作品タイトル不明
47 未来予想
「意外だったね、すっごくあっさりで……」
「そうね……」
ローズマリーはセオドアの言葉に思案しながら返した。
帰りの馬車へと向かうために二人で廊下を進んでいく。
たしかに、拍子抜けするぐらいすぐにマルヴィナは折れた。その後はローズマリーにも好意的に接してくれて、普通の女性のように感じてしまった。
それほど彼女が嘘がうまいのか、それともセオドアの母と言うだけあって、時を経て、彼女の側もわかったのだというのだろうか。
「で、でもまだ、まだだよね。さっきマルヴィナお母様が言っていたバークレイ侯爵家の親類とか家臣貴族が集まるパーティーが終わるまでは、安心するのは早いよね」
言いながらもセオドアは、ぐっと拳を握ってローズマリーに笑みを見せる。
警戒は怠らない姿勢を見せながらも、彼は嬉しいと思ってしまっている様だった。
たとえどんな決意や覚悟をしていたとしても、敵対していない状況ならば無理に戦う必要もない。
元々心根が優しい人だ、嬉しいだろう。セオドアなりのけじめときちんとした覚悟も見ることが出来た。
ローズマリーもつい嬉しくなってしまうぐらい、セオドアには迷いはなかった。
このまま、何事もなく喜べたらどれほどいいか。
そう思う。
「ええ、残念ながらね」
もっと気を引き締めるような言葉を言わなければ、ローズマリーの理性は警鐘を鳴らす。しかしセオドアが悲しそうな顔をするのは見たくない。
だから口をつぐんでしまうのはきっと弱さだ。合理的に生きられないローズマリーの欠点。
わかっていても、そっと手をつないで歩きながら「当日はどんな衣装にしようかな」というセオドアが愛おしい。
(そうね。でも気を抜かなければきっと大丈夫ですわ。わたくしには切り札もある、あの人がなにかを企んでいるとしても手は打てるもの)
心の中で冷静なつもりで考えた。
エントランスに到着すると、セオドアはローズマリーに向き合って改めて言った。
「きちんと当日を迎えられて、周りにも認められたら、君の家族にも挨拶したい! きちんとローズマリーのことなにより大事にしますって、言いたい」
「ええ」
「……実はね、アルフレットさんには先日もう会ってて。その時は何も言えなかったけど、とてもいい人でローズマリーのことすっごく大事なんだなぁって思って」
セオドアは少し頬を染めて、打ち明けた。
まったく知らなかったが、アルフレットならばそういうこともあるだろう。
彼は、余計なことは言わずにローズマリーのことが大事なのだとだけ伝えたらしい。
他人に言うよりもローズマリーに直接言ったら良いのに。
「だから、君を欲しいなんて言う僕のことは嫌いだと思うけど、それでもローズマリーの大事な家族だもん。仲良くしたいんだ」
「わたくしの家族……ですか」
「うん。だめだな、僕嬉しくなっちゃうとついいろんなこと考えちゃう」
セオドアはそう言って、堪えられないような笑みをうかべてえへへと笑った。
「とにかく、当日。頑張るから、君は心配しないでね」
それだけ言って彼とは別れる。セオドアの言った未来の話をついついローズマリーの頭の中で考えてしまう。
父も母も兄も外面をかぶって余計なことは言わないだろうけど、セオドアのことを利用しようとしたらローズマリーが彼らを制御しなければ。
ローズマリーは彼らとまったく同じではないが、関わっていて苦痛ではない。家族もセオドアと関わっていけば少しはセオドアという人間の良さがわかるだろう。
今に集中しなければと思ってもそんなことをつい、考えてしまって、苦い笑みを浮かべたのだった。