作品タイトル不明
53 祝福
「侯爵家跡取りとの婚約かぁ、やばいな」
「ね! すご過ぎだよ。私てっきりローズマリーはこのまま出世して叙爵を目指すのかと思ってた」
ローズマリーは昼食を終えて昼休憩の時間に、一つのデスクに集まってお茶をしていた。
メンバーはウォーレスとフィオナとローズマリーの三人。
もうすぐ公式に発表があるが、その前に友人の彼らには伝えておこうということで話題に出した。
「そういう道も楽しそうではありますけどね。出世欲みたいなものは残念ながらあまりありませんわ」
「まぁ、上り詰めれば詰めるほど、いろんなしがらみが増えるしな。面倒ではある」
「でも、そんなに長く一緒に仕事できないってのは寂しいかも。こうして気軽に話せなくなっちゃうしさ」
気持ちを伝えるとウォーレスは納得気味だがフィオナは肩を落としてしょんぼりとした。
「せっかくできた友人なのにいなくやっちゃうの寂しいな」
「そりゃまぁ、俺だってそうだけど……でも、なんかちょっと前まで忙しそうにしてたのってそのためだったんだろ?」
「ええ、バークレイ侯爵子息と婚約するに当たって、障害になるものを取り除いていましたの」
「そうまでして結婚したい相手なら、惜しむより祝った方がローズマリーも嬉しいんじゃないか?」
「うっ……たしかに」
ウォーレスの言葉にフィオナは顔を上げてローズマリーのことを見やる。
彼女は肩を落としながらもローズマリーに笑みを向けた。
「そうだよね。ローズマリーが選んだことだもん。一応聞くけど、その侯爵令息のことって……」
「愛していますわ」
「わっ、すごい直球だ! それなら、おめでとう。ローズマリー、そう言うのって素敵」
「……」
フィオナはローズマリーの言葉を聞いて頬を染めて、憧れるように瞳をキラキラとさせた。
「私、幼馴染みはいるけどさ、まだそういう相手ってよくわかってないし、経験も無いんだよ。ローズマリーより年上なのにね」
チラリとウォーレスを見ると彼は、ローズマリーと目が合って、渋い表情をする。
「いつか私も……ううん。もう、婚期だし好きだって思える相手を探そうと思う」
「!」
続けてフィオナが言うとウォーレスは目を見開いて、それからとても真剣な表情になった。
その百面相が面白くてローズマリーは「ふふっ」と笑う。
「? 何かおかしいこと言ったかな」
「いいえ、そうではなくて。フィオナ様のことを男女の恋愛的として想っているけれど勇気が出ない人がそばにいたら、きっとフィオナ様の今の発言は聞き捨てならないのでは、と思いまして」
「なぁにそれ。いるわけないよ」
「どうでしょうね」
ローズマリーはカラカラと笑うフィオナと、自分のことを言われて焦るウォーレスを見てまた声を出して笑ったのだった。
帰宅して、図書室にこもっていると、珍しく兄がやってきた。
彼は本から顔を上げて見上げているローズマリーのことをじっと見つめて、いつもと違ってむっとした顔をしていた。
「……」
「……手を出せ」
命令口調で言われて、ローズマリーは兄の態度が腑に落ちないまま手を出した。
するとアルフレットは指輪を取り出してローズマリーの人差し指にすっとはめて、とても面白くなさそうに言った。
「この間、お前の思い人がどんな奴か見定めてやろうと思ってな。少し話をした」
「……どうでしたか、セオドアは」
「……知らん」
「……」
「知らん。俺はどんな奴でも、お前が兄より信頼している奴なんかまったく面白くない」
アルフレットはそう言い切るが、決してセオドアのことを悪くも言わないし、結婚の邪魔もしない。
ただ、嫌らしい。
「それで、この指輪はなんでしょうか。お兄様」
「ただのプレゼントだ。ローズマリーがこの兄様の元から離れても寂しくない様に」
「……」
指輪には美しく輝く魔石が埋め込まれ、すでに魔力が込められている。
どうやら使用者のことを魔法の攻撃から守ることができる風の魔法具だ。
魔法団のマントと同じように使い切りの魔法具である。
購入すると高いが、こもっている魔力になじみがあるのでこれは兄の手製だろう。
「怪我をしないように」
「……ねぇ、お兄様」
「なんだ」
「わたくしとてもいいお兄様を持った妹ですわね」
「っ、」
「ありがとうございます」
ローズマリーは席を立って久しぶりにそっと兄を抱きしめてみた。
すごく久しぶりな気もするし、なんだか懐かしいような気もしたのだった。