軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38 思い人

魔法には四元素の魔法以外にも白魔法、黒魔法と言った、体に直接影響を与える魔法が存在し、身体強化の魔法具は白魔法に分類される最もメジャーな魔法だ。

魔法自体も、自身の魔力を体の活性に使うだけなので単純で多くの魔法使いや騎士が愛用している。

しかしもちろん慣れが必要な代物で、飛んでくる魔法をよけるぐらいの動作は簡単だが……。

「行きますわよっ!」

クロエが次から次に炎の魔法を素早く打ってくるので、ただよけるのではなく次の動きを予測して、回避しこちらも立て直しながら魔法を放つのは案外難しい。

「ふふっ、実は先ほどは相変わらず言ったけれど、強さは変わっていますのよ!」

「その、よう、ですわ、ね!」

飛び退いて着地しまた背後へと躱すと息が切れて、ローズマリーは朝食を軽めにしておいて良かったと思った。

こんなにアクロバットな動きをするのだから、体が重たくては叶わない。

「はぁっ、やっぱり現役は違うようねっ!」

いいながらも強く地面を蹴って、高速移動しある程度魔力を貯めた炎の魔法を放つ。

それは見事にクロエの元へと届いたが、彼女はとっさに振りかぶって自身の拳で火球を空に向かって殴りつけた。

「せいっ!」

身体強化の魔法はある程度を越えると、体に満ちた魔力の密度が高くなり魔法の攻撃が通りにくくなる。

さらに、使い込むと魔法の攻撃をその手でいなすことも可能だ。

しかしそれは達人が使う伝説の技みたいなものであるという認識だった。

ローズマリーの放った火球は空へと打ち上がり、パンと砕けて散った。

「……あら……多少は食らいつけると思ったのだけれど、見当違いだったようですね」

「いいえ、ローズマリー様もお強いですわ! わたくしたちが強くなり過ぎただけですの」

「先生たちもびっくりしてましたものね」

「力試しに夜の森に遊びに行ったりしてますの!」

(そんなことまで……夜の森は魔獣が活発になって、よっぽどの急用がある人間以外立ち入らないと言うのに……)

どうやら彼女たちは、勉強嫌いはそのまま、とんでもない武人に育ったらしい。

魔法団に入ればめざましい活躍をするだろう彼女たちだが、本人達は楽しんでいるだけで特に高い地位に就きたいという欲もない。

入団が決まったら決まったで後は、適当に放っておいてしまうような有様だ。

こんなに強く、素晴らしい実力を持ちながらも社会への適応能力は低い。

まったく面白い子達である。

「なるほど、一応言っておきますけれど、王都周辺の森については厳格に管理されているので勝手に入るのは禁じられています。魔法学園の訓練用の森とは勝手が違うから気をつけてくださいませ」

「知りませんでしたわ!」

「王都周辺以外の森に行きますわ!」

「ありがとうございますわ!」

ローズマリーが助言すると案の定三人は知らなかった様子で、素直に答える。

魔法学園から戻り魔法団に務めるために近くに住む以上は、もう少し交流を持って手助けしてあげつつ、魔法団でのセオドアのことも聞いたりしようと考えた。

「ささ、今度はわたくしと手合わせをっ! ローズマリー様!」

「次はわたくしって言ったじゃない!」

「いいえ、わたくしがもう一回!」

「あなたはダメよ! 二回目でしょう!?」

些細なことで揉め出す三人にローズマリーは、笑みをうかべて言った。

「もういっそ同時に好きなように攻撃したらいいのではない?」

彼女たちはぱっとローズマリーのことを見てそれから顔を見合わせて「名案ね!」「さすがローズマリー様!」「賢いですわ!」と口々に言う。

決して賢い策を言ったつもりはないのだが、ある程度距離を取って、アイズもなしに打ち合いを始める。

「ふふっ、楽しいわ!」

「ちょっと、わたくしばかり攻撃してるでしょう?」

「ところで、ローズマリー様に聞きたいことがありましたの!」

四人なので適当に魔法を打っていると必然的に目の前の相手とは敵対し、横の相手とは仲間のようになり二対二の構図になる。

隣に来たのはイーディスだった。

彼女は、片手間で魔法を打ちながら、こっそり聞いた。

「心に決めた、殿方とは、どうなったんですの?」

「……」

「というか! 誰なんですの!」

どうなったのか、誰なのか。

それをローズマリーに聞くということは、つまりセオドアは彼女たちに勉強を教えたりと交流をしながらも、未だに話をせず自身の内に秘めている、ということになる。

友人にぐらいなら話をしていいと言ってあるのに、彼女たちに対しては自分がローズマリーの思い人だと明かせば優位に立てて自慢できるとわかっているはず。

けれども、そんなことはおくびにも出さないで、もしかしてセオドアかもとも思われずに隠し通した。

それは、セオドアに取ってローズマリーが、ただのトロフィーではないということだ。

他人から評価される飾り物としてローズマリーのことを一切扱っていない。

彼は彼の心の中だけでローズマリーの価値を感じて、ろくに会わずにいたのに王宮魔法団に入団するという念願を果たしてくれた。

「……セオドアよ」

「!」

「わたくしの思い人」

彼の名前を呼ぶとき、喉が少し苦しかった。

なにか彼の思いがとても、強く心に響いて、優しくかわいいのが彼の取り柄だと思っていたが、それだけではないと思う。

「えええーーーー!!!!!」

そしてイーディスは貴族らしからぬ大声を上げて驚き、ピタリと攻撃がやんで、クロエとシェリルがパタパタとこちらに駆けてきた。

「セ、セセセ、セオドア!? あの? あの? バークレイの? へなちょこの? わたくしたちの知ってる!? あの?」

「何の話ですの!」

「ローズマリー様の思い人!!」

「えええーーーー!!!」

「うそーーーーーー!!!」

「皆さん、おしとやかにしてくださいませ」

ローズマリーは彼女たちをたしなめるように厳しい声で言う。

すると、ピタリと止まるが、三人は混乱するように視線を交わして、かぶりを振ったり首をかしげたりしている。

「……」

その様子に、なにか彼を想った理由の説明をと考える。

しかし、今更いろいろなことが頭の中を駆け巡る。

あんなにローズマリーのことを想って寂しそうにしていたのに、ローズマリーのことを話せる彼女たちは話題にすら出さずに力を蓄えてくれた。

時にはローズマリーに力を貸してくれたし、ローズマリーがどんなに仕事に夢中になっていてもセオドアは、手紙を欠かさず送ってくれた。

学生の一年はとても長い。

いろいろな出会いといろいろな楽しみがあって、秘密を持ったまま孤独にまっすぐ進むのは割と難しいと、ローズマリーは知っている。

「……」

「……ローズマリー様?」

「あら、お顔が」

「あらあら」

それでもローズマリーの中には明確な復讐心と自分の夢という大切なものがあったから駆け抜けることができた。

彼もまた、ぶれずに、まっすぐ今まで頑張ってくれた。

ローズマリーを支えに。

優しく、かわいいだけじゃない。セオドアはとても強い愛情を持っているのだと思う。

離れていても、誰にも話すことが出来なくても思い続けて、約束を果たしてくれるそんな愛情を、彼は示してくれた。

それが今更ながらわかって、初めて格好いい人だと思った。

「セオドア、は……その」

「わ、わかりましたわ!」

「そうですわ! 本当なのね!」

「大丈夫ですわ! 応援するもの!」

顔が熱かった。どうにかしようとするので必死になって、声が震えた。

彼女たちはすぐさまローズマリーを肯定して、その気遣いに、そうさせるような顔をしていることを自覚して、さらにどうしようもなくなってしまったのだった。