軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 癒やし

「なっ、何してる!」

突然のことに驚き、レジナルドはヒステリックな声を上げた。

周りで交流していた貴族たちは、レジナルドの声に一斉に視線を集中させ、ざわめきが広がっていく。

ローズマリーはアルフレットの元を離れて駆けだした。

「手を離しなさい! 横にして」

すぐさま寝かせて、ローズマリーはベアトリスの異常な発汗と顔面蒼白に、数秒の思考の後に声を上げた。

「ベアトリスの従者、この子を運んで、お兄様は控室の準備を」

「了解」

「ま、待て! そんなことをせずとも引っ張れば起きるだろ!!」

ローズマリーの指示にアルフレットは即座に動いてくれるが、レジナルドは青くなり、ベアトリスに手を伸ばす。

自分の足で下がるならまだしも、従者に抱えられて社交の場を後にするのは確かに外聞が悪い。

レジナルドには看過できないことなのだろうが、そんなことを言っている場合ではない。

その言葉にローズマリーは毅然としつつも大きな声で返した。

「あら、正しい教育者というものは、努力と無茶をはき違えないものではないかしら?」

「……」

「わたくしは魔法にも精通していますわ。知っているでしょう?」

「……それなら、私だって!」

「貧血の可能性が高いのです。この問答をこれ以上続けますか?」

ローズマリーはとっさにそう嘘をついた。

貧血と似ている症状だから断定はできないが、状況を聞いていると睡眠不足などの可能性が大きいと思う。

しかし、貧血が原因ならばコルセットを緩める必要がある。

魔法に精通していて、顔見知りの女性が対処することが好ましいだろう。

「…………」

ローズマリーの言葉には正当性があり反論できる余地のない正しいものだ。

だからこそレジナルドも黙った。

しかしそれでも、妹のことを考えてローズマリーに頼むという選択肢はレジナルドの中にはない様子で、歯を食いしばって下を向くだけだ。

それを無視して、ベアトリスの従者とともに、パーティーの際に化粧直しや休憩をするために解放されている、控室へと向かった。

アルフレットには外で待機してもらい、ベアトリスの侍女には重たいドレスを脱がせてコルセットも外してもらった。

ローズマリーはソファに寝かせたベアトリスの隣に座って、水の魔法具を取り出して魔法をかける。

水の魔法は、ほかの四元素の魔法と違って特別な癒しの力がある。

ほかの風、火、土の魔法は物理で攻撃したり守りを固めたりできるが、水の魔法は自分や他人を癒やすことができるのだ。

貴族は基本的に全員魔力を持っていて、魔法を持っている貴族は上位の貴族に多く、半分程度。

そのなかでも水の魔法はその四分の一の人間しか持ち合わせないので、需要が多い割に貴重な魔法だ。

そこで、魔法具だ。

魔法具は魔法を持たない貴族でも、魔法を使えるようにする道具で、魔力さえ込めれば誰でも使える。

「んん……」

ベアトリスの顔色はコルセットを外したことによって少し回復したけれどまだまだ悪いままだ。

魔法具に魔力を込めて、淡い青色をした光の粒がさらさらとベアトリスの頭の上へと降り注いでいく。

美しい光景ではあるが、魔法具を通した魔法は、自身が持っている属性の魔法とは違って魔力効率が悪くぐんぐんと魔力を吸い出された。

「…………ん」

ローズマリーが難儀していると、ベアトリスはパチリと目を覚まして、いつの間にか顔色は少し青白い程度に戻り、隈も酷いというレベルではなくなっていた。

短い間の眠りでも水の魔法をかけたことによって回復が早かったのだろう。

うつろな瞳と目が合って、数秒の後、ベアトリスはハッと目を見開いて、即座に起き上がろうとする。

ローズマリーはすぐにその肩をつかんで「待ちなさい」と厳しく言った。

「あなたは、先ほど倒れたばかりです。時間が許す限りはこうして横になっていた方が賢明ですわ」

「で、ですが」

「ここにはレジナルドもいない、パーティーはまだ始まったばかり、しばらく休んでいても問題はないでしょう」

「……配慮いただき、ありがとう、ございます」

「いいえ」

話ながらローズマリーは、水の魔法具をしまって少しくたびれた体を休めるためにソファーの背もたれに体を預けた。

横目で見るとベアトリスはぐっと自身の肌着をぐっと握りしめて、体を丸めて震えていた。

「眠るつもりがないのなら、わたくしと少し話をしましょうか」

「え、ええと……はい。ローズマリー様」

戸惑いつつも返事をするベアトリスにローズマリーはローテーブルに置かれている花を眺めながら話を始めたのだった。