軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出陣の演説を聞きました

閣僚会議が行われてから数日後。いつまた魔人が攻めてくるか分からないため、魔人領攻略作戦が合意してすぐに、再びダーム王国に各国から人が集まった。

今回は閣僚ではなく、国家元首が勢揃いである。

いわば、この世界初めてのサミットだ。

実際には世界首脳会議と呼ばれているけど。

今回、初めて行われる世界首脳会議では、世界連合の調印式と、魔人領攻略作戦の出陣式が同時に行われる。

ダーム王国に、連合中の軍隊が集まれる訳もないので、国家元首の護衛の軍と上層部、それと出陣式の後、ここから出陣する演出のために一部の兵士が参加している。

そしてその声明は、通信機を通じて連合国中に同時に配信される。

各国の通信機には拡声の魔道具が設置され、各国軍も民衆も、その声明を聴く事ができる。

その声明を聴いた後、各国軍はそのまま魔人領に侵攻する。

これも初めての同時中継だな。

ダーム王国は、他の六カ国の国家元首が集まるということで、ものすごい厳戒体制だ。

道路封鎖に徹底した身分照会。市民証がないとすぐさま拘束されてしまう。

まあ、初めての世界首脳会議で、この場にいるのは国家元首ばかり。

テロでも起きたら、世界がひっくり返るほどのダメージを負う。

万全に万全を重ねたいんだろう。

そんな厳戒体制を、俺はアルティメット・マジシャンズのためにあてがわれた、ダーム大聖堂の上階にある部屋の窓から眺めていた。

「はあ、スゲエな。ダーム王国の人、ピリピリを通り越してギラギラしてるぞ」

「無理もないだろう。これで全ての国という訳ではないが、各国の王に創神教の教皇。ここで何か起きれば、魔人とは違うところから世界の危機に陥るからな」

俺の呟きをオーグが返す。冷静に話しているようだけど、珍しくオーグが若干興奮しているのも分かる。

なにせ、歴史上初めて各国国家元首が勢揃いしたのだ。

もちろん、世界がこの七カ国だけのはずはなく、エルスやイースの向こうにはまだ世界は広がっているし、別の大陸もあるらしい。

今回は、旧帝国、現魔人領に隣接し、魔人の被害が甚大になると思われる国だけが集まっているが、それでも、国家元首が集まるなど、今まで考えられもしなかった。

そんな国のトップが初めて一堂に集った。

今回のメインは、世界連合の調印だが、裏で色々な会談も予定されている。

これを機に、色んな事が動き出すかもしれない。

ひょっとすると、今後、世界首脳会議が定期的に行われるようになるかもしれない。

そんな外交の転換期の第一回会合が開催され、それに立ち会うことができるのだから、興奮するなって言う方が無理だろうな。

「とりあえず、今のところは混乱も騒動も起きていないし、このまま何ごともなく終わりそうだな」

「だといいんだがな……」

「なんだよ、なにか気になることがあるのか?」

「いや……」

なにやらオーグの歯切れが悪い。

なんだろう? いつも黒い発言を平気な顔で口にするオーグが言いよどむって……。

メッチャ気になるんですけど?

「ああ……実は……」

オーグがようやく喋ってくれそうになったときに、部屋の扉がノックされた。

「はい?」

「失礼したします。あ、あの! アルティメット・マジシャンズの皆さまにご挨拶をしたいという御方が参られております!」

部屋の警護を担当している兵士さんが、来客があると告げた。

その兵士さんの声は、非常に緊張している様子だ。

アールスハイドの近衛兵士さんだし、ディスおじさんは見慣れてるだろうから違うな。誰だろう?

「フム。どなたが参られた?」

「イース神聖国の、エカテリーナ教皇猊下で御座います」

創神教の教皇!?

そんな人がなぜこの部屋に!? 他国の国家元首だけど、この世界の人間はほとんどが創神教徒だというし、その教皇が来ればそりゃあ兵士さんも緊張するよな。

「分かった。すぐにお通ししてくれ」

「かしこまりました」

そうして、創神教の現教皇、エカテリーナ教皇が姿を見せた。

決して華美ではないが、神聖な印象を持つ白い法衣に身を包んだ三十代後半くらいの女性。

白金の髪を結い上げ、その瞳は青く慈愛に満ち、柔らかな微笑みをたたえ、見る者にこれ以上ない安心感を持たせる女性だ。

随分と若くして教皇の座に就いたんだな。

「お初にお目にかかりますアウグスト殿下。イース神聖国代表にして創神教で教皇の地位についております。エカテリーナ=フォン=プロイセンと申します」

「これはご丁寧に。お初にお目にかかります。アールスハイド王国王太子、アウグスト=フォン=アールスハイドで御座います。そして、こちらが……」

オーグが、こちらを手で示す。お、俺も名乗らないといけないのか。

「お、お初にお目にかかります。アルティメット・マジシャンズ代表のシン=ウォルフォードです」

これでよかったのかな? そう思っていると、エカテリーナ教皇は、柔らかく微笑みながら俺に声をかけてくれた。

「そう、あなたが……『神の御使い』魔王シン=ウォルフォード君ね」

「か、神の御使い?」

なんだそれ? 神の御使いって、また大仰な言い方したな!

それに魔王の二つ名も合わせて、二つ名が渋滞してるよ!

「今回の魔人出現は、まさに世界の……人類存亡の危機です。そんな時代に、人類の歴史上、至上ともいえる実力を持ったウォルフォード君が現れた。私たちは、あなたが神が遣わされた御使いだと、そう思っているわ」

「か、買い被りすぎですよ……」

「そう? あながち間違っていないんじゃないかしら?」

言われてドキリとした。

確かに、俺は特殊な身の上だ。

前世の記憶があるだけでなく、住んでいた世界すら違う。

もし、神様が本当にいるとしたら、何らかの意図で俺の魂をこの世界に転生させたのかも……そう思うことも出来る。

まさか……この人、そのことを知って……。

「あなたの使う魔法は、随分と特殊だそうね。それで、もしかしたらと思ったのだけれど……」

「はは……違いますよ。僕は神様の指示なんて受けてませんから」

なんとか取り繕うことはできたかな? 教皇さんも、俺の使う魔法が特殊だからって理由でそう思ったみたいだし、本気で神の御使いだと思ってる訳ではなさそうだ。

ちょっと、確認してみたって感じかな?

それにしても『神の御使い』って……いつの間にそんな言われ方してたんだろう。

「それから……あなたかしら?」

教皇さんはそう言うと、俺の隣にいたシシリーに目を向けた。

「お初にお目にかかります。シシリー=フォン=クロードです」

「まあ! やっぱりそうだったのね! ようやく会えたわ!」

そういえば、教皇さんは昔、聖女と呼ばれていて、現在同じ二つ名で呼ばれているシシリーのことを、非常に気に掛けていると聞いた。

そのシシリーに会えて、テンションが上がっちゃったのだろう。シシリーの手を取り、ニコニコしている。

「ね。あなた、大丈夫? 周りから『聖女のくせに』とか『聖女らしく振舞え!』とか、うるさく言われてない?」

「え、ええ。特には……」

「そう? 私の時はねえ、周りがとにかくうるさかったのよ。自分から『聖女』だなんて名乗った覚えもないのに、ガミガミ言われてねえ……」

意外だな、聖女の称号は気に入っていなかったのかな?

「総本山派の御子は、恋愛も結婚も出産も禁止されていないのに、聖女だからって理由で全部禁止されて……周りの女官たちは次々と結婚退職していくのに……そのくせ、フラーは気持ち悪いアプローチをかけてくるし……」

なんか……教皇さんの心の闇が……意外と毒も吐くし……。

「私は……そう呼ばれ始めたのが、シン君と婚約した後だったので特には。それに、聖職者でもありませんし……」

「そうそう! そのことでね! この作戦行動が終息したら、私があなたたちの結婚式を執り行うことが正式に決まったから、それを伝えにきたのよ!」

……本決まりになりましたか……そうですか……。

本の発売に加えて、教皇の執り行うなかで結婚式を挙げるとなると……また、目立っちゃうな……。

「フフ。読みましたよ、ウォルフォード君。コ・レ」

そう言って異空間収納から取り出したのは、例の『新・英雄物語』だった。

「うぇ!? そ、それは……恐縮です……」

こんな人にまで行き渡ったのか……。

「素晴らしい物語だったわ。その志もそうだけど、クロードさんとの恋愛模様もね。この本を読んだ後、この二人の結婚式を執り行えるということを、誇りに思えたわ」

そう言って、俺とシシリーを見て、ますます笑みを深めていく。

これが……本物の聖女……世界中に信徒を持ち、世界最大の宗教の頂点。

今や『聖母』というのが相応しい慈愛に満ちた表情に、俺もシシリーも、つられて笑顔になってしまう。

「ただ、ウォルフォード君たちだけで結婚式を挙げちゃうと、色々と言う人がいるかもしれないから、アウグスト殿下達と合同での挙式になるけど、そこは了承してね?」

「それはもちろん。そうしてもらわないと困ります」

王太子を差し置いて! とか言われないためにも、ぜひそうして頂きたい。

「ありがとうございます、教皇猊下。我が婚約者、エリザベートも喜びます」

「アウグスト殿下も、この二人のよき理解者であり、支持者ですからね。ウフフ、この本は間違いなくベストセラーになるわ。その主要登場人物、二組の結婚式を執り行えるなんて、創神教の教皇としても、この本のファンとしても、とても喜ばしいことですわ」

時折見せる、俗っぽいところも、引き込まれる要因なのかな。イース神聖国や、創神教の信徒が、彼女を大変に慕っているのが、目に見えるようだ。

「さて、本題はもう伝えたし、そろそろお暇するわね。明日は、世界連合の調印式と出陣式。世界に平和が戻るように、頑張りましょう」

「ええ、必ず」

オーグが力強く答えると、教皇さんは微笑みながら頷き、俺達の部屋を退出していった。

「……はあ……まさか、教皇猊下が来られるとは思いもしなかった……」

さすがのオーグも緊張したようだ。

イース神聖国の国家元首だが、同時に創神教のトップでもある。この世界の人間は誰でも緊張してしまうだろう。

「シン君は、あんまり緊張してなかったですね……」

同じく、相当緊張していたのだろう。シシリーが隣で、溜め息を吐きながらそう呟いた。

「うーん、前も言ったけど、俺、王都に来るまで宗教があることすら知らなかったからね。教皇さんの偉大さがイマイチ実感できないというか」

「教皇さんって……」

「御子さんの前では絶対言っちゃだめですよ!?」

マリアが呆れて言えば、シシリーが慌てて注意してきた。

「わ、分かってるよ」

「本当ですか? シン君なら、教皇猊下御本人に『教皇さん』とか『エカテリーナさん』とか言っちゃいそうです」

「さ、さすがにそこまで礼儀知らずじゃないって……」

そう言ったら、みんなから、疑いのまなざしを向けられてしまった。

……え? 礼儀知らずとも思われてるの?

「殿下や陛下への態度をみているとねえ……」

「シン君って、礼儀上等! の人かと思ってたよ!」

「失礼な! それぐらいわきまえてるよ!」

だって、ディスおじさんは親戚のおじさん扱いだし、オーグは従兄弟ポジションだし、畏まる意味が分からない。

でも、それ以外なら、ちゃんと礼儀をもって接しているよ!

「とにかく、人前では教皇猊下と呼んでください。お願いします」

シシリーにお願いされてしまえばしょうがない。人前では教皇猊下と呼ぶことにしよう。

「……だんだん、シシリーの尻に敷かれ出したわね」

マリアの失礼な感想は黙殺した。

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アルティメット・マジシャンズの集まる部屋から、自室へと戻る創神教教皇、エカテリーナ。

その道中、エカテリーナに付き従う従者が、先ほどの邂逅について質問した。

「いかがでございましたか? かのシン=ウォルフォードは」

「そうねえ。例の本は、アールスハイド王国編集ということで、彼の人間性にかなりの改ざんが加えられているのではないかと思ったのだけれど……そんな事はなさそうね。言葉遣いはともかく、彼に野心はないわよ」

「左様でございますか」

「それより、気になったことがあるわ」

「気になったこと?」

「御使いのことよ」

「は?」

エカテリーナは、人格より、御使いについて気になったという。

ここにいるのは、創神教のトップ、そばにいる従者も高い地位にいる者であり、神の存在を否定などできるはずもない。

しかし、実際に神を目にしたり、声を聞いたことがある者などいない。

神とは、普段の何気ない生活の中で感じる、いわば心の拠り所になっているのが実情である。

それなのに、教皇は御使いについて気になるという。

「彼に、神から遣わされた御使いでないか? と言ったら……彼、否定はしたけど、明らかに動揺したのよ」

「ど、どういうことですか? まさか……本当に神の御使い……」

近くで見ていなかった従者には分からなかったらしい。

だが、間近でシンを見ていたエカテリーナには、シンが動揺したのが分かった。

「さあ、それは分からないわ。神の指示は受けていないと言っていたしね」

「……指示は受けていない……ですか」

「そう。ということは……ひょっとしたら彼は……神の存在には触れたのかもしれないわね」

「……教皇猊下」

「ええ。ウォルフォード君には悪いけれど、これも世界平和の為。人類の心を一つにするための神輿になって頂きましょう」

これから、調印式に向けての最終会議がある。

そこで、ある発言をすることを承認してもらう。

ダーム大聖堂の廊下を歩きながら、創神教教皇エカテリーナはそう決意を固めていた。

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創神教の教皇であるエカテリーナさんと初めて会った翌日、いよいよ調印式と出陣式が行われる。

場所は、ダーム大聖堂。

調印文書に、各国国家元首が連名で署名し、その文書はそのままダーム大聖堂に保管される。

神殿の前で世界連合の調印を行った後は、ダーム大聖堂の前に多数詰めかけている各国の軍部や民衆の前で出陣式を行い、そのまま魔人領攻略作戦が始動する。

今、大聖堂の中では調印式が行われている真っ最中だ。

もう間もなく大聖堂の扉が開かれ、出陣の掛け声が掛かる。

「いよいよだな」

「ああ。これが終われば、また以前のような平和な世に戻る。なんとしてもこの作戦を成功させなければな」

「うう……緊張します……」

「大丈夫? マリア」

オーグが、作戦の成功を改めて誓う。

マリアは相変わらず緊張しているようだ。

シシリーが心配そうにマリアを見ている。

そのマリアだが、今回の作戦では、俺とシシリーと同じ班になった。

オーグは、トール、ユリウスのいつものオーグ陣。

マークとオリビアとトニーの班。

そして、アリスとリンとユーリの班に分かれる。

オーグ陣は言わずもがな。

マークとオリビアのカップルに、最近は一人に絞ったという彼女持ちのトニーを加えたリア充班。

そして、アリスとリンにユーリを加えることでバランスを取った班。

なんのバランスを取ったかは秘密だ。

班編成のことを思い返していると、いよいよ大聖堂の扉が開いた。

そして中から、護衛を後ろに控えさせ、七カ国の国家元首が並んで現れた。

護衛を付けず、並び立つことで世界連合の意義を示しているのだろう。

それを感じ取った観衆が、大きな歓声をあげた。

そして、大聖堂の前に設置された舞台の上から出陣の声をあげるのは、エカテリーナ教皇だ。

創神教の教皇ということでのカリスマ性や、彼女の言葉なら、他国の国民も素直に受け入れられるという配慮により決まったらしい。

国家元首の列の中から、エカテリーナ教皇が前に進み出る。

俺達は、舞台上の端の方で、他の国家の上層部の方と並んでいるのだが、エカテリーナ教皇が前にでる途中でこちらを向き、俺を見てクスリと笑った。

……なんだ? 何か嫌な予感が……。

『お集まりの皆さん。そして、この通信を聞いている連合国の皆さん。いよいよ時は満ちました。我々人間が、この世界を支配しようとする魔人に対し、打って出る時が来たのです!』

エカテリーナ教皇の宣言に、ダーム大聖堂前に集まっている観衆から大きな歓声があがる。

恐らく、この通信を聞いている人たちも同様だろう。

『ですが、皆さんの中には、本当に魔人を討伐できるのか、不安に思っている人も多いことでしょう』

なんだ? いきなり後ろ向きな発言をし始めたぞ? こういう場では、そういうのはあんまり良くないんじゃ……。

観衆や、周りの上層部の人たちからも困惑の声があがる。

『しかし、皆さん、安心してください。我々には神が付いています。その証拠に、神は彼を……シン=ウォルフォードを遣わしてくださったのですから!』

……。

おいいい!! 何言ってんだ!? あの人は!?

『私は、彼に直接会って確信しました。彼こそ、神が遣わされた、我々の希望だと! 彼を支える少女が、聖女と呼ばれることも、また必然であったと!』

俺が神の御使いだから、聖女が伴侶になって当然ってか? なんて超理論だよ!

『私は確信します! 神の御使いがいる限り、我々の勝利は揺るぎないものであると! さあみなさん! 彼を助け、世界に平和を取り戻す戦いを始めようではありませんか!』

エカテリーナ教皇が、そう言いきると……。

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

これまで以上の大歓声が起きた。

そして、今回の作戦立案者であるドミニク局長が。

『全軍! 出撃!』

という掛け声をかけると、演出のために大聖堂前にいた軍人達が、城壁外に向かって進軍し始めた。

この通信を聞いている連合軍も一斉に出陣したはずだ。

エカテリーナ教皇の力強い発言で、会場の雰囲気は最高潮だ。

そして、舞台上からその光景を満足げに見ていたエカテリーナ教皇が列に戻ろうとして振り向いた。

その時、俺と目が合うと、ペロッっと舌を出し、ウインクした。

テヘペロって! なにやってんですか!? にしても、似合うな……。

それはともかく、民衆の前でこんな発言をしていいのかと、ディスおじさんを見ると、大笑いしていた。

くそお! 全部了承済みか!

「良かったなシン」

「何が!」

「これで、お前は神の御使い。完全に人類の味方と認識されたぞ」

「……それは……そうだけど」

「それに……」

「……何?」

「次の巻のネタもできたな」

そのネタ提供はしたくなかった!