軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

炎のピクニックだと思ったら、もうボス部屋じゃん!

炎のピクニック。

後から思い返しても、あの道中を形容するなら、その言葉が一番しっくり来ると思う。

もちろん、普通のピクニックにはゴブリンの悲鳴も、燃え上がる通路も、ぽよんぽよんと殴られながら悠然と歩く悪魔シスター美少女も存在しない。存在してたまるか。そんなピクニック、遠足のしおりに「危険物:リエラ」と書かれる。

だが、俺たちにとっては、それくらい気楽な道中になっていた。

俺が先に行く。毒ダーツやタウントダーツを投げ、尻尾が楽しそうにぷすぷすとポイズンニードルを刺す。効果音にしてもぷすぷすぷすぷすだらけだ。そんな煽りみたいな攻撃にゴブリンたちが怒って集まる。ミーナが少し後ろからファイアーウォールを置く。俺はその炎の中を、ちょっと熱めのサウナ気分で歩いて戻ってくる。ゴブリンたちはヘイトに引っ張られて炎へ突っ込み、そのまま燃える。

最初こそミーナは毎回「リエラさん! 本当に大丈夫ですか!?」「燃えてます! 燃えてますよ!?」と大騒ぎしていたが、何回も繰り返す頃には、かなり慣れてきたらしい。

「次、右の通路にもいます」

「じゃあ、そっちもまとめてくるわ」

「はーい、ファイアーウォール、十秒後に置きますね」

「了解」

会話だけ聞けば、かなり落ち着いたパーティに聞こえる。

実際の絵面は、俺がゴブリンの群れを引き連れて炎の壁からぬるっと出てくる地獄絵図なのだが。

効率はソロと比べると段違いだった、抜群だった。

道中、ミーナのレベルは四つ上がって19になった。俺は16、同じレベルから始めた狩だったがミーナの方に経験値が吸い寄せられているのか、経験値の入り方には、どうも少し差があるらしい。パーティって等倍じゃないの!?

まあ、その辺りは考えすぎても仕方ない。

経験値の入り方にも個性が出る。

うん、そういうことにしておこう。

「……すごいです。私、今日だけでこんなに上がると思ってませんでした」

ボス部屋の手前らしき大きな扉の前で、ミーナが自分のステータスを見ながら、まだ信じられないような声を出した。

洞窟の奥は、入口付近よりもさらに冷えていた。岩肌から染み出した水が細い筋になって壁を伝い、床のくぼみに溜まっている。ファイアーウォールを何度も使ったせいで空気には焦げたような匂いが残っているが、その奥に湿った土と苔の匂いがしつこく絡みついていた。

俺は扉の横に腰を下ろし、軽く息を吐く。

「それだけミーナの火力が優秀ってことよ」

「リエラさんが集めてくれるからですよ」

「ふふん、もっと褒めてもいいのよ」

「はいはい、すごいです、リエラ様」

「雑じゃない!?」

思わずツッコむと、ミーナが楽しそうに笑った。

昨日のダンジョンで死にかけていた女の子と同じ人物とは思えないくらい、今の彼女はよく笑う。いや、俺も昨日の時点では初心者装備でゴブリンを吸っていたわけだから、人のことは言えない。変化の速度で言えば俺の方がだいぶおかしい。

ただ、ボス前となると、さすがに浮かれてばかりもいられない。

俺たちは少し休憩を取ることにした。

ミーナのMP回復のためだ。

このゲームでは、非戦闘状態であればMPは少しずつ自然回復する。もちろん、即座に全快するわけではない。だからこそ、こうして安全そうな場所で腰を落ち着けて、呼吸を整える時間が必要になる。

ミーナは壁際に座り、両手で杖を抱えるようにしていた。赤い髪の先が肩から滑り落ち、薄暗い光の中で静かに揺れている。顔には疲労があるが、目は澄んでいる。緊張しているけれど、怯えてはいない。

「MP、どう?」

「もう少しで全快です」

「なら、焦らず待ちましょう」

俺はそう言って、扉を見上げた。

大きな石扉だ。

ゴブリンが作ったにしてはやけに立派で、表面には粗い彫刻が刻まれている。何かの顔のようにも見えるが、風化していて細部は分からない。扉の隙間からは、かすかに重い空気が漏れている。

普通の部屋じゃない。明らかに主張がある、ボス部屋だ。

「……ボス部屋って、初めてです」

ミーナがぽつりと呟く。

「私もよ」

「え、リエラさんも?」

「当たり前でしょう。私、チュートリアルギルドを突破できなかった女よ」

「まだ根に持ってるんですか!?」

「忘れないって言ったわ」

ミーナは困ったように笑ったあと、少しだけ表情を引き締めた。

「でも……いけますよね」

「いけるわね」

即答した。根拠はある。

道中で連携は確認できた。俺は敵を受けられる。ミーナは焼ける。俺は麻痺や毒で足止めできる。ミーナは単体火力も範囲火力もある。

問題は、ボス部屋という閉鎖空間で、どれだけ落ち着いてその流れを再現できるか。

「ミーナ」

「はい」

「無理はしないで。危ないと思ったら下がる。MPがきつかったら言う。詠唱を潰されそうなら、私の後ろに隠れる」

「……はい」

「私が変なことをしそうになったら止める」

「それは常に止めたいです」

「冗談よ! 多少変なことしないとゲームにならないんだから……っ!」

思わず声を上げると、ミーナがまた笑った。

その笑い声で、場の空気が少しだけほぐれる。

やがて、ミーナが杖を握り直した。

「MP、戻りました」

「よし」

俺も立ち上がる。

シスター服のチェーンが、しゃらりと鳴った。黒と白の布地が身体に馴染んで、もう初心者装備の頃の頼りなさはない。性能としてはそこまで高くないが、なんか強そう感を演出する見た目の説得力という意味では十分だ。

それに、俺は硬い。装備より中身が硬い。

なんだそのフレーズ。

「準備はいい?」

「はい」

俺たちは扉の前に並んだ。

俺が前、ミーナが少し後ろ。

それだけで、少し安心する。

ひとりじゃない。昨日までとは違う。

「いざ、ボス部屋へ!」

俺が勢いよく言うと、ミーナも小さく頷いた。