軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

手の施しようがありませんでした

オーグのスイード王国中に発せられた宣言により、スイード王国王都には大歓声が響いていた。

チーム名の合唱と共に……。

俺は……アールスハイドだけでなく、スイード王国にまでそのチーム名が知れ渡ってしまった事に絶望していた。

「落ち込んでいる場合じゃないぞシン」

「誰のせいだ! 誰の!」

「メリダ殿みたいな事を言うな。そんな事より、気付いたか?」

「そんな事って……シュトロームがいなかった事か?」

「それと魔物の姿も見えなかった。つまり……」

「半分近く逃がしちまったし、まだこれからって事か……」

「そういう事だ」

確かに、さっき退却の命令を出した声はシュトロームの声じゃなかった。つまりこの襲撃はシュトロームによって魔人になった者達の単独行動という事になる。

シュトロームに全権を任されてスイード王国に襲撃を掛けたのか、それとも……。

「!! オーグ! 一旦アールスハイドに戻る!」

「っ! そうか! 陽動か!?」

「あまりにもアッサリし過ぎてる! その可能性は高い!」

「分かった! 戻るぞ!」

スイード王国に魔人だけで襲撃を掛け、その隙にアールスハイドに攻め入る!

クソッ! その可能性を考えて無かった!

あまりにも焦っていた為、オーグだけ連れてアールスハイド王国王都にゲートで戻った。

無事でいてくれよ!

「あれ? 殿下、ウォルフォードさんどうしたんですか?」

「あ、あれ? 魔人は?」

「え!? 魔人が攻めて来たんですか!?」

「ああ、いや……こっちに魔人は来ていないか?」

「ええ、殿下達が出て行かれてから何もありませんでしたけど……」

……あれ? てっきりあの襲撃が陽動で、本命はこっちだと思ったんだけど……。

「それよりも、スイード王国の方はどうだったのですか?」

「……安心しろ。多少の被害は出たが魔人共は撃退した」

『オオオ!!』

ゲートをいつもの警備兵の詰所に繋いだんだけど……そこにいた警備兵の人は魔人の襲撃なんて無かったという。

そしてスイード王国に現れた魔人を撃退したという報告に歓声を挙げている。

「さすが! ウォルフォードさん率いるアルティメット・マジシャンズです! さっそく陛下に御報告して参ります!」

「なら私は国民に布告して参ります。皆安心するでしょう」

「ああ、我々はスイード王国に戻るから、後は頼むぞ」

『はっ!』

……既にチーム名が浸透してる……。

その事にどうしようもない絶望感を感じたが、覆水盆に返らず……受け入れるしかないか……。

魔人達の行動がどうにも腑に落ちないけど……スイード王国に皆置いてきてるし、事後処理もあるので一旦戻る事にした。

「あ! 殿下! シン君! 急にどこに行ってたんですか!?」

「ああ……アールスハイドにな……」

「あ、そっか! 報告ですね!」

「……うん、そうなんだ」

「どうしたんですか? 殿下」

「いや……それはまた後でな。それよりクロードを迎えに行って、王城に報告に行こうか」

『はい!』

「じゃあシン、頼む」

「オッケー」

浮遊魔法を全員に掛け宙に浮く。

スイード王国兵の唖然とした顔が見える中、俺達はまず負傷者の治癒に当たっているシシリーを迎えに行く。

居場所は既に魔力探査で分かっている。

負傷者が収容されている建物に着いた俺達は空から舞い降りた。

「え? な、誰だ!?」

「空を飛んで来るとは! まさか魔人か!?」

「落ち着け! 私はアウグスト=フォン=アールスハイド、それとシン=ウォルフォードとアルティメット・マジシャンズのメンバーだ」

その言葉に、収容施設を警備していた兵士が顔を見合わせた。

「そ、そんな事を言っても騙されないぞ! 空を飛ぶなんて魔人位しか出来ないじゃないか!」

この兵士は何を言っているのだろうか? 魔人の特徴を知らないのか?

「シン、お前のせいで私まで魔人扱いだ」

「ちょっ! 空を飛べって指示したのオーグじゃん!」

「私は『頼むぞ』と言っただけだぞ?」

「て、てめ……」

「おい! 何をふざけてるんだ!」

警備の兵士が声と身体を震わせながら叫んできた。

もう説明してやれよ。

「ああ、スマンな。ところで、お前達は魔人の特徴を知らんのか?」

「魔人の特徴?」

「確か……禍々しい魔力を発していて、目が……」

そこでようやく思い至ったらしい。

「それと、先にここに来ていたシシリー=フォン=クロードも同じ服を着ていたと思うのだが?」

「た、確かに……シシリー様と同じ服だ……」

「目も赤くない……」

「という事は……」

そこまで言った兵士達はその場に高速で土下座した。

はやっ!

「も、申し訳御座いません!! 我が国の窮地を救って頂いた英雄様に向かって大変な失礼を致しました!!」

「どうか! どうか我らの首だけで御許し下さい!」

ようやく誤解が解けたのは良いけど……兵士の首って……それに、何か気になる事を言ったな。

「気にするな、私達の顔を知らなかったのだ、警戒して当然であろう。むしろ魔人かもしれないと思いながらも逃げ出さずにこの場を護ろうとした事は称賛に値する行為だ。胸を張れ」

『は、ははっ! 有り難き御言葉!』

おお、他国の兵士なのに懐柔しちゃったよ。兵士達が潤んだ目でオーグを見てる。

「それで? 通って良いか?」

「はい! どうぞ!」

「おい! 誰かシシリー様の所へご案内しろ!」

また言った。

シシリー様?

何か嫌な予感がする……。

案内の兵士に連れられて行った先はホールのような場所で、ここに負傷者が収容されているらしい。

そのホールに入ると……。

「シシリー様! この子の怪我もお願いします!」

「私の夫をお助け下さい聖女様!」

「あ、あの俺の怪我も……」

「てめえはさっき治療してもらってたじゃねえか!」

「あ、あの! 順番に診ていきますから!」

何かシシリーを中心に凄い人だかりが出来ていた。

シシリー様? 聖女様?

なんだこの騒ぎは?

「ナニコレ?」

「はい! シシリー様はこの収容施設に来られた後、次々と重症の患者を治癒されまして、多くの命が助かったのです! いやあ、まさに聖女様と呼ぶに相応しい御方だ!」

……何か大変な事になってるみたいだ……。

とりあえず重症の患者は見当たらないし、シシリーを連れて行こう。

「シシリー!」

「え? あ! シン君!」

それまで押し寄せる人達に困惑していたシシリーは俺が声を掛けると嬉しそうに笑った。

「おい、シシリー様を呼び捨てにしたぞ?」

「なんだと!? 誰だ! 俺達のシシリー様を呼び捨てにする奴は!」

「おい、あの男じゃないか?」

ああ、もう! 何か変な視線を感じるぞ!

ざわつき出した周りの視線を気にしているとシシリーが俺に飛び付いて来た。

「シン君! 大丈夫でしたか!? 怪我はしてませんか?」

いつもの恒例行事だな。身体をペタペタ触りながら怪我は無いかと訊ねてきた。

「大丈夫だよ。あんな魔人達が束になって来たって怪我なんかしないよ」

「それは分かってますけど……やっぱり心配します……」

そう言ってギュッと抱き付いて来た。

「あああ! てめえ! なんて羨ま……けしからん事を!」

「そうだ! 何の権利があって俺達の聖女様に抱き付いてやがる!」

「さっさと離れろ! この野郎!」

「やめんか! お前達!」

何か嫉妬に狂った男達の叫びに段々イライラしてきた所で兵士さんが大声で怒鳴った。

「へ、兵士様……しかし!」

「しかしもへったくれもあるか! この方は魔人から我々を救って下さった魔人討伐の英雄、シン=ウォルフォード様だぞ! 何て無礼な口を聞いてるんだ!」

さっきの事があるからか、兵士さんは俺の事を必死で擁護してくれてる。

「ま、魔人討伐の英雄!?」

「そ、そんな……こんな奴が?」

「何かの間違いじゃないのか?」

おおっと……そろそろキレてもいいかな……?

「私の旦那様をそんな風に言わないで下さい!」

俺がキレる前にシシリーがキレた。

つか、旦那様って……。

「だ、旦那様……?」

「そ、そんな……」

「あ、あの……正確にはまだ旦那様じゃないですけど……でも! 正式な婚約者なんです! そんな風に言わないで下さい!」

シシリーのその言葉に、ホールにいた男の殆どが絶望の表情をしていた。

「きゃあ! 素敵! 英雄様と聖女様のカップルなのね!」

「ウォルフォードって、あの?」

「そうよ、聞いた事があるわ! かの英雄マーリン=ウォルフォード様には御孫さんがいて、アールスハイド王国に現れた魔人を討伐したって!」

「ああ……何てロマンチックなのかしら……英雄の御孫さんと聖女様のカップルなんて!」

「まるで物語のようですわ!」

代わりに女性陣が騒ぎ出した。

「あの……そろそろ王城に報告に行きたいんですけど……」

「シン君、その前に良いですか……?」

何かシシリーが若干暗い顔になって俺に話し掛けてきた。

「どうした? シシリー」

「付いてきて下さい……」

そう言うシシリーの先導に付いていくと、そこには……。

「……私では……手の施しようが無かったんです……」

かなりの重傷を負い、息も絶え絶えな男性が寝かされていた。

その傍らには妻か恋人と思われる女性が寄り添っていた。

その女性はシシリーを見ると……すがりついてきた。

「シシリー様! お願いします! 夫を……夫をお助け下さい! 何でもしますから……お願いします……」

最後はハッキリ聞き取れない位か細い声になりながら、シシリーに懇願していた。

「……申し訳ありません……私には……もう手の施しようがないんです……」

「そんな……そんな……」

「……シン君……診て貰えませんか?」

「ああ」

シシリーからお願いされる前からその男性の容態を診ていた。

恐らくシシリーが施したと思われる治癒魔法により止血はされているみたいだけど……これは内臓がやられてるな……よく生きてるもんだ……。

「シシリー……よく頑張ったな」

「そんな……私は何も出来なくて……」

「それでもシシリーが治癒魔法を掛けてくれたからこの男性はまだ生きてるんだ。それが無ければ……とっくに死んでいるよ」

その言葉に泣き崩れる男性の奥さん。

前世の医療技術でもこれは無理だと思うけど……。

「俺が治癒魔法を掛けるよ」

そう、この世界には魔法がある。

男性の身体を超音波による探査魔法で調べる。

……大分内臓がやられてる……うわ! 心臓に近い血管に傷が付いてる! 本当によく生きてるな!

「これ……相当重傷だな……何で生きてるんだ?」

「ここに運ばれてきてすぐ……ずっと付きっきりで治癒してました……でも……全然良くなってくれなくて……戦闘服を脱いで掛けようとしたんですが周りに止められてしまって……」

「……マントにも治癒魔法を付与しといた方が良かったな……」

そうか……制服と違って上着だけ脱ぐって出来ないからな……女の子が急に服を脱ぎ出したら、そりゃ止めるか。

「奥さん、大丈夫ですよ。シシリーが治癒魔法を掛けてくれたお陰で旦那さんはまだ生きてます。これなら……」

俺は、一旦麻酔が掛かるように首から下の神経伝達を遮断した。

実際の麻酔の原理なんて知らないからな、痛みが脳に伝わらなければ麻酔と同じだと考えた。

魔法でないと出来ない超力業だけどね。

男性に麻酔を掛けると、損傷した内臓の修復に架かった。

周りの細胞から、修復する内臓と同じ細胞を培養し増殖させ、内臓を再生させていった。

まずは、一番命に関わる心臓に近い血管の修復から始め、その次に内臓の修復、最後に外傷を負っている皮膚を修復し遮断していた神経伝達を回復させて治癒は完了した。

治癒を施した男性を見ると……。

「……うん、呼吸が安定したね。もう大丈夫ですわあ!」

大丈夫と言おうとしたら奥さんにタックルされた。

「あ゛りがどうございま゛ず……ありがとうございます……」

奥さんに抱き付かれて感謝の言葉を頂いた。

魔人を撃退した時に感謝されたより……命を救って感謝された時の方がずっと嬉しいな。

奥さんが離れてくれて旦那さんの所に行った後、今度はシシリーに抱き付かれた。

「ありがとうございます……助けてくれて……ありがとうございます……」

「シシリー」

「……はい」

「この人が助かったのはシシリーのお蔭だよ?」

「そんな事……ありません……私は……私は何も出来なくて……」

俺の胸に顔を埋めながら嗚咽を溢し始めるシシリー。

すると……。

「そんな事ありません!」

「奥様?」

治癒した男性の奥さんがシシリーの言葉を否定した。

「先程こちらの方も仰っていたじゃありませんか! シシリー様が治癒魔法を掛けて下さらなければとっくに死んでいたと! 夫が助かったのは間違いなくシシリー様のお蔭です!」

「奥様……」

最終的に治癒したのは俺だけど、それまで命を繋いだのは間違いなくシシリーだ。その事を奥さんはよく理解してた。

「ありがとうございます……ありがとうございますシシリー様。この御恩は生涯忘れません」

俺から離れたシシリーはその言葉に涙を流しながら応えた。

「いえ……当然の事をしただけです……助かって良かった……」

「ありがとうございますシシリー様、それと……」

奥さんが俺の方も見た。

「この人はシン、シン=ウォルフォード。私の治癒魔法の師匠であり、魔人討伐の英雄であり、そして……」

シシリーは俺を見て涙を拭い、ニコリと笑った。

「私の……未来の旦那様です」

「あらまあ……それじゃあウチの夫は、英雄様と聖女様のご夫婦に助けて頂いたんですね。生涯の自慢になります」

旦那さんが助かって安堵したのだろう、軽口も言えるようになっていた。

「奥さん、旦那さんの命は取り留めましたけど、治癒の際に周りの細胞……肉から大分寄せ集めて来ました。相当に体力が落ちてると思いますから、まずは栄養のあるものを沢山食べさせて、落ち着いてきたら運動なんかをして体力を回復させて下さいね」

「はい! ありがとうございます!」

「それでは、そろそろ王城に報告に行かないといけませんので」

「はい! シシリー様、シン様、ありがとうございました」

そして二人を残し、俺達は部屋を出た。

そこには……いつからいたのか、多くの住民達がいた。

「スゲエ……シシリー様ですら手の施しようが無かった患者を救ったぞ……」

「マジかよ……何だよこれ……」

「魔人を討伐する位強くて……シシリー様以上の治癒魔法が使えて……しかもシシリー様を嫁に貰うだと……?」

「何故だ!? 何故この世界はこんなに不公平なんだ!」

男性陣の怨念に殺されそうだ!

「はあ……英雄様って凄いのね……」

「英雄様の妻になるにはシシリー様程の女性でないとなれないのね」

「お似合い過ぎる……誰か! 御二人の物語を書いてくれない!?」

「それはやめてえ!」

ヤバイ! このままだと爺さんとばあちゃんの二の舞になりそうだ! ここで食い止めないと!

「おいシン、そろそろ行くぞ。いつまでもスイード王を待たせる訳にはいかん」

「ちょっ、ちょっと待って! これだけは! この話だけは潰さないと!」

「駄目だ。もう相当時間を食ってる。行くぞ」

「待て! 待ってえ!」

両脇をトニーとユリウスに抱えられ、引き摺られるようにその場を離れる。

駄目だ! その話は進めちゃ駄目だ!

「ふっ、心配するなシン」

「オ、オーグ……」

オーグが何とか阻止してくれるのか?

「既にアールスハイドでその話は持ち上がっている。もう少しエピソードが溜まれば出版するらしいぞ?」

「まさかの手遅れ!?」

嘘だ! そんな簡単に物語になるなんて!

「諦めた方が良いよシン、僕の家族も本の出版を心待ちにしてるからねえ」

「あ、ウチもよぉ」

「あたしん家も!」

「ウチも、楽しみにしてると言っていた」

「スイマセン、ウォルフォード君、ウチもッス!」

「ウォルフォード君の物語って事は私達も出ますから……研究会の家族は皆待ち望んでると思いますよ」

なんて事だ! チーム名で世間に恥を晒しただけでなく、物語まで!

「……もう表歩けない……」

「だ、大丈夫ですよ! 皆さんシン君の事好意的に見てくれてますから!」

「……俺の話って事はシシリーとの事も世間に知られちゃうよ?」

「はぅ! そ、それはぁ!」

シシリーが真っ赤になってしまった。

「マーリン殿やメリダ殿みたいに諦めるんだな。世間は英雄の話を聞きたがる。それを止める事は出来ん」

「マジか……」

「心配せずとも、私が責任をもって正確な情報を提供しよう」

「そうだと思ったよ!!」

コイツ! 俺が王都に来てからずっと一緒にいたからな、絶対情報提供者はオーグだと思ったわ!

何とか……何とか阻止する方法はないのか?

「既に第一巻の草案は殆ど出来てるからな、次に何かあれば出版出来るんだが……今回の事でいけるんじゃないか?」

「もう手の施しようがない!」

「シンでも手の施しようがない事があるんだな」

「お前のせいだろうがああ!!」

本当に! 本当にコイツは!

「おっと、騒ぐのはここまでだ、王城に着いたぞ」

「む、うぐぐ!」

「アールスハイド王国王太子、アウグスト=フォン=アールスハイドだ、スイード王に報告がある。御目通り願えるか?」

「これは! お待ちしておりましたアウグスト殿下! 陛下がお待ちです、どうぞこちらに!」

「さて、行くぞシン」

「お、覚えてろよ……」

「どこの悪役の捨て台詞だ」

楽しそうに笑っているオーグが憎らしい!

国民の声を聞く事が王族の義務らしいけど……こんな事優先的に聞かなくて良いのに!