軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最悪の事態になりました

ユリウスの実家であるリッテンハイムリゾートで初日の夕飯のバーベキューを皆で食べている。

あまり神妙な顔をしていても皆に不安を与えるだけなので、オーグと二人で皆の輪に戻り、何でもない風を装って皆との夕飯に参加した。

その夕飯も終わろうかという時に、ディスおじさんがとある発表をした。

「おお、そういえば忘れていた。アルティメット・マジシャンズの皆、良いかい?」

「何? どうしたのディスおじさん」

「なんでしょうか父上」

「うん、君達はこれまでに二度、他国を魔人から救ったね。しかもその際にかなりの数の魔人を倒したと聞いている」

「その通りですね」

「そこでだ、これは今日決まったんだが、功績があまりにも大きいんでな、新しい勲章を創ってそれを授与する事に決まったから」

ああ、そういえば、そんな話があったな。

魔人の動向が気になってそれどころじゃ無かったわ。

「う、ウチの子が勲章!?」

「それは凄い!」

「本当に……立派になって……魔法学院に行きたいと言い始めた時はどうやって更正させようか悩んだのに……」

純粋に喜んでる保護者方の中で、トニーの母親だけ別の感想を持ってる。

更正って……肉体言語かな……。

「そういえば……すっかり忘れてました」

「それどころじゃ無かったもんね!」

「それで父上、いつ頃になりそうなんですか?」

「そうだな。この魔人討伐の熱が下がる前が良いから、一週間後くらいかな? ああ、そうそう、服は新調しなくて良いよ。君達が着ている戦闘服で出席してくれ。チームとしての功績も称えたいからね」

そのディスおじさんの通達で、また盛り上がり出した一同。

特に初めてこの話を聞いた保護者が嬉しそうだ。

今回は俺だけじゃなく、他の皆も叙勲されるので爺さんもばあちゃんも何も言わなかった。

しかし……ここで叙勲があると、益々例の風潮が強くならないか?

オーグも同じ事を考えたようで、俺と視線を合わせると頷き、ディスおじさんに向かって歩き出した。

「父上、少し宜しいですか?」

「もうちょっとフレンドリーでも良いんだぞ?」

「それはまた今度で。そんな事より大事なお話があります」

「そんな事って……」

ディスおじさんがちょっと寂しそうだけど、今回はそんな事に構っていられない。

皆に聞こえないように、オーグはさっき俺が話した懸念をディスおじさんに告げた。

「なるほどな……シン君達があまりにも圧勝してしまった事で、国民達の間にそんな誤解が広がっているのか……」

「魔人は決して弱くはありません。その証拠に、スイード王国では我々が到着するまで防戦一方でしたし、少なくない被害を出しております。もし、魔人は弱いと勘違いして魔人に不用意に手を出せば……」

「手痛いしっぺ返しを喰らうか」

まだ市井の噂程度では国の上層部までは届いていなかったみたいだ。

しかし、王都にその噂が流れているという事は、普段街に出る事の多い下級兵士達の耳には入る。

その風潮が軍で蔓延すれば、魔人が現れた際に討伐しようとする奴が出るかもしれない。

そして、今回の叙勲で更にその風潮が強まるかもしれない。

そうならないように、ディスおじさんから軍を戒めて欲しいのだ。

「分かった。軍部に伝えておこう。『今回魔人を討伐出来たのはシン=ウォルフォードという規格外があっての事であり、魔人は弱いという誤解を持たないように』とな」

「ちょっと気になる箇所はあるけど……概ねそういう事かな」

これで大丈夫なのだろうか? 実際に魔人と相対したスイード王国兵は魔人の強さを実感していると思うが、アールスハイド王国兵はどうだろう?

シュトロームが帝国軍を殲滅した『後』の現場は見ていると聞いた。

だが、実際に魔人達の戦闘を見ていた訳ではない。

ディスおじさんの訓戒で気を引き締めてくれるといいんだけど。

それと、エルスとイースがどう出てくるかも分からない。

魔人が大した事無いなら自分達は必要ないとか言い出すかもしれない。

そうなると困るのがアールスハイドや旧帝国周辺の小国だ。

主導権を向こうに握られる可能性がある。

……そこは腹黒王子様に頑張ってもらうしかないか……。

まったく……魔人を倒したら倒したで別の問題が発生するとか……もういい加減にして欲しいな。

「シン君、どうしたんですか?」

食事を終えコテージに戻り、リビングのソファーに座っていると、シシリーが紅茶を淹れてくれながら問い掛けて来た。

「……なんか、変な顔してた?」

「変な顔というか……心配事があるみたいな顔してましたよ?」

紅茶をテーブルの上に置き、俺の横に座った。

「心配事があるなら、私にも教えてもらえませんか? 少しでもシン君の力になりたいんです」

俺の手をそっと握りながらそう言ってくれた。

「……そうだな、俺一人で悩んでてもしょうがないな」

「シンが悩み事? 聞くのが恐ろしいね……」

「いや……至極まっとうな悩み事だから」

ばあちゃんに警戒されつつも、オーグとディスおじさんに伝えた懸念を話した。

「なるほどねえ……そんな事になってんのかい」

「これはまた難しい問題じゃの」

事の次第を説明すると、爺さんもばあちゃんも渋い顔をしてしまった。

「ひょっとして……私達は余計な事をしてしまったのでしょうか?」

「何を馬鹿な、そんな筈無いさね。アンタ達が魔人を倒さなければ国がいくつか無くなってたかもしれないんだよ」

「その通りじゃ、余計な心配はせんでもいいぞい」

「買い物に出た短い時間でその話をよく聞いたとなると……相当広まってると考えて良いね」

「そういえば、ばあちゃんは聞かなかった? 買い物に出た時」

「久しぶりに買う水着の事で頭が一杯になってたねえ」

「……」

余計な事を聞いた。

「三国会談に影響しなきゃいいけどねえ……」

「こればっかりは相手がある事じゃからな、始まってみんと何とも言えんの」

やっぱり、そこが気になるか。

魔人は既に二度、周辺国に襲撃を掛けている。侵攻の意志がある事は明白だ。

なので、できればこちらから打って出たい。

その為には世界同盟が必要不可欠なんだけど……大国って言ったって、アールスハイドみたいにユルい国ばかりじゃない。

特にエルスは商人の国だ。利が無いと判断すれば同盟を結ばないかもしれない。

……世界の危機にそんな事は無いと信じたいけど……。

「ふー……」

「大変な事になってますね……」

悩みを打ち明けたものの、特に打開策も見当たらず、後はオーグの腹黒さに賭けるしか無いという事で話は終わった。

なんでこうなるかな?

「またオーグに頼る事になるのか……」

「そんなに自分一人で背負い込まなくても良いんじゃないですか?」

コテージのバルコニーに一緒に涼みに来たシシリーがそう言った。

「どういう事?」

「皆それぞれ役割があるという事です。お婆様も仰ってたじゃないですか。シン君の魔道具を売るのは、お兄様とアリスさんのお父様のお仕事でシン君はお金儲けを考えなくて良いって」

「ああ……適材適所の話か」

「正直、私達では警備隊の詰所で見たシュトロームに敵うとは思えません。シン君が唯一無二です。だから、シン君は目の前の敵を倒す事だけ考えて、他の事はそれが得意な人に任せれば良いと思いますよ」

「俺は周りに頼ってない……か」

「他の国との交渉は殿下の得意分野です。むしろ殿下なら、シン君が首を突っ込むと怒るんじゃないですか?」

「プッ、確かにそうかも『私の領域に入ってくるな』とかな」

オーグなら言いそうだ。

「私達ではまだ頼りないと思いますけど……皆もシン君に頼って貰えるように頑張ってるんですよ?」

「そうなのか?」

そんな風に考えてくれていたのか……知らなかった。

「私も、いつか治癒の事は私に頼って欲しいと思ってます」

「そうだな……いつかそうなるといいな」

「はい、だからこれからも一杯教えて下さいね?」

そう言って微笑むシシリーが眩しくて……一人で背負い込むなという言葉が嬉しくて……。

「あ……」

気付いたらシシリーを抱き締めていた。

「ありがとう……シシリー」

「いえ、シン君の心の負担が軽くなったのなら良かったです」

「心を治癒してくれた?」

「フフ、そうですね。シン君の心を治癒するのは私の役目です。誰にも渡しませんよ?」

「うん……お願いします」

「はい、任されました」

至近距離でシシリーと見つめ合う。

そして……。

コテージのリビングに戻ってくるとばあちゃんが言った。

「……寝室は別だよ」

「……見てたのか」

「はうぅ……」

せっかく気持ちが盛り上がっていたのにばあちゃんに水を差された。

結局、その日は各々の寝室で寝たよ。

「はあ……帰りたくないわあ……」

「本当ですねえ……」

初日はチームの皆で遊んでしまったので、次の日はクロード家の皆さんの所にお邪魔した。

他の面々といえば、よっぽどビーチバレーにハマったらしく家族総出で遊んでるらしい。

なんかトーナメントを開催するとかなんとか……。

そんな中、セシリアさんとシルビアさんは、日頃から魔法師団の業務で増えてきた魔物の討伐に走り回っているらしく、休みの日にまで体を動かしたくないと、ビーチにデッキチェアを持ってきて、水着姿で寛いでいた。

いかにもバカンス中のお姉さんって感じだなあ。

「楽しんで頂けてるようでなによりです」

「リッテンハイムリゾートなんて、滅多に来れる所じゃないからね。満喫しなきゃ損でしょ」

「え? 貴族の娘なのに?」

「確かに実家は貴族ですよ。でも、もう独立してるんですもの。遊びに行くのも自分でお金を出さないといけませんからね」

「魔法師団は確かに一般の商会の社員とかより高給よ? でもそれでリッテンハイムリゾートに来れるかっていうとねえ」

「休暇届けを出した時の、皆の嫉妬と羨望の眼差しが忘れられませんわ」

そう言ってちょっとブルっと震えたシルビアさん。

……言葉は丁寧だけど……Sなのか?

「はあ……帰りたくなーい!」

「何を言ってるのかしら? セシリアは?」

「お、お母様!?」

黒いビキニ姿にパーカーを羽織ったアイリーンさんが現れ、セシリアさんは脂汗を流し始めた。

「今何か……聞き捨てならない事を聞いた気がしたんだけど……」

「き、気のせいですよ!」

「そ、そうですわ!」

「そう?」

「「そうそう!」」

「ならいいけど。休暇で腑抜けになって、職務を疎かにしたら承知しませんからね?」

「「はい! 分かってます!」」

イエス・マム! って聞こえそうだ。実際二人のママだし。

「その点、シン君は凄いわね。二つ目の叙勲なんて」

「自分ではそんなに大層な事をした自覚が無いんですけどね」

「そうやって驕らない所も立派ですよ。本当に、シシリーを素晴らしい人に嫁がせる事が出来て幸せよ」

「まだ嫁いでません……」

「その事なんだけどね、お父さんとも相談したんだけど、この騒動が終わったら、お式を挙げちゃいなさいな」

「「え!?」」

今凄い事聞いたぞ? 卒業してからじゃなかったの?

「この騒動を無事に解決して御覧なさい、シン君はこの国……いえ、この世界の英雄になるわよ」

「今でも魔法師団では凄いけどね。シン君の人気」

「規模が違います。そんな人が御相手なんだから、もう式を挙げても良いでしょう。これからもっと稼ぎも増えるでしょうし」

「あ、だから馬車とかコテージとかウチに来させたんですか?」

「そうよ。メリダ様ともお話ししてね、シシリーにはウォルフォード家に慣れてもらうために一緒のコテージにしたの」

ばあちゃんも承認済みだったか。

爺さんは……よそう、悲しい結末しか見えない。

「でも、高等魔法学院はどうするんですか? まだ在学中ですけど……」

「通えば良いわ。入学した時点で法律上は成人してますからね、在学中に結婚するケースも無い訳じゃないの」

「そうなんですか」

そういえばそうだったな。子供扱いされる事も多いし、この旅行も保護者同伴だから忘れてたわ。

「そもそも在学中に結婚しないのは経済的な理由が主な原因よ。その点シン君なら……王国の制式装備のアイデア料と通信機の料金と通信料で口座の残高凄い事になってるでしょ?」

「ええ、まあ……」

「す、凄い残高……」

「どんな金額なのかしら……?」

「だから、正直式を挙げない理由が無いのよ。そのつもりでいてね」

「はあ、分かりました」

ところで、さっきからシシリーが大人しいな。

そう思ってシシリーを見てみると……。

「……はあ」

なんかトリップしてた。

「お金持ちの英雄の妻……」

「なんて羨ましい……」

お義姉さん方は羨ましがってた。

シシリーを嫁に出すなんて! って言ってた人達だったのにな。

それだけ認められたって事かな?

「アナタ達も、そろそろ旦那さんを見付けて連れていらっしゃいな」

「そのつもりではいるんですけど……」

「これだけの優良物件を見た後じゃ、どれもピンと来なくて……」

「シン君なんて優良物件というより特殊物件よ。英雄の孫で、自身も英雄で、でも驕った所が一つも無くて、おまけに魔道具造りに天才的な才能があって立ち上げた商会は繁盛間違いなしなんて……冗談みたいな存在じゃない」

存在を冗談にされてしまった。

「そんな人と張り合える人なんて……アウグスト殿下位しかいないんじゃない?」

「……それもそうね」

「はあ、現実を見ないといけませんね」

「そうなさい」

お義姉さん達にも是非いい人を見付けてもらいたい。

俺達の仲を妬まれると、どう対応していいか分からないからな……。

「ところでシン君、急な話で悪いのだけど教会の希望とかある? 今の内に決めておいた方が良いから」

「あ、実は、オーグにお願いして決まった所があるんです」

「あら、感心ね。もう教会を決めてるなんて。それで? どこの教会をお願いしたの?」

「アールスハイド大聖堂です」

「……え?」

「オーグに頼んでもらったらオッケーだったそうです」

「「「えええええ!?」」」

お義母さんとお義姉さんの絶叫が響き渡った。

「そ、そ、それ、本当なの!?」

「ええ、日程が決まったら教えてくれって言われました」

旅行準備中に時間があったからオーグに頼んでおいたのだが、割りとスンナリ了承が出たって言ってたな。

「アールスハイド大聖堂で挙式……」

「本当に羨ましい……」

「これは私も羨ましいわね。あそこは王族しか結婚式を執り行わないのに……」

「そうなんですか? オーグと仲良くてラッキーだったな」

王族の特権を感じるな。たまにはいいか。

「多分違うと思うけど……」

「シン君、アールスハイド大聖堂って……」

お、ようやくシシリーが復帰してきた。

「ダーム大聖堂で結婚式を見たとき、そう約束したじゃない? だからオーグに頼んでたんだ。黙っててゴメンね?」

安請け合いして、駄目だったらガッカリさせちゃうからな。決まって良かった。

するとシシリーは首を振った後、抱き付いて来た。

「謝らないで下さい。本当に実現させちゃうなんて……嬉しくてどうにかなりそうです」

「喜んでもらえて良かった。式場は決まったから、魔人討伐頑張ろうね」

「はい!」

シシリーは満面の笑みで返事をしてくれた。

サプライズは成功したかな?

アイリーンさんは微笑ましいものを見る目で、お義姉さん達は嬉しいような、妬ましいような複雑な顔をしていた。

ところで、セシルさんとロイスさんは?

「マーリン様、そんな手で皆の注目を集めるとはさすがです」

「そんな格好をして……メリダ様に怒られないのですか?」

「ワシ、目立とうと思っとらんからね? それにメリダはワシが夏の海に来ると真っ黒になるのは知っとるから、メリダへの反抗とかじゃないからね?」

……何やってんだ……。

「……アナタ達は一体何をしているのかしら?」

「え? いや! アイリーン、これはだね……」

「そ、そう! マーリン様から有り難い訓告を受けていたのですよ、母上!」

「シン君が素晴らしいお話を持ってきてくれたというのに……」

あ、アイリーンさんがプルプルしてる……。

「将来の義息子と義弟が来ているのに放ったらかしにして何をしているのですか! そこに正座なさい!」

「え? いや……ここ焼けた砂の上……」

「せ・い・ざ・な・さ・い」

「「はい!」」

アイリーンさんがお義父さん、お義兄さんに説教をし始めたので、シシリーと二人でその場を離れた。

爺さんは、俺が渡したルアーを使って釣りをしてくるらしい。

「はあ……アイリーンさん凄い迫力だったな……」

「昔から、お父様よりお母様に怒られる方が怖かったですからね……」

「シシリーでも怒られる事があるんだ?」

「それはありますよ。声は荒げないけど静かに怒るお母様……思い出したら落ち着かない気分になってきました……」

そう言って俺の腕にしがみついてきた。

本当に小さく震えてるし……どんだけ怖かったんだ?

「俺は、しょっちゅうばあちゃんに怒られてたなあ」

「ああ……何となく想像出来ます」

「ちょっ! 非道くね?」

「フフフ、アハハ、ごめんなさい!」

そう笑いながら、俺から離れていった。

「待てこら!」

「きゃあ!」

「こんな所でまで何してんのよ!」

シシリーと追いかけっこをしている内に、ビーチバレー大会の会場に着いたようだ。

「おう……相変わらずスゲエ光景だな……」

「そう? あの殿下の雷神撃が止められないのよね……」

「雷神撃って……」

見ると、身体強化して高くジャンプしたオーグが、得意の雷魔法を起動し、ビーチボールをアタックする。

雷を纏ったビーチボールは、不規則な動きをして相手コートに突き刺さった。

「リンの風神撃も止められないのよね」

「風神撃って……」

今度はリンが風魔法を起動してアタックを打つ。

風の力で加速したビーチボールは目にも留まらぬ速さで相手コートに突き刺さる。

「昨日は技名なんて付いてなかったじゃん」

「アリスがね……炎を纏わせたアタックをフレイムアタックとか言い出して……」

「おりゃあ! くらえ! フレイムトルネードォォォ!」

そう言った矢先にアリスが炎と風の合成魔法をビーチボールに乗せて、螺旋を描く炎のアタックをが打った。

「させないよ! ウォーターブロック!」

炎に負けないように水の魔法を腕に纏ったトニーがブロックする。

「あ! くっそー!」

「任せて!」

身体強化をしたオリビアが離れた位置から飛んできてブロックされたボールを拾う。

「ユリウス!」

「ぬうりゃあああ! パワーボムゥゥ!」

トールの上げたトスを、ユリウスが身体強化全開でアタックを打ち、ブロックをすり抜け相手コートに突き刺さる。

「やるではないか、ユリウス」

「コートの上ではたとえ殿下と言えども容赦はせんで御座る」

「よく言った。ならば、私も全身全霊をもって応えよう」

「フフ、覚悟しなよ?」

「今度は私の番」

「いくッスよ!」

……なんだこれ?

「家族対抗トーナメントじゃなかったのかよ」

「こんなのに誰も付いてこれる分けないじゃない。ウチの家族も早々にリタイヤしたわよ」

「ユーリとマリアはなんで入ってないの?」

「四対四だから順番待ち」

……皆、ハマりすぎだろ!

とまあ……なんか新しい競技を生み出しちゃったり、チームの家族とふれ合ったりしながら、束の間の休暇を楽しく過ごす事が出来た。

「んあー! 堪能したー!」

リッテンハイムリゾートで三泊し休暇は終わった。

俺達は結局、ばあちゃんの監視があったから同じ寝室で寝る事はなかった。

ちょっと残念だけど、三泊しシシリーはウチで生活するのにも大分慣れたみたいだった。

元々ばあちゃんに気に入られてたし、爺さんの相手も忘れずにしていたので、二人ともシシリーがウチにいる事を当然のように振る舞っていた。

これからまた馬車で王都に帰るが、帰ったら早速叙勲式がある。

これで皆も有名人か。

そろそろゲートの魔法を教えた方が良いかな?

有名になると街を歩くのも大変になるし……。

俺は最近、街を歩くときはなるべく変装するか、光学迷彩魔法を使うようにしてる。そうしないと、バレた時に騒ぎになる事があるのだ。

光学迷彩魔法は危ないからあんまり使いたくないんだけどね。

こっちが見えてないから、たまに人とぶつかるんだよ。

光学迷彩魔法は理解出来なかったみたいだし、爺さんにも使えたゲートの方が良いと思う。

今までの魔人戦や、マジカルバレーを見る限りもう下地は出来てるだろうし。

その事を皆に告げると、特にリンが喜んだ。

「ついに来た。頑張って覚える」

フンス! と鼻息も荒く意気込む。

「どこでやるんだ?」

「出来れば初めはイメージを教えたいんだ。学院の研究室でいいんじゃないか?」

長期休暇中だが、研究会の活動はもちろんある。学院も解放されているので、叙勲式の後は皆でゲートの魔法を練習する事にした。

王都に帰ってから三日後、旅の疲れも癒えた頃王城から迎えが来た。

今回は皆で叙勲を受けるので、爺さんとばあちゃんは他の親族と一緒に参加するらしい。

「いよいよですね……」

「はあ……緊張でヤバイわ……」

「今回は皆一緒だから良いじゃん。前回は俺一人だったんだからな」

「よく乗り切ったわね……」

俺の家にシシリーとマリアが集まり、三人で馬車に乗り込み王城を目指している。

前回一人でこの苦行を乗り越えたからか、シシリーやマリアに比べて心に余裕がある。

ようやく王城に着くと、他の迎えの馬車も到着した。

「みみみ皆! おおおおはよう!」

「緊張しすぎだ、アリス」

「そんな事言ったって! 叙勲式だよ? 一生縁の無いものだと思ってたのに!」

「そうですよ……ウエイトレスしてたら叙勲なんてされませんもの……」

「いい加減諦める」

到着した馬車からチームの皆が続々と降りてくる。

最近王城に来る機会が多くなったとはいえ、今回は叙勲式だ。緊張するなって方が無理かな?

「さて、今日は叙勲式だが、本当に大変なのはこの後だからな」

元々王城住まいのオーグが、俺達が控室に入った後にやって来た。

「後?」

「有象無象が寄ってくるぞ。特に独り身の者は気を付けろよ? 焦って変な男に引っ掛からないようにな」

「「「は、はい!」」」

「別に男は要らない」

叙勲を受けると、人が寄ってくるからな……。

特に彼氏が欲しいって言ってたマリア達は要注意だな。

リンは相変わらずだけど。

それより、休暇が明けた学院とかどうなるんだろう?

クラスに人が押し寄せないか?

マークとオリビアも大丈夫だろうか?

今後の事をオーグから注意されていると……。

「アルティメット・マジシャンズの皆様、お時間でございます」

ついに迎えの兵士さんが来た。

皆、緊張のピークに達したようで、ガッチガチになってる。

オリビアなんかは若干顔が青いな……。

しかし、ここまで来たらジタバタしてもしょうがないので、迎えに来た兵士さんの先導で謁見の間に着いた。

謁見の間の扉の前で待機していると、こんな声が聞こえて来た。

『アールスハイドのみならず、各国を救った英雄達! アルティメット・マジシャンズの御到着です!』

高らかな宣言の後、扉が開いた。

前回と同じだな。貴族達や文官、武官達が拍手をして出迎えてくれた。

その光景を見慣れたオーグ以外はその雰囲気に呑まれてる。

「行くぞ」

オーグの言葉で我に返った皆が歩き出す。

今日はオーグもアルティメット・マジシャンズの一員としてこちらにいるので、王座の近くにはメイちゃんとジュリアおばさんがいた。

『ディセウム=フォン=アールスハイド陛下、御入場!』

現れたディスおじさんに謁見の間にいた全員が膝をつく。

「今日はアールスハイドに現れた英雄達を讃える事ができ、誠に嬉しく思う。そして、今回の功績は過去に類を見ないものだ。そこでこの度は特別な勲章を用意した」

列席している人達が一瞬ざわめいた。

「アルティメット・マジシャンズ、貴殿等に『金龍特別勲章』を授与する」

そうディスおじさんが宣言した途端、列席者達は驚きの声を上げた。

なぜなら、金の龍はアールスハイド王国の国旗に描かれているシンボルだからだ。

その金の龍の名を冠した勲章を授与される。

アールスハイド国民にとってこれ程栄誉ある勲章も無いだろう。

俺はアールスハイド歴数ヵ月だからイマイチ、ピンと来ないけど……。

ちなみに龍……ドラゴンは空想上の生き物で実際には存在しない。

魔法がある世界なのに……ドラゴン見たかったなあ……。

「それでは、各自に勲章を授ける」

その宣言があり、順に名前が呼ばれディスおじさんから勲章を受ける。

皆ガチガチで、アリスなど、手と足が同時に出ていた。

そうして次々とチームの皆が呼ばれていくが、オーグは中々呼ばれず、最後から二番目の授与となった。

「立派になったなアウグスト。これならば安心して国を任せられるな」

「何を仰いますか。父上ならばまだまだ御活躍出来るでしょう。これからも頑張って頂きたい」

「アウグスト……」

ディスおじさんがオーグからの言葉に感激してるけど、多分それ違うから。

自分が玉座に就くと自由が無くなるからだと思うよ。

そして、なぜか俺は一番最後に呼ばれた。

「数ヵ月で二個目の叙勲は王国の歴史上でも初めての事だ。素晴らしい功績である」

「ありがたき幸せ」

王様モードのディスおじさんに合わせて、こちらも臣下モードで応える。

そして勲章を胸に付けて貰う……前にこんな事を言い出した。

「シン=ウォルフォードは最早この世界に敵う者はいない魔法使いの王となった。よって我より、『魔王』の二つ名を与える。皆讃えよ! 魔王シンの誕生である!」

……。

うわあああ!!!

なに!? 何が起こった? なんでディスおじさんがそれを知って……。

ああ! オーグか! オーグがディスおじさんに言ったな!?

振り返ってオーグを見ると、下を向いてプルプルしてた。

なに笑いを堪えてやがる!

なんて……なんて事をしてくれたんだ!

そう思ってオーグのもとに行こうとしたら……。

『うおおおおおお!』

急に列席者から大きな歓声が上がった。

急だったからビクッとしちゃったじゃないか!

「魔法使いの王! 魔王シン!」

「この歳で二つ名を授けられるとは!」

「魔王!」「魔王!」「魔王!」

皆が魔王の名を連呼していた。

やめて! その名前で呼ばないで!

お願いだからあ……。