軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六十八.口から吐き出された煙がゆらゆらと漂って、少しずつ

口から吐き出された煙がゆらゆらと漂って、少しずつ溶けるように消えて行った。ヤクモは煙管の灰を落とすと、気が滅入ったようにテーブルに頬杖を突いた。

「参ったのう……」

「わたしら悪役だね、ひーる、べいべ」

「ちぇっ、この世の中、あんな人の良い連中がいるとは思わんかったわ……あーあ、こんな仕事受けるんじゃなかったのう……」

「昔の人は言いました。後悔先に立たず。悔やむ阿呆なら踊らにゃ損損」

「やかましい。くそ、こんなに後味の悪い仕事は駆け出しの頃以来じゃ……」

ヤクモはイライラした様子でまた煙管に煙草を詰めた。ルシールはごろんとベッドに横に転がる。

「カシムさんはわたしらを信用しきってないからまだアレとして……試すような真似をして、悪かったかな?」

「あん? ああ、ベルさんか……まあ、あれで情報欲しさにシャルを渡すような人間なら逆によかったんじゃがのう……まったく、下心のない人間ほど扱いにくい相手はないわい」

ヤクモは胸いっぱいに煙を吸い込み、少しむせるようにして吐き出した。ルシールは仰向けになって天井を見た。

裏から回って来るような仕事は、大抵は悪人が悪人を狙うような依頼が多い。そのせいもあってか、人を助けるのも暗殺するのも、特に心が動くような事はなかった。自分たちの仕事が後になって貴族の政争に一石を投じる事になろうとも、仕事さえ終われば後は知らぬ顔で通したものだ。

それがどうしてか今度ばかりは後味が悪くて困る。

いつもならばシャルロッテをルクレシアまで連れ戻して依頼料を貰い、後は知らん顔だ。ルクレシアで誰が権力を持とうが、シャルロッテが飼い殺しのように神輿に担がれようが、知った事ではない筈だった。

しかし、国を追われて邪教の手先になっている筈の少女は、信頼できる大人たちに囲まれて幸せそうに笑っている。ルクレシアに連れ帰る方が、碌な目に会わないよう思えるくらいだ。悪人から助け出すという、自分への言い訳のような大義名分すら立たない。

「いっそロベール卿が悪人ならいいのにね」

「そう都合よくはいくまいよ。それにしても流石は“覇王剣”の元仲間じゃな。一筋縄ではいかん。シャル自身が行くと言わない限りは……」

「……でも、ベルさんたちの言ってた事も一理あるよ。わたしらも騙されてるんじゃないかな? シャルを送り届けたとして、ロベール卿が悪人で、君はそれでいいの?」

ヤクモは嘆息した。

いっそロベール卿が偽物なら、と彼女も思わないではない。しかし、ルクレシアの指輪は正当な受け継ぎの儀式を行わない限り、持ち主の命と連動している。ロベール卿が死んでいるならば指輪はない筈である。ゆえに、あの指輪はロベール卿を本物とする強い根拠になっていた。

「それを言い出しては切りがあるまい。これは仕事じゃ。割り切るしかない」

「わたしはシャルが好き。一緒にしぇけなべいべしたい……」

「私情を挟み過ぎると早死にするぞ?」

「らいひずべりぃしょう。それもまたろっけんろー」

「……結局おんしはどうしたいんじゃ」

「確かめたい。ちぇけ」

ルシールはごそごそと胸元をまさぐり、服の中に入っていた首飾りを引っ張り出した。青白い水晶が下がっている。ヤクモは顔をしかめた。

「そりゃ一方通行じゃぞ。向こうからしか連絡は来ない筈じゃし、北部に来てから一度として連絡がないではないか」

「頑張る」

「やめんか。おんしがひっくり返って迷惑するのは儂じゃ」

「むう」

ルシールは不満げに口を尖らしたが、やはり無理だとは思っていたらしい、大人しく元通り首飾りをしまった。

「……カシムさんたちに協力してもらう、とか? あの人とミリィにゃんが一緒ならこっちからも通るかも」

「無駄じゃよ。仮に通ったとして、それで相手が本当の事を言う保障なんぞあるまい。その上真実を語ったして、それで何の裏もない依頼だったらどうする? いよいよ戦うしかなくなるぞ?」

「……味方にする人を間違えちゃいけないと思う」

「これから田舎に帰ろうっちゅう連中を味方にしてどうする。儂らも田舎に引っ込めっちゅうんかい」

「うー……わんわん」

ルシールはごろりと転がり、枕に顔をうずめて足をバタバタさせた。ヤクモはため息と一緒に煙を吐き出した。

「もどかしいのは儂も一緒じゃ。ともかく、向こうの返事を待とうではないか」

窓の外で賑やかなボルドーの夜が更けて行く。

冒険者ギルドに出向いたベルグリフは、ギルドマスターであるエルモアを伴って宿まで戻って来た。ボルドー家の屋敷まで行くための馬車の手配を頼んだのである。

エルモアは再会を喜び、事情を聞いてシャルロッテたちに同情した。彼はあの騒動をマルタ伯爵の仕業であると思っており、シャルロッテたちには特別悪い感情を持っているわけではないらしい。

「すみませんなエルモア殿。無理をお願いして」

「何をおっしゃいますベルグリフ様。他ならぬあなた方の頼みであれば断りなどいたしません」

部屋の戸を開けると、アンジェリンたちがこちらを向いた。

「あ、エルモアさん」

「ご無沙汰しております、アンジェリン様、皆様」

エルモアは相変わらずの柔らかな物腰で、にっこりと微笑んだ。

「事情はお聞きしました。あの事件は痛ましいものでしたが、違えた道を正そうという子供たちを突き離す道理はありません。私も口添えいたしましょう」

「ありがとう……ほら」

アンジェリンはそっとシャルロッテの背中を叩いた。シャルロッテはおずおずと歩み出た。

シャルロッテは髪の毛を結い上げて、帽子をかぶって、なるべく目立たないような格好をしていた。ボルドーの騒動の時はマルタ伯爵と一緒に颯爽と現れてハリボテの魔王を払ったのだ。アルビノの外見も手伝って、見たらそれと気づく者がいるかも知れない。

俯いてもじもじしているシャルロッテを、アンジェリンが優しく撫でてやった。

「大丈夫だよ……」

「あの……わたし……その」

シャルロッテはそっと頭を下げた。

「ごめんなさい……」

「憑き物が取れたような顔ですね」

エルモアは笑ってシャルロッテの頭をぽんぽんと叩いた。シャルロッテはぼろぼろ涙をこぼした。

アンジェリンはホッとしたように表情を緩め、今度はビャクを引っ張り出した。

「お前も謝らなきゃ駄目……」

「……すまん」

「もっとちゃんと」

「いえいえ、構いませんよアンジェリン様……君には痛い目に会わせてもらいましたねえ」

くつくつと笑うエルモアに、ビャクはバツが悪そうに頬を掻いた。

「……悪かった」

「はは、よければ今度君の魔法を調べさせてもらいたいですね……さて、馬車を手配してあります。ヘルベチカ様は屋敷におられる筈ですから、早速参りましょうか」

シャルロッテは緊張した面持ちで頷いた。ベルグリフは顎鬚を撫でた。

ヘルベチカが容赦なくシャルロッテとビャクを断罪するとは思いたくはない。しかし、領主としての立場というものもあるだろう。そうなれば、ヘルベチカという個人ではなく、ボルドー伯として判断を下すかも知れない。

「……なるようにしかならんな」

何とかやれるだけの力を尽くす。シャルロッテたちの反省の気持ちが伝わるかどうか、それは彼女たち次第だ。

シャルロッテと一緒に行こうとするアンジェリンを、ベルグリフが呼び止めた。

「別の馬車で行こう。シャルたちはエルモア殿とカシムに任せる」

「どうして……?」

「アンジェもお父さんもここじゃ有名になっちゃっただろう? あの子たちと一緒に行っちゃ、要らぬ注目を浴びるからね」

「……そっか。確かに」

サーシャの喧伝と、前の騒動の活躍で、アンジェリンとベルグリフの名はボルドーに知れ渡っていた。昨晩もこちらを知っている冒険者たちに声をかけられ、ひやひやしながらシャルロッテたちだけ急いで部屋に行かせたものだ。

誰もがエルモアのように理解のあるわけではない。あの騒動の噂はまだまことしやかにささやかれている。シャルロッテやビャクの姿を覚えている者たちもいるだろう。アルビノの少女などそうはいない。

先の馬車が出たのを確認してから、ベルグリフはアンジェリン、アネッサ、ミリアムと一緒に、追いかけるようにして別の馬車で屋敷に向かった。ボルドー家の覚えめでたい一行だと誰もが知っているから、見られこそしたが不審には思われなかっただろう。

屋敷の前に行くと、シャルロッテたちが待っていた。アシュクロフトが一緒に立っている。なんだか片付かない表情である。

「皆さん、ご無沙汰しております……しかし、なんとまあ数奇な巡り合わせですな」

「すみませんなアシュクロフト殿……ヘルベチカ殿にお目通りできますでしょうか?」

「それはもちろん……どうにも事情が分かりませんが、危険はないのですね?」

「ええ。その点は心配しなくとも大丈夫です」

「まあ、エルモア殿もおられますし、大丈夫だとは分かっておりますが……まったく、あなた方はいつもこちらを驚かせてくれますな」

アシュクロフトは眼鏡の位置を正し、ちらりとシャルロッテとビャクを一瞥した。警護の兵士たちも困惑したように顔を見合わせたりひそひそと話をしていたりする。シャルロッテは居心地が悪そうにアンジェリンの傍に寄り添った。

「では、こちらに」

「オイラはここで待ってる。こういうお屋敷は苦手でね」

カシムはそう言って屋敷の前の柱に寄り掛かった。アシュクロフトが怪訝そうな顔をしてベルグリフにささやいた。

「彼は何者ですか?」

「私の古い友人でして……礼儀がないもので申し訳ない」

「ふむ……まあいいでしょう」

アシュクロフトの案内で屋敷の中を行く。凄惨な戦いの傷跡は拭い去られ、無骨ながらも品の良い屋敷の様相がすっかり戻っていた。アンジェリンが隣のシャルロッテの手を握り直した。

「……怖い?」

「……大丈夫」

シャルロッテは大きく息を吸って前を見た。

書斎に通された。奥の執務机にヘルベチカが腰を下ろしていた。脇にセレンが控え、書類などを検めている。二人は一行に気付くと驚いたように表情を緩め、次いでシャルロッテとビャクに目を留めて口を結んだ。

「……ベルグリフ様、アンジェリン様、ようこそいらっしゃいました」

「突然の訪問の不躾をお詫びします、ヘルベチカ殿」

「構いませんよ」ヘルベチカは息をついて小さく笑った。「説明してくださいますね?」

「もちろんです。その為に来たようなものですから」

「やれやれ」

ヘルベチカは困ったように嘆息し、いたずら気に微笑んだ。

「留守の時に来たり、驚くべき訪問者を連れて来たり、ベルグリフ様はいつもわたしを翻弄してくださいますね」

「……申し訳ない」

ベルグリフは頭を掻いた。

「席を用意しましょう」

セレンが、控えていたメイドや使用人に指示して、書斎の中に人数分の椅子が運び込まれた。各々が腰を下ろす。

ヘルベチカは柔和な表情で、しかし目だけは鋭くシャルロッテたちを見据えていた。

「さて、説明していただきましょうか」

ベルグリフは頷き、シャルロッテたちの言も交えながら話をした。

ボルドーの騒動以降のシャルロッテたちの足取りに始まり、ルクレシアの政争や浄罪機関の事、オルフェンでの襲撃の事、何とか罪滅ぼしをしたいと考えていて、ここまでやって来た事。

「……やった事が消えるわけではありません。しかし、この子たちはまだ子供です。あまり責め立てて未来を奪う事は、一時の溜飲を下げる以外に意味はないと思います。どうか許してやってはもらえませんか」

「私も同意しますよ、ヘルベチカ様。それに、あの騒動を画策したのはマルタ伯爵です。この上、この子らに罪を負わすのは酷ではないかと思います」

エルモアもそう言った。シャルロッテは震えながら頭を下げる。

「わたし……わたし……あの、ごめんなさい……許してもらえるなら、何でもします……」

ビャクも黙ったまま頭を下げた。

ヘルベチカは嘆息した。

「何でも、と言われても困りますね。その細腕で何ができると? それにもう屋敷や町の復興はあらかた済みました。あなたたちの助けなど必要ありません」

「う……」

シャルロッテは俯いて黙りこくった。その時、アンジェリンが居ても立ってもいられなくなった様子で身を乗り出した。深々と頭を下げる。

「ヘルベチカさん、お願い。シャルとビャクを許してあげて。わたしも謝るから。お願いします」

アンジェリンに倣うように、アネッサとミリアムも頭を下げる。ベルグリフは目を伏せた。

「……ヘルベチカ殿、私からも頼みます。どうか」

しん、とした中、ヘルベチカはくすりと笑った。

「もう、ボルドーの恩人の方々に頭を下げさせて……これじゃわたしが悪者みたいじゃないですか」

「お姉さま、あまり意地悪しないであげましょう」

「分かってますよ、セレン」

ヘルベチカは真っ直ぐにシャルロッテを見つめた。

「ボルドーの領主としては、軽々しくあなたたちを許すわけにはいきません。それは領民たちを軽んじる事であり、無責任な事だからです」

「はい……」

シャルロッテは恐縮したように体を小さくした。ヘルベチカはにっこりと微笑んで立ち上がり、シャルロッテの肩に手を置いた。

「……けれど、あなたたちが犯した間違い以上の正しい行いを続けるというなら、ただのヘルベチカ・ボルドーとして、あなたたちを許しますよ」

「あ……あう……」

シャルロッテはぼろぼろと涙をこぼし、しゃくり上げた。アンジェリンはホッとしたように脱力した。

「……ありがとう、ヘルベチカさん」

「ふふ、ボルドー家の恩人の皆さんに頼まれては許さないわけにはいかないでしょう? 皆さんが一緒なら、きっとこの子たちも間違った道には行かないでしょうしね」

「しかし、あまり町には出ない方がいいでしょうな。まだ記憶が薄らいだわけではないですから、騒ぐ者が出るやも知れません」

アシュクロフトが言った。ヘルベチカは頷く。

「そうですね。無用の混乱はわたしたちも望むところではありません。当面はここにいてもらう事になりますが、いいですね、シャルロッテ?」

「はい……」

シャルロッテは何度も頷いた。ヘルベチカは微笑むとセレンの方を向いた。

「部屋を用意させなさい。嬉しい客人です、丁寧におもてなしなさい」

「はい、お姉さま」

セレンは足早に部屋を出て行く。ヘルベチカはにっこりと笑ってベルグリフの方を向いた。

「驚きましたわ、まったく。この子たちの為にわざわざここまで?」

「いえ、その為だけではありません。トルネラに戻る途中でして……雪解けの状況はいかがなものでしょうか?」

「そうですね、もうロディナまでは行き来できるようですから、あと一週間もすればトルネラにも行けると思いますわ」

「そうですか……よかった」

「ふふ、それまではゆっくりして行けるのでしょう? またお話を聞かせてくださいな」

「ええ、喜んで……しかし、少しまだ問題が残っておりまして……アンジェ、カシムを呼んで来てくれるかい?」

「うん」

アンジェリンは部屋を出て行った。ヘルベチカは不思議そうな顔をして首を傾げた。

「何かあったのですか?」

「実はルクレシアの情報を知りたいのです。半年ほど前に政変があったそうですね」

「ええ、聞き及んでいます。しかし、なぜルクレシアの?」

「シャルロッテの事なのです」

シャルロッテがルクレシアの枢機卿の娘だという事を聞いたヘルベチカは、口元に手をやって眉をひそめた。

「なるほど……反教皇派の粛清の話は聞いています。まさかここでつながるとは……アッシュ、ルクレシアに関する情報は?」

「半年前の政変の情報もある程度入っています。しかし、ルクレシアの事はあまりボルドーとは関係がありませんからな……どの程度有用なものかは調べてみない事には」

「調べなさい。反教皇派がどの程度の権勢を持っているのか。特にバルムンク卿とロベール卿周辺の事を念入りに。エルモア様、ギルドの方にも何か情報はございませんか?」

「調べてみましょう。失礼いたしますよ」

アシュクロフトとエルモアは出て行った。入れ違うようにアンジェリンに連れられたカシムが入って来る。

「連れて来たよ、お父さん……」

「はは、このお屋敷窮屈じゃなくていいね。大公家の屋敷は綺麗過ぎて落ち着かなくてさあ」

「……そちらは?」

「私の古い友人でカシムといいます。カシム、こちらはヘルベチカ殿だ。ボルドー家の当主で伯爵だよ」

「おんや、お若いのに。どうも、カシムです。よろしく」

「ヘルベチカ・ボルドーと申します。お見知りおきを」

ヘルベチカはスカートをつまみ、自然な動作で優雅にお辞儀した。カシムは照れたように山高帽子に手をやった。

「こういうの慣れないなあ……」

「何言ってるんだ、いい年して……今、ルクレシアに関する情報を調べてもらってる。それ次第でこちらの出方を考えよう」

「へえ、そりゃ助かるね。けど、ルクレシアから離れた北部の町で情報なんか手に入るの?」

ヘルベチカは少し自慢げに笑った。

「ふふ、ここ一年の間に、領内外のあちこちに人を放って情報網を張り巡らせたんですよ。マルタ伯爵の陰謀があってから、少し用心深くなりまして。ギルドの協力もありますから、そこらの情報屋よりも正確なものが扱えると思いますよ?」

「……おっそろしいねーちゃんだね。でもそれ教えてよかったの?」

「あっ…………その……内密にお願いしますね?」

「ヘルベチカ殿……」

ベルグリフは呆れたように嘆息した。アンジェリンたちがくすくす笑う。抜けているんだか、こちらを完全に信頼しきっているからか、ともかく少し危なっかしい。

ヘルベチカは慌てたように視線を泳がせ、それから姿勢を正した。

「こほん……ひとまず、ルクレシアの権勢の内情、それに伴って反教皇派内部の力関係まで手に入れば上々といったところでしょうか」

カシムは山高帽をかぶり直してにやりと笑った。

「いいね。察しがよくて助かるよ。でもそこまで手に入るかな?」

「ふふ、貴族には貴族のやり方があるのですよ。さて、情報が入るまでは少しお休みくださいな。お茶を淹れさせますから」

「ありがとうございます。そういえば、サーシャ殿はどうしたのですか?」

「ああ、あの子はヘイゼルまで巡察に行っているんです。もう今日あたり帰って来ると思いますよ」

いずれにしても、少し話が進展しそうである。同じ貴族同士であるから、何かしらの情報があるかと思って尋ねたが、思った以上に話が早い。

ありがたい事だ、とベルグリフは少し力を抜いて椅子にもたれた。

翌日の夜になっても何の音沙汰もないので、ヤクモはじれったい気分で部屋を行ったり来たりした。

よもや自分らを放ってトルネラに逃げたのだろうかとも思ったが、ベルグリフらの性格からして、それは考えづらいと思い、ハッとして首を振った。

「……やれやれ、あの御仁も大した人たらしじゃのう」

短い交流にもかかわらず、不思議とベルグリフを信頼している自分にヤクモは苦笑した。ルシールが椅子をぎいぎい言わした。

「昔の人は言いました。急いては事を仕損じるような気がする」

「そこは曖昧じゃいかんじゃろ……」

ヤクモは煙管に煙草を詰め、残りが少ないのに顔をしかめた。

「……この町には煙草は売っとるかのう」

咥えて火を点けたところで、部屋の戸が開いた。びっくりして身構えると、アンジェリンが立っていた。

「げほっ、げほっ……な、なんじゃ、おんしか……驚かさんでくれ」

煙が変な所に入ったらしい、ヤクモは涙目で小さく咳き込んだ。ルシールがぴょこんと立ち上がる。

「進展はございましたの……?」

「うん。一緒に来てもらう……」

有無を言わせぬ口調のアンジェリンの言葉に、ヤクモとルシールは顔を見合わせた。

「……嫌じゃ、とは言えんわな」

「うん」

ヤクモは嘆息した。

「……分かった、同道しようぞ」

「ん」

アンジェリンに促されて、二人は部屋を出た。ないとは思うが、彼女らが自分たちを秘密裏に葬るつもりではない事を願って。