軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35 経験

一連の騒動は、甚大な損害を出し、総務局、三つの課の上位組織である局長直轄室へと届いた。

ローズマリーも騒動の一因として何度も事情聴取を受け、局全体が問題の解決へと動いた。

フィオナが提出した魔法の知識が無くともきちんと読めば普通の事務官にも魔法具や魔法薬の有用性がわかる様に調整された書類は大きな証拠となり、ラルストン課長とウェルズリー指導官は処罰される方向へと向かっている。

さなか、ローズマリーやフィオナは同じ課の事務官達に何度も声をかけられ謝罪と感謝を伝えられた。

一番間近で見ていた彼らにとって、今回のことは誰もが他人事ではなく、後悔の念と新たな志を語る姿に、行動の結果はまだ出てこなくても間違っていなかったと改めて思った。

しかし仕事自体は、ウェルズリー指導官が暴れたせいで、事務室の損傷が激しくすぐに今まで通りとは行かない。

見習たちも事務官たちも柔軟に対応し便宜上は休暇となり総務局へと行かないが連絡をとり合って局の対応を続けている。

職場へ行かずにとりあえずの対応だけする期間に、ローズマリーは少々退屈していたが、フィオナとウォーレスの誘いを受けてお茶会へと出向いた。

フィオナの実家の応接室で久しぶりに三人で顔を合わせると、フィオナは言った。

「作戦を実行した日から、そんなに日にちは経ってないはずなのになんだかすごい、久しぶりみたい!」

「だな。準備の間には結構打ち合わせもしてたから、いざ行動起こした後に個別で話聞かれたりこれからの会議に参加したりして、あんま話す機会もなかったし、久々に感じる」

ウォーレスは苦笑をうかべて、しみじみとそう口にする。

ローズマリーも同じ気持ちだった。

あの後すぐはめまぐるしい日々が続いて、家族はこの隙に局長直轄室の連中にどう取り入るかを入れ知恵してくるし、調書では同じことを何度も聞かれるし、数日が数週間にも感じるほどだった。

その後は職場で顔を合わせるということもなく、未だ修繕も終わっていないので必然的に顔を合わせる機会がなかった。

「わたくしも同じ気持ちですわ。早く修繕作業が終わって、元に戻れるといいのですけれど……」

「どうだろうなぁ、被害額の計算とかもあるだろうし、上もさっさと直すわけにはいかないみたいだな」

「直すのも国のお金だもんね、仕方ないよ。それまで出来ることをやるしかない」

いろいろと状況が変わっても、フィオナは前向きに言葉を紡ぐ。

フィオナはまだ新しい指導官は決まっていないが、他の魔法局の担当の事務官について学び、手伝いをしているそうだ。

「……ただ、先のことを話すもいいんだけど、ね、ウォーレス」

「ああ、そうだな」

ふと、フィオナはウォーレスのことを見やった。するとウォーレスもわかっている様子で真剣そうな表情になる。

「改めてきちんと、ローズマリーには言っておかなくちゃいけないことがあると思って」

フィオナの言葉に、ウォーレスは深く頷いて、彼女に続けて言う。

「ウェルズリー指導官のこと、俺だけじゃああのまま何も出来ずに、放置しているだけだったと思う。フィオナのことをローズマリーが知りたいと言ったとき乗り気じゃなかったのに、声をかけてくれて、めちゃくちゃ助かった」

「……」

「感謝してる。俺のことじゃないけど、俺の大事な幼馴染みのことだ。今回、俺にはできる事が無かったけど、この恩は忘れない」

ウォーレスは恥じることなくフィオナのことを「大切な幼馴染み」と言って頭を下げる。

「私からも、ローズマリー……すごく助けてもらったし、なにより、すっごく嬉しかった! 私、一人だけだったら絶対にウェルズリー指導官の嘘を暴くことも、周りの人たちを納得させることもできなかったと思う」

フィオナは手を組むようにぎゅっと握って、笑みをうかべる。

「助けてくれたこと、心からありがとう」

そう言ってウォーレスと同じように頭を下げる。

「……顔を上げてくださいませ」

ローズマリーは、やっぱり感謝されることは少し居心地が悪くてそう口にする。

顔を上げた彼らの瞳はキラキラとしていて、ローズマリーへの好意が伝わってくる。

「役に立てることがあったらなんでも言って欲しい」

「私も、ローズマリーのためならまだまだ未熟な見習いだけどさ、頑張るよ! なんでも言ってね!」

感謝の居心地は相変わらずあまり良くない、けれどもローズマリーはこういう言葉に対してもうなんと返したらいいのか知っている。

背筋を伸ばして、ローズマリーも砕けた笑みをうかべて言った。

「ありがとうございますわ。その気持ちがとても嬉しい……わたくしも困ったらきっと頼りにさせてもらいますわ……ゆ、友人として」

「ガンガン頼って、頼りになる友達になるからね」

「おう。今度三人で、食堂で昼食べような。やっかいな指導官もいなくなったしフィオナも一緒に行けるだろ?」

「もちろん!」

ローズマリーの「友人」という言葉に二人はまったく違和感を持たずに、答えてくれる。

時には、頼って、頼られて、何気ない日々をともにして、目標に向かって進んでいく。

そうして過ごす日々はとてもきっと心強く、一人で戦っている時よりもずっと彩り豊かだ。

実家で家族と過ごして、人助けなど興味も無く、計算と利害の中だけで生きてきたローズマリーは、実家を出て魔法学園に入って、それから事務官にもなって仕事を始めた。

いろいろな経験の中で自分らしい生き方をやっと見つけた。

それはきっと、なにより得がたく、これから先の足取りをより明確なものへとしてくれる経験だったのだ。