軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一〇〇.地上に戻ってから、アンジェリンが

地上に戻ってから、アンジェリンが何となく上の空なのでベルグリフは心配した。何か瘴気のようなものに当てられたのではないかと思ったのだ。

しかし、実際はアンジェリンの内面の問題である。しかもベルグリフに直接相談できるような代物ではない。昔の友達と仲良くするのが何となく引っかかる、などと言える筈もなく、アンジェリンはひとまず笑顔で誤魔化してより一層頭を抱えた。

イスタフのギルドマスター、オリバーからの頼み事はめでたくすべて済み、ぼつぼつ『大地のヘソ』から帰ろうという頃になって来た。

大海嘯も概ね落ち着いて来たらしい、どうやって戻るつもりなのか、素材を山積みにした荷車と一緒に出掛けて行く冒険者の集団や、帰り支度をする者たちの姿が目立って来た。代わりに、大海嘯のような物騒な時期を外してやって来る者もいるようで、人の出入りが活発になって来たように思われた。

そんな中、アンジェリンたちは女の子だけで酒場に来ていた。アネッサ、ミリアム、マルグリットとテーブルを囲む。苦労をねぎらう意味もあったし、アンジェリン個人としても、何となくベルグリフたちと顔が合わせづらいような気がしたのである。

「なんか変だぞアンジェ。お前らしくもねえ」

串焼きを酒で流し込んだマルグリットが目をぱちくりさせた。アンジェリンは大きく嘆息した。

「……変なのは分かってる。どうしたらいいか分かんないの」

「なにがー?」

ミリアムはスープをすすってアンジェリンを見た。

「何と言えばいいのか……」

「なんか、前も似たような時あったな……なんだっけ、シャルたちを連れてトルネラに行く時、だったかな?」

アネッサがそう言ってグラスに酒を注いだ。

そう、確か同じような時があった。あの時は本当の親の話から始まって、ベルグリフが自分に何か隠し事をしているんじゃないかと不安になったのだった。

しかし今は違う。何だか自分がひどく身勝手な気がして、それがとても辛い。

ベルグリフの為だと思い込んでこの旅に付いて来たが、いざベルグリフが目的を遂げて旧友と再会したのを見れば、同じように喜んでやる事ができない。何だか置き去りにされたような気分の方が先行してしまう。ベルグリフ自身は何も変わっていないのに。

「……お父さんの為だなんて言って、わたし自分の事しか考えてない……」

初めから自分勝手な事だと自覚していればまた違ったかも知れない。お嫁さん探しの時は、自分も母親が欲しいという欲望があった分、まだ割り切る事ができた。シャルロッテやビャク、ミトの事だって、自分がお姉さんだという優越感があるから、何の事はない。

しかし今回は本気でベルグリフの為だと思っていたせいで、この感情との差異に余計にダメージがある。

カシムもパーシヴァルも、自分の知らないベルグリフを知っている。同じものを共有して、それを笑って語り合う事ができる。それがひどく羨ましい。

今までは独り占めできていたベルグリフを取られたように感じてしまうのは、思った以上に自分がズルいような気がして、それがアンジェリンを落ち込ませた。

カウンターから追加の酒瓶を持って来たマルグリットがどっかりと腰を下ろした。

「なんだよ、カシムとパーシーに嫉妬でもしてんの?」

「うー……そうなのかなあ? でも、カシムさんもパーシーさんも好き……」

あの二人が嫌いなわけではない。嫌いだったらまだよかった。

アネッサは眉をひそめた。

「嫉妬するような事じゃないと思うけどな……あの二人とアンジェは違うし、ベルさんがそれでアンジェを邪険にするとは思えないし」

「そうなんだけど……そうなんだけどぉ……」

アンジェリンはコップの酒を一息に飲み干すと、テーブルに突っ伏した。アネッサが嘆息した。

「まあ、今だけだよ、きっと。環境が変わって戸惑ってるだけだって」

「慣れだな、慣れ。あんま気にすんなよ。お前がそれじゃ調子狂うぜ」

マルグリットが笑いながらアンジェリンの背中を叩いた。

今だけだろうか。落ち着く時があるのだろうか。それがどうにも分からず、アンジェリンはため息をついて瓶から酒を注いだ。

アンジェリンは落ち込み気味だが、他三人はそんな事はない。酒が回れば余計に陽気になるというもので、アンジェリンの方も次第に酒気が回って少し気分が晴れて来た。

そこに人影が差した。「あら」という声がして、見るとモーリンが立っていた。器用に両手に幾つもの皿を持って、その上に料理が山盛りになっている。

「皆さんお揃いで」

「モーリンさん、一人?」

「いえ、あっちに、あら? トーヤ? おーいー?」

モーリンはきょろきょろと辺りを見回した。向こうの方から、同じように両手に食べ物を抱えたトーヤがふらふらと歩いて来た。

「あ、いた。もー、何してるんですか」

「それはこっちの台詞だよ。なんでいつも一人で行っちゃうかな……あ、どうも」

トーヤはアンジェリンたちを見て、くたびれたように笑った。

相変わらず食の太いモーリンが、市場であれこれと食い物を買い込んで、さて食べようという段だったらしい。

知らぬ仲でもなしと同じテーブルを囲んで、アンジェリンたちも幾らかのご相伴に預かる。

焼いた肉、野菜と内臓を煮込んだらしいスープ、柔らかな果肉に汁がたっぷり詰まった果実、ジャムを塗った薄焼きのパン、妙にぷるぷるして透明がかった物体など、魔獣から採れたものだけとは思えないほどバラエティに富んでいる。

「これはですね、ボーン・ジャイアントの骨髄だそうです。いやあ、あんな骨だけの魔獣からも食べられるものが採れるなんて、素晴らしいですねえ」

「モーリンさん、これトーヤと二人で食べるつもりだったのー?」

ミリアムが言うと、モーリンは首を横に振った。

「トーヤはあんまし食べないんですよ。だから大体わたしが食べます」

「よくこんなに食えるな……おれは絶対無理」

マルグリットが呆れた表情でコップを口に運んだ。トーヤがため息をついた。

「無理なのが普通だから……モーリン、あんまし買うと金がなくなるよ」

「何言ってるんですか、ここ数日でしこたま稼いだのに。サラザールからの頼まれ事も済んだんだし、これくらいなんでもないでしょう」

「まあそりゃそうだけどさ……はー、けど大海嘯も終わりかあ。ぼつぼつ帰り支度しないとなあ」

トーヤは肉の切れを口に放り込み、椅子の背もたれに寄り掛かった。ミリアムが空になったコップをテーブルに置いた。

「ねえ、サラザールってもしかして大魔導の?」

「あらま、ご存じ?」

「そりゃそうだよー、“蛇の目”のサラザール! 時空魔術の論文、何度も読んだなー……結局わたしの魔法には役に立たなかったけど」

「有名なのか? 大魔導ってカシムの同類だろ?」

「魔法使いの最高称号だからねー、大魔導って。魔法の勉強の時に嫌でも知る事になるんだにゃー、これが。カシムさんの作った並列式魔術の新公式も凄いんだよ」

「へー、カシムってお調子者の馬鹿だと思ってたけど、そうでもないのか」

「マリー、お前凄く失礼な事言ってるぞ……」

「え、そうか?」

「……アンジェリンさん、なんか元気ないけど何かあったの?」

盛り上がっている一同を尻目に、ぼんやりとテーブルを見つめていたアンジェリンは、トーヤに声をかけられてハッと顔を上げた。

「んむ……なんでもない……」

「悩み事ですかぁ? あ、これおいしー」

「食べるか聞くかどっちかにしなよ、モーリン……話して楽になる事?」

「どうだろう……分かんない」

問題があって、それを解決したいと思っているわけではない。ただ、自分のズルさが嫌になっている。誰かが答えを提示してくれるわけではないように思われた。

マルグリットがこつんと音をさしてコップをテーブルに置いた。

「ベルが――まあ、こいつの親父が昔の仲間と仲良くしてんのが気に食わねえんだとさ」

「気に食わないわけじゃ、ない……けど……」

歯に衣着せぬマルグリットの言葉にアンジェリンは口を尖らしたが、間違ってもいないからやや口ごもった。トーヤは目を細めた。

「ベルグリフさんか……でも、アンジェリンさんとベルグリフさんは親子だろ? いくら昔の仲間だからって、どうこうなる話でもないと思うけどな……」

「理屈じゃそうなんだけど……」

ムスッとするアンジェリンを見て、トーヤは少し面白そうに笑った。

「ははは、けどいいなあ。そんな風に思えるくらいお父さんと仲が良いってのは……」

「……? トーヤ、お父さんと仲が悪いの?」

アンジェリンが言うと、トーヤは面食らったように目をしばたかせた。

「ん、まあ、そうだなあ……よくはない、かな」

「へえ、お前もか。おれも父上大嫌いだぜ」

マルグリットがそう言って、口に咥えた串をぴこぴこ動かした。トーヤは苦笑した。

「まあ、俺の場合何年も会ってないけどね」

「会いたくないの……?」

「そう……だな。別に会いたくない」

「……家族は仲良くしないと駄目だよ」

今の自分がそういう事がひどく滑稽に思えたが、それでも言った。自分に言い聞かせるような感じだった。トーヤは寂し気に笑った。

「ベルグリフさんみたいな人が親父だったら、そう思えたかも知れないけどね……」

「トーヤ……」

モーリンが妙に心配そうな目をしてトーヤを見た。

トーヤはハッとしたように頭を振ると、取り繕うように笑い、皿の上の肉片をつまんだ。

「や、ごめんごめん。ほら、俺の話は別にいいじゃない。皆はこの後どうするんだい? いつもの拠点に戻るの?」

黙っているアンジェリンに変わってアネッサが口を開いた。

「どうなるかは分からないけど、ベルさんたち次第かな。まだ探してる人がいるから」

「言ってましたねえ、サティさんでしたっけ? エルフの冒険者なんてそういないから、分かりそうなものですけどねえ」

「でもモーリンさんも知らないんでしょー?」

「エルフ領も広いんですよ。西と東は文化も違ってあまり交流がないですし、西の森同士、東の森同士の中でも、集落が違えば知らない事もざらですからねえ」

「だよなあ、第一、エルフって引きこもりばっかで暗いっつーの。理屈ばっかしこね回しやがって、バッカみてえ」

「あははは! マルグリット様、はっきり言いますね! ひっ、引きこもりって! あははは、ははは、ははっは、げほっ、げぇほっ! げほげほっ!」

食べかけたものが喉に絡まったらしい、モーリンは口元を押さえて盛大にむせ返った。マルグリットが「ぎゃー」と悲鳴を上げる。

「きったねえな、コンニャロ!」

「何やってんだか……まあ、大陸の最北部は殆どエルフ領だもんな。無理もないか」

アネッサがやれやれといった面持ちでコップを口に運んだ。ミリアムが果物をかじって、口端から垂れる汁をぬぐった。

「二人は普段どこを拠点にしてるのー?」

「俺たちはキータイのルントウって町を拠点にしてたんだけどね、去年あたりからはローデシアの帝都にいるよ」

「帝都か。じゃあ、ここから帝都に戻るんだ?」

「そうだね。さっきのサラザールって魔法使いから素材を頼まれてて……そうだ、その皆が探してる人、サラザールなら何か分からないかな? あの人、遠見の魔法も使えたよな?」

「あー、そういえばそういう魔法もありましたねえ。できると思いますけど、素直に聞いてくれるかなあ……もぐもぐ」

「偏屈なの……?」

アンジェリンの問いに、トーヤは考えるような顔をした。

「偏屈というか……変人かな。俺、未だにあの人が何言ってるか分かんない時あるもん」

「あー……大魔導っぽーい」

ミリアムがそう言ってくすくす笑った。

アンジェリンは頬杖を突いた。もしトーヤたちの言う事が本当なら、それは確かに手がかりになりそうだ。パーシヴァルに続いてサティも見つかれば、ベルグリフの旅も終わる。

そうなったら、どうする?

何の疑いもなくベルグリフの手助けをして来たが、いざ自分の理性と感情の差異が見えて来ると、どうにも足が鈍る。サティと会った時、自分は素直な気持ちで喜んであげる事ができるだろうか。それとも、今のように嫉妬とも羨望ともつかぬ奇妙な気持ちが渦を巻くのだろうか。

そんな風になったら、もうアンジェリンは自分で自分が信じられないような気がした。どの口がお父さんの為だなんて言えたものか。

物思いに耽っていると、伸びて来た指がむにっと頬を突っついた。アネッサが向かいから手を伸ばしていた。

「なに、しかめっ面してるんだよ。眉間にしわが寄るぞ」

「むう……」

アンジェリンはテーブルに顎を付けて脱力した。髪飾りに手をやった。冷たい金属の感触を指先に感じた。

どうにも思い悩み過ぎていけない。答えのない問いをあれこれ考えても仕方がない。思考のるつぼにはまり込むだけである。

いずれにしても、この後の旅路を決めるのは自分ではないのだ。

余計な事を考えるのは止めよう。

皆が言うように、きっと時間が経てば何とかなる。

アンジェリンは嘆息して、空のコップに手を伸ばした。

煙管から漂う煙が筋になって頭の少し上をたなびいていた。ヤクモがふうと息を吹くと、口から煙が溢れてはらはらと宙に溶けた。

「もう大海嘯も終わりじゃのう……いやはや、何事もなく済んでよかったわい」

「アンジェたちはどうしたの?」

ルシールが言った。ベルグリフは眺めていた地図から顔を上げた。

「女の子たちだけで出掛けてるよ。そういうのもいいだろうからね」

「あいしー」

「で、お前らはどうするつもりだ?」

壁にもたれたパーシヴァルが言った。ルシールは目をぱちくりさせてヤクモの方を見る。

「どうする、ヤクモん?」

「どうすっかのう。元々根無し草、金も十分稼いだし、久々にブリョウにでも行くか」

「お魚べいべー。スシ食べたい」

「ブリョウか。大陸の東端だったかな?」

ベルグリフの問いに、ヤクモは頷いた。

「そうじゃの、儂の故郷でもある」

「そんならカリファに出て、ティルディス、キータイを通ってって感じ?」

カシムが言った。ヤクモは煙管を咥えて目を泳がした。

「それが一番分かりやすいじゃろうな。イスタフから山脈伝いにキータイを目指す道もあるが、それじゃとキータイに入ってからまた山脈を越えにゃならんからのう」

「道は色々あるからね……いずれにしてもここからは出るのかな?」

「うむ。もう身を隠す必要もないじゃろうしの。それにここは娯楽がなくて退屈なんじゃ」

「だよなー。まあ、飯は悪くないけど、ダンジョンで暮らしてる感じがしてどうも窮屈でいけないや」

カシムがそう言って伸びをした。パーシヴァルがフンと鼻で笑う。

「情けねえな、慣れれば大した事ねえぞ」

「君が言うと説得力あるな」

ベルグリフはくつくつと笑った。ルシールが薬缶を取り上げてお茶を注いだ。

「ベルさんたちはこの後どこ行くの?」

「そりゃサティを探しに行くのさ。なあベル?」

カシムがそう言って髭を撫でた。しかしベルグリフは目を伏せて小さく首を横に振った。

「いや……散々考えたが、俺はトルネラに帰ろうと思う」

「……はっ? なんで? だって、ほら、今戻っちゃったら、今度はいつ出られるか分かんないぜ? いいの?」

「そりゃ、俺だってサティには会いたいさ。だが、ミトの事がある」

カシムは眉をひそめて頬を掻いた。

「じーちゃんからの頼まれ事かい?」

ベルグリフは頷いて、懐から布に包まれたア・バオ・ア・クーの魔力の結晶を取り出した。

「……アンジェとパーシーのおかげで手に入った。グラハムがいるから安心ではあるけれど、また前のような事が起こってからじゃ遅い。サティの事も大事だけど……俺にとってはトルネラも大事なんだ」

すまん、と言ってベルグリフは頭を下げた。カシムは困ったように口をつぐんで髭を捻じった。

パーシヴァルは目を細め、体を動かして姿勢を直した。

「過去を取るか今を取るか、か。お前はちゃんと今を生きてるなあ、ベル」

「そんな大層なものじゃないよ。だが、俺はミトをトルネラに匿った責任があるからね……」

サティには寂しい思いをさせてしまうかも知れないが、とベルグリフは独り言ちた。

ヤクモがふうと煙を吐き出した。

「その魔石、儂らが預かろうか?」

「なに?」

「言ったじゃろ? どうせ根無し草、目的もなくその日暮らしの生活じゃよ。ブリョウに行こうがトルネラに行こうがなーんも変わりゃせん。ま、儂らが信用できんちゅうなら仕方がないが……」

「い、いやいや、そんな事はないが……」

寝耳に水の話にベルグリフはあたふたした。ルシールが嬉し気にヤクモの肩を抱いた。

「君のそういうトコ、わたしは好きだぜ。耕すのは鍬だぜ……」

「茶化すんじゃないわい。で、どうじゃ?」

「いい考えだと思いますぞ」

突然別の声がして、仕切りの布をめくってダンカンが入って来た。手に露店の食い物を持っている。

「某もトルネラに行きたいと思っておったのです。某が一緒ならば、グラハム殿とも話が通りやすいでしょう」

「ははあ、ダンカンはもうじーちゃんと知り合いだったっけ。話がこじれなくていいね」

「しばらく起居を共にした仲ですからな、はっはっは!」

「おお、そりゃ儂らとしても心強いわい。ダンカン殿の腕前は見とるし、道案内もしてもらえれば何よりじゃ」

「そいつは丁度いいな。お前らなら任せられる」

パーシヴァルがそう言って、小枝をぱちんと折ってたき火に放り込んだ。ヤクモがくすくす笑う。

「ふふん、おんしは本当に変わったのう。信用してもらえて嬉しいわい」

「りーのんみー」

「からかうんじゃねえよ……ま、そういう事なら心置きなくサティを探せるだろ」

盛り上がり始めた一同を前に、ベルグリフはしばらくぽかんとしていたが、パーシヴァルに肩を叩かれ、ハッとして頭を振った。

「だが……いいのかい? こっちの都合でそんな風に……」

「無償でやろうなんて言うとらんわい。これは仕事の話じゃ。内容はトルネラへの魔石の輸送。依頼料は応相談じゃが……まあ、世話になったし、友達じゃと思うとるから、ぐぐっと勉強させてもらいますがのう、ふふ」

「翻訳すると、ベルさんたちの事が好きだから、仕事という建前でお手伝いするよべいべ、って事……」

「じゃかあしい、余計な事を言うな」

ヤクモは少し頬を染めてルシールの頭を小突いた。パーシヴァルが大声で笑った。

ベルグリフは頭を掻いた。確かに、ヤクモとルシールにならば安心して任せられる。実力もあるし、機転も利くだろう。そこにダンカンも加われば盤石だ。

トルネラに帰ったら、もう出る事はないかも知れないという思いは薄々あった。この『大地のヘソ』に来るだけでも体は事あるごとに悲鳴を上げた。熱を出して倒れるという失態まで犯している。だから弱気になって、魔力の結晶を言い訳のようにして帰途に就こうとした、とも言える。

そんな風では、一度故郷に腰を据えては、もう出掛ける事などできないかも知れない。

だから、今回の旅ではサティの事は半ば諦めたようなつもりだったが、思いがけず様々な人が自分たちの再会を願って助けの手を差し伸べてくれる。

ベルグリフは、疲労からか無意識に帰途に就きたくなっていた自分を恥じ、目を伏せた。何だか目頭が熱かった。

「すまん……本当に助かるよ、ありがとう」

「……あー、柄にもないわい。儂は善人でも何でもないっちゅうに」

「なんだよ善人って。仕事の話だろ? へっへっへ」

「ええい、やかましい。おいルシール、儂の瓢箪どこやった」

「昔の人は言いました、お前のものはおれのもの、おれのものもおれのもの」

「また勝手に飲みおったんか、このたわけがあ!」

「きゃー」

「おわあ! こっち来んなよ、狭いんだから」

身をかわしたルシールがカシムにぶつかって、どたどた、騒がしいくらい場が明るくなって、何だか肩の力が抜けたような心持だった。

だが、仲間たちがここまでしてくれるからには、どうしたってサティを見つけなければなるまい。

決意を新たにしつつも、どうやって手がかりを見つけようかとベルグリフは腕組みした。雲をつかむような話だ。

考え込むベルグリフをよそに、騒ぎの勢いで酒盛りが始まっている。

外から戻って来たイシュメールが、妙に騒がしいのを見て目を丸くした。

「な、なんですか、この騒ぎは……」