軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 幼なじみと鬼ごっこ①

「やほー、こーちゃん」

玄関のドアを開けると、コートの下にTシャツ姿のおタマちゃんが手を振っていた。

「よ。夕飯もその格好で行くのか?」

「んーん。一度帰って着替えるよ。この下、水着だし」

今日も川で遊ぶつもりらしい。

――昨日。

探索者協会で 翠精魔石(すいせいませき) の買取を依頼したあと、おタマちゃんに一緒に食事にでも行かないかと誘ってみたところ、

「行きたい! ぜったい行く! でも、プライベートダンジョンも行きたい!!」

ということだった。

なので、昼間は一緒にプライベートダンジョン、その後一緒に夕食ということにした。

そして、今日、

「ほんとは午前中から一緒にいたかったんだけどさ。いろいろやらなくちゃいけないことがあってね。さ、限られた時間、めいっぱい遊ぼー!!」

そう言って、おタマちゃんは握りこぶしを上げた。

☆★☆

俺とおタマちゃんは、プライベートダンジョンへの山道を歩いていく。

「そういえば、今度の一般探索者試験受けるんだね」

「ああ」

「【緑】免許から、一般に切り替えるまでの決断、早かったね」

「……正直に言うとさ、前から探索者には憧れてたんだ。国民検査の結果が悪かったから、ずっと気持ちを押し殺してきたけど」

「へぇ……。あたしなんかは、普通の会社じゃやってけないと思ったから探索者になったんだけど……。じゃあさ、あたしが探索者になってるって知って、どう思った?」

おタマちゃんは、からかうような様子で俺に問いかける。

……まあ、いい。

探索者としてレベルが上がった今なら、素直に言えるさ。

「正直、すごいと思ったよ。悔しいというより、おタマちゃんも俺の知らないところで頑張ってたんだなという尊敬の気持ちが強かった。俺も頑張らなくちゃと勇気づけられたよ」

すると、おタマちゃんは俺から目をそらして、

「ば、ばか。そんなにちゃんと答えないでよ……。たいしたことねー、とか言ってくれればいいのに……」

「探索者は命がけだし、何かしらの才能がないとやっていけないと嫌というほど知ってる。たいしたことないとは言えないさ」

「あ……ありがと」

おタマちゃんは恥ずかしそうにつぶやいた。

中学校の頃、探索者などたいしたことない仕事だと思えていたら、どれほど幸せだったことか。

憧れているからこそ、自らの無能さがくやしかった。

そして、時がたち。

俺は一般探索者試験を受けられるだけの 能力値(ステータス) を得ることができた。

「……不思議なものだよな」

「え、何が?」

「もし俺が東京の仕事をクビにならなかったら、おタマちゃんとこうして再び会うこともなく、つまらない一生を過ごしていたのかもしれない」

「う、うん……」

「仕事をクビになったときは絶望的な気分だったけどさ……今から思うと、俺の人生を好転させるためには必要だったのかもな」

すると、おタマちゃんは少しもじもじした後、言った。

「じゃ、じゃあさ、また人生の迷子にならないように案内してあげるよ」

そして、おタマちゃんは俺の手をぎゅっと握る。

「お、おい」

まるで恋人同士が手をつないでいるようだ。

温かい体温がつたわり、ドキドキしてしまう。

「昔、こうやって、手をつないでたよね。お祭りのときとか、迷子にならないように。……覚えてる?」

「あ、ああ……」

なんだ、昔の延長で考えているのか。

特に深い意味もなく手をつないだのだろう。

そう思って、おタマちゃんの方を見ると。

「…………」

真っ赤な顔をして、うつむきながら口をむすんでいた。

……まったく、どういう表情だよ……。

……結局、俺たちは無言のままプライベートダンジョンまで歩いていくことになった。

☆★☆

プライベートダンジョンのゲートをくぐり、夏の世界へと移動する。

「やほー、夏休み!」

ダンジョンに入ると、おタマちゃんはいつもの様子に戻った。

「遊ぶぞー! さ、川いこ!」

……切り替わりが早くて、若干ついていけない。

「楽しそうで何よりだ。そういえばさ、一般探索者試験って何をやるんだ?」

試験対策をしたほうがよいのだろうか。

そんなことを考えて問いかけると、おタマちゃんは言った。

「基本的には、モンスターへの対処ができるか確認するの」

「対処?」

「うん。会場の太田ダンジョン1階層で、実際にゴブリンと戦って倒せるか。これをスキルありなしで2セット。簡単でしょ?」

「ま、やることは単純だな」

はじめての実戦か……。

少し緊張してしまう。

「ま、こーちゃんなら大丈夫でしょ。なんたって、この前レベル16だったんだから。なんなら、もう17に上がった? ゴブリンなら、レベル3くらいあれば余裕だよ」

「……レベル21になった」

「に、21?」

「そうだ。おタマちゃんと同じだっけ。昨日、試験の申込みをした山田さんもおどろいていたよ」

「あ、あたし、この前ひとつレベル上がったから、今は22だもん。まだあたしのほうが強いから!」

おタマちゃんは両手をふりながら力説した。

「……まぁ、経験もあるし、実戦では勝てないだろうな。でも、速さだけなら、俺の方が勝ってるんじゃないか? 俺のステータス、速さだけは高かったし」

「むぅ……。あたしだって、別に遅いわけじゃないから。まだ【緑】免許のこーちゃんには負けないんだから」

おタマちゃんは口をとがらせる。

「はは、悪かったよ。おタマちゃんに張り合うのは、正式な免許をとってからにするよ」

そう言って、おタマちゃんをなだめたが……。

「……勝負しよ」

「え……?」

「鬼ごっこで勝負」

「ここでか?」

「うん。あたしが鬼やるから。こーちゃんは逃げていいよ。つかまったら負けね。あたしが諦めたら、こーちゃんの勝ち」

「お、おい」

「いくよ! じゅう、きゅう、はち……」

本当にやるらしい。

ったく。

こどもの頃と考え方が一緒じゃないか。

ま、探索者試験前の実力診断といったところで、ちょうどいいのかもしれない。

「よし」

俺はレベル21の速さをフルに 発揮(はっき) し、田んぼ道の真ん中を駆けていった。

まずは森に逃げ込もう。

「さんにーいちぜろ!!」

後ろからはおタマちゃんがカウントを終えた声がした。

最後のほうはカウントが不自然に速かったが、まぁ、許してやろう。

夏の風とセミの声を全身に浴びながら、俺は森に向けて走っていった。