の笑顔で言うな』『クリップ』

次の瞬間、待ちきれないとばかりに尻尾が開いた。

ばきばき、と不気味な節々が展開する音を立てながら、黒い花弁みたいに裂けていく。

内部から現れるのは、肉色の捕食器官。

ぬらり、と怪しく光る粘液。

尻尾の形状が捕食者のそれになる、牙、よだれ、脈動。

目の前にあるのは、完全にホラーである。

その中で、俺は両手をほほにあて恍惚に笑っていた。

最高に。誰よりも配信映えする、美しすぎる笑顔で。

そしてーー、

「ゴシャバキッグシャッッ!!」と、形容しがたい破砕音が響き渡る。

オークが消えた。

悲鳴、骨の砕ける音、肉の潰れる音。

それらが全部まとめて胃袋へと飲み込まれる。

俺の身体へ、凄まじい密度の熱が流れ込む。

生命力、筋力、重量……その全てを堪能する。

「……っ」

甘い、違う、旨い。

もっと根源的で、原始的な……、

全細胞が歓喜し、身体が喜ぶ味、そうーーカルビ焼肉。

「豚肉うっっっま……」

《VIT+1.7,HP+8》

思わず漏れた、残酷なまでの本音。

その瞬間。コメント欄が、完全に沸騰した。

『言ったwwwww』『豚肉扱いで草』『リエラ様最高』『オークくん泣いてる』

『飯テロやめろ』『完全に配信の天才』『臣民、大歓喜』

「みんな、飯テロはここからよ、白米の準備はいい?」