軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51 瓦解

「それで、あなたは何をしようとしていたか。……皆様よく聞いてくださいませ、彼女が産んでもいない他人の子供をやあつって、強引な手段で、大切なものを奪い取り人格を壊す」

「っ……」

「そうして、結婚させるのは自分の実家の息のかかった娘! さぁ、そこから見えてくるのは、バークレイ侯爵家の乗っ取りですわ」

「だまりなさいよ……」

「自身がお腹を痛めて産んだ息子ならば到底できないような事をして、セオドアに非道を働き傀儡として、侯爵に据える。それから自分の息のかかった女を娶らせてと二人で彼を操る、後は簡単ですわ」

血のつながりがない。今出た情報はそれだけだが、それだけでもマルヴィナの見方は随分と変わるだろう。

親として愛があるからこそ、言っていたはずの案じる気持ちから来る暴言、実力行使、それは未熟なセオドアを心配してのこと。

夫人たちにそう映っていたはずだし、マルヴィナもそう見せるための言葉を選んでいた。

しかし、産んでいないと言う情報とともにローズマリーが出したシナリオもまたわかりやすく、実際にセオドアはマルヴィナの行動によって血ぬれの姿でここに現れた。

以前からも、セオドアは情緒不安定で社交界でもうまくなじめていなかった、それらは、なぜか。

すべてローズマリーの答えで説明がつく。

そして今ここにいる夫人たちはバークレイ侯爵家を守ることが最大の利益につながる女性たちだ。

マルヴィナが家のため、跡取りとバークレイ侯爵家の大切な未来のために動いているわけではないとわかれば……。

「バークレイ侯爵家は、その血筋の有能な男児を傷つけられなぶられて、壊されて、その上で、すべてマルヴィナ様のご実家の養分となる。なんて悲劇でしょうね」

マルヴィナはローズマリーのことをきつく睨みつけている。

拳を握ってわなわなと震わせていた。

「母親の気持ちなどありもしないものを、盾に使って、バークレイ侯爵家を食い物にしようとしていたのよ! わたくしは絶対に認めませんわ。セオドアをこれ以上苦しめさせたりしない。あなたはただの、人の気持ちもわからない醜い化け物ですっ!」

ローズマリーが断言すると、一歩、マルヴィナのそばにいた夫人が動く。

一人動くとほかの夫人たちも彼女からじりじりと離れていく。

その瞳には未だに混乱が見えるけれども、それだけではない、不信感や怒り敵意も含まれる。

彼女たちが抱く感情は、ローズマリーにむけられた若干同情が混じる様なものではない。

マルヴィナがどんな暴言を吐いて人格が歪んでいようとも、少なくとも子供を産んだ親であり未来のバークレイを案じる人として前提があった。

だからこそ、夫人たちは彼女の話を聞き、彼女の言葉を正しいと思ってきた。

しかしその前提が崩れれば、他人の息子を屑と呼び、息子の思い人を連れてきて大勢の前で糾弾する、自分だけで利益を独占しようとしている女だ。

誰も、ローズマリーの糾弾に反論できないマルヴィナのことをかばう人はいない。

「……」

周りから忌避するように人がいなくなり、マルヴィナは、夫人たちのことも鬼の形相で睨みつけた。

そんな中、一人の夫人が進み出て、問いかけた。

「ローズマリー様の言葉を否定しないのですか? セオドア様があなたの子供ではないなんて……第二夫人から奪い取った上で虐待していたなんて……最低です」

問いかけの形は取っていても、すでに最低と言う答えが出ている状態に、マルヴィナは今まで閉ざしていた口を開いた。

「ッハ、産んだ女がそんなに偉いわけ??」

口角を上げて煽るように笑いながら夫人たち全員を馬鹿にするみたいに言った。

「腹を膨らませて体型崩して、若さも失って、醜くなって、そんな馬鹿みたいな仕事なんてね!! わたくしのやるべきことじゃないんですのっ!!」

「っ……」

「馬鹿?」

「見てみなさいよ、美しいわたくしと違ってお前たちは若々しさのかけらもない!! 子供なんてよその身分の低い女に産ませて、たまに優しくしてやれば懐くものなんですの!!」

「……最低」

「あり得ない」

「獣と同じよ!! しつけてたまに餌をやれば喜ぶのよ!! わたくしが餌をやったのだから、わたくしがどうしようと当たり前でしょうが!! お前たちのように子供を産んでないからなんですの!? 身分の低い屑の産んだ屑を躾けてなにが悪いってのよ!!!」

怒濤のような最低に最低を重ねた様な発言に、場の雰囲気が一気に変わる。

マルヴィナに向けられているのはほぼすべてが敵意に変わっただろう。

「そっか、この人……僕のこと家族とは思ってなかったんだなぁ……」

隣にいたセオドアがぽつりと言った。

「それなのに、産んでないからなんだって言うのよ!! そんなに偉いの?! 産んだだけで、ろくに教育もできない……くせに……」

それからセオドアは、全方位を敵に回し罵り続けるマルヴィナの元へと向かった。

「……もう、やめてよ。マルヴィナ母様、見苦しいから」

「っ、」

セオドアがそばに寄ってマルヴィナに言うと、彼女は拳を強く握って、セオドアを殴りつけようと振りかぶった。

途端、ボンと音がして水の魔法が彼女の顔面に直撃する。セオドアの魔法だ。

マルヴィナの顔が大きく後ろに反れてそのままぐしゃりと崩れ落ちた。

「兵士を呼んでくださいませ! マルヴィナ様は取り乱して危険ですわ。魔法を放つかもしれない、厳重に拘束を!」

いいながらローズマリーはセオドアの元へと向かう。

すでに夜会などと言う雰囲気ではなく、誰もがマルヴィナの行く末を見守っている。

セオドアはしばらく崩れ落ちたマルヴィナを見つめていたけれど、ローズマリーがそばに来ると、困り眉のままゆるりと笑う。

「ローズマリー」

「はい」

「ありがとう。……びっくりしたけど、この人の本音が聞けて、すごいすっきりしたよ。この人にとって僕はただの他人で……僕にとってもそうだって、わかった」

「ええ」

「寂しくもないよ。僕にはもうずっと一緒にいてくれる人がいるからね」

そういうセオドアの言葉はとても優しく温かい声音をしていて、そっと手を取って寄り添ったのだった。